『日々の映像』

2009年03月13日(金)  金賢姫元工作員(47)と耕一郎さん(32)の面談


1、社説:拉致と爆破テロ―北朝鮮の非道を思い知る
                   2009年3月12日 朝日
2、社説:金元死刑囚面会 「拉致」解明への一歩にしたい
                   毎日新聞 2009年3月12日
3、社説:日米韓軸に北朝鮮包囲網を(3/12)
                   2009年3月12日 日経

 金賢姫元工作員(47)と田口八重子さんの長男、耕一郎さん(32)の面談をテレビで見て社説をくまなく読んだ。5年以上前は北朝鮮を批判する記述を多く書いたが、今日は社説に印象深い文を少々引用するに留めたい。

1、息をのむ思いの対面だったに違いない。それは涙で始まった。
 「抱いてもいいですか」。金賢姫元工作員(47)は日本語でそう話しかけ、田口八重子さんの長男、耕一郎さん(32)を抱き寄せた。金元工作員は30年近く前、拉致被害者の田口さんから北朝鮮で日本語と日本の習慣を教えられた。拉致された時、1歳だった耕一郎さんに母の記憶はない。(朝日)

2、金元工作員本人も、悲劇に巻き込まれたひとりでもある。恵まれた家庭の出身だが、学生時代に工作員にさせられた。事件で死刑が確定後、特赦を受けて韓国内にひっそりと暮らす。両親と妹弟の消息は分からない。拉致も爆破テロも、朝鮮半島の南北分断と、激しい対立のなかで起きた。北朝鮮という特異な独裁国家が手を染めた、犯罪のむごさを思う。

3、田口さんが耕一郎さんら2人の子を残して姿を消したのは1978年6月のことだ。その3年後から、田口さんは北朝鮮の平壌近郊の招待所で金元死刑囚と1年8カ月にわたって一緒に生活したことが金元死刑囚の証言でわかっている。金元死刑囚に日本語教育をするためだった。(毎日)

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1、社説:拉致と爆破テロ―北朝鮮の非道を思い知る
                   2009年3月12日 朝日
 息をのむ思いの対面だったに違いない。それは涙で始まった。
 「抱いてもいいですか」。金賢姫元工作員(47)は日本語でそう話しかけ、田口八重子さんの長男、耕一郎さん(32)を抱き寄せた。
 金元工作員は30年近く前、拉致被害者の田口さんから北朝鮮で日本語と日本の習慣を教えられた。
 拉致された時、1歳だった耕一郎さんに母の記憶はない。面談で驚くような新事実はなかったかもしれない。ただ、見知らぬ母親像のすき間をいくらかでも埋めることはできたろう。
 会えてよかった。これからも折に触れ、こういう機会があってほしい。
 この面談を見て、幾つもの悲劇が重なった歴史を改めて思い起こす。
 金元工作員は「田口さんは生きている。希望を持って」と励ましたが、自ら犯行に加わった87年の大韓航空機爆破事件の後は、韓国で暮らしている。田口さんがその後どうなったのか、事情は知らないに違いない。
 日本政府は17人の拉致被害を認定している。日本に戻れた5人のほかの被害者について、今回、新たな消息はつかめなかったと見られる。
 飛行中に爆破され、ビルマ沖に消えた大韓機には115人が乗っていた。その犠牲者の家族と金元工作員との本格的な面談はいまだできず、家族らの思いは満たされぬままだ。
 そして金元工作員本人も、悲劇に巻き込まれたひとりでもある。恵まれた家庭の出身だが、学生時代に工作員にさせられた。事件で死刑が確定後、特赦を受けて韓国内にひっそりと暮らす。両親と妹弟の消息は分からない。
 拉致も爆破テロも、朝鮮半島の南北分断と、激しい対立のなかで起きた。北朝鮮という特異な独裁国家が手を染めた、犯罪のむごさを思う。
 北朝鮮に融和姿勢をとった韓国の前政権のころは、金元工作員の存在を目立たせたくなかったのだろう、今度のような面談はできなかった。それが実現したのは、今の李明博政権が北朝鮮政策を見直したためだ。
 韓国も多くの拉致被害者を抱える。これを機に拉致問題の解決に向けて、日韓の連携をさらに探りたい。
 「北朝鮮のプライドを守ってやりながら、心を動かせる方法を考える必要があるのではないか」。金元工作員は面談後の会見でそう語った。
 北朝鮮は核放棄の交渉を空転させ、今は人工衛星の打ち上げと言ってミサイル開発を強行しようとしている。
 過去のおぞましい犯罪や現在の行動を許すわけにはいかない。ただ、圧力一辺倒で打開できないこともまた現実である。変わらぬ怒りと悲しみを抱きつつ、対話と圧力を組み合わせて北朝鮮を動かす環境をつくっていく。それしか道はないのではないか。
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2、社説:金元死刑囚面会 「拉致」解明への一歩にしたい
毎日新聞 2009年3月12日 
 北朝鮮の工作員だった金賢姫(キムヒョンヒ)元死刑囚と拉致被害者の田口八重子さんの家族の面会が韓国・釜山で実現した。拉致事件究明にただちにつながる新情報はもたらされなかったようだが、今後の日韓連携の弾みになることを期待したい。
 田口さんの長男、飯塚耕一郎さんが母親と引き離されたのは1歳の時だ。母と話したことも、見たことも、触ったこともない。しぐさや癖などを聞いて、母親像をつかみたい−−。耕一郎さんは面会を前にこう語っていた。
 面会の冒頭、金元死刑囚に「お母さんはきっと生きている。抱いてもいいですか」と日本語で語りかけられ、しっかりと抱き合った。北朝鮮での母親の生活ぶりを直接知っている金元死刑囚に会いたいという5年間の悲願がかない感無量だったろう。
 田口さんが耕一郎さんら2人の子を残して姿を消したのは1978年6月のことだ。その3年後から、田口さんは北朝鮮の平壌近郊の招待所で金元死刑囚と1年8カ月にわたって一緒に生活したことが金元死刑囚の証言でわかっている。金元死刑囚に日本語教育をするためだった。
 大韓航空機がミャンマー上空で爆発し115人が死亡したのはその4年後の87年11月だ。爆破事件の実行犯として拘束された金元死刑囚は「北朝鮮で李恩恵(リウネ)という日本人女性から日本語教育を受けた」と供述し、その後日本の警察当局は「李恩恵」が田口さんであると断定した。だが、北朝鮮は大韓航空機事件とのつながりを否定しているため「李恩恵」の存在を認められないのだ。
 しかし、田口さんの兄で拉致被害者家族会代表の飯塚繁雄さんは面会後の記者会見で「妹の存在を証言してくれて感謝している」と語り、金元死刑囚も大韓航空機事件は北朝鮮のテロであると明言した。北朝鮮の説明の矛盾が浮き彫りにされた格好だ。
 北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記は02年9月の日朝首脳会談で日本人拉致を認めて謝罪した。だが、その後も北朝鮮の説明には不自然な点が多いままだ。
 田口さんについては「84年10月に拉致被害者の原敕晁(ただあき)さんと結婚し、その後原さんは病死し、田口さんは交通事故死した」としている。しかし、金元死刑囚は会見で「86年ごろに結婚させるという話があったようだ。ただ、結婚について聞いたことがない」と北朝鮮側の説明と異なることを述べた。
 北朝鮮はこうした不自然な点について再調査し、日本側が納得できる結果を示さなければならない。
 今回、面会が実現したのは北朝鮮に対する融和政策をとってきた韓国の過去2代の政権と一線を画す李明博(イミョンバク)政権が誕生したのが大きい。これを機に、拉致解明へ日韓協力をさらに進めてもらいたい。
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毎日新聞 2009年3月12日 0時08分
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3、社説:日米韓軸に北朝鮮包囲網を(3/12)
                      2009年3月12日 日経

