(仮)耽奇館主人の日記
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2005年07月13日(水) |
イーゼルの森のなかへ。 |
高校時代。 ラグビー部の練習が終わると、いつも、美術部で絵描きが始まる。 ドロだらけのラガーシャツのまま、椅子に腰を下ろし、キャンバスに向かい合い、パレットに油絵の具を出し、筆の毛先をしならせつつ、絵の具をこねる。 思い出す・・・ そこは、常に、油絵の具の匂いがあった。 そして、常に、イーゼルの森があった。 イーゼルの森のなかを、曲がりくねって、迷宮のように並べられた机や椅子の間を縫うように、行ったり来たりするのが好きだった。 数歩歩いて、数歩下がる。 後ろ向きに歩いて、今度はゆっくり進む。 そうすると、現実はだんだん、「現実的」に、薄くなり、ぼやけていく。 自分の心のなかの風景が、目のなかから溢れてきて、周囲を覆うのだ。 そこには、ラグビーでのタックルやスクラムの肉体の悲鳴、軋みに匹敵する、もしくはそれ以上の、精神の悲鳴と軋みがあった。 それをいかに、自分のものにするか。
人物画を何枚も描いていたことがあって、その一環として、ヌードデッサンをやるのに、クラスメイトの女の子や、書道の若い女講師などをくどいて、春休みや夏休みの部室で脱いでもらった。 「変なことしない?」 「オレが興味あるのは、女性美だけ。チンコを超越したものなんだ。しないよ、安心しな」 いつもこんなやりとりで、一生懸命、相手の肉体美を鉛筆で写し取っていたのだが、ある女性の先生は、恥ずかしいから何か音楽かけていい?と言ってきたので、もちろんどうぞと答えた。 その時流れた音楽は・・・
ぼくのみる夢は ひみつだよ だれにもいわない ひみつだよ 赤いマント ヒラヒラ 馬をとばす王子 それがぼく タラッタラ・・・・・・
ひらけよ お城 朝日がのぼる 王子さまの おでかけ ラララ ラララ
昔のテレビアニメの「リボンの騎士」のテーマソングだった。 先生の緊張をほぐすための音楽というと、少女時代に愛好していた歌だというわけだった。 私はリアルタイムでは知らなかったが、その時、その歌を初めて聴いた時、何か得体の知れないショックを受けた。 描いていた先生のヌードのなかに、何かが見えたのだ。 その時は何だか分からなかった。 しかし、後に、ウィリアム・ブレイクやティモシー・リアリーなどを知るようになって、自分の内部風景がストレートに見える人間は、相手の内部風景もストレートに見えることが分かって、あの時見た何かは、先生の内部風景だったのだと分かった。 「先生、緊張しますか?」 「うん、する」 「でも、それが気持ちいいでしょう?」 「・・・そうかもしれないわね」
描きあがった絵のほとんどは、高校の美術部に今でも眠っているが、ヌードデッサンだけは、モデルをつとめた相手に全部あげた。 ただし、リボンの騎士の先生の絵だけは、美術室の準備室の雑然とした狭い部屋の片隅に、今でも飾られている。 美術教師が何代変わろうとも、その絵はそのままだそうだ。 私は同窓会の時に、何回か、美術室の準備室の絵と再会したが、内部風景が見えた瞬間のショックはそのままだった。 あまりにも新鮮なので、一度沸き起こった、独占欲、自分の家に飾ろうという気持ちは霧散してしまった。 眺めているだけで、緊張する。 そういう感覚は、みんなで共有するべきなのだ。
イーゼルの森のなかへ・・・
それぞれの心のなかへ・・・
今日はここまで。
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