『日々の映像』

2008年01月16日(水)  自分の年金を守るには

 厚生年金の加入記録の改ざんで途方に暮れている人がどれだけいるのだろう。
問題点の骨子は次の通りだ。
1、経営不振で保険料を滞納している事業所に対し、「滞納するより制度を脱退しては」と勧めたり、保険料負担を低く抑えるため従業員の月給を実際より極端に低く届け出るよう働きかけたりしていたケースがあることが、関係者の証言で明らかになった。

2、こうした対応が原因で、本来より少ない年金額しか支給されていない人が、相当の人数にのぼる可能性がある。
3、読売新聞の取材に対し、「保険料を滞納している事業所に対し、全喪届を出すよう数え切れないほど指導した。同じ社保事務所内で、標準報酬月額の引き下げも行われていた」と証言した
4、社保庁職員が改ざんに深く関与していた事実を認めたものだ。
 さらに、「滞納する事業所から保険料を徴収するのは難しい。制度から脱退してもらったほうが楽だし、納付率が低下しなくて済む」とも述べた。
5、厚生年金の記録改ざんに社会保険事務所の職員が関与していた実態が明るみに出たことで、国民をないがしろにする無責任な組織体質が改めて浮き彫りになった。

個人が自分の年金が正しく処理さえているかどうかを後で確認するためには、給料明細を必ず保管する必要がありのだ。この記録があれば、「厚生年金保険料納付特例法」で救済される。行政が個人の権利を守ろうとするのか、企業を守ろうとするのが、残念ながら後者と言わざるを得ない。この事例は勤めている会社も行政も信用ならないことを意味しており、まさに悲しい挽歌である。

厚生年金記録、社保事務所が改ざん指導    2008年1月12日 読売新聞
従業員らを救済する「厚生年金保険料納付特例法」が成立
                      2007年11月24日 読売新聞

