『日々の映像』

2010年01月05日(火) 日本の社会で希望を見えだせるか



社説:アジアとの共生―手携え人づくりの大循環を
                         朝日新聞
社説未来への責任(1) 繁栄と平和と地球環境を子や孫にも(1/1)
社説未来への責任(2) 外向いて行動する日本にこそ価値あり(1/3)
社説未来への責任(3) 社若者が負担できる年金・医療 築き直せ(1/4)
                        日経

 新年の社説を四題引用した。これからの1年をどのように送れるかは、人のよってさまざまである。仮に厳しい環境との理解に立てば、この環境をいかに対処していくかである。営業社員の講座資料を整理する過程で、その名を歴史に刻んだリーダーの語録を整理することがある。歴史に刻んだリーダーたちはあらゆる困難を乗り越えて来たことが以下の語録で理解できる。。
人間の知恵というものは、
しぼればいくらでも出てくるものである。
もうこれでおしまい。もうこれでお手上げなどというものはない。
 松下幸之助
アイデアを生むと言っても、口先だけでは生まれない。
これもやはり熱心であること。
寝てもさめても一事に没頭するほどの熱心さから、
思いもかけぬ、よき知恵が授かる。
  松下幸之助
える心に、新たな力が湧くものだ。
全てそれからである。
心機一転、やり直せばよいのである。
長い人生の中で、そのための一年や二年の遅れは、
モノの数ではない。
    本田宗一郎
必死のときに発揮される力というものは
人間の可能性を予想外に拡大するものである。
 本田宗一郎
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アジアとの共生―手携え人づくりの大循環を
                         2010年1月4日  朝日
 幕を開けた2010年代は、世界的な構造変化が加速するに違いない。経済の分野では、米国一極集中から多極化へ、といううねりだ。
 米国の過剰消費に世界中がもたれ掛かればなんとかなるという時代は終わった。世界大恐慌以来の経済危機を克服するうえで協調は不可欠だが、同時に各国が内需を振興して自立的な発展を進めることが前提になる。
 特に、輸出と貯蓄にいそしんできたアジアなどの新興国が「豊かでエコで安心・安全な社会」をどう築くか。世界の安定と調和はそこにかかる。
■生き残りかけて
 日本経済は生き残りをかけて、アジアへの融合を図ることが求められる。アジアの需要をただ取り込むという発想でなく、近隣諸国の豊かな社会づくりに寄与し、結果として生まれる市場の果実を得るようにしたい。
 たんに商品やサービスを売るのでなく、現地に溶け込んだ商品・販路づくりや人材育成が欠かせない。現地の発展に日本のどんな資源が生かせるか。志を高く持ち、考え抜く人材を一人でも多く育てる必要がある。
 すでに多くの企業がアジア向け製品開発に走り出している。パナソニックは、中国で家電製品が行き渡っていない農村地帯にどんなニーズが眠るか、徹底的に調べている。戦後、都会向けと思われたテレビを農村に売り歩いて飛躍につなげた歴史を彷彿(ほうふつ)とさせる。
