『日々の映像』

2008年10月01日(水)  麻生演説 民主への挑戦状

 麻生首相の演説は小沢民主党代表への総選挙“挑戦状”自らの政策の説明を欠いた可笑しな内容であると思う。麻生首相の演説の中には「国民」への視線は全くない印象を受けた。

 「私は決して逃げません」「私が決断します」−。前政権の負の遺産を振り払おうと、自身のリーダーシップで難局にあたる決意を表明した。ことさら「私」に力点を置いたのは、小沢一郎民主党代表より世論の支持が高いのも念頭に「党首対決」を意図していることは明らかだ。「明るく強い国」を示したが具体像は何もなかった。

社説 麻生演説―選挙モード全開ですが
                      2008年9月30日(火)朝日新聞
社説 所信表明演説 小沢民主党代表はどう応じる
                       2008年9月30日付・読売社説
社説:所信表明演説 野党の代表質問のようだった
                       毎日新聞 2008年9月30日 
【主張】所信表明演説 国の在り方で論戦深めよ
                       2008.9.30 03:45  産経新聞

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社説 麻生演説―選挙モード全開ですが
2008年9月30日(火)朝日新聞

 麻生新首相の所信表明演説は、異例ずくめだった。なにしろ民主党への質問を五つも並べ立て、あすからの代表質問の場で答えよ、というのだ。
 いつもなら、新しい首相は政治理念を語り、新政権で目指す政策の青写真にもっと力を込めるところだ。だが、衆院の解散・総選挙が目の前に迫る。崖(がけ)っぷちに立つ自民党政権のトップとして、とても大仰な所信を語っている余裕はないということか。
 首相は演説で「あえて喫緊の課題についてのみ主張を述べる。その上で民主党との議論に臨む」と語った。総選挙を念頭に、ひたすら民主党と対決していく姿勢を明確にしたわけだ。
 国会で合意形成のためのルールをつくる用意があるか。補正予算案や消費者庁創設への賛否は。日米同盟と国連とどちらを優先するのか。インド洋での給油支援から手を引いていいのか。
 首相が挙げた質問は、こんな内容だ。補正予算案で対案を示すつもりならば「財源を明示していただく」とたたみかけた。
 民主党の応答の仕方によっては、それを衆院解散の口実にしようという構えもうかがえる。これらが、麻生氏が考える選挙戦の争点ということでもあるようだ。
 だが、いくら有権者の審判を目前に控えた「仮免許」の首相であっても、新政権が目指すビジョンをもっとていねいに語ってほしかった。これでは、はなから選挙管理内閣を自認するようなものではないのか。国民は肩すかしである。
 首相は日本経済について「全治3年」と繰り返す。ではその間、どこまで財政出動の蛇口を緩めるのか。4年目からはどうなるのか。夢物語に終わらないか。希望どころか不安が募る。
 社会保障について、安定財源の「検討を急ぐ」という。このあいまいさにはあぜんとする。基礎年金の国庫負担割合を来年4月から引き上げるための財源手当てにも触れずじまいだ。
 年度内に定額減税を実施するという。その財源への言及はない。民主党には財源を示せと要求しておきながら、これはない。
 福田前首相が約束した道路特定財源の全額一般財源化は実行するのか。道路整備にはどのくらいの予算を振り向けるのか。ここもはっきりしない。
 「強く」「明るく」「よく笑い、微(ほほ)笑(え)む国民」といった政権のキャッチフレーズはちりばめられていたが、結局は決意表明の域を出なかった。
 本会議での一方通行のやりとりではもどかしい。首相が本気で民主党と論戦をしたいなら、予算委員会の審議や党首討論でやればいい。
 こうした首相の挑発に対して、民主党の小沢代表がどう応じるか。面白くなった。
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社説 所信表明演説 小沢民主党代表はどう応じる
2008年9月30日付・読売社説
 
