『日々の映像』

2008年05月27日(火)  社説のパターン

日本の新聞の社説・主張に物足りなさを感じている人は多いと思う。パターンがほとんど決まっているのである。大まかに分けると次の通りだ。
読売・産経新聞・・・・自民党政治の(体制側)の擁護論が中心。野党に批判的。
毎日新聞・・・・・・・・・どちらかといえば中立・中道論
朝日新聞・・・・・・・・・自民党政治を右とするのであれば左側の論調
 
 今回の後期高齢者医療問題も上記の傾向は同じであった。ウオッチング:後期高齢者医療制度から引用すると次の通りだ。
 ◇「野党は無責任」・・・・読売、産経
 ◇ 失政認め再議論を・・・毎日
 ◇「財源問題逃げるな」・・・朝日
 私はここ10年来毎日新聞のウエートを置いて読むようにしている。社説の中では毎日が一番納得できる内容が多いと思っている。読売、産経は時によって自民政治の擁護論者の印象を与えること多いと思う。

社説・後期高齢者医療 混乱を増すだけの廃止法案
2008年5月24日 読売新聞
【主張】高齢医療廃止法案 旧制度に戻すのは無責任
2008.5.24 03:02産経新聞
ウオッチング:後期高齢者医療制度 失政認め再議論を
                    2008年5月26日 毎日新聞
社説・高齢者医療―「廃止」の怒りも分かるが
                 2008年5月24日 朝日新聞

