ささやかな日々

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2021年05月09日(日) 
早朝、あまりの曇天にあんぐり口が開いてしまう。まるで雨が降りそうじゃないか、と、慌てて廻しかけた洗濯機を止め、天気予報を確認する。雨の予報はなし。じきに晴れてくるとのこと。安心して再び洗濯機のスイッチを入れ直す。
今日は息子とばぁばの家まで行くことに。クロアゲハの幼虫たちの食料をゲットしに行く。母の庭にはキンカンもレモンの樹もゆずの樹も、みんなある。柑橘系の葉ならきっと食べてくれるに違いない、ということで、7時前に家を出、自転車を走らせること一時間。ようやく辿り着く。
母の庭は相変わらず賑やかで。「もう80になって庭の手入れがまったく追いついていかなくなったのよ」と母は愚痴るのだが、そのそばから「これようやっと根付いたのよ、見て」なんて言っている。確かに手入れは十分には行き届いていないのだろうが、母の、庭への愛情は変わらずで、私は安心する。
キンカンやレモンだけではなかった、母はなんとグレープフルーツの樹まで育ててしまっていた。「種からね、育ててみたのよ。でもあんまり美味しくなかったわ」と笑う。いや、母よ、種から育てることが珍しいのだよ、と心の中反論する。
ゆずの樹に、クロアゲハの幼虫を一匹発見。息子と二人にんまりして、早速葉を手折る。ビニール袋を膨らませてその中にそっと入れる。この子も我が家の虫籠の仲間入りに決定。
父の足の腫れは、ズボンを履いた上からも分かる程で。膝も変形し始めているらしい。口には出さないが耳もさらに遠くなったようだ。母がこっそり私の耳元で「補聴器作らなくちゃって思うのよ」と言う。
ビニール袋いっぱいに、キンカンやらレモンやらゆずやら何やら、とにかく柑橘系の枝葉を摘んで詰め込む。あっという間に山盛り。これで当分なんとかなるね、と息子とハイタッチする。
コロナを気にしている父母に、早々に手を振り別れる。息子が「じいじもばあばも可哀想だね、コロナのせいだね、コロナめ、まったくー!」と自転車の後部座席で叫んでいる。本当にそうだ。コロナなんてもんがなければ。
自転車を走らせる帰り道、私は心の中、あれやこれや思っていた。父と母はそう遠くない将来逝くだろう。最近会えば遺言書がどうだとかああだとか、しつこく言ってくる。私はあまり真剣に聞いていない。お金の話を父母とするのは苦手だ。そもそも彼らと長い時間顔を突き合わせているのはまだ私には無理だ。しんどい。
いや確かに、彼らが私を、彼らなりに愛してくれていたことは知っている、分かっている。承知もしている。でも、だからといって私は彼らとの距離をこれ以上詰めるつもりはない。一定距離を保っておかなければ、私と彼らはきっとまた、互いに傷つけ合うしかなくなる。

夕方ワンコの散歩を終えて帰宅してから、ベランダの植物たちにたっぷり水を遣る。朝の曇天なんて何処へやら、夏日としか思えない程強い日差しで、プランターの土はからからに乾いていた。たんまりたんまり、なんてぶつくさ言いながら水を遣る。何度も風呂場とベランダを往復する私を、ワンコが不思議そうに見ている。
早い夕飯を食べ終えてすぐ、家人は寝てしまった。息子が驚いたような呆れたような顔で「ねぇ母ちゃん、もう父ちゃん寝ちゃったよ、一分も経ってないよ?」と笑う。「僕全然寝れないよ」とも。だから「ワンコの背中に手を置いて目を閉じてると、あっという間に眠れるよ」と教えてやる。「ほんと?」「ほんとだよ」。
息子と私がそれぞれにワンコの背に手を置くと、ちょっと迷惑そうな顔をしたものの、黙って伏せをしているワンコ。なかなかデキた奴だな、おまえは。
それにしても。一日中ぼんやりと頭痛が。鈍い痛み。二錠だけ薬を飲む。これで痛みが取れるといいのだけれど。


浅岡忍 HOMEMAIL

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