Shigehisa Hashimoto の偏見日記
塵も積もれば・・・かな?それまでこれから


2005年04月12日(火) 野村芳太郎監督

映画監督の野村芳太郎さんが亡くなられたと聞いた。85歳であったから、仕方がないといえばそうなのかもしれないが、やはり訃報はいっとう悲しいものだ。これでまた日本の才能ある映画監督が鬼籍に入られたのだから、その思いも一入である。

私は中学二年生の初夏に、はじめて野村監督の作品をみた(突然テレビ東京で放映されたのである)。タイトルは「八ツ墓村」で、市川昆=石坂浩二の金田一ブームに乗じた松竹が、社運を賭けて製作した作品である。私がこの映画を見た理由はただひとつ、渥美清が金田一耕助を演じていたからであり、当初はそれ以上の他意はなかった。しかし、鑑賞後は圧倒されるような思いに駆られた。とても面白かったのである。怪奇推理小説を原作としている関係上どうしても表面上のおどろおどろしさに目を奪われがちだが、私が思うところ、この映画の核心は撮影技術の尋常ならざるレベルの高さである。洞窟のロケーション・シーンなど、思わず息を呑むような完成度で、あとになって考えてみれば、これが野村監督の力量を示す象徴的なショットだったのだなあ、とつくづく思う。

この作品ですっかり野村監督のファンになった私は、主として渥美清が出演する野村作品を見るようになる。正続編の「拝啓天皇陛下様」や「拝啓総理大臣様」は映画上の仕掛けが数多く施してあるので奥行きのある見方が楽しめるし、「震える舌」などは厳しい状況を衒わずに写し出すことでかえってその先の希望が見えてくるという優れたロジックを編み出している。人情物からサスペンス物、怪奇物、写実路線などを分け隔てなく撮るバラエティ派で、作風がひとつに凝り固まらず、一作ごとの趣向が豊かであるという点では稀有な存在である。おそらく、何事にも好奇心旺盛な人なのだろう。本来はこういう人が映画監督になるべきではないか。

それにしても、この訃報に対する各メディアの扱いの低さはどうだろう。今朝は野村監督の弟子である山田洋次がコメントしているニュース映像を見たが、せいぜいその程度で追悼で映画を流す、という動きが全くないのは酷いものである。ある評論家の「この国の文化レベルは極めて低い」という意見に私はいつも反発していたが、こういう事象を具に見ると、評論家の言っていることにもそろそろ賛同せざるを得ないところまできているのかもしれない。


橋本繁久

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