ナナとワタシ
INDEX|前へ|次へ
「同じクラスに、とっても仲良しな二人組がいたのね?」とナナ。
少しの沈黙の後に、唐突にクラスメイトの話を。
「うん?」 「いつも一緒にいるの」 「うん」 「どこに行くのも一緒なの。実習先も一緒。遊びに行くときも一緒。手とかつないでんの」
何の話だろう。
「そのふたり、年は?」
ナナの通っている准看の学校は、いろんな年齢の人が来ますからね。
「ひとりはハタチ。 ひとりは25」 「ふーん。若いね」 「うん。若い。 で、あるときから、一緒にいなくなったのよ」 「うん」 「あたしは他人のことって無関心なんだけど、なんか気になってさ」 「うん」 「『最近、Yちゃんと一緒にいないね』って、たまたまハタチの子と一緒になったときに聞いてみたの」 「うん」 「そしたら、『ナナさん・・・話、聞いてもらえませんか?』となってさ」 「うん」 「そうなったらめんどくせーとか思ってしまったんだけど(笑)」 「キミらしいね(笑)」 「だけどあたしから振った話だから、しょーがない、すごくやさしいフリして聞いた」 「はは」
ハタチのKちゃんが言うには。
Yちゃんの束縛とか嫉妬がキツイと。 一緒にいて楽しいことも多かったけど、最近は一緒にいること自体がちょっとしんどい、と。 他の子とちょっと仲良くしたり話したりするだけで「どういうつもり?」と責められる、と。
「・・・そのふたりって、ただの仲良しさんなの?」とワタシ。 「それがさ、話が進んでいったらさ、どうやらYちゃんの好きは、『そういう好き』らしいのね」
そういう好きって、どういう好きよ?(・∀・) とは思わずに、にわかに興味がわいてきたワタシ。
「その話しぶりだと、Kちゃんはそのつもりはない、と?」 「うん。Kちゃんにそのつもりはない。 でも、Yちゃんはもう、すっかりKちゃんと自分は特別、って思っていたらしい」 「で、あなた、なんてアドバイスしたの?」 「アドバイスなんてする立場じゃないし。 それは大変だねー、でもYちゃん、さびしそうだねー、って、その場はおしまい」
ホントに話聞いただけだねキミ。
ナナが自分たちよりずっと年上なせいか、Kちゃんは安心して話ができるらしく、その後もちょくちょく「Yちゃん怖い」などとグチをこぼされたらしいのですが。
そして、どういうわけか、Yちゃんからも相談を受けることになったナナ。 最近、KちゃんがBちゃんとばかり仲良くしていて、それが理解できない、とかなんとか。
「まあ、Bちゃんてさ、あたしが言うのもなんだけど、すごくバカで軽薄で、できれば友だちになりたくないっつー感じではあるのよ」とナナ。
ここでBちゃんにしたのも、バカだって聞いたのでBにしてみました。
「性格もあまりよくなくてさ。あたしは関わらないようにしてるんだけど。 だから確かに、Yちゃんが『なんでBちゃんと?』って思う気持ちはわかるんだけどさ」
わかるんだけどさ、やっぱ、ちょっとKちゃんへの執着心は怖いんだよね、とナナ。 好きなんだろうけど、あれじゃ怖いと思う、と。
「でも、Yちゃんも泣きながら話すしさー。かわいそうじゃん。 とはいえ、あたしに言われても、あたしはどうすることもできないわけよ。 当人たちの問題だし、あたしが間を取り持つのも変だし、その気もないし」とナナ。
「Yちゃんは、Kちゃんのこと好きだって、あなたに話したの?」 「うん、ハッキリ言った」 「あなたなんて反応したの?」 「Kちゃんかわいいもんね、って」
で、相変わらず双方からのグチを聞くだけの日々を経まして。 そういえばこの人、以前派遣社員していたときも、バイセクシャルの子にカムされてあれこれ話を聞かされてたんでした。 当時「今の子はオープンでいいね。その子は自分がバイってことにプライド持ってて、話も聞きやすいしいい感じ」と言ってたことを思い出しました。 ちなみに、ワタシがまだナナにカムアウトする前のことです。 堂々としたカムアウトを促されているのかと、ちょっとしょんぼりオドオドしてしまった記憶があります。
話をもとに戻します。
そして、ある日事件は起きたのであります。
それは試験の日。 ナナがせっせと問題に取り組んでおりましたら、廊下からものすごい勢いでケンカしている声が。 KちゃんとYちゃんの声です。 ていうか、もっぱらYちゃんの怒声が聞こえていたらしいですが。
やだちょっと大丈夫ー? と、ものすごく心配になったナナ。 ていうか、あまりの怒声に、ナナまで怖くなっちゃったらしい。
でもあたしテスト受けないとー、と思い、廊下をちらちら気にしながらテスト続行。 しばらくして、パタパタと走り去る音が聞こえ、ああ、とりあえずあたしの耳には入らなくなった、とテストに集中しようとしたら
だん! だん! だん!
