「リンゴをかじると歯茎から……」って御存知? ゆがみ林檎ですね
目の前にひとつ、林檎がある。 同じアパートに住む、友人からのお裾分けだ。
食品をお裾分けしていただくのは、とても嬉しい。
食べ物の好き嫌いもそうないので、たいがいのものは、 よほどのゲテもの以外はウマウマといただく。
だが私にはたったひとつ、いただきものをして、 嬉しくて、そして困ったような複雑な心境になる物がある。 それが今、目の前にある。
一般的に林檎というものは、 「お好みに合うかどうか……」などの前置きがなく、 気がねなく差し上げられる食品だろう。 私にだって、嬉しい気持ちはちゃんとある。 ただし複雑な心境と共に。
林檎、リンゴ、りんご。
ぱかっとふたつに割る。 と、同時にあの爽やかな香りが辺りに漂い、 蜜をたっぷりと含んだ様を目で確かめようものなら。 誰もが櫛形の一片を、一刻も早く口に頬張りたくなるというものだろう。
人々の間でお裾分けに使い、喜ばれる食品として 確約たる位置を占めるもののひとつ、それが林檎。
さて、私は今、林檎を目の前にして、 何故に嬉しくもあり、困ったような複雑な心境になるのか…。
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