後悔日誌
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2003年10月24日(金) 幻影


宇多田ヒカルを見ると思い出す。昔、よく似た子に出会った。

飲み屋を梯子してへべれけになりながら歩いた小倉の夜。
歓楽街の真ん中にある公園には路上パフォーマンスを繰り広げる若者や、呼び込みの黒服が賑やかに往来していた。


コンビニの隣で彼女は立っていた。白いセーターに黒いスカート、薄い化粧、あどけない顔立ち。
その一角だけ、深夜ということを忘れてしまうほど輝いていた。
公園の端まで歩く前に振り返り、玉砕覚悟で声を掛けてみることにした。


「私、バーで働いているんです。」
渡された紙には一時間五千円の文字。
それはそうだ、こんな時間に素人の女の子が立っている訳がない。
それでも酒に浸りたい夜だった。
足はもう、店のほうに向いていた。


「とっても嬉しいです。こうして誘ってくれた人、初めてなんです。
外は寒くてつらかったから・・・。」
交差点の上でそう言われ、なにか得をした気になった。
男心とは簡単なもので、たいしたことない一言に癒されてしまうものだ。
狭い路地を進み、タバコの煙のこもる、バーとキャバクラを足して二で割ったような店に着くと早速、焼酎を乾杯した。


やたらと正直な子だった。大学生で来年から就職すること、オーストラリアに留学すること、夢は海外旅行の添乗員のこと。
どれも真剣な眼差しで語っていた。


いつかまた、会える日が来るといい。そう思いながら店を後にした。



あれから数年が経った。
マルゲンビル、ラーメン屋の匂い、公園の喧騒、変わらない小倉の街並み。
あのコンビニにふらり入り、缶ビールを開けた。

「立派な添乗員になれたか?」
あの場所で、壁と乾杯した。
少し心寂しい夜になった。



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