 求められるのは必ずしも最先端の技術ではない。むしろ蓄積されたものを適切に組み合わせる「あり合わせ力」が問われる。日本の大手電機メーカーの研究所には、韓国メーカーなどが「すぐ製品化したい」と思う成果がたくさん蓄積されているという。日本の産業は、持てる蓄積をアジアや世界の目線で認識し直すことが大事だ。
 任天堂のゲームづくりを率いる専務の宮本茂さん。頭脳には失敗を含めゲームづくりの経験と知識が詰まっている。世の変化に応じて過去の蓄積から使える要素を引き出し、組み合わせてきた。「枯れた技術の水平思考」だ。
 イノベーションに発明が欠かせないというのは間違いだ。需要と供給の微妙な食い違いへの「気づき」からも生まれる。米IBMはコンピューターを学術計算に使うという固定観念にとらわれず、事務処理に使えばいいと思いついて巨大企業になった。
 新たな光をあててみるべきものは、企業だけではない。日本の地域に眠る「緑」「水」「海」などの自然の幸、独自の伝統文化や安全な社会といったソフトパワーにも再評価が必要だ。
■ニッポンの再発見
 追い風は吹いている。すでに世界で日本の顔となったアニメ、漫画をはじめ、さまざまなポップカルチャーや若者ファッション。世界ブランドの工業製品だけではない日本の姿をアジアが改めて発見し、開拓しつつある。
 大分県が成功させた「一村一品運動」。その基礎には、世界の目線で地域の資源を評価できる人材の育成があった。島根県の隠岐・海士町は、千葉県我孫子市の会社が開発した瞬間冷凍装置を導入し、中国に新鮮な白イカや岩ガキなどを輸出している。
 孫子の兵法に学ぶまでもなく、顧客と市場、社会を知り、自分を知ることこそが王道だ。日本の再出発には、持てる資産を自覚する「ニッポン総棚卸し」が求められる。
 企業でも地域でも、人材がかぎを握る。アジアが必要とする資源の情報を吸い上げる人、日本の資源で役立ちそうなものを提案する人。企業や地域がアジアに大事なお客さんや、かけがえのないパートナーがいるという関係を網の目のように広げていく。
 その中で、日本の中小企業からアジアブランドを100つくれないか。100の地域をアジアに誇れる特産品の産地に育てられないか。
 日本の人材がアジアに出るだけではいけない。日本もアジアに開かれた社会に脱皮する必要がある。観光客も留学生も増やし、働き手を受け入れたい。日本の企業や地域を評価するアジアのマネーも受け入れるべきだ。「外の目」による再評価は日本の地力を再生させる糧になる。
 そうやってアジアの人々と手を携え、大きな人づくりの連鎖と循環を生み出したい。アジアで成長社会が興隆しつつある。その舞台を借り、不確実性にひるまない人間を育てる機会を得られるなら、それは幸運だ。
 日本を人づくりから成長軌道に乗せることこそ「国家百年の計」ではないか。新産業を興すにも、改革を通じてたくましい社会システムを築くためにも、アジアとの間の「人づくり大循環」は力強い支えになるだろう。
■成長を共有する
 アジア融合は将来「共同体」と呼ばれるような姿を結ぶかもしれない。大切なのは、そこへの道筋を支える経済や社会の下部構造を築く営為である。米国との政治的なきずなを大切にしつつ、アジアという大海の中で生き抜く訓練を重ねる。そうした日本人の中から、次の優れた世代を生み出すことができるだろう。
 中国は今年には国内総生産(GDP)が世界2位になる。だが、3位になる日本を悲観すべきではない。中国を含むアジアの跳躍に日本の人と技術と文化を生かすことで、共生と新たな成長への道を切り開きたい。

