『日々の映像』

2009年03月23日(月) 生活文化の基礎中の基礎が崩壊しつつある


報道と資料
1、社説:高齢者施設火災―福祉行政と防災の貧しさ
                    2009年3月22日 朝日新聞
2、老人施設火災 背景にある高齢者施策の貧困
                    2009年3月22日  読売新聞
3、社説:群馬施設火災 お年寄りの安全対策再考を
                     毎日新聞 2009年3月21日 
4、社説2 「高齢者施設」火災悲劇の教訓(3/22)
                      2009年3月22日  日経
5、老人施設で焼死 受け皿の貧しさが招いた
                     2009年3月22日  新潟日報
6、防火の根本的な対策を立てる必要がある。
                     2009年03月20日 高齢者情報から
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=40897290&comm_id=698599


各社の社説の一節を引用するだけでこの問題の概要が分かる。

・亡くなったお年寄りたちは、さぞかし無念だったろう。
                              朝日新聞
・超高齢社会の行く末を案じさせるような、痛ましい出来事だ。
                              読売新聞
・またしても痛ましい火災となった。遺体で見つかった7人の入所者は逃げ遅れて炎に包まれたものとみられている。             毎日新聞

・この施設は高齢者施設と称しているが、介護保険法に基づく施設ではなく、介護サービスを提供するのに必要な届けを県当局に出していなかった。
                              日 経
・高齢者向け住宅「静養ホームたまゆら」で火災が発生し、入居者十人の命が奪われた。                          新潟日報


 1780人余りの登録があるコミュニティ「高齢者情報」は以前「高齢者福祉情報」であった。ページで紹介するような福祉情報が少なく「高齢者福祉情報」を「高齢者情報」に改定させてもらった経過がある。「高齢者情報」は文字の通り高齢者に関する情報の発信にウエートを置いている。自立した高齢者が多くなるような啓蒙活動が出来ればと思っている。
 
今 回の事故は福祉行政の貧しさの象徴と思う。無届けの老人施設は全国で350ヵ所を超すという。ともかく、行き場のない高齢者がどれだけいるのか・・やるせない日本の社会の縮図であるが、行政はこの実態を正しく把握する責任があると思う。

 以前海外生活が長かった人から次のような書き込みがあった。
「日本人ほど高齢者(親を)を粗末に扱う民族はいない」と。今回の問題で行政を批判しても意味がないと思う。根本的な問題は「親の面倒を見る意思のない」子供たちの増加である。生活文化の基礎中の基礎が崩壊しつつあることが一つの恐怖といえる。



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1、社説:高齢者施設火災―福祉行政と防災の貧しさ
                     2009年3月22日 朝日新聞
 亡くなったお年寄りたちは、さぞかし無念だったろう。
 群馬県渋川市の高齢者向け住宅「静養ホームたまゆら」で起きた火災は、10人の命を奪う惨事となった。
 建て増しを重ねたこの施設は、複雑なつくりになっていた。法令上の設置義務はないが、スプリンクラーや自動火災報知機もなかった。出火当時、施設にいた職員は1人だけだった。これでは、体の不自由なお年寄り全員を避難させるのは難しかったろう。
 悲劇で浮き彫りになったのは、いくつもの不備がからんだ施設のありようである。経営者には命を預かっている自覚が十分あったのか。警察や消防には、火災の原因となぜ被害が拡大したかを徹底的に究明してもらいたい。
 今回の火災でさらに驚くのは、入居していたうち15人が東京都墨田区から生活保護を受給していたことだ。
 東京など都市部では低所得者向けの高齢者施設は空きがない。そのお年寄りの受け皿に、こうした地方の施設が使われてきたのが実情のようだ。
 しかもこの施設を運営するNPO法人は、群馬県に有料老人ホームとしての届けを出していなかった。それでは行政の目もなかなか届かない。施設の関係者はこんな事情を明かす。「届けると設備基準などを満たすための投資が必要で、利用料に跳ね返る」
 墨田区は結果的に無届けの施設を、お年寄りに紹介していたことになる。
 しかし区ばかりを責めるわけにはいかない。施設が地元から遠く離れていては、お年寄りに好ましくないとわかっていても、身近に受け入れ先がなければ仕方ないだろう。無届けであれ、こうした施設がなかったら、行き場のないお年寄りは救えない。
 「無届けの施設を廃止しろ」と言うだけでは問題は解決しない。
 同じような無届けの老人施設は全国で350を超すという。政府や自治体はまず、こうした施設の運営や設備、介護、防火の体制を緊急に点検する必要がある。
 1人で動けない人がいる施設であれば、たとえ今の法律で義務づけられていなくても、スプリンクラーや火災報知機の設置を検討すべきだ。
 費用負担を施設側だけに求めていては設置は進むまい。行政がもっと必要な助成をしてはどうか。国や地方の財政事情は厳しいが、ことは人の命にかかわる。
 施設の数を増やす手だても、もちろん考える必要がある。優先順位は高いはずだ。
 介護の必要な単身のお年寄りはこれから増える一方だ。今こそ高齢者向け施設のあり方を社会全体で見直し、体制を整えなくてはいけない。
 急速な高齢社会の安心と安全を確保する覚悟が求められている。

