日常些細事
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2003年10月01日(水) 必殺募金人

 お客が来ないので昼から遊びに行く。
 駅前を歩いていたら多勢の人が箱をぶら下げて立っていた。
『赤い羽根共同募金にご協力を』
とある。
 ああ。今日からだっけ。
 毎年10月1日からの赤い羽根募金。これが始まると秋になったな、と思う。
平成15年も残り3ヶ月である。
 そういえば今年もロクなことしてないなー。
 反省した私は少々の寄付をすることにした。
 近くの募金箱にお金を投入すると、
「ありがとうございます」
 お礼を言われ胸に赤い羽根を留めてくれる。
 歩きながらその羽根を取ってゴミ箱に捨てた。
 こいつを付けたまま人前を歩くのが、どうも恥ずかしくて仕方がない。
「ワタシは恵まれない人のためにお金を使ったぞ。ほれ証拠の赤い羽根」
と宣伝しているようで嫌なのだ。
 寄付金だってわずかコーヒー1杯程度だし、世間の人に知らせるほどのことでもないと思うのだが。
 もちろんこれは私の個人的な考えで、他の人の行為をどうこういうものではありません。
 しかしまあ。
 善行は人知れずやるものだよ。
 どこか大企業の重役か地方の議員かといった恰幅のいい男たちが、そろって背広の襟に赤い羽根をつけて歩いて来るのとすれ違いながら、私は声に出さず独りごちた。
 駅前を過ぎて商店街に向かう。
 ここにも募金箱を下げたグループが、あちこちでお願いしますの声をはりあげている。
 その中を私は、
「もうしたもんね」
と、無視してどんどん歩いて行った。
 商店街の終るあたりに差し掛かったときだ。
 やはり男女の一団が道行く人に募金を募っていた。
 ひとりリーダーらしい女性いて、この人がなんというのか、実に只者ではない雰囲気を発散させているのである。
 年のころは50代半ば。がっちりした体格で、体の中からふつふつとエネルギーが溢れているような感じ、と言えば分かってくれるだろうか。
 彼女の視線は私の胸元に注がれていた。
 赤い羽根を捨てた私の胸には当然何も付いていない。
 女性と目が合った。射るような鋭い眼差しである。
 あ。マズイ。
 思った時には遅かった。
 彼女にしっかりと視線を絡め取られて身動き出来なくなってしまったのである。
『あなた、募金していませんね』
とその目は責めていた。
 おどおどしながら私も目で反論する。
『ぼ、ぼく、駅前でちゃんと募金しました。羽根は捨てたんです〜』
『わかってますよ。みんなそう言って逃げようとするのです。私にはお見通しです』
『ほんとなんですよ〜』
『募金しましょうね』
 有無を言わさぬ迫力で私を見据えると、一転、彼女はにっこり笑って頭を下げ、
「ご協力おねがいします」
 まわりにいた10数人も一斉に
「おねがいしまーす」
「はあ・・・」
 抵抗のすべもなく、私はポケットから財布を取り出すしかなかった。
 この間、わずか2,3秒の出来事である。
 なんたることであろうか。
 2度も募金してしまったではないか。
 それにしてもすごい眼力の持ち主であったな。
 むかし私も上目遣いにばちばちとガンを飛ばしながら街を歩いていて、同じようにばちばちやっている連中とボカボカ殴り合いをしたこともあったけど、あれほど
  『強烈な意志』
を感じた目はなかった。
 赤い羽根募金を集めてるのは皆ボランティアだそうだが、一体普段は何をしている人なんだろうか。『必殺募金集め人』という名がふさわしい人だったが。
 


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