『日々の映像』

1996年01月20日(土)  サブプライムローンの損失額

今や金融機関や投資家にとって「つうこんのいちげき」以外の何物でもない呪文にすら聞こえる「サブプライムローン」。「アメリカの住宅ローンが何で日本の株式市場にまで影響を与えるんだッ」と頭を抱えている人も多いだろうが、情報と金融商品とキャッシュが世界を駆け巡っている、つまり「国際金融化」が進んでいる証しなのだから仕方が無い。先日金融庁が「管轄内の金融機関におけるサブプライムローン関連商品保有額は1.4兆円で、現在の損失額は2760億円」と発表したが、「本当にそれだけなの?」と不安に思っている人も多いだろう。そこであちこちの資料を集め、分かる範囲での国内外における「サブプライムローン関連の損失額」をリストアップしてみることにした。


●サブプライムローン、そして関連商品の特性について

まずはおさらい。「サブプライムローン」とはアメリカにおいて信用担保力の低い人たち(主に低所得者)に対して行なわれた住宅ローン。信用力が低いため一般のローンと比べると金利が高く、さらに2年後から金利が急上昇するのが特徴。住宅供給が過剰となり住宅市場が低迷し、また金利上昇後に支払いが出来なくなり住宅を追い出される低所得者層が増加、ますます住宅市場が飽和状態となると共に「サブプライムローン」そのものが焦げ付きつつある。それと共に「サブプライムローン」を組み込んだ各種証券も大きな損失を抱えているのが現状。

組み込み方も単純にまとめてではなくて、分割して行なわれているため、どれだけ「サブプライムローン」分があるのか把握しにくいのが現状。例えるなら定食屋で出された野菜炒めの中に、どれだけ国産の野菜があり、中国産の野菜が含まれているのか分からない状態。

さらにサブプライムローン関連商品は一般証券と比べると流動性が低く、一度需給のバランスが崩れると加速度的に価格が乱高下したり、売買そのものが難しくなる傾向がある。現物株式や先物、FXのように、常に多数の売買注文があり取引が成立しているような、高流動性の商品ではない。商品ブローカー同士のやり取りで売買されるものがほとんどで、いわばお寿司屋や日本料理店の「時価」のようなもの。そしてこの「時価」の決定には証券会社の格付けや関連商品の需給が、一般証券以上に大きな影響を与える場合もある。

元々売買している投資家が少ないのだから、一斉に売りに出されたら、そしてそのような状況が起きうる環境になっていれば、買い手がつかないのは明らか(例えば今年で制度がまるっきり別物に変わる国家資格試験において、過去の問題集を積極的に買おうとする人がどれだけいるだろうか)。

サブプライムローン、そしてその関連商品はまさにそのような状況にある。多分に心理的影響もあるが、投売りに近い形であることは事実に他ならない。

●損失額のリストアップ

それでは実際に、損失額をリストアップしてみることにする。当サイトではすでに【9月末時点のサブプライムローン関連商品保有額は1.4兆円、損失額は2760億円】で示したように、金融庁が「9月末で国内金融機関の簿価は1兆4070億円、含み損1350億円、確定損1410億円」という数字を出している。他にも内外で大手金融機関がそれぞれ損失額を計上しているが、海外においてそれらをまとめる(といってもすでにまとめてある記事をさらにまとめたものだが)と次のようになる。


■海外の主要金融機関の損失額

シティーグループ……1兆5070億円
メリルリンチ……9240億円
バンク・オブ・アメリカ☆……7260億円
モルガンスタンレー……5060億円
UBS☆……4200億円
HSBC☆……3740億円
ドイツ銀行☆……3500億円
バークレイズ☆……3000億円
ワコビア☆……2750億円
AIG……2700億円
クレディ・スイス……2200億円
JPモルガン・チェース……1760億円
ゴールドマン・サックス……1650億円
リーマン・ブラザーズ……770億円
ベア・スターンズ……770億円(※東洋経済では2260億円)

※【USA TODAY】から抜粋
※1ドル110円で換算
※☆マークは週刊東洋経済12月1日号から抜粋


ベア・スタンダーズを例としてあえて注意書きをしてみたが、USA TODAYと東洋経済のリストに、(特に金額において)大きな違いがあるのは、為替レートの変動以外にサブプライムローン独自の特性が原因。詳しくは上記で述べたが、評価額のほとんどが「時価」扱いであるため、「確定損」はともかく「評価損」の算出がしにくい。そして周辺事態は常に流動しているため、この「時価」も非常に動きやすいことがその理由。

