私には「大阪の父」とも呼べる知人がいる。その名は「マーちゃん」。
7年前の夏、叔父に連れられ行った先は鰻の寝床の様なカウンターだけの地下にある小料理屋。 店の名前は『マーちゃん』(そのまんま) 小料理屋なんて言ったが、マーちゃん一人で営んでいる一風変わった店だった。 (マーちゃんは割烹だと言い張るが、とてもそんな風ではない) その後、私は約3年間に渡り『マーちゃん』でバイトをすることになる。
マーちゃんは西村雅彦似(本人は否定するが、結構似ている)のオヤジで、50を過ぎた今でもサッカーをしている元気な人だ。 元気と言えば、彼は一昨年再婚をしたのだ、2廻り近く歳の離れた可愛い女性と。 これで結婚は5度目にあたる、いわゆる×4である。
マーちゃんの女性遍歴をここで暴露しても大した影響は無いであろう。 本人は全く気にしていないからだ。逆にネタにして客を笑わせている。
4人中私が知らないのはたった一人きりである。 あとの方々は、皆店に遊びに来ていた。 私がバイトをしていた当時の奥様はジャズシンガーで、ストレートの長い髪がとても綺麗な人だった。 結婚前、彼女はニューヨークでデビューの話があったらしい。 それを聞きつけたマーちゃんは急いでニューヨークに飛び、求婚したのだそう。 ニューヨークデビューを(しかも大物バンドのボーカルとして)断ってまでマーちゃんと結婚したのだ。 離婚後、「私の人生返して!!」と笑いながら言っていたが、内心、本気の雄叫びだったに違いない。
フリーになってからというもの、マーちゃんの尻拭いが私の役目となった。 彼女が出来ると店をほったらかして放浪の旅に出てしまうのだ。 店番を任され、どっちが店主か判らない状況になる。 たまにムカツクこともあったが、娘のように可愛がってくれたので全てがチャラになるのだ。
今でも凹んだ時はマーちゃんの顔をみたくなる。 今年に入って2度しか顔を出していないが、行けば近況を聞かれ、叱られる。 でも、そうやって叱ってくれる人がいるのは有難い。 あの鰻の寝床は私にとって掛替えの無い場所なのだ。
今凹んではいないが、そろそろ叱られに行こうと思う。
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