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2、老人施設火災 背景にある高齢者施策の貧困
                      2009年3月22日  読売新聞
 超高齢社会の行く末を案じさせるような、痛ましい出来事だ。
 群馬県渋川市の高齢者向け施設「静養ホームたまゆら」の火事で、10人の入居者が亡くなった。
 なぜ、このような惨事が起こったのだろうか。
 要因は大きく二つある。第一には施設の運営者の問題だ。
 「静養ホーム」といっても、法令にある呼称ではない。有料老人ホームかどうかをあいまいにしたまま、県への届け出をしなかったため、群馬県は実態をつかんでいなかった。
 防火設備や職員の配置など、高齢者を受け入れる施設として十分な態勢だったとは思えない。増築を重ねた建物は複雑で、認知症や寝たきりの人もいる入居者が、深夜の火事で避難しきれなかったのは当然だ。
 無届け老人ホームは、厚生労働省の調査で、全国に400近くある。把握できていないものも相当あるだろう。
 老人福祉法は罰則付きで届け出義務を定めているのに、徹底されていない。厚労省と自治体は厳しく臨んで、無届け施設をなくし、指導を行き届かせることが肝要である。
 問題のある施設でも必要とされる現状が、第二の要因だ。
 「たまゆら」の入居者の多くは現在も東京都墨田区の“区民”として生活保護を受けている単身高齢者だった。「たまゆら」の経営者が働きかけて、区役所がこうした高齢者の入居を斡旋(あっせん)した。
 東京では地価が高いことなどから、介護施設が極めて不足している。生活保護の高齢者が、病気などで一人暮らしが難しくなった場合、生活保護費の範囲で入居できる施設は少ない。
 墨田区に限らず、都内の自治体は、他県に受け入れ施設があれば助かる。地方の施設側も、入居費は生活保護費から確実に支払われるのでビジネスになる。
 その結果、多くの高齢者が行政の目が届かない状況に置かれる。墨田区は施設の実態を知っていたのだろうか。群馬県も入居者が県民なら、もっと早く関心を持ったのではないか。
 高齢化は今後、地方よりも東京など大都市で急激に進行する。こうした状況をこれ以上、放置するわけにはいかない。
 行政の責任をはっきりさせ、連携を整えるべきだろう。介護施設の拡充・整備とともに、高齢者に対する生活保護の仕組みも、見直しが必要である。
(2009年3月22日01時24分 読売新聞)

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3、社説:群馬施設火災 お年寄りの安全対策再考を
                    毎日新聞 2009年3月21日 
 またしても痛ましい火災となった。群馬県渋川市の「静養ホームたまゆら」で起きた火事で、現場から遺体で見つかった7人の入所者は逃げ遅れて炎に包まれたものとみられている。
 総務省消防庁などによると、介護施設などの出火率は一般住宅などと比べて決して高くないというが、体が不自由なお年寄りが入所する施設でいったん火事に見舞われると被害が大きくなりがちだ。今回も、3年前に長崎県大村市のグループホームで7人が死亡した火災と並ぶ犠牲者が出た。
 警察、消防は出火原因の究明はもちろん避難誘導や防火施設面、管理面などでミスや問題がなかったか、徹底的に調べて今後の教訓にしなければならない。
 一般論で言えば、夜間の当直や介護スタッフを増強したり、スプリンクラーを各室に設置するなど法定基準を上回る対策を講じれば、安全性が高まることは言うまでもない。
 だが、コストや要員確保などには限界があり、万全を期すのは至難の業だ。大村市のグループホームの火災のように、オール電化にして火気をなくしていたのに、たばこの火の不始末から出火したとみられるケースもある。
 各施設が対策をできる限り強化するのは当然だが、不十分さを認識した上での現実的な取り組みも求められる。いざという場合に応援が得られるように、日ごろから近隣住民や地元消防団と緊密に連絡をとり、円満で良好な関係を築いておくことなども重要だ。施設を開設する際には、資金的な制約はあるとしても、なるべく人里離れた場所を避けたいものでもある。入所者もまた、安全対策を常に心がけ、集団生活する以上は喫煙習慣を改めるといった覚悟も必要ではないか。
 全国の出火件数は減少しており、昨年も約5万2000件で、四半世紀前に比べ2、3割減ったが、火災による死者は逆に増加し、97年から11年連続で2000人を超えるなど高止まりの状態にある。昨年は微減して1967人になったものの、住宅火災による死者の6割以上を高齢者が占めており、高齢化に比例するように増加が続いている。とくに目立つのが、病気や体の不自由さから逃げ遅れるケースだ。
 同消防庁は出火にいち早く気づかせるため、消防法を改正して住宅用火災警報機の設置を11年6月までに全国で義務化させることにしたり、早期に設置するように呼びかけるなどの対策に努めているが、肝心なのは各自の心構えだ。万一に備えて家族や近隣住民と、火事を知らせる方法や避難経路を打ち合わせておくことも大切だ。
 耐火建築が普及し、裸火を使う機会も減ったのに、1日平均5・4人が火事で落命している現状を看過してはならない。身の回りの火の用心を徹底したい。
毎日新聞 2009年3月21日 東京朝刊

