なべて世はこともなし
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2004年02月18日(水) 路上のネジがつなぐ一方的なご近所づきあい

いつもの通りシャワーを浴びて、いつもの通りネクタイ締めて、いつものように車に乗り、いつもの通り家を出た。いつもの朝の光景。何ら変わるところがない。強いて言えば遅番なので既に午前10時を過ぎて太陽が頭上で照り輝いていることか。ところが異変は起こった。


妙にハンドルが重い。


まず疑ったのはパワステオイルが切れたかな…という疑い。もっともそんなもんが切れたらどうなるかなど想像したこともないし、車にはエンジンとタイヤ4つがついている…それ以上のことを知らない私に聞かれたって困る。あ、タイヤ…そう思って車から降りて前輪を見るもやっぱりタイヤはついている。再出発。


数メートル走ったところでやはり変だと思い今度は後輪をみると…うん、ちゃんとタイヤはついている。


空気が抜けてたけどね。


家にとりあえず戻りトランクを開けてみると、さすが日本からの輸入車、スペアタイヤにジャッキが完備。でも…


スパナがない。


どこか抜けてるよなあ。


で、2件隣の今まで面識のなかったお宅にうががう。そう、家の前庭に車が停めてあったのでスパナを借りようとしたわけ。出てきたのは私の母親くらいの女性。裸足にガウン姿


女性:「え?ああ、2件隣の家に住んでいるの?いつから?あら、全然知らなかったわ。あなたがた静かだもんね。あなた中国人?え?日本人?あらそう、誰が住んでいるの?日本人とドイツ人二人づつ。あらそう。最近アイルランドにも外国人が増えてきたわよねえ。私がコドモの時に初めて黒人の人を見た時は本当にびっくりしたわよ。へえ、こんな人もいるんだって。でも最近、そうここ10年よねえ、急に外国人が増えてきて。あなた、アイルランド好きなの?あら、もう5年も住んでいるの?あらそう、でも天気が悪くて大変でしょう?そうでもない。今日はいい天気だけどねえ。あら失礼。私ったらこんな格好で。きょうはちょっと怠け者な朝を過ごしているのよ。あら、パンクしちゃったの。それは困ったわねえ。おはいんなさいよ。これが私のワンちゃん。このワンちゃんがねえ数年前に私が動物保護団体を通じて助けたのよ。このワンちゃん、ちょっと頭のおかしい人に飼われていて苛められてたらしくて、私が助けた時にはほとんど死にかけてたのよ。でも私が可愛がったら、ほら、いい子でしょう。おとなしいし。ちょっと待ってね。私着替えてくるから」


Snigel、朝から妖怪おしゃべりオババに捕まる。…急いでいるのに。


仕方ないので足元でじゃれている黒い雑種の中型犬と遊ぶ。Q州の家にいる犬にそっくりだなあ…などと思っていると、着替えを済ませたおばさんがやってきた。おれ、おばさんとデートをしようというわけじゃあないぞ。


女性:「あら、お待たせして悪かったわねえ。うちのダンナったらエンジニアで、で、長男はボイラー技師なのよ。だから困ったことがあったらいつでもいらっしゃい。それでうちの娘は今度大学を卒業して先生になるんだって。女優を目指してたんだけどやっぱりそれで生計を立てるのって大変らしくて結局学校でそっち系のことを教えることにしたらしいのよ。自分で言うのもなんだけど、器量よしの娘でコドモの時からお芝居一辺倒で一生懸命練習してたわ。でもねえ、やっぱり好きなことをやるのと生きていくことってやっぱり両立できない時もあるのよねえ。でもうちの娘はラッキーだったわ。だって芸術を教えることで教壇に立てることになったんだもの。そうよ。コドモの時からの苦労は無駄じゃなかったのよ。ダンナだって喜んでいるわ」

あのー、私はただ単にスパナ1本借りたいだけなんですが。21歳の器量よしの娘が近所にいるというのはいいニュースですが、別にそれよりも何よりも私はスパナが借りたいだけでして…。


女性: 「はいはいスパナね。車の中にあるはずよ。(犬に向かって)ダメよ。今はお散歩の時間じゃないのよ。あらいやだ。トランクの中が散らかっているけどこれはダンナがね何日か前に出かけた時にそうなったのよ。あら、こんなところにスペアタイヤがあるのね。あら、スペアタイヤと一緒にちゃんとスパナも入っているのね。いやね私、そんなこと全然知らなかったわ。この車に乗ってから一度もパンクなんかしたことないわよ」

これ以上しゃべるな。読者が飽きる…。打つのにも疲れてきた。


ほうほうの体でスパナを借りてきてホイールキャップを見ると


…スパナのサイズが違う。キャップが外せない。という訳で、おばさんに捕まっていた20分をまるまる無駄にする。


AA(日本で言えばJAF)に泣きながら電話。最初から電話しとけばよかった。


で、近所の店でチョコレートを買い、スパナを返しに行くと…まあ、おばさん、もうどうにも止まらない。暇なのかなんなのか知らんが、うちの大家さんの奥さんが亡くなった時のことなど近所のゴシップをえんえん30分にわたり話し続けたのでした。私がどうやって解放されたかというと、そう、AAが着いたのでした。


ほうほうの体でオバサンから逃げ出すと、AAのおじさんは慣れた手つきでホイールカバーを外す。スパナなど使わずに。


おじさん:「え?このネジはただの飾りだよ。ここにマイナスドライバーを差し込めば簡単に外れるよ」


脱力。だったらオバサンから借りたスパナで事足りたんじゃないか。


かくしてAAのおじさんがつけてくれたスペアタイヤでとりあえず会社方面に向かって移動開始。すでに時刻は12時。会社の同僚にSMSで「安いタイヤ屋を教えて」と打つとすぐに会社の近所にあるタイヤ屋を教えてくれる。


某パブの裏側にあるという話だったタイヤ屋。なるほど、ほとんどパブの倉庫といった感じでパブという名のテトラポットについたタニシ…といった趣。入口がどこにあるかすらよくわからない。


フツー、タイヤって最低でも2本単位で売りますよね。前輪と後輪とか。ゆえに半年前に変えたばかりの後輪の両方を交換だと思い最低でも100ユーロは覚悟する。で、タイヤ屋のおじさんに言われたこと。


おじさん:「1本でもいいよ。1本35ユーロ」


…何でそんなに安いんですか?日本でも1本5000円しない新品の(再生タイヤではないタイヤ)ってあるんですか?


かくして、予想よりもはるかに安くことが片付いて安心しました。近所のオバサンとも一方的に仲良くなったし。めでたしめでたし...ということにしとこう。


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