『日々の映像』

2008年05月03日(土)  硫化水素自殺全国に波及


 硫化水素自殺が全国に波及している。この有害情報も仕掛け人がいたのだ。
硫化水素を使った自殺が目につき出したのは1年ほど前からで、インターネットの自殺サイトで「簡単で確実に死ねる」として生成法が紹介されているため、最近は若者を中心に流行のように広がっている。

 警察庁は30日、硫化水素の発生方法を説明したインターネットの書き込みを、傷害致死事件などを誘発する「有害情報」に指定し、全国の警察本部などに通達した。民間のネット関連団体などを通じ、プロバイダーやサイトの管理者に削除を求めていくという。このような有害情報を規制する法律はまだ出来ていないようだ。

 どうしてこれだけの人が自殺するのだろう。世相を直視する意味でここ1週間余りの報道から一部を引用したい。

1、29日午後3時20分ごろ、宮崎県延岡市萩町のマンションの女子大学生(22)方で、浴室ドアに「硫化水素発生中。絶対に開けないでください」と書かれた張り紙を管理人らが見つけ110番したが、女子学生はすでに死亡していた。

2、高松市藤塚町2丁目のマンション3階にある一室の玄関の壁に「硫化水素発生中」と書かれた張り紙があると110番通報があった。消防隊員らが調べたところ、内側から粘着テープで目張りされたトイレの中に、入浴剤と洗剤を混ぜた液体が入ったバケツがあり、そばで住人の男子大学生(20)が死亡していた

3、29日午前9時15分ごろ、大阪府寝屋川市萱島信和町のマンション(6階建て)で、女性から「異臭がする」と110番通報があった。寝屋川署員と枚方寝屋川消防組合の救助隊員が2階の室内を確認したところ、浴室内で倒れている男性を見つけた。男性は約1時間15分後、搬送先の病院で死亡が確認された

4、高知県香南市の市営住宅で23日に自殺した中学3年の女子生徒(14)は、硫化水素による自殺方法を「テレビで見て知った」と書き残していた。県警香南署によると、生徒の自宅にはパソコンなどの機器はなく、ニュースなどから知識を得たとみられるという。

4月末現在で47人が自殺している。
 
硫化水素(H2S)の怖さを確認しておきたい。
1、硫化水素(H2S)は無色で、腐った卵のようなにおいのするガス。
2、毒性は強く、800ppm以上の濃度のガスを吸入すると即死する。
4、においを感じたら、現場に近づいてはいけない。
5、硫化水素は、脳が酸素を利用するために必要な酵素の働きを阻害し、酸欠と同様の状態に陥り死に至る。
6、硫化水素のにおいは刺激が少ないため我慢しやすく、脱出などが遅れがちになる。
7、100ppmを超える濃度で30分を過ごすと、自力で脱出できない状況になる。


硫化水素自殺 発生方法、ネット記述は有害情報 警察庁、削除要請へ  
2008年5月1日 産経新聞
宮崎・高松・大阪 硫化水素自殺、全国で
2008年04月29日20時48分
流化水素自殺:「腐敗臭の煙」悲劇(1)47人死亡 巻き添えも急増
                     2008年4月26日毎日新聞
硫化水素自殺:「腐敗臭の煙」悲劇(2) サイン気付いて
                     2008年4月26日毎日新聞
硫化水素自殺:「腐敗臭の煙」悲劇(3) 発生源、近付かないで−−無色の有毒ガス、階下に影響も           2008年4月26日毎日新聞
社説:硫化水素自殺 死を誘発するサイトの罪深さ
毎日新聞 2008年4月25日 
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硫化水素自殺 発生方法、ネット記述は有害情報 警察庁、削除要請へ  
2008年5月1日 産経新聞
硫化水素自殺が全国で相次いでいることを受け、警察庁は30日、硫化水素の発生方法を説明したインターネットの書き込みを、傷害致死事件などを誘発する「有害情報」に指定し、全国の警察本部などに通達した。警察が同種情報を把握した場合、民間のネット関連団体などを通じ、プロバイダーやサイトの管理者に削除を求めていく。

