受刑者がどれだけ暴行を受けたのだろう。法務省内の事件を法務省が調べるのだから、真実がどれだけ明らかになるかは疑問である。しかし、法務省はこれだけの大問題に成っている以上、小出しでも情報を明らかにしなければならない。
法務省の調べによると、刑務所職員からの暴行を訴えた情願は、過去2年間で約260件であるという。このデータも、どれだけ真実なのかは疑問だ。「法務省矯正局によると、情願は内容によって9項目に分類して保存しており、職員からの暴行は『職員関係』という項目に含まれる。職員関係に該当する訴えは2年間で2659件、約1割が職員の暴行関係だった」(2月28日・読売から)という報道だ。職員からの暴行は職員関係に分類され、その訴えは2659件といいながら、その一割が暴行だったという説明もはなはだ矛盾である。
革手錠で身体を拘束することに関する情願は、「669件」であったという。この革手錠を掛ける前後に、どのような暴行があったのか。名古屋刑務所事件で、一番問題となったのが、この革手錠であった。暴れる受刑者を制圧するために、革手錠が必要との説明であるが、なぜ暴れるのだ!刑務所職員に受刑者が暴れるだけの暴言があるとの視点も必要だ。総べて受刑者が悪いとの前提は誤りだ。名古屋刑務所で、明らかになっただけで3件もの暴行死傷事件が起きている。この根本原因はなにか!言うまでもなく、刑務所職員の驚愕するほどの人権意識の欠落である。
そもそも、人権無視の行動を誰がやるのか。歴史的に考えても、これらの行動を取るのは、国家権力側に属する公務員なのである。この百年で最大の人権無視の暴挙は、スターリンの粛清であった。反対勢力を次々と捕らえて粛清する、なんとその総数は2千万人に達したという。ソビエトの人口の1割を超える人達が粛清されていったのだ。実際は粛清する人数が、割り当てのように成っていった。公安部門で働く公務員は、誰でもよいから捕らえて粛清していった。 今回の暴行事件とスターリンの粛清とは関係ないように見えるが、人権無視という根は同じである。日本は上からの暴行命令はない。ソビエトの粛清は上からの命令だ。どちらが悪質の人権無視の行動か。
法務省は、問題の革手錠を全廃する方針を決めた。殺人行為が出来ない構造に変えようとするものだ。その他、受刑者の死亡報告書の保存期間を、現在の3年から10年に改定するという。こんな枝葉の対策のみでは、矯正局全体の人権無視の閉鎖社会を改めることは出来ないだろう。今起っている問題は、あくまでも法務省内で解決しようとしている。長期的なあり方としては、民間有識者による諮問機関を設置するとのこと。
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