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社説・後期高齢者医療 混乱を増すだけの廃止法案
2008年5月24日 読売新聞
 後期高齢者医療制度はその呼称を含め、配慮を欠く面が目立つ。不備や欠陥など問題点が多いことも確かだ。
 しかし、新制度のすべてを否定して白紙に戻すというのは、混乱をさらに広げ、長引かせるだけだろう。
 野党4党が後期高齢者医療制度の廃止法案を参院に提出した。ところが、新制度を撤廃した後にどうするのか、対案がない。とりあえず、従来の老人保健制度を復活させるという。これでは、あまりにも無責任ではないか。
 生じている混乱の原因は、厚生労働省や自治体の対応のまずさにある。主に75歳以上が対象の大きな制度変更なのに、高齢者に配慮した説明や準備を怠ってきた。
 そのため、感情的な反発が先行している。まずは冷静に、制度の長所と短所を検討の俎上(そじょう)に載せるべきだろう。ともかく廃止せよ、議論はそれからだ、という野党の姿勢は、拙劣の上に拙劣を重ねるようなものだ。
 新制度が周知されていないのと同様、従来の老人保健制度に大きな問題があったこともまた、十分に知られていない。政府・与党はそこから説明が不足している。
 これまでも75歳以上の人は、主に市町村の国民健康保険に加入しながら、老人保健制度の枠組みに入っていた。その医療費が膨らんだ分は、企業の健保組合などが拠出金で支援していた。
 ただし、現役世代がどこまで支援するかが明確ではなかった。後期高齢者の医療費が必要以上に膨らまぬよう、誰が責任を持って取り組むかも判然としなかった。保険料も、市町村の財政事情によって大きな格差が生じていた。
 老人保健制度の歪(ゆが)みが限界にあるのは与野党の共通認識だったはずだ。2000年の医療制度改革で参院が関連法案を可決した際、共産党を除く各党で「早急に新たな高齢者医療制度を創設せよ」との付帯決議を採択している。
 新制度で老人保健制度の問題点は改善しており、再び後退するのは望ましくない。利点は適切に評価してさらに磨き、欠点を迅速に改めていくべきだろう。
 野党の攻勢に、政府・与党は大あわてで制度の見直し作業に入った。ところが、負担増になる高齢者の救済策として、バラマキのように幅広い減免措置を検討している。これもまた拙劣だ。
 政治が右往左往する間にも高齢化は進む。必要なのは建設的な議論であり、目先の人気取りで拙劣な対応を競うことではない。
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【主張】高齢医療廃止法案 旧制度に戻すのは無責任
2008.5.24 03:02産経新聞
 75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度(長寿医療制度)について、民主、共産、社民、国民新の野党4党が廃止法案を参院に提出した。
 新制度には、多くの高齢者が不満を持っており、いったん廃止して制度を作り直す以外に解決策はないというのが提出理由だ。
 ところが、法案には肝心の代替案が示されていない。来年度から旧制度の「老人保健制度」に戻すとしただけだ。そもそも、新制度が導入されたのは、旧制度への批判が強かったためだ。その旧制度に戻すというのでは、無責任と言わざるを得ない。
 老人保健制度の見直しは、平成12年の参院委員会で共産党を除く与野党が付帯決議で確認していることである。旧制度は医療費を支援する若年世代の負担額が分かりづらく、高齢者医療費の増大が続く中で「負担が青天井になる」との懸念が強かった。
 さらに高齢者の多い市町村では、国民健康保険(国保)が財政破綻(はたん)の危機にあった。保険料格差も、都道府県単位の新制度で2倍に縮まったが、国保は最大5倍あった。民主党は政権交代を目指す以上、旧制度の問題点について解決策を示す責務がある。
 保険料年金天引きを10月1日までに廃止するともしているが、廃止しても保険料負担がなくなるわけではない。窓口で支払う手間が省け、便利だと感じていた高齢者も多い。新制度で保険料が下がった人は、旧制度に戻れば元の高い額を支払うことにもなる。納得のいく説明が求められよう。
 民主党は、揮発油(ガソリン)税をめぐっても値下げを優先させ、歳入欠陥への対応策をきちんと示さなかった。新制度を廃止すれば、システム改修や保険証の交付し直しなど余計なコストがかさむことも認識すべきだ。
 民主党は福田康夫首相への問責決議案提出を視野に廃止法案を政権揺さぶりの材料にしようとしている。こうした政争重視の対応をいつまで続けるのか。
 医療保険の制度設計は一朝一夕にはいかない。代替案にしても国民的合意を得るには数年かかる。新制度はスタートしたばかりで、当面は問題点を改善すべきだ。
 政府も、法案審議を新制度の意義をしっかり説明する場にしなくてはならない。肝要なのは、よりよき制度作りに向けて党派の対立を超えた論議を行うことだ。
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ウオッチング:後期高齢者医療制度 失政認め再議論を
                    2008年5月26日 毎日新聞
 ◇ 失政認め再議論を−−毎日
 ◇「野党は無責任」−−読売、産経
 ◇「財源問題逃げるな」−−朝日
 75歳以上を対象にした後期高齢者医療制度がスタートして間もなく2カ月になろうとしているが、新制度に対する反発は高齢者を中心に収まる気配がない。
 年金からの保険料天引きに対する不満や混乱だけが原因ではない。なぜ74歳から1歳年を重ねただけで「後期高齢者」に仕分けされ、差別されなければならないのかという制度の根本にかかわる疑問や批判が背景にあるからだ。
 毎日新聞が今月初旬に実施した世論調査によれば、8割近い人が新制度を評価していない。自民党支持者でも6割超が「評価しない」と答え、公明党支持者ではさらに厳しい反応が示された。
 こうした世論を追い風に、民主党など野党4党は23日、後期高齢者医療制度は差別的だとして、同制度の廃止法案を参院に提出した。これに対し、与党は低所得層の負担軽減などの運用改善策を講じることで批判をかわそうとしている。
 ◇線引き評価分かれる
 新制度の骨格は維持すべきか、「75歳線引き」を含め制度そのものを白紙に戻すべきか。
 終盤国会の最大の焦点となるこの問題を、4紙が24日の社説で取り上げた。