 硫化水素自殺の多くはネットに書き込まれた発生方法を参考にしており、警察庁は周囲の人々が巻き込まれ、傷害や傷害致死事件になるケースを誘引すると判断した。

 ネット上の情報の削除については、表現の自由とのかねあいから、警察庁は「慎重な判断が必要」としているが、一方で「重大な人的被害を誘発する有害情報を放置することは、警察の責務に反する」として有害情報指定を決めた。

 同庁は有害情報に当たるかどうかの基準として、「簡単に作れます」といった製造の誘引や、「簡単・確実に死ねます」など利用を誘引する文言が含まれていることを要件として定め、化学式の記載だけなど学術目的と判断される場合は除外するという。

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宮崎・高松・大阪 硫化水素自殺、全国で
2008年04月29日20時48分
 29日午後3時20分ごろ、宮崎県延岡市萩町のマンションの女子大学生(22)方で、浴室ドアに「硫化水素発生中。絶対に開けないでください」と書かれた張り紙を管理人らが見つけ、110番した。女子学生はすでに死亡しており、延岡署は硫化水素を発生させて自殺したとみている。
 調べでは、女子学生は一人暮らしで、浴室の内側からアルミサッシのドアに粘着テープが張られていた。浴室内には塩素系洗剤や入浴剤などの容器が残されており、調合してガスを発生させたらしい。部屋から遺書も見つかった。
 女子学生の知人から同マンションに「3日間ほど連絡が取れない」と連絡があり、管理人とオーナーが合鍵を使って入室し、異変に気づいた。
◆高松では20歳大学生
 29日午前10時55分ごろ、高松市藤塚町2丁目のマンション3階にある一室の玄関の壁に「硫化水素発生中」と書かれた張り紙がある、と110番通報があった。消防隊員らが調べたところ、内側から粘着テープで目張りされたトイレの中に、入浴剤と洗剤を混ぜた液体が入ったバケツがあり、そばで住人の男子大学生(20)が死亡していた。高松北署は硫化水素を使った自殺と判断。半径30メートル以内の住民ら約40人を一時避難させた。
 調べでは、居間から大学生が書いたとみられる遺書が見つかった。このマンションの所有者は28日午後1時ごろに異臭を感じ、29日朝もにおいが残っていたため、ガス会社に連絡して調べていた。
◆大阪でも35歳死亡
 29日午前9時15分ごろ、大阪府寝屋川市萱島信和町のマンション(6階建て)で、女性から「異臭がする」と110番通報があった。寝屋川署員と枚方寝屋川消防組合の救助隊員が2階の室内を確認したところ、浴室内で倒れている男性を見つけた。男性は約1時間15分後、搬送先の病院で死亡が確認された。男性のそばにトイレ洗浄液の容器があり、同署は硫化水素を使った自殺の疑いがあるとみて調べている。
 同署などの調べでは、男性(35)は一人暮らしの会社員。近くに住む母親が男性宅を訪ね、異臭に気づいたという。浴室のドアには「毒ガス発生中 注意」と書かれた張り紙があり、浴室の内側から粘着テープが目張りされていた。異臭騒ぎでマンション住人ら約30人が避難。その際、女児(2)が階段で転倒し、軽いけがを負った。現場は京阪萱島駅の北約100メートル。


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流化水素自殺:「腐敗臭の煙」悲劇(1) ネット情報拡散、47人死亡 巻き添えも急増
                    2008年4月26日毎日新聞

 硫化水素による自殺が全国各地で相次いでいる。体調を崩したり避難を強いられるなど周辺の人が巻き添えとなるケースも目立ち、深刻な問題となりつつある。行政の取り組みも始まったが、「自殺の連鎖」を止めるには、家族など周囲の人たち、自殺に使われた商品を製造する企業など総合的な取り組みが必要だ。【神澤龍二、清水健二、武本光政、永山悦子、千脇康平】

