ナナとワタシ
ナナとワタシ
INDEX前へ次へ


2004年04月16日(金) 理科準備室の思い出

さて。
ナナとのコンタクトが途切れると、ワタシったら「ナナとの昔の思い出」を語り出すんですが。

本日もそれです。
なんだかかわいそうですね、じょりぃ。
と、誰もかわいそうがってなんてくれないのはわかっているので、自分で言ってみました。

--------

あれは中学3年の、確か秋の終わりか冬の始めだったと思います。
もう部活ももちろん終わっていて、ワタシとナナをつなぐものは「帰りの二人乗り」だけでございました。
こう書くと仲良しそうですが、単にナナが自転車通学だったワタシを帰りの足に使っていただけでございます。
それでも、ナナと接触できる唯一の機会ですから、ワタシは毎日放課後になるとナナの教室まで行き、
「今日はどうするの?」とおうかがいをたてておりました。

が、このころになると、ナナは「今日は○○と一緒に帰るから」と断ることが多くなって参りまして。

ワタシといるよりも、○○のグループと話しているほうが数倍楽しそうなのはよくわかっておりましたので、「そう。じゃあね」とおとなしく引き下がる毎日。
それでも懲りずに毎日「今日はどうするの?」と聞きに行っていた、マヌケでしつこいじょりぃ。

そんな日々が続くなか。

ある日ワタシはナナに呼び出されました。
「放課後、第2理科準備室に来て」と。


なんでそんな誰もいないところに。

と一瞬思いましたが、考えてみたら、ナナは今週、そこの掃除当番。
ああ、掃除終わったらついでに何か用事でも頼みたいのかな、という気持ちと、「何か秘密の話かな」とワクワクする気持ちとで、ドキドキしながら第2理科準備室へ向かいました。
もちろん、幼いワタシの頭の中では、自分に都合のいいシナリオが展開されておりました。
もうすぐ中学生活も終わるし、実はナナもワタシに好意を持っていて、そんな内容の話が聞けるかもしれない。
もしかしたらキスとかしちゃうのかな。
そんな馬鹿なことを考えて、いそいそと理科準備室へ向かったのです。

ビーカーやら人体模型やらが並んでいる、ある意味マヌケな雰囲気の第2理科準備室に入ると、電気もつけない薄暗い部屋で、ナナが待っておりました。


なんか、ナナの顔、険しい。

どうやら、ワタシが期待していたストーリー展開にはまったくならなそうです。
ワタシ、何やっちゃったかな。
何の話かな。

もじもじしているワタシに、ナナが口を開きました。

「じょりぃ、あたしのこと、どう思ってるの?」


え!


こ、これは、どういう意味かな。

「どうって・・・・」
「あたしのこと好きなの?」
「・・・・・・・・・」

耳の奥がずーーんと重い感じがして、耳が遠くなりました。
ワタシ、緊張するとよくこの現象が起きるんですが。

ナナがどういうつもりで訊いているのかわからないので、返事ができずにいるじょりぃ。
だって、「あたしのこと好きなの?」という、一見ロマンチックな言葉とは裏腹に、ナナの顔はとても険しくて。

「そりゃ、好きだけど・・・・・?」

優柔不断な答え方をするじょりぃ。
だって怖いんですもん。

「変な意味で好きなのなら、やめてよね」
「え」


どういう意味?


じょりぃ、泣きたいような気持ちに。
ていうか、たぶん手とか震えちゃってたと思います。
まだ幼かったワタシは、冗談話にしてその場をごまかすことも、ポーカーフェイスでその場をやりすごすこともできず、ひたすら無言。

「みんなに変な風に思われるの、あたしイヤなんだよ」
「・・・・・・・・・・」

ナナはぽろぽろ泣き出すし。
ワタシは無言。
ていうか、泣きたいのはワタシです。


そのあとのことをよく覚えていないんですが。
耳はひどく耳鳴りを起こしてましたし、頭の中は真っ白ですし。
ナナはもう少し何か話したような気もします。
ワタシはほとんど口をきくことができず、最後に「ゴメンね」と謝ったのは覚えております。
とにかく、ナナは泣きながら怒っておりました。
今思えばなんだか理不尽な気もしますが。

誰かに何か言われたんでしょうね。
プライドが傷つくような思いをしたのかもしれません。

ナナが理科準備室から出ていった後も、ワタシはぼーーっとそこに残っておりました。
まず第一に「一緒にここから出ていくのを見られたら、またナナが誰かに何か言われるのかも」と思ったので、少し時間をおくことに。

もうひとつは、なんだか泣きそうだったから。ワタシも。

でも、あまりのショックで涙も出ませんでした。
ただただ、ひたすらショック。
ナナとは最近、ほとんど話もできない状態だったというのに、どうしてこんなことに。
毎日「今日はどうするの?」って訊きに行っていたのがいけなかったのかな。
じゃあ、明日から、もうそれもしちゃいけないんだな。
これはもう、ナナと関わっちゃいけないってことなんだ。

そんなことを考えて、ひたすらにショック状態。

しばらく理科準備室の大きな机に目を落としていたのですが、気を取り直して顔を上げ、人体模型のほうをなんとなく見てみたら。

準備室の奥にある、小さい部屋に、人がいました。
目が合いました。

同じソフト部の、Hちゃんでした。
ナナと同じクラスなので、たぶん掃除分担が同じだったのでしょう。


まずい。
しまった。
話を聞かれた。


どうしよう。


まず思ったのは「ナナ、ゴメン!」ということでした。
Hちゃんが今の会話をぽろっと人に話してしまえば、あっと言う間に噂になるでしょう。
しかも尾ひれがついた状態で。
今、ちょっと友達に何か言われたくらいで(たぶん)、これだけ動揺しているナナなのに、そんなことになったら申し訳ない。
ワタシ、どうしたらいいんだろう。


