「静かな大地」を遠く離れて
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2001年06月18日(月) 語りの威力と新書マニアック

題:7話 煙の匂い7
画:煮干しの巨大拡大図(×2)
話:眠気をこらえて遠いところの昔の話をインプット

口承伝承の力。由良が生きているうちに父の話を子孫に伝えれば、
この淡路の情景は100年の時を平気で越えることができる。
口伝というのは外部記憶装置が発達した現代から見ると頼りないようだが
案外と正確で再現度も高かったという話がある。
文字を持たない部族にはそういう語りをスペシャリティーとする者もいた
だろう。語り部には、野生の「物語」が立ち上がる場を見切る身体能力
が備わっていたに違いない。

共同体と別の共同体が軋轢を起こしながら、やがて一方が他方を支配する形で
ひとつのクニとなる。正統性を創造するために神話を作る。法を作る。
あるいは税の記録をつける。文字への要請。支配を円滑に進めるための知恵。
文字による歴史が発生し、改竄の可能性も同時に生まれ、偽史が正史となる。
「歴史」が支配する世の中では、語り部の超常能力は生き延びにくい。
支配する者も反抗する者も、もはや「歴史」の虜であることにかわりはない。

近代に起こった出来事、そしてその膨大な記録は、その膨大さゆえに目隠し
のような機能を果たしているのかもしれない。
たかだか200年あるいは100年スパンでものを見ることが出来ない。
つまるところ、我々に起こったことはなんだったのか?
そんな究極に素朴な問いに応えるのがとても難しくなってしまっている。
事実では語りえない。絵空事だけでもだめだ。
虚実が渾然一体となった、あり得たかもしれない一つの真実の物語、
それが単線的ではない歴史の進化過程で見失われた可能性を見せてくれる。

記憶装置。メモリーコイルとしての人間。サイバーパンクSFにも造詣が深い
池澤御大が描く『静かな大地』、どんなフレームを出してきてくれるだろう。

・・・なぁ〜んつって、日々スタイルの変わるわが日録です(笑)
職業絡みのネタは差し障りがあるし、家族がいるわけでもないとなりゃ
愛読している「加藤の今日2001」(演劇集団キャラメルボックスの
スーパー・プロデューサー加藤昌史氏によるハイテンションな日記です)
みたいに面白くはなりませんなぁ(^^;

帯広畜産大学の斉藤一先生とは入れ違いに相互のサイトに言及していたという
シンクロ現象。すばらしく興味深い研究と講義の進展に大期待しております。
僕自身は英語にもアメリカにもイギリスにもロクに関心がなくって、
去年アメリカに出かけたのが「歴史的国交回復」だったりしまして、
東海岸を訪ねるのにニューヨークを無視したというくらいアメリカへの憧れが
欠如した日本人なのですが、どういうわけか本の世界ではアメリカ文化通の
著者を結構好んで読んでいたりするんですよね。
『トランスナショナル・アメリカ』(岩波書店)の奥出直人先生のファンだし、
SFファンジン系超米文学者の巽孝之さんは大学の講義以来の贔屓筋だったり、
『ラバーソウルの弾み方』(ちくま学芸文庫)の佐藤良明先生も好きだし。

で、この先生方にまとめてお願いがあります。
良い新書だして〜!!(笑)
かねてから無類の新書マニアとしては、洋泉社から出た浅羽通明さんたちの
ムック『この新書がすごい!』に非常に無念なものを感じていたりします。
(普通そんなもん出てたの?ってくらいのもんでしょうけど (^^;)
いやね、極端にいうと生真面目なのはわかるけど・・・根性が貧乏臭い(爆)
新書の悦楽というのはもっともっとミーハーなカルチャーセンターおばさんの
感覚で美味しいネタをアバンダンスに“よりどりみどり”できるとこにある。
しかもネタは平易に噛み砕いた「啓蒙」ではなくて、とりあえず得した気になる
キャッチーなわかりやすさの一本勝負。
「この新書がすごい!」って企画は彼らがムックを出すよりずっと前々から
口にしていただけに、「違うんだよー」と言いたくなった。
自然科学系も含めて新書の年度別格付け企画、ひきつづき切望中。