硫化水素を使った自殺(年齢は当時)
◇巻き添えも急増「他人の幸せ奪えるのか」
 「突然、死の恐怖にさらされた。後遺症はないのか」。今年2月、硫化水素自殺に巻き込まれた東京都渋谷区の女性会社員は今も、不安が頭から離れない。
 事件があったのは2月18日。3階建てマンションの1階に住む無職男性(27)が自殺を図った。3階に住む女性会社員は、強い硫黄のにおいで目覚めた。激しい頭痛や吐き気に襲われ、2人の子も泣きやまない。駆けつけた警察官とともに1階の部屋のドアを開けると、ジャージー姿の若者がソファに倒れ、床に転がった鍋から煙が噴き出ていたという。
 女性は硫化水素自殺のニュースを見るたび体が震える。「硫化水素自殺を図る人に、他人の幸せまで奪う権利があるのか。私たちのような人がこれからも出ると思うと悔しい」と言葉を詰まらせた。
 硫化水素自殺は、1月ごろからインターネットの掲示板で手口が紹介されるようになった。3月ごろから自殺件数が増え、メディアも大きく扱うようになった。4月に入って激増し、中旬以降はほぼ連日発生。3月以降に少なくとも39件47人が死亡した。家族が巻き添えで亡くなったケースもある。報道が自殺の連鎖を誘発する場合があることは知られており、日本自殺予防学会は今月18日、報道機関に▽詳しい方法を紹介しない▽相談機関などについての情報提供を併せて行う−−などの配慮を求める緊急アピールを出した。
 ただ、一昨年10月に国立精神・神経センター内に開設された自殺予防総合対策センター(東京都小平市)の松本俊彦・自殺実態分析室長は「今回はメディアにも比較的慎重な扱いが見られたが、はるかに早くインターネットを介した情報が広がった」と指摘する。
 03〜04年、インターネットで仲間を募り、自動車内で一酸化炭素自殺を図る「ネット心中」が問題化した後、自殺サイトの監視・管理強化や検索機能を使った自殺防止サイトへの誘導が始まった。しかし、自殺サイトの閉鎖や書き込み者の特定は、表現の自由の問題もあり簡単ではない。
 高知県香南市の市営住宅で23日に自殺した中学3年の女子生徒(14)は、硫化水素による自殺方法を「テレビで見て知った」と書き残していた。県警香南署によると、生徒の自宅にはパソコンなどの機器はなく、ニュースなどから知識を得たとみられるという。

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硫化水素自殺:「腐敗臭の煙」悲劇(2) サイン気付いて
                  2008年4月26日毎日新聞

主な相談窓口
 自殺の連鎖はどうすれば止められるか。国を挙げての対策が成果を上げたフィンランドでは、遺族からの大規模な聞き取り調査の結果、自殺者の85%が精神疾患状態にあったとされる。昨年6月に策定された国の自殺総合対策大綱は「自殺は個人の自由な意思や選択の結果ではなく、心理的に追い込まれた末の死である」と指摘する。
 日本自殺予防学会の斎藤友紀雄理事長は、家族などが自殺の前兆を見逃さないよう呼び掛けている。「摂食障害やアルコール依存、睡眠障害などの身体症状が必ずある。周囲が受け止めれば防げる場合もある」という。
 自殺予防総合対策センターの松本室長は「今は山火事が起きた状態で、まず火を消す対策が必要」と訴え、「自殺に使われる商品の製造・販売・保管にかかわる人たちの協力が求められないか」と提案する。
 80年代後半、麻薬に似た成分が入ったせき止めシロップの多量服用による中毒が多発した際は、国内の製薬会社が成分を変えた。
 松本室長は「一時的に製造・販売の中止や制限も考えられる。家庭でも、危険性のある商品を保管しないようにすれば水際対策の効果はある」と話す。
【関連記事】

