| 2003年08月06日(水) |
花火が終わったその後で |
そうやって花火大会は無事終了したわけだが・・・
私たち親子はどこの階段を上がって堤防を越えようか思案した。 もと来た土手を延々戻りおんぼろの階段を上るべきか はたまた目の前にあるすばらしく綺麗な、けれど恐ろしく混雑しているスロープを上るべきか
悩んだ末選んだのは目の前のスロープだった。 間違いだった (-"-;)
スロープには2カ所入り口があり、少なくとも3名のおまわりさんがついていた。
急いではいなかったので遠慮がちに後の方に並んでいたのだが、どこから湧いて出てくるのか どんどんどんどん人の波が押し寄せてくる。 私たちはあっという間に朝のラッシュアワーの電車並み、いや それ以上の混雑に巻き込まれて しまった。 暑い・・・ 暑い・・・ 息苦しい・・・ 私でもそんななのだ 背の低い子供たちはどれだけ辛いことだろう。
「 頑張りや! 」 「 もう少しの辛抱やからな 」 そう励ましはするものの、いつになったら この混雑から抜け出せるのやら見当もつかない。
そんなとき茜が背伸びして私にささやいた あ 「 あのな・・ 後にアメリカ人さんがいてるねん。 背ぇ高いなぁ 」
ま 「 ほんまやなぁ。 大きいなぁ 」
あ 「 ほんでな・・ その横におる女の人、妊娠してはんねん 」 振り向くと臨月かと思わんばかりの大きな大きなお腹を抱えた女性が、外人の男性に寄り添っていた
ま 「 しんどいやろなぁ・・ 」 あ 「 かわいそうやなぁ・・ 」
それからはもうその妊婦さんが気になって気になって仕方がない。 顔は次第に苦痛にゆがんでいき、大きなお腹を両手でさすりながら、男性にもたれかかっている
あ 「 大丈夫かなぁ・・ 」
きっとお腹がはってきてるんだろう。 痛みが分かるだけに見ていられない。 何かしてあげたいけど何もしてあげられない。
そうこうしているうちに私たちは自らの意志というよりも周囲の波にのまれるかのように じわじわじわじわと前に進み。 人混みを恐れてなのか1歩も前に進めないでいるその二人とは、どんどんと遠ざかってしまった。
「 暑いやろ 」 「 頑張りや 」 そう言いながら子供たちの頭上から扇子で風を送りこむ。 それでも子供たちの額からは玉のような汗が流れ落ちてくる。
「 いったん止めます! 押さないでください! 」 とスロープの入り口でストップをかけるおまわりさん
「 何やっとんじゃ! 行かさんかいドアホ! 」 と怒鳴りちらす酒の入ったおやじ数名
「 おばはんはよ進めよ! 」 とガラの悪い兄ちゃんがすぐ横でわめく
「 さすが大阪や・・・ 」 とどこかで小さな声がする。
夏の暑さと人の熱気、前には進めない人混みが前後左右に大きく揺れる。 「 押さんといて・・ 」 「 押さんといて・・ 」 明石の花火大会の陸橋での惨事が頭をよぎる。 「 怖い 」 そう思った。
そのときだった。 「 暑いねぇ。 頑張りよ。 ほら、おばちゃんも汗だらけやわ 」 そんな声がすぐ横から聞こえてきた。
私より少し上くらいの奥さんが優しく微笑みながらうちの子たちに声をかけてくれたのだ。 奥さんの顔からは滝のような汗がしたたりおちていた。
「 頑張りよ 」 「 頑張りよ 」 ほんとにありがたかった。
すると次の瞬間、恐れていたことがおこったのだ。 人の塊が大きく揺らいだかと思うと、強い強い力がこちら側に押し寄せて来たのだった。 「 危ない! 」 そう思ったとき
「 子供がいるから押さないで!! 」 そう叫んだのはその奥さんだった。 一瞬その奥さんの子供のことかと思ったがそうではなかった。 奥さんはご夫婦二人きりで来られていたようで、かばってくれたのはうちの子たちだったのだ。
幸いにも誰一人倒れることなく体勢はもちなおされたのだが。
「 すみません 」 「 ありがとうございます 」
お礼を言っている間に入り口の前にたどり着いた。 すると今度は旦那さんが
「 先に行き行き! 」 と自分の身をはって入り口を大きく開き、うちの子たちを抱きかかえる ようにして入り口から通してくれたのだ 地獄に仏
人の親切がこれほど身にしみたことはなかった。
スロープを上りながら何度も振り向きお礼を言ったのだが 「 ありがとうございます 」 なんて 言葉じゃ言い尽くせないほど感謝の気持ちでいっぱいだった。
花火よりも美しい 「 優しさ 」 に出会えた。 大変だったけど。しんどかったけど。帰り道胸の中は熱い思いでいっぱいだった。
そう思うと。 「 何もできない 」 だなんて・・・ あの妊婦さんに言葉の一つでもかけてあげていれば・・・ それだけでも何か違っていたかもしれないだろうに・・・
「 お腹大きかった人大丈夫やったかなぁ 」 妊婦さんをしきりに心配する茜の言葉に あのときの自分が悔やまれて仕方がなかった。
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