また、先に【米メリル、サブプライムで評価損9100億円に拡大し赤字転落へ】でも言及したように、計上されている損失の少なからぬ部分が「評価損」であり「確定損」でないのも不安要素。上記説明にもあるように評価は「時価」であり、大きく変動しうる。買い手がいなければ買い手がつくまで値を下げるか「塩漬け」しなければならないのは個人投資家の現物株式と同じだが、損切りしてでも現金化しなければならない事態においこまれたとき、どこまで値が下がるか想定できない。よもや「タダ」ということはないだろうが、当初の評価額の1/5、1/10でも買い手がつかない状況になることもありえるかもしれない。

このような状況を考えると、上記の損失額がさらに今後増加する可能性は十分にある。実際に各金融機関も、今後追加損失が発生する見通しを発表している(例えばバンク・オブ・アメリカも次の四半期で39億ドルの追加損失計上を見越している)。

●政府・金融機関の対応と今後の情勢

先日各報道機関で報じられたように(例【ロイター:ブッシュ政権、金融機関とサブプライムローン金利凍結で合意へ】)、米系大手金融機関とアメリカ政府との間で、サブプライムローンにおける問題の一つ「二年後に金利がほぼ2倍に増える」時期を先送りすることが決定されるらしい。

サブプライムローンの問題の一つには「借りてから二年後に金利が約2倍に跳ね上がり、収入がそこまで対応できずに払いきれず、借金が焦げ付いてしまう」というのがある。この問題において「最初の低金利の期間を2年ではなく、さらに数年(一説では7年)延長」するのが今回合意されるのではないかという案。

金利上昇の開始時期引き延ばし策
・貸倒リスク軽減
・高金利の有利性が損なわれる
 (金融商品として)この案が事実で実際に施行されれば、少なくとも実際にローンでお金を借りている人にとって、支払の負担が急上昇して払いきれなくなる事態を先延ばしすることができる。猶予期間のうちに収入を増やすか、あるいは「自分の背たけに合った」住宅に引っ越すなり債務を整理することが可能になる。

債務の焦げ付きが少なくなるので、サブプライムローンを組み込んだ金融商品のリスクも下がり、買い手がつかなくなる(そして評価額が下落の一途をたどる)ような事態は避けられる。

……ようにも見える。しかしサブプライムローンを組み込んだ金融商品は、「リスクは高いが利回りも高い」のがセールスポイント。特に「2年後の金利跳ね上げ」を前提に利回り計算をしている商品も多いはず。それらの商品の価値において、「2年後に金利がほぼ倍増するはずのものが、数年延長されてしまう」としたら、その金融商品の価値はどのように扱われるだろうか。「利回り5%、3年目から10%」だから買ったのに、「焦げ付く可能性が高いので10%に引き上げるのは10年後からにします」と変更されたら、変更前ほどの購入魅力はあるだろうか。「ゼロになる、あるいは買い手がつかなくなるよりはマシだけど」と思うかもしれないし「マシだけど、でも魅力はないから出来れば売り抜けてもっと高利回りのものに買い換えたいな」と考えるかもしれない。

焦げ付きのリスク軽減を評価するか、それとも利回りの事実上の悪化をマイナスに受け止めるか、それは市場の判断に任されることになる。そしてそれはフタをあけてみるまで分からない。

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ちなみにデータを参照した記事の一つ、【USA TODAY】では記事のトップ部分に2003年1月以降のアメリカにおける住宅市場の市場規模変遷(折れ線グラフ)と、年間ベースのサブプライムローンの住宅ローン全体における割合(円グラフ)が記されている。また、同じく参照した東洋経済の特集号でも言及されているが、サブプライムローンに代表される住宅バブル問題は、実はアメリカだけでなくヨーロッパでも(独自に、そして確実に、大規模に)進行中である。また、「サブプライムローン」が大騒ぎされてそればかりがクローズアップされているが、欧米を含む各金融機関の損失が「サブプライムローン」だけによるものとは限らない。

さて。

近年では例えばブラックマンデーやアジア通貨危機、LTCM破綻などのような金融危機が起きた際、多少の(場合によっては大きな)影響を受け各種体制の変更を行いつつも、各国政府や金融機関、関連組織が知恵を振り絞り対処を行い、なんとか乗り越えてきた。日本国内でも2000年からはじまるITバブルの崩壊や、2003年前半に日経平均が7000円台をつけることになる金融恐慌(メガバンク危機)を経験しつつ、どうにか立ち直ることができた。

