初雪である。朝起きたら庭の木々や車の屋根の上にしっかりと積もっていて、さらにややぼた雪気味になっており前途が心配されるとはいえ、雪はなおも降り続けていた。ここは雪国ではない。いくら降っても必ずすぐに消えてしまう、はかない宿命を背負った雪である。雨とちがって、何日かに一度は必ず降るだろうというようなものではなく、暖冬だとほとんど全く降らないこともしばしばで、とりわけこの星の温暖化が進行しつつある今日このごろでは、その姿を見ることは希であると言って過言ではない。
窓を開けて雪を眺めつつ、外に出る用事もないので読書するのである。というのも町田 康の本を3冊人から借りていて近日中に必ず返さねばならないのであるが、なかなか読み進んでおらず、それというのも晴れた日には去年末に購入したロードレーサーに乗ってその辺をうろうろしたりちょっと遠くにでかけたり、あるいは参加させていただいてるMLの方々とMTBで山に行ったりしているからである。ある意味今日の雪は、私の読書にとっては願ったりかなったりと言って良かったのだ。
借りている3冊の本の題名は、「くっすん大黒」、「耳そぎまんじゅう」、「実録・外道の条件」である。くっすん大黒が小説で、後の二冊はエッセイである。どの作品も、町田氏の卓越したマイペースなリズム感とでも言うべき感性があふれており、読者は安心して読み進むことができる。町田氏は安心して読み進まれたくはないかもしれないが。
実録・外道の条件は、題名はなんだかちょっと怖いが、アウトロー文学と言うようなものではなく、どちらかというとどうしようもない人間達の行きかう芸能・エンターテイメント業界の摩擦・あつれきをおもしろおかしくリアルに描いたものである。くっすん大黒の2編の小説にしても、行き当たりばったりな半無職者のその日暮らしな生活が舞台。しかもその世界は不思議と生き生きとしていて、なるほど、芥川賞候補になったのも肯けるのである。
夜になり、雪は溶けてなくなった。明日はまたいつもと変わらぬ日常的な晴れとか雨とか曇りの世界にもどってしまうのだろうか。今年、後何度雪景色を見ることができるのだろう。できれば、あと10日か20日くらい思いっきり雪が降ってくれると気持ちがいいのだが、そうも行くまい。
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