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未来への責任(1) 繁栄と平和と地球環境を子や孫にも(1/1)
                         日経
 きのうで、団塊の世代は全員が還暦を迎えた。1947年から49年までに生まれた670万人。この世代は高度成長期に育ち、平和と繁栄を謳歌(おうか)した。戦後世代を象徴する人々である。

 この団塊の世代の子や孫は、親や祖父母より幸福な人生を送れるだろうか。そこに大きな疑問符がつく。

将来世代にツケ回すな

 経済の面では、デフレ基調が長く続き、今年度の1人当たり名目国内総生産(GDP)は10年前に比べ約5%少ない見通しだ。派遣社員など非正規社員の割合が3割を超え、所得格差も広がってきた。

 何より、財政や社会保障で若い世代ほど負担が重くなる。5年前の経済財政白書によれば、60歳代以上の人は、生涯を通じて政府に払う税金や社会保険料よりも、政府から受け取る年金給付や医療保険の補助など行政サービスが4875万円多い。一方、20歳代は受け取りが支払いより1660万円少ない。両世代の差は約6500万円にもなる。

 増税や年金給付の削減などの改革をしなければ、100年後に生まれる日本人たちは、今の貨幣価値で2493兆円もの公的純債務を負う(島沢諭秋田大准教授の試算)。

 負担をないがしろにして財政支出を続け、その帳尻を国債発行で埋めてきたツケが、今の若い世代や未来の世代にずしりとのしかかる。

 平和はどうだろう。冷戦終結から20年たったが、北朝鮮の核開発にみられるように20世紀型の脅威は去っていない。中国の21年連続での国防費2ケタ増加も、東アジアの長期的な安定にどんな影響を及ぼすか読めない。鳩山政権は日米同盟について前政権とは一線を画すように見えるが、それは賢明なのかどうか。

 長い目でみて最も深刻なのは地球温暖化問題である。大量の二酸化炭素排出によって温暖化が進み、このままでは海面の上昇だけでなく、異常な暑さや寒さ、大型台風や干ばつの多発など、人類の生存環境そのものが脅かされる、と多くの科学者が警告している。

 われわれ現世代は子や孫の世代を犠牲にして、繁栄や平和をたのしんではいないだろうか。自分たちが生み出した問題は自分たちで処理する。それが未来への責任だろう。

 敗戦から65年、日米安保条約改定から50年、年金増額など福祉元年から37年、温暖化防止の京都議定書から13年、21世紀の10年目。今年を日本の未来を考える元年にしたい。

 経済を長いデフレ基調から引き戻すには、財政・金融面から需要を喚起するだけでなく、長期の視点から経済体質を変える必要がある。

 デフレの原因として、時代を映した需要の変化に供給側が対応し切れていないことも大きいからだ。たとえば公共事業が激減し民間の需要も低迷する建設業界では、バブル最盛期の89年(約580万人)とそう変わらない517万人が働いている。転業などをせずに、皆が食べていくのはまず不可能である。

 潜在的に大きな需要があるのに、政府の規制などで供給が出てこない分野もある。自由診療や新しい医療技術開発に制約がある医療、新規参入にまだ壁がある電力や農業、保育、介護なども、競争を促進すれば、実は潜在的な成長分野である。

 若い人や将来世代が格差なく良い仕事に就けるよう人材の育成に力を入れなければならない。この面では政府とともに企業の責任も重い。

向こう10年間が勝負

 財政や社会保障を持続可能にするには、年金・医療給付や保険料、税金などの面から、現世代が解決策を出すべきだ。景気が持ち直した後に実施できるよう準備を急ぎたい。

 安全保障に関しては、日米同盟の意味合いを、未来の視点からもう一度考えてみる発想が大切である。

 地球環境を守るのは負担だけとは限らない。米中などの大量排出国を巻き込んだ二酸化炭素削減の枠組みができれば、低炭素社会に向けて、先進国は産業構造を大きく変え、新たな成長を開始する。技術力の高い日本は優位に立つはずである。

 これら未来に向けた改革を進める上での問題は「改革の担い手はだれか」だ。投票率が高い高齢者の人口に占める割合は高まり、現状維持を好む高齢者の声が政治に反映されやすくなった。この状況を変えるにはもっと若い人にも選挙権を与えるとともに、各界の指導者に若い人を登用する寛容さと勇気が求められる。 過去10年間、経済や社会保障の基本的な問題を解決できなかった。今から10年後には65歳以上の人口が29.2%と3割に近づく。この10年が勝負であろう。若い世代や将来世代の生活を守ることを真剣に考え、早く行動を起こすべきである。



社説 未来への責任(2) 外向いて行動する日本にこそ価値あり(1/3)

 地球儀を眺めてみる。日本は小さな島国だ。巨大なユーラシア大陸が覆いかぶさり、左斜め上から朝鮮半島が突き出る。広い太平洋のかなたに北米大陸がある。

 島国日本は、世界から孤立しては生きられない。地球儀をみれば明らかだが、心配が尽きない。

日米で「成長中国」導く

 2010年は、日米安全保障条約改定から50年である。鳩山政権下の日米関係には暗雲が漂う。日韓併合100年にもあたる。前世紀の歴史のなかの事実は、今年の日韓関係に影を落とす。日米、日韓間の不協和音は、核で周辺に不安をまき散らす北朝鮮の抑止を難しくする。

