ささやかな日々

DiaryINDEXpastwill HOME


2022年10月27日(木) 
南の町から手紙が届いたのが十日前。ようやっと返事を書き始めた今夕。その間にすとんと夕日が堕ちていった。音もなくただすとん、と地平線に沈む夕日を見、しばらくぼんやり。そして再び手紙書きに戻る。

荻上直子著「川っぺりムコリッタ」を読み終えた数日前。電車の中でぽろぽろっと涙が零れてしまった。何だろうこの涙は。零れ落ちた涙に気づいて改めて考える。うまく言葉になりきらないのだけれども、私はこの小説の中に、可能性を見たのかもしれない。ひとの持つ可能性。
やり直しを赦さない社会。ひととの繋がりが希薄な世界。そんなふうについ感じてしまいがちな今日この頃の私たちの住まいだけれど、でも、信じることをやめたらそこでおしまいだよな、と。そんなことを改めて思わせてくれる小説だった。
食べるということについては梨木香歩著「雪と珊瑚と」が私にとっては一番の小説なのだけれど、この「川っぺりムコリッタ」は、食べることを礎に、ひととひととが繋がってゆく、そんな風景をありありと見せてくれた。映画もよかったけれど、映画の脚本のト書きになっていただろう部分が伝わり切らなかったところがあって、だから小説で読むとすとんと堕ちて来る、そんな感じだった。
そういえば、「川っぺりムコリッタ」の後続けて「マイ・ブロークン・マリコ」も観たのだった。こちらの方がストレートに心に来た。どちらも、演者たちの演技がとてもよくて、しみじみ感じ入った。自分がかつて演劇部にいたことも今更だけれど思い出した。いっとき夢中になったんだったっけな、舞台に、と、思い出すとこっぱずかしさもあるのだけれど、でも、思い出せてよかった。
そうして今、葉真中顕著「ロスト・ケア」を読み始めたところ。
読める時は徹底的に読んでおく。どうせまた全く読めない時期が来るのだから。読める時はだから、我武者羅にがっつくように読む。Tさんから「一体あなたはいつ寝てるの?」と笑われる。いや、でも、最近前より寝てるのだ、私。

ワンコが数日前体調を崩した。家人は大丈夫というのだけれど、私にはどうにも大丈夫に思えず。その夕、ワンコが猛烈に嘔吐し始めたので急いで動物病院へ。いつもの院長先生に診てもらう。「腸閉塞かもしれないなあ」と言われる。注射2本打たれて消化の良い病院食を分けていただいていったん帰宅。様子見。いつもみたいに寝返りを一度も打つことなく、丸まってしょぼんと寝ているワンコを見ていたら、もう寝るどころの話じゃなくて、だから、ワンコの隣で私も丸まっていた。
そうして翌日再診。昨日より様子がよくなっていたこと、嘔吐が止まったことから、最悪の状態は脱したようで。五日間薬で様子を見よう、ということになった。そうして今、三日目。
少しずつだけれど、いつもの調子に戻り始めている。嘔吐はあれ以来していない。うんちがゆるゆるだけれど水浸しのような状態は脱した。
ワンコが具合悪くなって、改めて、この子は間違いなく家族の一員なのだ、太い太い楔のような存在なのだ、と痛感する。

ひとは言葉を操る。でも、その言葉でひとを傷つけたり失敗したり、を繰り返す。
ワンコは言葉を喋らない。でも、全身でこちらに寄り添って来る。言葉を喋らない分以上に、こちらの様子に敏感だ。
だのに、ひとは。どうしてこうも鈍感なのだろう。言葉を操れる分だけ鈍感になっていっている気がする。
言葉って、何だ。


浅岡忍 HOMEMAIL

My追加