ささやかな日々

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2022年05月09日(月) 
見事な曇天。薄墨色の雲は何処までも垂れ込めており。いつ雨が降り出してもおかしくないなという様相。プランターの植物たちに水やりをしようかどうしようかしばし悩む。天気予報は午後から雨。明日の朝まで様子を見ようか。雨の降り方次第で、明日水やりをするようにしよう、今日はとりあえず様子見ということで。
水を遣り過ぎても、ろくなことはない。うどんこ病やら根腐れやら、要するに、どんなことも「適度に」為すのがコツなのだ。適量適度。やり過ぎるくらいなら、少し放任の方がまだいい。
それにしても。今年は雨が続く。沖縄はもう梅雨入りしたと誰かが言っていた。もうそんな季節なのかと唖然とする。

アートセラピー講師の日。いつ降り出してもいいように雨合羽をリュックに入れて自転車で走り出す。少し肌寒い風がひゅるひゅると吹いてゆく。肌寒いのだけれど、私自身はここ数日ホットフラッシュの発作が激しくて閉口している。
道中、公園や街角で紫陽花の茂みとすれ違う。その紫陽花たちが蕾をたくさんつけていることに気づく。私はピンク色の紫陽花が苦手だ。青や紫はこんなにも好きなのに、何故だろう。小さい頃からそうなのだ。ピンクの紫陽花を見つけるとつい後ずさってしまう。いや、そもそも、ピンク、という色が苦手なんだろう。女の子を象徴するような色として存在するピンク色が、正直何処か、怖い。我家にはそういえば、ピンク色の花は一輪も、ない。手元でピンク色を育てようと思えないからなんだろう。
今日は風景構成法を一年ぶりに為す予定。11の要素を順番に黒のサインペンで描いていってもらう。すべての要素を描き終えたら、色鉛筆で色を付ける。ただそれだけなのに、それをどこにどう配置するか、どんな遠近でもって描くのか等で、そのひとの今の状態が手に取るように分かってしまう。
要素を一個一個正確に描き出し並べるひともいれば、要素がどれがどこにあるのか説明をしてもらわないとこちらに分からないような描き方をするひともいる。そもそもこれは想像力を働かせて描くものなのだけれど、実際の風景を当てはめて描くひともいたりする。11の要素をただただ並べて、つなぎようのないような描き方をするひとも。そういった絵を前に、カウンセリングを丁寧に為してゆく必要がある。たとえばこの絵の季節はいつで、時間は何時頃で、その季節や時間はそのひとにとってどんな意味をもっているものなのか、等。色も重要だ。そのひとがたとえば花を何色に塗っていたか、樹の葉の色は何色なのか、それはどんな意味が込められているのか等。一個一個辿っていくと、そのひとの「今」のありようがつぶさに浮かび上がってくる。
ああ、このひとは今焦っているのだな。想像する余力もないくらい焦っているのだな、とか。ああこのひとは統合失調の症状が相変わらず強いな、とか。足元が不安定で障害が大きく立ちはだかっているのだな今の心境は、とか。話を伺えば伺う程、ありありと絵が、絵を描いたそのひとの心持ちが、こちらに迫って来る。中には、自分の矛盾を無理矢理力技で相手に納得させようと躍起になるひともいたりして、そういうひとの認知の歪みは本当に度合いが強い。こちらを巻き込まんばかりの勢いがある。
そうやって辿りながら、同時に説明をしているうちに、あっというまに時間オーバー。駆け足で何とか説明を終える。
施設の外を彩るビオラやネモフィラが曇天の下きれいに咲いている。もう種をつけている子もいたりして。私はメンバーに手を振って、また次回!と約束しながら自転車に跨る。辛うじてまだ雨は降り出していない。
走りながら、どうしてもひっかかったYさんの絵についてあれこれ思い巡らす。非常に矛盾した、同時に「彼にしか分かり得ない」構成の絵を描いたYさん。彼の説明をまず聞いていたのだが、その無理矢理さ加減に心の中驚く。彼の説明と絵がまず、一致していない。明らかに一致していないのだけれど、彼は朗々と堂々とそれを説明する。あたかもまるでそれが正しいかのように。つまり、彼の中でそれは「正しい」のだ。絵と、彼の説明と、そこから導き出されるのは彼の認知の歪み、だ。その歪みはかなり強烈で、下手すると周りを巻き込もうとする。周りを支配しコントロール下に置こうと躍起になっている。それが絵でありありと分かる。ああ、まだまだ彼は渦中の人なのだな、と。そのことを私は思う。言葉では彼は「僕はもう自覚しています」というようなことを繰り返し言っているが、いやいや彼は自分の歪みにちっとも気づいていない。或る意味怖い。後日スタッフのひとたちともいろいろ共有しておかないと、と思う。

夕方降り出した雨は冷たく。街往くひとたちみな、上着をぎゅっと着込んでいる。明日の天気はどうなんだろう。雨は止むのだろうか。止んで、ほしい。だって。
空の青に、私は会いたい。


浅岡忍 HOMEMAIL

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