ささやかな日々

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2022年11月05日(土) 
約束していた友達が遊べなくなっちゃった、と息子。がっくり肩を落としている。せっかくの週末、ごろごろ家の中で過ごすのはもったいなさ過ぎる。外に行っておいで、と言うのだが返ってきたのは別の返事。「ねぇばあばのところの檸檬、収穫しに行きたい」。え、先週も行ったじゃん、と返すと「だってばあば、今週には檸檬穫れるようになるって言ってたじゃん!」と。仕方なく母に電話すると、「いいわよぉ」と。まさか二週続けて実家に行くことになるとは。
自転車に乗って実家に向かう。陽射しはきらきら眩しいが、風がずいぶん涼しくなった。おかげで自転車を全力で漕いでいても漕いでいる最中は汗もかかない。「ねぇ母ちゃん、この前より速い気がしない?」「んー、どうかなぁ」「速いよ、ここ通ったのもっと時間かかった気がするもん」「そうなん? じゃぁそうなのかなぁ」。息子のペダルを漕ぐ足もずいぶん勢いづいてきていて、斜めに振り返ると真後ろにいたりする時があって内心驚く。いやいや息子よ、適度な距離保っておくれよ、と言うのだが、「うんわかった!」と返事は必ず来るのだが、彼はすぐそれを忘れるらしい。だから気づいた時には私がスピードを上げて距離を保つよう努力することにする。
最後の大きな交差点から右手にあがったら、そのあとはひたすら上りが続く。でもこの間もうこの坂はクリアしたから大丈夫だろう。私は彼の漕ぐ様子を見ながら思う。程なく丘の頂上に辿り着き、頂上にある公園で一息つく。「ブランコ乗って来るわ!」と息子。え、休むって言うから止まったのに、と思ったが、まぁ一分二分、いいだろう、私も付き合う。ここからは下り坂。数分で実家、という距離。
実家に着くと、早速カマキリの卵を確認しに行く息子。「寄生虫ついてないかなあ」心配そうだ。でも、いくら心配したってそういうものはどうしようもない。私は心の中思う。どうしようもないところで私達も虫達も生きてる。そういうもんだと思う。
「檸檬より柚子が穫れ頃なのよ」。母が植木鋏を用意している。「どちらも棘があるから気を付けてよ」「大丈夫だよぉ」と息子。ばぁばと並んで樹の前に立ち、どれにしようかなぁなんてやっている。私は少し離れたところで一服する。
母がバトミントンをやっているからだと思うのだが、実家に来ると息子は何かにつけバトミントンをやろうと言って来る。もちろんばぁばが相手をしてくれるのだが、途中から私も引っ張りこまれる。帰りの自転車もあるからあまり体力使い過ぎたくないんだけどなぁと心の中で思うが、まぁこういう時じゃなきゃやらないからいいか、と私も私でやってしまう。
「ばぁば、そこ!カマキリいる!二匹!」。ばぁばがサーブしようと構えたところで息子が叫ぶ。え?!と私と母が振り返ると、なるほど、足元に。こんなところになんでいるのかしらと母が言うと、「ばぁば、だってここ、なんでかしらないけどバッタがいっぱいいるんだ」と。息子の目は一体どれだけカマキリに反応するようにできあがっているのだろう。カマキリもバッタも私たちはまったく気づかなかったのだけれど。
二時間ほどそうして果物をとったりバトミントンをしたりして過ごす。「ねぇお父さん、足、ずいぶん悪くなったね」と母にそっと耳打ちすると「そうなのよ、でもね、絶対認めないの」「うん、さっき私もお父さんに言ったら、断固として受け付けない感じだった」「でしょ? 困っちゃうわよほんとに」。そう母は言うが、ちっとも困ってるふうじゃなく、まぁいつものことよという感じ。それが、父と母の距離感なんだろう。
帰り道、走っていると「母ちゃん、行きより帰りの方が絶対速いよね!」息子が言う。「帰りの方が景色に慣れてるからそう感じるんだよ」「そうなの?」「うん」。

来週には家人がパリに出掛ける。私達はしばらくふたりきりになる。


浅岡忍 HOMEMAIL

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