何も言えず、無言でそのまま立ちすくんでいると、Hちゃんが微笑みながら近づいてきました。

「じょりぃの気持ち、あたしわかるよ」と。

わかるって? 何が?
Hちゃんも女の子が好きなの?
いや、それは絶対なさそう。

事態が飲み込めないまま、さらに無言のじょりぃ。
心はこれ以上ないってくらい動転しております。

Hちゃんはワタシの肩にそっと手をかけて、「気にしちゃダメだよ。ナナもなんとなく言っちゃっただけだよ」と。

それでもまだ事態が把握できないじょりぃ。
ひたすら無言。

「あたし、誰にも言わないよ」

そう言って、Hちゃんは準備室を出ていきました。


ホントに言わないのかな。大丈夫かな。
ワタシも何か、気の利いたこと言えば良かった。

いろいろな後悔と、明日からの学校生活の不吉な予感がじょりぃを包みます。


ああ、弱った。


しかし、Hちゃんは、もともととても信頼できるタイプの人間です。
つまらないウワサ話にはしないだろう、と自分を納得させまして。


結局、話はHちゃんのところで本当にストップしておりました。

Hちゃんとは高校も一緒で、ずーーっと、今も交友があるのですが、あのときの話は一切出ておりません。
最近になって、ナナと交友が復活したことも、復活してすぐに報告したのですが「なつかしーー。ナナ、相変わらず?元気?」なんて感じで。

もう覚えていないのかしら。


このときのことって、ワタシにとって、なんだかすごく非現実的なんですよね。
だっておかしいですよ。
日頃何かにとらわれたりこだわったりすることのないナナが、わざわざ理科準備室なんかに呼び出して泣きながらあんな話をワタシにしたことと言い、それを聞いていた友達がいて、ビミョーに慰められて、彼女にとってもそれってなかったことみたいになっていて。

今思えば、不思議な体験です。
当時はもう、それこそ「死んでしまいたい」とすら思ったものでしたが。


もちろん、それ以来、ワタシとナナは疎遠になっていきます。
卒業式の日も話すらしませんでした。
中学時代、ワタシはキッパリと、ナナに一度フラれていたわけです。
悲しい思い出です。
今思い出しても、胸がぎゅうっと痛みます。


--------------


なのにですよ。

再会してしばらくしてから、ナナに「理科準備室にワタシを呼びだしたの、覚えてる?」と、清水の舞台から飛び降りる覚悟で訊いてみたことがあったのですが。

「え? なにそれ。 覚えてない」


マジですか?

「マジー?」
「マジー。 だってなんでそんなところにあたしがじょりぃを呼び出さなければならないんだ?」


びつくりしましたよ奥さん。
ワタシが20年近く引きずっていた傷をつけた張本人は、そのことをまったく全然かけらすら覚えていなかったんですから。

「・・・・覚えていないならいいよ。あまりいい話じゃないし」とワタシ。
「えー、知りたいよー。 何?その不思議な話」
「・・・・・・・・」
「教えて?☆」

あたりさわりのないように話をかいつまんで、ナナに説明。
毎日「今日は自転車どうする?」と訊きに行ってたワタシを、たぶん友達がひやかしてアナタに何か言ったらしく、「変な風に思われたらイヤだ」とワタシを呼び出してベソかいたんだよ、と。
なぜかワタシを責めたんだよ、ひどいよねー、と。
大人になった今は、冗談まじりに。

「ええええええ? まったく覚えてないんですけど」
「   そう   」(白目)
「それはキミに悪いことをしたね(笑)。 傷ついた?」
「傷ついた」
「ゴメンゴメン。 でもそれって、ホントにあたし?」 <失礼ですね
「ホントにアナタです」
「なんで忘れちゃうのかなーー。  ホントにあたし?」
「じゃあ、別人てことで」


そのとき、Hちゃんがいて、話を聞かれちゃってさー、という話もついでに。
「じょりぃの気持ち、あたしわかるよって、なぐさめてもらったんだ」
「そうなんだ。 Hちゃんもご苦労だったねー」 誰のせいなんだよ。

「でもさ、あたし、Hちゃんがなんでそう言ったのか、なんかわかる気がする」とナナ。
「なんで?」
「当時クラスでさ、HちゃんとSが仲良かったのに、だんだんSがHちゃんを遠ざけるようになっちゃったのよ」
「そう」 

Sはいつでもどこでも人気者の、超いいヤツです。
先日掲示板でちょこっと書いた、都内に大きな事務所を構えている出世頭でもあるんですが。
ワタシは高校も一緒で、彼女もたぶんレヅかバイです。現在も独身。
ナナもSのことが大好きで「一緒にSに会いに行こうね」といつも言ってるくらいなんですが。

「Hちゃんはすごくショックだったみたいでさ。 でもSの気持ちもわかるんだ」
「ふうん」
「じょりぃのその話の時期と、HちゃんからSが離れていった時期が、ちょうど重なってると思うんだ」
「ふうん」
「だから、他人事と思えなかったんじゃないかな」
「なるほど」


みんなそれぞれの、15歳でありました。



それにしても。
ホントにワタシのことなんて、どうでもよかったんですねアナタ。
と申し伝えましたら「そんなこともないけどさー。 そうだったのかもね(笑)」だそうです。

こっちはいまだに人体模型見ると、当時のあのやるせない気持ちが甦ってトラウマになっているというのに。

のんきなもんです。


今現在のこのナナワタに書かれているようないろんな出来事も、
20年後には「え?あたしそんなこと言った? てか、それホントにあたし?」なんて言われてるのかもしれません。


脱力。
そして涙。


じょりぃ |HomePage