北朝鮮の元工作員で1987年の大韓航空機爆破事件の実行犯である金賢姫元死刑囚と、拉致被害者の田口八重子さんの家族が韓国の釜山で初めて面会した。

 田口さんは78年ごろに北朝鮮に拉致された。金元死刑囚は北朝鮮で約2年間、李恩恵と名乗る日本人から日本語教育を受けたと供述しており、警察庁は李恩恵が田口さんだと断定している。

 金元死刑囚は面談で「希望をもって」と田口さんの家族を励ました。新事実は乏しかったようだが、田口さんの北朝鮮での生活状況を知る貴重な面談となったはずだ。

 面談は双方の当事者が希望し、これを後押しする日韓両政府の調整で実現した。韓国で保守系の李明博政権が誕生したことが大きく、北朝鮮との融和路線を重視した盧武鉉前政権下では難しかっただろう。

 北朝鮮は昨年8月の日朝協議で日本人拉致被害者の再調査を約束したが、現実には全く進んでいない。日本と同様、韓国でも北朝鮮に拉致された被害者が数多くいる。今回の面談実現をきっかけに、拉致問題の早期解決に向けた日韓連携をさらに強めていってもらいたい。

 拉致問題だけではない。北朝鮮の「核」「ミサイル」への共同対処も重要である。北朝鮮の核問題を話し合う6カ国協議は、核施設の検証体制を巡る対立が続いたままだ。

 緊急なのはミサイル発射への対応だ。北朝鮮では今年1月末ごろから日本海側の舞水端里にあるミサイル発射場で、長距離弾道ミサイル「テポドン2号」の発射準備とみられる兆候が観測されている。

 北朝鮮は「実験通信衛星」の発射を示唆し、宇宙の平和利用のための人工衛星打ち上げを主張するが、言い訳にすぎない。米本土に到達可能なミサイル発射で緊張をあおり、米オバマ新政権との交渉を有利に進めようという意図は明白である。

 日米韓は連携して北朝鮮包囲網を強め、ミサイル発射を阻止する必要がある。すでに国連安全保障理事会を通じた制裁強化案やミサイルへの迎撃論も浮上している。日米韓を軸に関係国が足並みをそろえ、様々な外交努力や警告を通じて、北朝鮮の自制を促していくべきだ。








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石田ふたみ