 地球儀をゆっくり回しながら考える。いま世界は、どんな力学で動いているのだろう。約3週間前、コペンハーゲンで開いた第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)は、現在の世界システムの断面を見せつけた。

 1国1票の仕組みのもとでは合意をつくるのが難しい現実である。特に途上国の代表を自任する中国が事実上の拒否権を持った。問題が何であれ、日本が中国を説得しようとすれば、米国との協力が欠かせない。が、鳩山由紀夫首相は、オバマ大統領との会談さえ、できなかった。

 首相は、デンマーク女王主催の夕食会で隣り合わせたクリントン国務長官と言葉を交わすしかなかった。そこでの会話に関して首相が記者団に語った内容に対し、ワシントンに帰ったクリントン長官は、国務省に藤崎一郎駐米大使を呼ぶ形で、抗議の意思を示した。

 日米関係は「対等」でも「緊密」でもなくなってしまった。普天間基地の移設をめぐる首相の言動が原因である。警鐘が乱打されたが、首相には聞こえなかった。

 国際通貨基金(IMF)の見通しによると、中国の名目国内総生産(GDP)が今年には日本を抜いて世界第2位になる。日本にとって複雑だが、特に経済面では日中の相互依存の深まりは双方に利益となる。

 歴史を見ると、急激に台頭する国は対外摩擦を起こす。20世紀の2回の世界大戦の原因もそれだった。成長する中国は、いま軍拡、環境、人権などで摩擦がある。中国を国際社会に調和させる作業は、21世紀の地球社会の安定に不可欠である。日本にとって未来への責任でもある。

 米国と距離を置き、中国に接近する鳩山外交は、中国をそこに導くのに有効だろうか。少なくともコペンハーゲンでは違った。

 鳩山外交の問題点のうち、2点を指摘する。第一に、安全保障と日米関係を軽視する傾向である。首相周辺は、対米貿易が日本の貿易額の13%であり、中国を含むアジアとの貿易が約50%を占めると強調する。

 それは経済の論理としても、正しくはない。日本の対中貿易には、米国が中国に投資した企業とのそれも含まれるうえ、中国で生産した製品の多くは米国向けに輸出される。

 第二に、内政の視点から外交を見てきた野党時代に培われた「反・親米」感情の危うさである。自民党政権による対米政策の否定であり、正確には冷戦時代の「反米」とは違うが、実質的には大差ない。

 人民日報が日米関係の悪化を伝えた。中国もそれが気になるからだろう。日本が今の反動で次は右に振れるのを恐れる、との解説も聞く。中国の拡大を恐れる東南アジア諸国も日米関係を心配する。

内政が外交を縮める愚

 年間100億円以下で済むインド洋での給油の代わりに、アフガニスタンに対し、5年間に毎年900億円の支援をする小切手外交も、内政上の思惑が外交をゆがめた例だ。

 他の途上国への無償資金協力の財政的余裕はなくなる。国際社会での日本の存在は縮むから、実は内向き・縮み志向のばらまきである。

 鳩山政権の対米姿勢に拍手する気分が日本国内にはある。不況がもたらす屈折感の影響だろうか。

 米国際教育研究所によると、08年現在の米国への留学生数は過去最多であり、上位5カ国はインド、中国、韓国、カナダ、日本の順。前年に比べた増加率は、中国の21.1%を筆頭に、インド9.2%、韓国8.6%、カナダ2.2%なのに対し、日本はマイナス13.9%である。

 日本が米国よりもアジアに向かう時、アジアは米国に向かう皮肉である。このすれ違いにこそ、日本の孤立への心配がひそむ。

 鳩山政権による日米同盟の空洞化は、1921年の日英同盟廃棄に始まり、敗戦に至る25年の歴史を連想させる。11月に予定される日米同盟の再確認を転機にしたい。20世紀の歴史をかみしめながら、地球儀を眺めてみよう。


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石田ふたみ