日記
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2018年03月09日(金)

 私より後から起きてきた妻に、「いびきかいてたよ」とちょっと意地悪く言ってみると、彼女はとても嫌そうな顔をして、「大きかった? うるさかった?」としつこく聞いてくるので、「うーんそうだね、目が覚めたからね」と答える。本当のところを言うと、そのいびきは寝息をちょっと大きくした程度の、気にならない程度の音だったのだけど、そんなふうに言ってみたのは、少し大げさに言ってみて、彼女がどんな反応をするのか見てみたかったからだった。

 私は妻がいびきをかいてもかかなくても気にしないし、そのことはもう前から伝えているんだけど、彼女はたぶん”いびきをかいている自分”が許せないようで、どうにかしていびきを止めようとスマホを手にいろいろと調べ始めた。

 翌日にはもう、アマゾンから鼻に突っ込んで鼻腔を広げるシリコンのようなものが届いていた。妻はそれを鼻に突っ込んで、「痛い……」とつぶやきながら眠りについた。次の朝、どうだったと聞かれたので、あんまり変わらないんじゃないかな、と答えると、そのシリコンのようなものをゴミ箱に捨ててしまった。

 その晩から、彼女はまったくいびきをかかなくなった。というか、聞こえるかどうかわからないほど小さな寝息しか立てないようになった。ちゃんと息をしているかどうか心配になるくらいに。

 いびきが意志の力で止められるなんて、私はこれっぽっちも思っていない。だけど現実に、妻のいびきは止まってしまった。彼女は寝るときも緊張を強いられているのかもしれない、彼女は十分に眠れてないのかもしれない、私の軽い一言が彼女をそうさせてしまったのかもしれない……私のほうがそんなことを考えるようになってしまった。

「まだいびき聞こえる?」と聞いてくる妻に、「もう全然聞こえないよ」と答えると、彼女はとてもうれしそうな顔をする。そして目の下の隈を隠すため、化粧道具を手に洗面所へ向かうのだ。


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