日常些細事
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2003年10月23日(木) 続・すあまをさがして

 『ごんどらデパート岡山店(仮名)』へ、すあまを捜しに行く。ここは東京が本店なので、きっと関東地方のお菓子も沢山扱っているはずである。
 開店するなり他の商品には目もくれず、地下のお菓子売り場に向かう。
「いらっしゃいませ」
 さっそく50歳ぐらいの女子店員が声をかけてきた。「秋の新作和菓子、いかがですか」
 なかなか積極的な販売姿勢である。
 この人に頼もう。
 私は彼女の正面に立ち、
「すあまはありませんか」
と訊ねた。
 その女子店員、名札には『徳山』とある。
 徳山さんは年齢のわりには可愛らしく首をかしげ、
「それはどのようなお菓子でしょう?」
と言う。
 すかさず答える。
「素甘。 菓子の名。イ・「すはま」に同じ。ロ・粳米の粉に白砂糖を混ぜ、搗いた餅状の菓子、です」
 私は広辞苑の『すあま』項を暗記しているのだ。
 さらに、すあまについて理解を深めてもらおうと言葉を続けた。
「すあまは、たれぱんだも食べてます」
「たれぱんだ、ですか」
「公園にすあまを入れた瓶を置いておくと、たれぱんだが獲れるのです」
 徳山さんが妙な顔をして私を見ている。 
 なんだこの女、たれぱんだも知らんのか。
 私はかけていたメガネを胸ポケットにしまい、両方の手でにゅううっと目尻を下げてみせた。
「こんなふうに眼の垂れたパンダなんですよ」
「あのう。ぬいぐるみかなんかの、パンダでしょ」
「そうですそうです」
「ぬいぐるみのエサは、ちょっとここには」
「いやいや。すあまは関東地方で食べられているお菓子なんですよ。」
「はあ」
「くらげさんも大好きだそうです」
「は。くらげ?」
「くらげさんは神奈川県に住んでいます」
 徳山さんは両手を前に重ねた接客姿勢のまま、じわじわと後ずさりをはじめた。
 そして
「少々お待ちください」
と早口で言うなり逃げるようにどこかへ行ってしまった。
 あれ。
 どうしたのかな。
 まだ説明の途中なのに。
 なんとなく不完全燃焼の、宙ぶらりんの気持ちでしばらくその場に立っていると、
「お待たせいたしました」
 やがて現れたのは徳山さんではなく、スーツ姿のがっちりした男性。
「お客様のご所望なさっておられます品物でございますが、まことに申し訳ないのですが」
 すあまは無いという。
 なんたることであろうか。
 私は悄然と、ごんどらデパートを後にした。
 いったい、すあまはどこにあるのだろう。
 ところで徳山さんに代わって出てきた男の人、『防犯』と書いた腕章を付けていたけどあれは何だったのかな。


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