今回のサブプライムローン問題も、以前から識者の間で警告されていたこともあわせ、恐らく後に経済史において、ブラックマンデーや世界大恐慌と肩を並べる形で語られることになるだろう。しかしかつてのそれらの事象と同様、関係機関が英知を振り絞り対処することで、必ずや状況の改善が図られ、問題は解決され、市場も安定化するに違いない。


それがいつになるのかは分からないし、今現在が「山場を越えた」のかそれとも「まだ序の口」なのかは分からないけれども。
















社説:G7と金融危機 震源地・米の覚悟が問われる
毎日新聞 2008年4月13日
 世界的な金融不安は収まるのか。米国のサブプライムローン(低所得者向け高金利住宅ローン)焦げ付きに始まった市場の動揺が、世界不況に発展することはないか。先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が出す答えに、世界が注目した。
 G7が用意したハイライトは「金融安定化フォーラム」による報告書だ。フォーラムはG7など主要国の金融監督当局や国際機関で構成するもので、昨年秋に金融危機の底流にある問題を洗い出すようG7から要請され、作業を進めてきた。今回、70ページに及ぶ報告書をまとめ、G7はその意義を強調すると同時に、盛り込まれた提言の早期実施を表明した。
 提言には、金融機関による情報開示の改善や、資金繰り難への備え、国際的に活動する金融機関の監視で各国の当局が連携することなどが盛り込まれた。リスクの所在と大きさを見えやすくして不安の無用な拡大を防いだり、資金繰り難に当局と金融機関がそろって備えることなどにより、個別の問題が市場全体の機能不全に発展するのを回避する狙いがある。
 問題の深さが見えない点に不安のもとがあることを考えると、情報開示やリスク評価の強化を促した報告書の処方せんは、正しい方向への第一歩といえそうだ。しかしながら、報告書はあくまで将来の再発防止を主眼としており、目の前を覆っている不安をすぐに取り払ってはくれない。
 結局のところ、今ある危機を封じ込められるかどうかは、震源の米国で政府と中央銀行(連邦準備制度理事会=FRB)がどこまで踏み込んだ行動をとるかにかかっている。
 全米5位の証券会社、ベア・スターンズの救済劇で異例の特別融資を断行したFRBは、その後も緊急時の資金供給に備えた対応策を検討している模様で、強い危機感が伝わってくる。しかし、中銀の支援だけでは限界が来るかもしれない。公的資金の投入なしに早期解決は困難と見られるが、米政府は、否定的だ。バブルに踊り、何十億円もの報酬を受け取ってきた金融機関経営者の失敗を血税で補うとなれば、猛批判を浴びかねないためである。特にガソリンや食料品の値上がりで庶民の不満が高まっている今、一部への公的支援は理解を得にくい。
 しかし、いったん危機の連鎖が始まれば、ドルの暴落や世界経済の大混乱を招く恐れがあり、収拾のための費用は想像を超えた額となろう。G7の共同声明はドル安への警戒感を強くにじませた異例の文言を盛り込んだが、危機意識だけで、当局が不安の病巣を取り除く行動に出なければ、かえって市場からドル売りの攻撃を受ける危険が潜む。
 ショーの幕が下りてからが試練だ。米政府の断固たる行動に期待する。
毎日新聞 2008年4月13日 0時15分
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G7―バブルには治療も予防も
        2008年4月14日 朝日社説
 米国の金融市場の動揺は、1930年代の大恐慌以来の深刻なものという認識が広まっている。そんなさなかのワシントンで主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が開かれた。
 G7では、日米欧の金融当局者による金融安定化フォーラム(FSF)が報告書を出した。これを受け、金融機関の自己資本の充実を促し、情報開示を徹底させることなどで合意した。
 今回の金融危機の一因は、住宅への融資を証券化して転売し融資元のリスクを小さくしたため、融資の際の審査が甘くなったことにある。これらを組み合わせた複雑な証券化商品のリスクも、過小に評価されていた。
 こうした金融商品を含めて情報開示を徹底する方針は、遅すぎたとはいえ、再発防止のために不可欠だ。金融業界には規制強化に反発する声も強いが、今回の大混乱は業界の自主的な努力の限界を示している。当局が規制を強めるのは当然だろう。
 ただ、金融機関の経営を健全に保つための方策にとどまらず、もっと深く議論すべき問題がある。過去20年、日本を含む世界のあちこちで、住宅や株価などの資産バブルが頻発してきた事態をどう考え、対処するかである。
 そもそも、なぜ金融機関が甘すぎる融資をしたのか。それは、住宅価格などが上がり続けるという過度な楽観論が広がったからだ。いったんバブルが起きてしまうと、その崩壊が銀行の破綻(はたん)や貸し渋りなどにつながり、景気が長期に停滞する。
 ところが、米連邦準備制度理事会(FRB)は、この点の意識が弱い。資産価格の上昇がバブルなのかどうかは事後的にしかわからない、と考えているからだ。バブルの生成を金融政策で抑える「予防」は不適当だとし、バブル崩壊後の「治療」に専念することを基本にしている。
 00年のITバブル崩壊時に続き、今回も積極的に利下げしているのはそのためだ。しかし「治療」が度を越すと、バブル崩壊の負の影響を帳消しにするために、新たなバブルを作り出す循環になってしまう。これでは構造上の問題は解決せず、経済のバランスはますます崩れていく。
 欧州には、「予防」をあきらめず、金融政策も使ってバブル発生を防ぐよう努力すべきだとする中央銀行関係者もいる。だが米国では主流ではない。
 日本銀行の白川方明・新総裁は米国流の考えには距離を置き、限界はあるとしつつも、資産バブルによる不均衡に注意を払いながら金融政策を行うことが望ましいと考えている。
 長期間にわたり低金利が続くという期待が、世界的なバブル頻発の原因の一つといわれている。それをどう解消していくのか。G7は今後、こうした本質的な議論も深めていくべきだ。
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社説1 危機拡大の防止へ行動が試されるG7(4/13)
                 2008年4月14日 日経新聞
 「大恐慌以来の混乱」「戦後最大の金融危機」。そんな厳しい認識が当局者から相次いで示される中で開いた7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は、金融市場の安定化へ向けて協調行動を取ることを再確認するとともに、危機の再来防止のための措置の早期実施を促した。