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4、社説2 「高齢者施設」火災悲劇の教訓(3/22)
                      2009年3月22日  日経
 群馬県渋川市で非営利組織(NPO)法人が運営する「高齢者施設」が火災に遭い、高齢者ら10人が死亡した。まことに痛ましい事故だ。

 この施設は高齢者施設と称しているが、介護保険法に基づく施設ではなく、介護サービスを提供するのに必要な届けを県当局に出していなかった。また入居者にからだの不自由な人がいるにもかかわらず、スプリンクラーがないなど安全面にも問題があった可能性が大きい。

 無届け施設の実態をつかむのは困難を伴うが、各地方自治体は同種の施設の調査を急ぎ、問題点を把握すれば早急に改善を求めるべきだ。

 火災は大都市圏の高齢化事情について構造問題もあぶり出した。この施設には東京・墨田区役所の紹介で生活保護の受給者15人の区民が入居していた。区は各人の生活保護費を施設の運営者に渡し、そこから利用料を引いた額が入居者に渡っていたという。区民の住み家について、こんなやり繰りをしなければならない背景には首都圏の高齢者住宅や施設の大幅な不足がある。

 6年後の2015年には団塊世代のすべてが前期高齢者になり、認知症の高齢者は今の150万人強から250万人に急増するとみられる。また独り暮らしの高齢者は570万世帯と、全高齢者世帯の3分の1を占めるようになる見通しだ。

 特に高齢化が加速するのは首都圏だ。15年までに高齢化率がどれだけ上昇するかの推計を県別にみると上から埼玉、千葉、神奈川の順となっている。夫に先立たれ十分な年金をもらえない独居女性や認知症を患っている人も念頭に、住まいの確保に取り組むのが優先課題になる。

 その際はできるだけ自宅で暮らせるように配慮するのが基本だ。公営住宅や旧公団住宅をバリアフリー化したり、介護者がいるケア付き住宅に改装したりするのを急ぐべきだ。経済対策を兼ねて国の財政支援があってもよい。市区町村の主導で日常の面倒をみたり安否確認したりするボランティアも育ててほしい。

 高地価のせいで老人保健施設など介護保険が適用される施設も足りない。安全基準を満たし高質のサービスを提供する民間の有料老人ホームの建設に税制支援するのも一案だ。

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5、老人施設で焼死 受け皿の貧しさが招いた
                    2009年3月22日  新潟日報
 群馬県渋川市の高齢者向け住宅「静養ホームたまゆら」で火災が発生し、入居者十人の命が奪われた。
 入居者の多くは東京都墨田区などから移った生活保護受給者だった。
 犠牲者は体が不自由なため、自力では逃げられなかった可能性が高い。痛ましいと言うほかない。
 出火元は焼け方が激しい別館とみられる。防火体制や避難誘導など、安全管理面で問題はなかったか。
 県警は運営者のNPO法人から事情聴取を始めた。出火原因を特定するのはもちろん、惨事の背景を丁寧に調べてほしい。
 老人を入居させて食事などを出す施設は、老人福祉法で有料老人ホームとして都道府県に届け出なければならない。だがこの施設は届け出をしておらず、県が調査に乗り出す矢先だった。
 有料老人ホームとなると基準を満たすためのコストが掛かり、行政からも監督される。それを嫌って無届けにしておく施設も少なくない。
 県は二年ほど前から「たまゆら」が無届けとの情報をつかんでいた。もっと早く調査していればこんなに多く犠牲を出さずに済んだのではないか。
 なぜ東京のお年寄りが地方の無届け施設に入居していたのか。背景には、東京などで高齢者向け介護施設の絶対数が不足している現実がある。
 だが政府は介護費用を抑えるため、「施設から在宅へ」という方針を取っている。中でも地価の高い東京では新施設の建設は進まないのが実情だ。
 行き場がない低所得者の受け皿の一つとなっているのが、「たまゆら」のような地方の施設である。施設側には、生活保護費から確実に利用料を差し引けるというメリットがある。
 墨田区は「たまゆら」の売り込みに応じ、区内の生活保護受給者を紹介していた。今回の惨事は介護行政のひずみを浮き彫りにしたといえよう。
 四月には改正消防法施行令によって福祉施設の防火体制が強化される。二〇〇六年に長崎県のグループホーム火災で死傷者が出た件を受けたものだけに、今回の惨事には残念さが募る。
 四月からは自動火災報知設備やスプリンクラーの設置義務が強化される。だが「たまゆら」のような規模では、スプリンクラーの設置は今後も対象外となる。「たまゆら」は小規模な建物を分散させる形になっていた。
 高齢者の避難は時間がかかる。小規模施設へのスプリンクラー設置をもっときめ細かく進められないか。
 無届けの施設の実態を把握し、行政の目が行き届くようにすべきなのは言うまでもない。施設の在り方そのものを問い直すことも重要だ。ひずみを放置したままでは問題は解決しない。

[新潟日報3月22日(日)]

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石田ふたみ