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硫化水素自殺:「腐敗臭の煙」悲劇(3止) 発生源、近付かないで−−無色の有毒ガス、階下に影響も
                  2008年4月26日毎日新聞
 硫化水素(H2S)は無色で、腐った卵のようなにおいのするガス。硫黄泉などの温泉からも発生する。毒性は強く、800ppm以上の濃度のガスを吸入すると即死する。内藤裕史・筑波大名誉教授は「他の有毒ガスに比べ影響が出るのが非常に早い。においを感じたら、現場に近づいてはいけない」と警告する。
 硫化水素は、脳が酸素を利用するために必要な酵素の働きを阻害し、酸欠と同様の状態に陥り死に至る。硫化水素のにおいは刺激が少ないため我慢しやすく、脱出などが遅れがち。100ppmを超える濃度で30分を過ごすと、自力で脱出できない状況になる。硫黄泉に入浴中、周囲の人が気づかぬまま中毒を起こして死亡する例もあるという。
 内藤名誉教授は「硫化水素の使用は周囲に迷惑をかける恐れが高い。空気より重く、発生階の下の人も巻き添えになる。床にたまったガスにも注意が必要だ。救助に行った人の2次、3次被害も多いので、発生源には絶対に近づかないという原則を周知すべきだ」と呼び掛ける。
 ◇厚労省、業界に注意喚起通知
 硫化水素による自殺で市販の医薬品や洗剤が使用されていることを受け、厚生労働省は25日、日本薬剤師会など薬局・薬店の業界4団体に対し、注意を促す文書を通知した。客に購入目的を尋ねたり、硫化水素を発生させる医薬品や洗剤をセットで購入していないかなど注意するよう依頼する内容という。ただ、同省は「毒物や劇物でない限り、客の身元確認を求めることまではできない」としている。
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社説:硫化水素自殺 死を誘発するサイトの罪深さ
毎日新聞 2008年4月25日 
 市販の洗剤などを混合して発生させた硫化水素ガスによる自殺が、各地で続発している。高知県香南市では中学3年の女子生徒が自殺した市営住宅からガスが漏出し、家族や近隣の約90人が病院で手当てを受けたほか、75人が体育館に避難して一夜を過ごす騒ぎとなった。巻き添えで死者が出たケースもあり、事態は深刻だ。
 硫化水素を使った自殺が目につき出したのは1年ほど前からで、インターネットの自殺サイトで「簡単で確実に死ねる」として生成法が紹介されているため、最近は若者を中心に流行のように広がっている。
 日本では百余年前、栃木・日光の華厳の滝で旧制一高生が投身自殺した後、半年間に十数人が後を追うように身を投げたのをはじめ、1人の自殺をきっかけに連鎖反応的に追随者が現れる現象が繰り返されてきた。86年に東京・新宿でアイドル女性歌手がビルから飛び降り自殺した後は、2週間で二十数人の少年少女が理由のはっきりしない自殺を遂げている。
 戦前の伊豆大島・三原山など時代とともに“自殺名所”も生まれては消えてきたが、インターネットが普及してからというもの、自殺サイトが同じ手段による自殺を広い範囲で誘発させる新しい現象が生じた。
 最近は見知らぬ者同士が練炭で集団自殺を図るケースが相次いでいるほか、自殺願望者が“殺し屋”を募り、実際に請け負った男に殺害される事件まで起きている。命を軽んじる風潮を背景に、自殺へと駆り立てるインターネットの魔力の不気味な広がりに、慄然(りつぜん)とするばかりだ。
 硫化水素自殺の場合は、従来の手段よりも第三者を巻き添えにする危険が大きい。自殺サイトが自殺の誘因となっているだけでなく、硫化水素が別の犯罪に悪用される可能性も重視し、警察当局は監視に努めて、ネットの開設者やプロバイダーに自粛や削除を求めるべきだ。自殺との因果関係が認められた場合は、自殺ほう助罪の適用なども視野に入れて取り締まりを強める必要がある。自殺サイトに限らず、反社会的なサイトを追放する機運も、盛り上げねばならない。
 問題の洗剤などのメーカーには直接の責任はなくても、混合しても毒性ガスを発生させないように、あるいは毒性を弱めるように成分を変更するなどの工夫を期待したい。これまでにも自他殺に使われた殺そ剤や農薬類を追放した経緯があることも忘れられない。
 抜本的には毎年3万人もの自殺者が生まれている状況を好転させぬ限り、問題の解決は望めない。政府は昨年、自殺総合対策大綱を策定、10年かけて自殺死亡率を20%減らす目標を立てたが、生死のはざまで悩む人を自殺に駆り立てる誘因については早急に除去する取り組みが求められる

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石田ふたみ