弓削の河川敷で水遊びに興じる家族連れを眺めたあと
かすかな声がして
岸辺へと引き寄せられかけた
けれどもこの中から出ていくつもりは
さらさら無くて
坂根の堰から桃に入ったまんま
下へと滑り落ちた
救い出してほしいと思っていたわけじゃあなかった
苔に覆われずるんと滑るような丸石の川底があちらこちらに広がる瀬を
ごつりごつりと
尻を当てながら下っていった
仲間を引き寄せるため
団子欲しいとも思わなかった
カワウに見送られて　ボラに出迎えられて
鴨越（かもごし）の堰を流れ落ちた頃には
潮の香りがほのかに漂ってきた
鬼を退治しに行くような勇ましい気分にもなれず
ゆるりとした流れに身をまかせ　河口へと漂い
ありきたりな名誉とか人がうらやむ財産にも興味がなく
児島湾からさらには瀬戸内の流れへ
満たされるべき愛さえも必要ではなかったのかも
そんな思いを抱いた赤子たちの入った大きな桃どもが
流れ着く島が見えてきた
やがてこの島へと
日本一の旗を掲げて
仲間と共に攻め入る輩が現れる
勝利するのはモモタロウなのか
負けるオニとて元をただせばモモタロウに過ぎず
敗者はまことにオニなのか
勝ち誇るモモタロウもオニのごとき形相
静かに眠るオニの心根こそ優しきモモタロウ