と、またもやものすごい音が。トイレのほうから聞こえます。 今度は、何かを思いきり叩いているような音。 それと一緒に、かすかに怒鳴るような声が聞こえます。
ナナ、また「どうしよう・・・」と思ったものの、テスト続行(笑)当然ですが。
しばらくだん!だん!だん!と一緒に怒鳴り声が聞こえていたのですが、さらに廊下をパタパタと走る音が続いた後、静かになりまして。
とりあえずホッとしてテストを終え、家に帰ったナナ。
その晩、Kちゃんから電話が来たそうです。
「ナナさん、あたしどうしようー」と、涙声でKちゃん。 以下、Kちゃんの話。
Yちゃんが、Bちゃんのことと自分を避けていることとで激怒。 廊下でケンカというか、Yちゃんがキレて怒鳴りまくり。 Kちゃんはマジで怖くなり逃げたら、追いかけてくるYちゃん。 怖くてトイレの個室に入ってカギをかけたら、怒鳴りまくりながらトイレのドアを蹴り続けるYちゃん。
「ドア、壊れたらしいよ」とナナ。 「・・・それは、Kちゃん、怖かっただろうなぁ・・・」 「相当怖かったみたい」 「しかし、Yちゃんもそれじゃ好かれる好かれない以前の問題だよナ・・・」 「まあね。でもYちゃんもそこまで追いつめられてしまったということなのかも」 「ちょっとワタシには考えられないな、その激情と逆上と行動力(笑)」 「じょりぃはそういうことしたことない?」 「したことないよ。たとえどんなに逆上したとしたって、ワタシは体裁を気にするカッコつけだもの」 「そうか。そのとおりだね」
そこで納得するのか。
その後、騒ぎを聞きつけて駆けつけた先生がたに、文字通り羽交い締めにされて連れていかれたYちゃん。 先生ふたりに羽交い締めにされても、まだ暴れていたそうです。
「もう、Kちゃんはすっかり怯えちゃっててさ」 「そりゃそうだろうね」 「で、そのうちに、Yちゃんも『ナナさん、話いいですか』と」 「キミも大変だね」 「まあ、それはいいんだけどさ」
Kちゃんのことがホントに好きなんです と、泣いたらしい。Yちゃん。
「・・・随分ストレートな子だねえ」 セクはストレートじゃないのにね! 「うん。自分が女の子が好きだっていうのも、別に隠していないみたい」 「ふうん・・・Kちゃんはかわいいらしいけどさ、Yちゃんのルックスは?」 「いいよ。ふたりとも、かわいいの」 「へー(・∀・)」それはけっこうなこった 「Yちゃんはね、じょりぃに似てるよ」 「え! かわいいって言ったよね今(*´∀`*)」<アホ 「なんか、ボーイッシュでさ、ひと目でそれとわかるような感じで」 「ワタシはひと目でそれとはわからないと思うんだが・・・」 とってもフェミニンですし☆ 「でも似てるんだよ。顔立ちもちょっと似てるし。 だからなんかさ、あたしも実はYちゃんちょっと怖いと思いつつも、なんだかほっとけないわけだ」
今、そこはかとなく、ワタシへの愛情表現があったような。 相変わらずの母親的愛情でしょうけれども。それでもうれしい。
「でもさ、先生たちまで出てきちゃって、どうなったのさその後」 「うん。 とりあえず、ふたりの実習先は離したみたい。まずいでしょってことで」 「なんで?」
それってレズだからってこと? って、いつものセク的社会的劣等感から、ついちらりと思ってしまったじょりぃ。
「こういうことがあった以上、Kちゃんが不安だろうからって。また問題が起きたら困るって」 「ふむ」
なるほど。 考えてみたら、これが男女ならばなおさら接近禁止命令的な措置が取られたかもしれません。 先生がたがどう判断したのかはわかりませんが、ドアぶっこわすほどの騒動がふたりの間に起こってしまった以上、学校側としては当然の措置なのかもしれませんですね。
