17番の日記...17番

 

 

九回裏 - 2003年05月19日(月)

今日は授業に出ずに神宮球場に行くつもりだった。東京六大学野球の早稲田対明治を観に行くためだ。が、しかし朝起きて外を見たら雨・・・。神宮テレフォンサービスに電話をしてみると案の定、明日に順延とのこと。今日だったら出席を取る授業が無く、気分良く観戦に行けたのだが、明日は語学の授業がある。語学か、神宮か、果たしてこの葛藤の行く末は・・・。

もう一つ、ぜひ今日観戦したっかた理由がある。明治の岡本投手が先発する可能性が高かったからだ。明日に順延となると、エース一場が先発するケースが考えられる。となると、岡本は投げるとしてもリリーフか抑えにまわることになってしまう。あるいは、一場の調子次第では、岡本の登板はないかもしれない。岡本は先発で投げてナンボの投手。僕は先発で投げる岡本が見たいのだ。

なぜ、僕がここまで岡本にこだわっているのか。話は僕が高校3年の時までさかのぼる。

僕の出身地は三重県である。僕は高校3年の夏、甲子園三重大会決勝戦を四日市霞ヶ浦球場に観に行った。三重海星対四日市工業。当時の三重海星は県内では敵なしの強さを誇っていた。その年のセンバツではベスト8進出を果たしており、夏の甲子園ではそれ以上の成績を期待されていた。その三重海星のエースが岡本だった。当時から、140キロ後半のストレートとキレのあるスライダーを武器とし、夏の県予選でも全く危なげのない投球で決勝まで勝ち上がってきた。三重海星には他にも捕手に藤村(現・法政)、二塁手に渡辺(現・法政)、遊撃手に山口(現・明治)、三塁手に堀内(現・明治)、ライトに加藤(現・中央)といったそうそうたるメンバーが揃っていた。対する四日市工業は2年生を中心としたメンバー。エース秋葉(現・国士舘)、遊撃手の大西(現・日体大)、ライトの佐藤(現・JR東海)の2年生3人がチームを支えてきた。四日市工業は新チームになってからの秋と春の県大会決勝で二回とも三重海星に敗れており、雪辱に燃えていた。夏の甲子園三重大会決勝戦はまさに頂上決戦と呼ぶにふさわしい対戦となった。

岡本の立ち上がりは上々の出来だった。落ち着いたマウンドさばきで、四日市工業打線を沈黙させた。バッターに対して、威圧感溢れる投球フォーム。140キロ後半のストレート。決め球であるキレのある鋭いスライダー。岡本対策をしてきた四日市工業打線だが、やはり本物は違った。
八回までの岡本は文句のつけようがない投球内容だった。九回表が終わり三重海星が3対0とリード。岡本は甲子園まであとアウト3つとなった。
九回裏、岡本に魔物がとりついた。四日市工業の先頭打者・本多がファールで粘り、しぶとくライト前ヒット。これまで三打席、岡本に完璧に押さえ込まれていた四番・水谷が岡本のストレートを叩き、右中間を抜ける二塁打。ノーアウトランナー二、三塁で五番・佐藤。岡本の初球のスライダーを迷い無くフルスイング。センター前に抜け走者一掃の二点タイムリーヒット。3対2。岡本は荒れていた。続く六番・西村は送りバントをし、捕手前に転がった打球を藤村がファーストに送球するが、これがまさかの暴投。ノーアウトランナー二、三塁。七番・内田にはスクイズを警戒し、一塁があいているということで四球を選択。そして八番・岡。五球目。打球はセンターに深々と上がり、犠牲フライ。三塁ランナーが還り、遂に同点。八回までの岡本とは明らかに別人の岡本がそこにはいた。九番・三谷には死球。1アウト満塁で、一番・大西。岡本の初球。渾身の内角を攻めたストレート。
大西の打球はレフトに上がり、犠牲フライ。三塁ランナー・西村がタッチアップ。ホームイン。3対4。四日市工業が逆転サヨナラ勝ち。まさかまさかの幕切れであった。

三重海星の敗因は、投げ急いだ、そして勝ち急いだ岡本にあった。打たれた球は全て捕手の構えた位置とは違う真ん中に入る甘い球。四日市工業にとっては天国、三重海星にとっては地獄を見た九回裏だった。

僕の脳裏には、未だに試合終了直後の岡本の姿が焼きついている。

岡本は今、その九回裏の悪夢を帳消しにするために必死に投げている。僕の目に、岡本はそう映るのである。岡本にとって、その九回裏の悪夢を帳消しにできる日は来るのであろうか。その日は一体いつなのか。プロ入りした日なのであろうか。沢村賞を獲得した日なのであろうか。日本シリーズを制し、日本一になった日なのであろうか。それは僕にはわからない。おそらく、岡本自身もわからないだろう。

しかし、その九回裏の悪夢が今の岡本のパワーになっていることは間違いない。

「苦しい経験が人間を大きく成長させる」僕が岡本を見ていて、いつも頭の中に浮かぶ言葉である。岡本にとって、今年が大学ラストイヤー。大学生活の九回裏で、岡本は今、戦っている。




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