2004年05月31日(月) |
第313話 どんぐりの木の下で |
昼間の散歩をしなくなったノア。 近所の公園に連れて行くと、どんぐりの木の下に座り込んで風上に顔を向け、目を細めてくつろぎます。
仕方なく私は携帯でメールをやりとりしながら時間をつぶします。 20〜30分ほどそうして毎日すごします。
3日ほど前、ノアがくつろぐ場所のまん前の家から年配の奥様が出て来ました。 ニコニコとノアを見ながら話しかけてきました。
「何歳ですか?」 「もうすぐ4歳です。」 「若くていいわねえ。私もダルメシアンを飼ってたんですよ。」
そこから奥様の話が続きました。
もう10年ほど前、ダルメシアンは16歳になり、まず最初に後ろ脚が動かなくなったそうです。 散歩が出来なくても外に出たがる愛犬のために、奥様は犬の後ろに回って腰を抱え、自分は深く腰を曲げて一緒にゆっくりと目の前の公園まで歩いたとか。
しかし次には前脚も動かなくなり、立てなくなっても公園に行きたがる愛犬を抱え、毎日2回、公園のどんぐりの木の下に運んだそうです。 「26キロありましたからね、何度も腰を痛めましたよ。」
やがて奥様の腕の中で天寿を全うしたダルメシアンの代わりに、奥様はシーズーを家族にむかえいれたそうです。 「犬のいない生活なんて、考えられなかったんですよ。それに大型犬は、もう無理だと思い知らされましたから。」
ところがそのシーズーは、3歳半で癌にかかり、医者に勧められて毎月20数万円をかけて抗がん剤を点滴したものの、苦しみながら3ヵ月半であの世に旅立ったそうです。
「あとからものすごく後悔しましたね。自分が犬と別れたくないばかりに余計な苦しみを与えてしまって。 点滴をするの,とっても嫌がってたのにねえ。 抗がん剤で3年生きるならともかく、苦しみを3ヶ月延ばしただけでしたよ。」
ダルメシアンの話の段階で、もう涙がポロポロだった私にはつらい話でした。涙を指でぬぐいながら黙って聞いていました。
「うちの子も、その場所が好きでしたよ。気持ちがいいのね、きっと。」 しっぽで地面をパタパタと掃き続けるノアを見ながら奥様は
「もう犬は飼いません。もうこりごり。もうこりごりよ。」 まるで自分に言い聞かせるように何度も繰り返すと、奥様はノアに手を振って家に戻りました。
はー・・・・・。
犬とのお別れの話は、幸せな最後であれ、不幸な最後であれ、やっぱり聞いてて涙が出るよ。
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