 会議は、日米欧当局がより強い危機意識を持って問題に臨む決意がうかがわれるものにはなった。だが、市場を覆う不安をぬぐうような答えが示されたとは言いにくい。

 G7の共同声明は、世界経済が困難な状況に直面しているとし、金融市場の機能回復には様々な課題の解決が不可欠との厳しい認識を示した。リスクの徹底的な開示や金融機関の資本増強を促した「金融安定化フォーラム」の提言を期限つきで実施するよう求めているのも特徴だ。

 目新しいのは国際金融システムの安定性と絡めて「主要通貨の急激な変動」による悪影響に懸念を示した点だ。声明が主要通貨の動向に懸念を明記したのは7年半ぶり。背景には金融危機の深刻化に伴い、ドルへの信認が揺らぎ始めたことがある。

 会議が世界経済の最大のリスク要因である金融市場の混乱にほぼ焦点を絞ったことや、危機再来を防ぐための総合的な対応策を示した「金融安定化フォーラム」の提言の早期実施を促したことは歓迎したい。

 ただ、目前の脆弱(ぜいじゃく)な金融システムをどう立て直すか、なおくすぶる金融機関の破綻懸念にどう対応するのか、については明確な処方せんは示されなかった。各国の状況に合わせて適切な行動を取るとするにとどめている。危機回避の目玉として注目される世界の主要金融機関の国際的な監視体制の構築も、今年末までの課題となっている。

 信頼回復に向けた金融機関の自主的な取り組みや、不十分だった情報開示基準の見直しなどは重要だが、それだけでなお大きな地鳴りが聞こえる当面の危機を乗り越えられるかは不透明だ。政府がより表に出た対応が求められる局面もあるだろう。

 米国については、米連邦準備理事会(FRB)頼みの危機対応でよいのかと問う声もある。G7が示したドル懸念の裏には、ドル信認の要となるFRBのバランスシートの健全性に懸念が持たれ始めたことがある。健全とはいえない資産を担保に資金を供給したり、米証券ベアー・スターンズ救済策のように不良債権のリスクを保証したりしたためだ。

 結束や協調という言葉を超えて、どんな行動を取るのか。不安に揺れる市場はそこを注視している。

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石田ふたみ