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厚生年金記録、社保事務所が改ざん指導
2008年1月12日 読売新聞
厚生年金の加入記録の改ざんが相次いで見つかった問題をめぐり、社会保険事務所の職員が経営不振で保険料を滞納している事業所に対し、「滞納するより制度を脱退しては」と勧めたり、保険料負担を低く抑えるため従業員の月給を実際より極端に低く届け出るよう働きかけたりしていたケースがあることが、関係者の証言で明らかになった。
 滞納を減らして保険料の徴収実績を良く見せかけるのが目的とみられる。こうした対応が原因で、本来より少ない年金額しか支給されていない人が、相当の人数にのぼる可能性がある。
徴収実績上げ目的か
 総務省の年金記録確認第三者委員会は昨年末までに、厚生年金の記録改ざんを10件確認している。いずれも社会保険庁にいったん記録された内容が、後になって事業主の届け出で訂正されていた。月給の記録である「標準報酬月額」が実際より大幅に引き下げられた例のほか、事業所が営業を続けているのに、休業などと偽って「全喪届」という脱退届を出していた例も3件見つかった。
 改ざんで事業主は労使折半の保険料負担が軽くなった一方、従業員の年金は年数万円程度、本来より少なくなっていた。
 記録の改ざんをめぐり、社保庁の職員は、1990年代に東日本の社保事務所に勤務していた当時の実態について、読売新聞の取材に対し、「保険料を滞納している事業所に対し、全喪届を出すよう数え切れないほど指導した。同じ社保事務所内で、標準報酬月額の引き下げも行われていた」と証言した。この職員は第三者委が認定した10件に直接かかわってはいないものの、社保庁職員が改ざんに深く関与していた事実を認めたものだ。
 さらに、「滞納する事業所から保険料を徴収するのは難しい。制度から脱退してもらったほうが楽だし、納付率が低下しなくて済む」とも述べた。
 また、東京都内の社会保険労務士も、「5年ほど前、社保事務所に顧客の事業主と一緒に呼び出された。職員から標準報酬月額が実際より低かったことにする訂正の届けを出すように言われ、口外しないよう念を押された」と証言する。別の社労士も「全喪届や標準報酬月額の引き下げを社保事務所職員が促すことはよくあった」と話す。
 これに対し、社保庁は「職員が関与した事実は把握していない」としている。
 第三者委には厚生年金に関する異議申し立てが約1万3000件出されているが、審査が遅れており、修正が認められたのはまだ60件だけ。10件の改ざんは、その中から見つかった。
[解説]無責任体質早急な調査を
 厚生年金の記録改ざんに社会保険事務所の職員が関与していた実態が明るみに出たことで、国民をないがしろにする無責任な組織体質が改めて浮き彫りになった。
 厚生年金保険料の納付率はこれまで、ほぼ9割台後半で推移してきた。経営の苦しい中小零細企業が多いにもかかわらず、自営業者などの国民年金保険料の納付率(06年度は66・3%)と比べると「不自然に高い」(東京都内の社会保険労務士)と指摘されてきた。この裏には、厚生年金保険法に違反して滞納事業所を制度から脱退させたり、標準報酬月額を引き下げたりして滞納額を圧縮するカラクリがあったことになる。
 徴収成績を高く見せかけたい社保事務所職員と、負担を逃れたい事業所の思惑は一致している。改ざんが行われれば従業員が受ける被害は年金減額だけにとどまらず、最悪の場合、年金受給に必要な原則25年間の加入期間を満たすことができず、無年金になる恐れもある。
 社保庁は実態を早急に調査し、国民に説明する必要がある。総務省の年金記録確認第三者委員会も、被害者救済に向け審査のペースを速めるべきだ。(社会保障部 石崎浩)
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従業員らを救済する「厚生年金保険料納付特例法」が成立
                     2007年11月24日 読売新聞
企業の保険料未払いで年金を減額された従業員らを救済する議員立法「厚生年金保険料納付特例法」が12日午前の参院本会議で全会一致で可決し、成立した。19日にも公布、施行される。
 同特例法は、年金保険料を過去2年分までしかさかのぼって納付できない現行の時効制度に特例を設け、2年を超えていても、企業や事業主が未払い分の保険料を任意納付できるようにするものだ。
 任意納付に応じない企業については、企業名を国が公表できる規定も盛り込まれている。それでも、企業が任意納付を拒否したり、倒産していたりした場合は、未払いの保険料相当額を国が税金で補てんし、従業員を救済する。
 また、与野党による修正協議の結果、〈1〉国が税金で未払い保険料相当額を補てんした場合、国が企業や事業主に対して補てん分を支払うよう裁判で訴えることを可能にする〈2〉企業の未払いの実態や税金の補てん状況などをおおむね半年ごとに国会に報告する――とする規定が加えられた。
(2007年12月12日 読売新聞)
年金保険料 企業の未納、国に請求権
与野党修正案「逃げ得」を防止
 企業による保険料未払いで年金を減額された従業員らを救済するため、自民、公明両党が衆院に提出していた「厚生年金保険料納付特例法案」の民主党との修正案が23日、明らかになった。
 企業や元事業主が年金保険料の支払いに応じない「逃げ得」を防止するため、企業から保険料相当分を取り立てる法的権利を国に与えることが柱だ。与党と参院第1党の民主党による修正案が固まったことで、同法案は今国会で成立する公算が大きくなった。
 企業が従業員の給料から保険料を天引きしたのに、国に納付していない事例の総数は分かっていない。しかし、総務省の「年金記録確認第三者委員会」で審査中の厚生年金関連の申し立て約8500件に限っても4000件程度が該当するとの推計があり、相当な規模に上ると見られている。
 国に納付されなかった保険料分は、従業員の年金が減額されている。この中には、単純な事務手続きのミス以外に、事業主が労使折半の保険料負担を回避しようとしたり、着服したりした悪質な例も見られるという。
 中小企業の従業員で、給料明細で保険料が天引きされているのに、社会保険庁には企業からの保険料の納付記録がまったく残っていなかった例もあり、意図的な未払いの可能性がある。
 特例法案では、過去2年分までしかさかのぼって保険料を納付できない現行の「時効」を見直し、2年を超えても企業が過去に納めるべきだった保険料の納付を可能とし、企業が納付を拒否した場合、企業名を公表するとしている。ただ、企業が保険料納付を最後まで拒否した場合、国が保険料相当額を税金で肩代わりするとしていたため、民主党は「悪意ある企業が保険料を払わない恐れがあり、税金での救済が無規律に広がる」と指摘していた。
 この点について与党と民主党が協議した結果、企業の「逃げ得」を回避する措置の導入で合意。企業や、企業が倒産した場合は元事業主などに保険料納付を請求する法的権利は従業員にあるが、税金で肩代わりした保険料相当分に限定し、その権利を国へ移すこととした。国は問題の企業や元事業主を裁判所に訴えることが可能となる。
 また、修正案には、半年ごとに制度の運用状況を国会へ報告する規定も盛り込まれる見通しだ。

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石田ふたみ