(仮)耽奇館主人の日記
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2005年10月21日(金) 275階へ昇る。

エニグマの「ミア・カルパ」のPVを眺めながら、こんな夢を見た。
どこかの巨大ショッピングモールで、ゾンビの大群衆から逃げまくり、階段という階段を駆け上り、駆け寄るゾンビをストッキング用展示足マネキンで殴り倒し、防火シャッターを誰かに早く下ろせ!と叫んだ。下りるシャッターの隙間から這い出てこようとするゾンビをみんなで蹴飛ばしたり、消火器の底で殴りつけたりして撃退した。
「全く、活きのいいゾンビどもだぜ」と私。
だが、誰もクスリともしなかった。
私のように、夢を夢として愉しむ余裕がないようだった。
凍てついた彫像のように呆然と立ち尽くしているみんなを横目に、私はそこからさらに階段で最上階まで駆け上り、屋上へ出た。
屋上にはだだっ広い遊園地があって、子供を抱き寄せた母親、友達と身を寄せ合っている女子高生たち、カードゲームそっちのけで金網から地上を見下ろしている子供たちがいた。
私はその中をまっすぐに横切り、屋上からさらにそびえ立っている高層ビルの中へ入っていった。
オフィスビルのようで、入り口の案内に会社の名前がたくさん重なっていたが、私はちらと見ただけで、エレベーターに向かって突進していった。
エレベーターの呼びボタンを押すと、すぐに三つあるうちの真ん中のドアが、いやにゆっくりと開いた。
そこに駆け込み、さらに最上階へ向かうために、一番上の階のボタンを押そうとして、ぎくっとした。
一階から、点々が上がって、十一階、また点々、二十五階、さらに点々、二百七十五階と四つのボタンしかなかったのだ。
奇妙に考えてる暇はなかった。
二百七十五階のボタンを押して、このドア、早く閉まりやがれ!と悪態をついたところで、閉まりかけたドアを押し開いて、何かが飛び込んできた。
私は恐怖の叫び声をあげたが、ちゃんと生きた目をした二人の女子高生だったので、ほうっとため息をついた。
今度こそ閉まる瞬間、目の前にゾンビどもが押し寄せてきたのを見て、私はゾンビに負けず劣らず唸り声を漏らした。
「噛まれてないだろうな?」と私。「先に俺を見ろ、どこも噛まれてないのを確かめるんだ」
私は上半身裸になり、二の腕と背中を次々と見てもらった。
大丈夫と太鼓判をもらうと、私は恥ずかしがる二人を手早く、じっくりと確かめて、どこも噛み痕がないのを見た。
上昇するエレベーターは高速で移動しているらしく、ほとんど無重力状態のような感覚だった。
「二百・・・七十・・・五階?」と一人。
「一体、どこに行くの、これ?」ともう一人。
私はもう一度、ボタンを見た。
11と25。
そして、275。
「十一と二十五を掛けた数じゃねえか」と私。
その瞬間、私は小さい頃、従姉とお互い子供を作るとしたら、その子供がお互いの年齢を掛けた数だけ長生きするだろう、なんてことを話し合っていたことを思い出した。
11と25。
佐渡島のはとこの透の年齢と、透を抱いて妊娠した女教師の年齢だった。
そうすると、275というのは・・・昨日生まれたっていう透と先生の子供の寿命?
急にそわそわした気分になり、そこへ行きたいような、行きたくないような気持ちが交錯し、十一階や二十五階を押してみた。
しかし、エレベーターは止まらず、高速で移動し続けるばかりである。
そのうち、動きがゆるやかになり、だんだん、ゆっくりとエレベーターが静止し、壊れたのかと思うくらい、じりじりとゆっくり、ドアが開き始めた。
そこで目が覚めた。

・・・・・・

起きて、顔を洗ったり、歯を磨いたりしながら、もう一度留守番電話を再生してみる。
透の声だった。
「・・・生まれたよ、女の子だった」
また女の子か。
私は苦笑した。
「・・・じゃあ、名前よろしくね」
そうだった、名前をつける約束だった。名づけ親というやつだ。
名前を考えながら、私は上記の夢を何度も反芻するだろう。
いっそ、275てえ名前にしちまおうか?
ちなみに。
サカキは五百十三歳まで生きる勘定である。
今日はここまで。


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