 各紙とも、対案を示さずに「まず廃止ありき」の野党の姿勢を批判、疑問視する点では共通している。ただ、毎日が「75歳線引き」という制度の根幹の是非から論議をやり直すべきだと主張しているのに対し、読売、産経が野党の廃止法案への批判を前面に出し、朝日が財源問題から逃げるなと強調している点にそれぞれの特色があらわれている。
 各紙の相違は、75歳以上を独立させた新しい医療制度をどう見るかという認識の違いからくるものだ。
 毎日は「そもそも病気になるリスクの高い高齢者だけを対象にした制度は保険原理にはなじまない。多くの元気で健康な人が病気の人たちを支えるというのが保険制度だが、後期高齢者医療制度はそうはなっていない」と指摘する。
 そもそも政府が75歳以上を従来の医療保険から切り離す新制度をスタートさせざるをえなくなった背景には、国家財政が苦しくなる中での国民医療費の大幅な増加がある。
 高齢者1人当たりの医療費は現役世代の5倍かかり、年間30兆円を超す医療費の3割以上は老人医療費が占める。少子化によって現役世代の人口が減れば世代間の仕送り方式で運営される社会保障制度の基盤が早晩崩れるのは目に見えている。
 こうした財政事情を踏まえ、新制度では給付財源について、窓口負担分を除き後期高齢者の保険料1割、国と地方の公費5割、現役世代からの支援金4割という配分にした。政府は、これによって現役世代と後期高齢者の負担関係が旧制度よりわかりやすくなるうえ、都市と地方の保険料格差の是正にもつながる、と利点を強調している。
 この点について朝日は、旧制度に戻れば「今後、お年寄りが増えた時に、いまでも厳しい国保の財政が維持できるとは思えない」「あいまいな点をはっきりさせておこうというのが新制度だ」と一定の理解を示す。読売は「新制度で老人保健制度の問題点は改善しており、再び後退するのは望ましくない」、産経は「新制度はスタートしたばかりで、当面は問題点を改善すべきだ」と、新制度の骨格は維持すべきだとの主張を展開している。
 ◇野党には厳しい論調
 一方、野党に対しては各紙とも厳しい。毎日は「元の制度に戻すという案では国民は納得しない。野党の医療改革への熱意が感じられない」、読売は「とりあえず、従来の老人保健制度を復活させるという。これでは、あまりにも無責任ではないか」、産経は「そもそも、新制度が導入されたのは、旧制度への批判が強かったためだ。その旧制度に戻すというのでは、無責任と言わざるを得ない」と批判。朝日も「制度を『元に戻せ』と言うだけでは、問題は解決しない」と指摘している。
 日経、東京もこれまでの社説でそれぞれの主張を展開している。日経は「高齢者医療は運営を早急に立て直せ」(4月29日)、東京は「低所得層ほど不利な構造の是正を急ぎたい」(5月2日)としている。
 ◇「反乱」と認識すべきだ
 廃止法案は参院で可決されても、与党が圧倒的多数の衆院を考えれば日の目を見ることはないだろう。制度をどうするかは最終的には有権者の判断を仰ぐべき重要問題だが、その前に与野党がやらなければならないことは明白だ。
 単なる財政のつじつま合わせでなく、財源問題も含め医療制度のあるべき姿について真剣な議論をこの国会で深めることだ。それを抜きに政局がらみの思惑を優先させ不毛な対立を続けるようでは政治不信を高めるだけだ。新制度への反発は、政治に対する高齢者の「反乱」であると認識すべきだろう。【論説委員・森嶋幹夫】
毎日新聞 2008年5月25日 東京朝刊
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高齢者医療―「廃止」の怒りも分かるが
                 2008年5月24日 朝日新聞
 4月に始まったばかりの後期高齢者医療制度の廃止法案が、民主、共産、社民、国民新党の野党4党から参院に提出された。
 来年4月から以前の老人保健制度に戻す。それに先立ち、保険料の天引きをやめ、会社員の扶養家族からは保険料を取らない。これが柱だ。
 廃止法案は、野党が多数を占める参院で可決されても、与党が多数の衆院では通る見込みがない。それでもあえて出したのは、この制度への不信や憤りを追い風に、福田政権を揺さぶることができると考えたからに違いない。
 たしかに、新制度に対する反発はすさまじい。「うば捨て山のような制度だ」「ほとんどの人の負担が減るなどという政府の説明はうそばかりだ」という声がお年寄りだけでなく、多くの国民の間に広がっている。
 年金が宙に浮いたり、消えたりして不信感が高まっていたところへ、年金からの保険料の天引きが始まったのだから、怒りが爆発したのも無理はない。厚生労働省の担当者が解説書で「終末期の医療費を抑えることが大事だ」と無神経に書いたこともお年寄りの気持ちを傷つけ、怒りを広げた。
 しかし、制度を「元に戻せ」と言うだけでは、問題は解決しない。
 老人保健制度に戻れば、多くのお年寄りは市町村の運営する国民健康保険に再び入ることになる。今後、お年寄りが増えた時に、いまでも厳しい国保の財政が維持できるとは思えない。
 後期高齢者医療制度も老人保健制度も、お年寄りの医療費を会社員の健康保険組合や国保の保険料と税金で支えることに変わりはない。だが、老人保健制度では、お年寄りの保険料も現役世代の保険料もまぜこぜで、だれがどう負担しているのかが分かりづらかった。現役世代の負担が際限なく膨らみかねないという不満もあった。
 こうしたあいまいな点をはっきりさせておこうというのが新制度だ。
 野党の中にも、以前の制度がよいとは思わないという声がある。民主党はかねて会社員や自営業者、お年寄りを一緒にした保険制度を主張している。しかし、一元化には、年金と同じように、どうやって自営業者らの所得をつかむかといった問題がある。
 一方の与党も、野党を無責任だと非難するだけでは済まない。新制度を維持するというのなら、収入の少ない人の保険料を減免するのはもちろんのこと、保険料が上がったり、治療が制限されたりするのではないかというお年寄りの心配を取り除く必要がある。
 いま税金の投入は後期高齢者医療費の半分と決められているが、必要に応じて増やすことを明確に打ち出すべきだ。財源問題から逃げていては、「うば捨て山」という批判がいつまでもつきまとい、制度が定着しない。

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石田ふたみ