参院第1党の民主党に質問したり要請したり、挑戦的で、異色の所信表明演説である。
 麻生首相は、就任後初の演説で、民主党に対し、自分の「質問」への「答え」を用意して代表質問するよう求めた。衆院解散・総選挙をにらみ、予想される争点について、布石を打つ狙いがあるのだろう。
 まるで、「果たし状」のようだが、小沢代表も、申し入れを全く無視するわけにはいくまい。代表質問で、これにどう応じるのかを注目したい。
 首相がまず、ただしたのは、衆参ねじれ状況下の国会で、民主党に合意形成のルールを打ち立てる「用意はあるのか」だった。
 福田前首相は、通常国会で、野党との協調姿勢を前面に出しながら、民主党に翻弄(ほんろう)され続けた。
 麻生首相は、前政権の二の舞いは御免、ということだろう。
 「成立は焦眉(しょうび)の急」として、補正予算案とその関連法案に対する賛否や、消費者庁創設への対応を明確化するよう求めた。同時に、与野党協議も呼びかけた。
 外交・安全保障分野でも、次の2点を質問した。
 一つは、民主党は日米同盟と国連のどちらを「優先劣後」させようとしているのか、である。
 小沢代表は、かねて「国連中心主義」の考え方に立っている。首相は、日本外交が最重視すべきは「日米同盟の強化」であり、「国運をそのまま委ねられない」のが国連の現実だ、と指摘した。
 その二は、海上自衛隊によるインド洋での給油活動を継続する新テロ対策特別措置法改正案の扱いだ。国際社会で果たすべき活動から逃れて「民主党はそれでもいいと考えているのか」と迫った。
 いずれも、仮に民主党が政権を取った場合、懸念されている問題だ。小沢代表は、これを払拭(ふっしょく)する必要があろう。
 演説で首相は、緊急課題として「日本経済の立て直し」を挙げ、当面は、景気対策に最優先で取り組む考えを表明した。衆院選を強く意識したものだ。
 だが、選挙対策との指摘もある後期高齢者医療制度の見直しについては、「1年をめどに必要な見直しを検討する」と述べただけで終わった。これでは、何をどう見直していくのか、全く不明のままではないか。
 首相は、野党の見解をただすという異例の演説をした以上、代表質問に対しては、野党の追及をかわすことなく、誠実に答弁しなければならない。
(2008年9月30日02時18分 読売新聞)
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社説:所信表明演説 野党の代表質問のようだった
毎日新聞 2008年9月30日 東京朝刊
 まるで野党の代表質問のようだった。29日の麻生太郎首相の所信表明演説は民主党への批判や質問に重きが置かれたものだった。
 近づく総選挙。首相の危機感の表れではあろう。だが、本来、所信表明演説は自分の政権が何をしたいのか、広く国民に明らかにするためのものだ。いくら選挙管理内閣であるとはいえ、野党批判の前にきちんと語るべきことがあったはずだ。政権党としてのプライドも捨ててしまったのかと疑うほどだ。
 首相は法案審議が進まないのは民主党が政局優先の姿勢だからだと非難した。その一面があるのは否定しない。しかし、今の衆参のねじれは年金問題などにより、自民・公明政権が国民の信頼を失い、昨夏の参院選で自民党が惨敗したことに起因する。それを忘れてもらっては困る。
 首相はまた、補正予算案の成立が「焦眉(しょうび)の急」だと力説し、民主党が対案を出すのも結構だとしたうえで、「ただし、財源を明示していただきます」と皮肉っぽく演説した。
 民主党の政策に財源の裏付けが乏しいのは確かだ。だが、例えば首相は今年度内に定額減税を実施すると約束したが、その規模や財源は今も定かでない。
 突如言い出した後期高齢者医療制度の見直しに関しても、説明不足から「国民をいたずらに混乱させた」と反省の意向を示すと同時に「制度をなくせば解決するものでもない」とも説明。何を見直すのかは方向性さえ明らかにしなかった。これでは「自・公も民主もどっちもどっちだ」と言われても仕方あるまい。
 ひたすら民主党に審議を呼びかけた首相だが、与党内では10月3日に代表質問が終了した後、いきなり衆院を解散する案が取りざたされている。既に野党は衆参予算委員会を各2日開くよう提案している。補正予算案の審議もせず解散するのは「委員会を開けばもっとボロが出る」という情けないばかりの与党事情によるものだ。姑息(こそく)な手段はかえって有権者の信頼を失うだろう。
 演説に先立ち、首相は福田康夫前首相の政権投げ出しで生まれた政治空白や中山成彬前国土交通相の辞任について陳謝した。おわびするなら、なぜ、閣議決定する演説の本文に盛り込まなかったのか。これも中途半端な印象が残った。
 一方、演説冒頭で首相は「かしこくも、御名御璽(ぎょめいぎょじ)をいただき」と異例の表現をし、日本は明治以降、戦前戦後通じて「新総理の任命を、憲法上の手続きにのっとって続けてきた、統治の伝統」があると語った。
 現憲法では天皇は国会の指名に基づき、首相を任命する。首相の立場は戦前の明治憲法下とは明らかに違う。これについてどう考えているのか。もっと詳しく歴史的な認識を聞きたいところだ。
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【主張】所信表明演説 国の在り方で論戦深めよ
2008.9.30 03:45  産経新聞
 麻生太郎首相は初の所信表明演説で、内政・外交の論点を民主党に提示して回答を求めるスタイルをとった。民主党との違いを明確にし、政策課題の争点を浮き彫りにするねらいがある。
 国政の停滞を打開しようという意欲の表れであり、首相の新たな試みを評価したい。
 実りある論争につなげるには、民主党の小沢一郎代表に答えを示してもらう必要がある。一方で首相自身の演説にも欠落している部分があり、年金など社会保障財源を鮮明にすべきだ。
 論戦時間が足りないなら、代表質問に加え予算委員会や党首討論も行えばよい。衆院選前に、重要政策の基本的な考え方、この国をどうするかを国民の前で語ることは、両党首の責務である。
 首相は民主党が道路特定財源問題にからみ歳入関連法案をたなざらしにし、参院で採決引き延ばしをしたことを挙げて、「合意の形成をあらかじめ拒む議会はその名に値しない」と指摘した。
 野党が参院の多数を制して与野党対決が激化したことが、国政の停滞や混乱を招く契機となったのは、その通りである。
 外交問題では、インド洋での補給支援継続に関する民主党の対応を問い、加えて民主党が日米同盟と国連のどちらを優先させるのかを尋ねた。
 新テロ対策特措法に反対した小沢代表は、自衛隊の海外派遣の基準を、国連決議や安保理決議に置くよう主張した。国連の決定が日米同盟基軸の日本外交や国益と矛盾する可能性がある以上、首相の問題提起は当然である。
 自由と民主主義が「若い民主主義諸国に根づいていくよう助力を惜しまない」と、持論である価値観外交を盛り込んだ点にも「麻生カラー」がうかがえた。
 問題は、首相が消費税を含む税体系の抜本的税制改革にひと言も触れていないことだ。社会保障の安定的財源についても「その道筋を明確化すべく、検討を急ぐ」と述べるにとどめた。
 日本経済の立て直しを「緊急な上にも緊急の課題」と位置付ければ、財政再建の優先度は下がり、財政規律は緩んでいく。選挙向けのばらまき競争の論戦がスタートするのでは困る。
 必要な論点をすべてテーブルに乗せたうえで、自民、民主両党が政権を競い合う。かみ合った論戦が聞きたい。

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石田ふたみ