心を動かす、力 - 2004年02月29日(日) 新宿東口。休日で賑わう新宿で、300人近くの人が一人の大道芸人に注目を集めた。 20代後半の、おそらく大道芸人としては駆け出し中の人。コンタクトレンズを購入しようと眼科へ行ったが、会員カードの期限が切れており、改めて保険証が必要だということを知り、その時保険証を持っていなかったため、購入することができなかった僕。「無駄な時間を過ごした」と落胆気味に眼科から出てきた僕の足は、その大道芸人の前で止まった。 観客は最初10人程度。時間が経つにつれ、その数は50人、100人、150人、200人。そして最後には300人近くの人が、その芸に釘付けとなった。 僕は新宿によく行くので、大道芸人を見る機会は決して少なくない。しかし、これほどまで観客が集まった中、大道芸人が芸をする風景を目にしたのは初めてだった。 観客がこんなにも集まったのは、決して休日だからという理由だけではない。大道芸人のその演技に、心惹かれた人がほとんどだった。 様々な価値観をもった人たちが足を運ぶ新宿。その街で、たった一人の大道芸人が300人の人たちの足を止めた。 僕は大道芸人事情に全く詳しくないので、芸の良し悪しはわからない。しかし、その芸に多くの人が魅了され、約40分間、若手大道芸人の虜になった。 人の心を動かす。これは難しいことだ。中途半端な歌手が歌うラブソングより、中途半端な俳優が演じる青春ドラマより、新宿アルタ前の一般道路で汗をかきながら精一杯、芸を楽しむ大道芸人の姿の方がよっぽど、僕たちの心に響いた。 「今まで定職に就かず、毎日5時間、芸の練習をしてきました。そのおかげで多くの友達を無くしました。実家にいる親も悲しんで泣いてます」 大道芸人は最後にこうコメントし、観客の笑いを誘った。その姿は、世間体を気にしながら生きている中途半端な大人より、ずっとかっこよかった。 -
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