で、どういうわけか乱立する新書市場、どうやってマーケット・リサーチして、
どうやって良質の「おいしい」著者をさがして口説くのだろう?
なかなか編集者だって育たないだろう。なんなら変わってやってもいい(笑)
著者の側の良い新書を書くモチベーションって、残念ながらなかなか高くない
ような気がする。原稿料も啓蒙の志も有効じゃなくて、きっと生まれながらの
サービス精神みたいなもんが備わっている著者が良い新書を書けるんじゃないかな。
巽さんは最近ヒット作(売り上げは知らないけど)を連打してますね。
「静かな大地を読むための100冊」にも入れましたけど。
『「2001年宇宙の旅」講義』(平凡社新書)は構成も叙述もこなれてて、
わかりやすいキャッチーなネタも満載で良くできてます。
そういえば御大も「文春図書館」でホメてましたね。

佐藤良明さんといえば『JーPOP進化論』(平凡社新書)ですが、
あれもう少しケーススタディーの列挙じゃなくて理論的なところを厚くして
2割くらい長い本にしたほうが良かったかもしれません。『ラバーソウル〜』と
重複してもかまわないから、ちゃんとわからせて話を進めたほうがよかった。
ぜひ今度は最近売れ線の「英語」ネタ、あるいは硬派にポップなベイトソン本を
書いて欲しい、期待の人材です。<うれしくないかもしれないけど(笑)
奥出さんは出版界から遠くへ行ってしまいましたね。マルチメディアだITだ、
で大騒ぎしている“文盲”みたいな連中を啓蒙しようなどという気はないみたい。
企業や大学で具体的なプロジェクトで成果をあげる方が面白いのでしょう。
でも書いて欲しい、新書で(笑)

星野道夫氏がご存命ならば、岩波ジュニア新書あたりで若い衆に語りかける
ようなやさしい本を一冊書いて欲しかった・・・。
骨太系では新潮選書で満州国のことを書かれた芳地さんが向いてそう。
アメリカ、東欧などを書いた堀武昭さんも、また違う切り口で書いて欲しい方。
インドネシア研究の倉沢愛子さん、アフリカでゴリラの研究をされた岡安直比さん
あたりは新書じゃない形ですが新書マインドのある著書を出されてます。
NHKスペシャルなんかは、ほんとはバラバラに出版せずにNスペ新書みたいに
まとめられると、フローの番組を上手くストックにつなげられるんですがねぇ。
あとはやっぱり快刀乱麻を断つスマートな俊英・小熊英二先生に「日本人」を
終わらせる新書を書いて欲しいです♪

近い将来に刊行が予告されていて、僕が期待している新書を2冊紹介しときます。
まずは『怪獣使いと少年』(宝島社文庫)の社会派ウルトラ論客・切通理作さんの
『宮崎駿の<世界>(仮)』(ちくま新書より8月刊行予定)。
かなりの力作のようです。書いてて枚数がかなりオーバーしたらしいので
編集してまとめたときにわかりにくくならなきゃいいな、と心配してます。期待大。
丸田祥三さんとの対談本『日本風景論』の路線の新書も書いて欲しいです。

それからG−Who的に見逃せないのが、北海道系歴史冒険小説作家・佐々木譲さん。
『北の大地に生きる』(集英社新書より刊行予定)というライフスタイル&文明論の
エッセイになるらしいです。骨太さと現代的ポピュラリティーを編み合わせる職人の
ような作家さんだと思っていて、日本の近代とか旧植民地なんかを考えるときにも
佐々木さんの仕事が念頭にのぼってきます。近く小説で畢生の大著『武揚伝』を
発表されるのにも大注目したいです。
そのうち「池澤夏樹・冒険小説・榎本武揚」という三題噺で佐々木譲さんについて
ここで書こうと思っています。しかし読者層ってカブってなさそうだなぁ(^^;

「良い新書」には失われた語りの秘術が垣間見えるのだ、と無理矢理まとめて
今夜は逃げよう(笑)

#エンピツで日記を書くことを教えてくれた酔眼犬さん、新書ばなし書きましたゼ(^^)
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