(仮)耽奇館主人の日記
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2005年10月25日(火) 犬神博士VSチルドレン最終章

この日は、檀家総代のお孫さんが相談しに来た。
十六歳の女子高生で、なかなかの美少女さんである。
かわいいのだが、両手首、両腕とも、インディオかアフリカの原住民並に、浮き彫りになったような、リストカットの傷跡が無数に浮き出ている。
祖父の檀家総代さんは、もう孫娘に見切りをつけていて、私に煮るなり焼くなり、ブチ殺すなり勝手にしてくれて構わないと言っていた。
ご両親もまた同様で、何かっつうと、自殺未遂騒ぎを起こす娘に、身も心も疲れ果てたという状況だ。
そこで。
私は本当に優しい人だからと聞き込んだようで、本来ならドンヨリした顔で来るべきなのに、妙にウキウキした顔でやってきた。
私は客間でヒノキ造りの座卓を挟んで、彼女と一緒に座り、お茶を従弟の嫁のよしこさんに入れてもらい、用件に入ってもらった。
ズバリ、もういい加減、リストカットをやめたいとのことだった。
でも、やめられない、どうしたらいいんでしょう。
私は即答一発、「両腕ともたたっ斬っちまえばいいじゃねえか」と答えた。「両腕ともなけりゃあ、リストカットしたくても出来めえよ、違うか、ええ?」
そこで、あらかじめ座卓の下に置いてあった日本刀の一振りをドンと、座卓の上、彼女の目の前に置いてみせた。
模造刀なのだが、本物そっくりの出来である。
私はそれをすらりと抜いてみせ、「こいつぁよく斬れるぜえ」とニヤッと笑ってみせた。
そして、ようやく、ウキウキ、ニヤニヤの得体の知れない笑顔から、表情が凍り付いて、ヤクザの事務所に拉致されたかのように、泣き顔でうつむいてしまった。
「ちょっと脅しただけさ、冗談だよ。だけどなぁ、バカか、おめぇ。リストカットが気持ちいいんだか、何かのステータスだか知らねぇが、甘えてんじゃねーよ、おう。今のおめぇ自身がイヤだってんなら、好きになれるまで努力すりゃいいじゃねえか。努力しろ、努力。誰かが助けてくれるまで、腕だの手首だの切ってみてよう、タチの悪い駄々っ子だぜ、全く」
説教した後、本堂で座禅を組ませて、背後から、水に漬けて重くした木の枝で作った精神注入棒で、喝を入れてやった。
大泣きに泣いて、ご両親の迎えと一緒に帰ったのだが、所詮、私の説教など明日になればころっと忘れてるに違いない。
学校に行っちゃ、誰かにあの寺には頭のおかしな人がいる、目の前で真剣抜いて笑うんだよとかネタにするだろう。
そうして、また八方ふさがりになって、手首をじっと見つめたりするのだ。
ああいう手合いは、かまってやるからいけないのだ。
どこか人気のない山奥とか、シベリア、サハラあたりに一人で置き去りにするのが手っ取り早い。
死にたくなければどうしたらいいのか。
そこまで追い詰めないと、分からないだろう。
そうなのだ、一人では何も出来ないなんて、あまあまもいいとこだ。
誰かとつきあい、世の中を渡ってゆくためには、一人でも生きていける強さがあってこそなのだ。
当たり前である。
鬱だの、依存症だの何だのと、理由づけて支えてもらおうとする輩。
そんなのが世間に通用するか!バカ!
私は聴覚障害というハンデを背負っていたので、文字通り、頑張らなければ死んでしまうという過酷な環境にいた。
当然、精神的にも、ハンデのある自分自身がイヤでイヤでしょうがなかった。
でも、今ではそれらすべてを乗り越えて、こうして生きている。
そういうこと。
甘えに甘えているガキども、おまえらは障害者以下のクソったれだ。
悔しけりゃ、見返してみやがれ。
でなけりゃ、死にな。

・・・・・・

それでも、私は子供たちを心配して、それなりに励ます。
しょうがない、これもお寺の役目だ。
今日はここまで。


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