しーーーーん。 しばし無言。
「Yちゃん、どうしてるの?」とワタシ。 「ひとりで行動してる。しょんぼりしてる。ちょっと見てられない感じだけど、まあしょうがないかな」 「Yちゃんのその気持ちって、『好き』なんだろうか?」 「どういう意味?」 「好きなら、そんなに相手を追いつめられるかな?」 「その場の当事者になったら、よくわからなくなっちゃうんじゃない? まだ若いんだし。がーっと思っちゃえば、タガが外れることはあると思う」 「そうか。そうだよね・・・。 Kちゃんも大変な思いしちゃったね。まだハタチでしょ?」 「うん」 「ちょっと重たかったね」 「うん。そう思う。 またこの子も小悪魔的っていうかさ、仲良かったときはホントにべったり仲良しだったのよ。べたべたしてたし。 でも、イヤだなって思ってからはホントに避けてたからね。 でもまだコドモだし、それもしかたないかなと思う」 「うん」
しばし無言。
「・・・追いかけられるのも大変だよナ」とワタシ。 「かもね(笑) 今回のパターンは特別かもだけど」 「あなたホントにタフだよね、その点」 「なにが」 「ワタシのこと、イヤにならない?」 「ならないよ(笑) でも、あたしもハタチの頃ならどんな反応してたかわからなかったかも。 もしかして、って気づいた時点で、イヤだ!って思って、避けていたかもしれない」 「ひどいな!(笑)」 「あははははは。わかんないけどね、『もしも』の話でその当時の気持ちなんてわかんないよ。 でもあたしのハタチなんて、そんなもんだよきっと。何も知らなかったし、自分以外の考えを受け入れる余裕もなかったし」 「ワタシもハタチの頃なら、今とは全然違うからなー。もっと激しかったし、怒りっぽかったし、自分のことしか考えられなかった」 「うん」 「若いうちにあなたに会わなくてよかったー(笑)」 「それは確かにあると思う、あたしも(笑)」
これは、ナナとワタシがハタチの頃だったら、って話ですから、今現在ハタチの人たちが怒りっぽかったりセクに理解がないと言っているわけではないですよ? ナナもワタシも、人よりずっと未熟でありますから。ワガママだし。自分本位ですし。 それがハタチの頃はもっともっとひどかった、という、個人的な話であります。
もっと早くにナナと再会していたらどうなっていたんだろう、ってたまに考えたりすることもあったのですが。
神様はうまくしてくれたようで、今思えばいちばん良いタイミングで再会して、ナナとワタシの関係をちみちみと積み上げてこれたように思います。
運命って不思議だーーー。
ナナとは十年以上音信不通だったわけですが。 「会おうよ」が言えない臆病な自分に自己嫌悪の長い日々だったあの頃ですが。
「会おうよ」が言えなかったことにも、運命的な意味があったのかも、なんてちょっとドラマチックに考えてみちゃったりして。 会いたくて会いたくてしかたなかったけど、会わないでいることに意味があったのかもしれません。 結果論ですが。
会わない時間も、会うことになったことも、後になって考えてみるとなんだかすべて収まるところに収まってしまう運命のフシギでありますよ。 なんでも結果オーライに考えちゃうワタシだからそう思っちゃうのかもしれませんが。
KちゃんとYちゃんの人生が、それぞれこれから収まるところに収まって、結果オーライで「あのときあの騒動があってよかった」って思えるようになるといいなぁ。 見ず知らずの人たち相手に、とってつけたように言ってますが、心からそう思いますです。
|