2008年08月30日(土)...餞別

 仄暗い部屋と煌くディスプレイ、煩いほどの声と罵声、きらきらと光る諦めや自嘲に飲み込まれてゆく。疲れたという言葉さえ宛てを持てずに、埃臭いベッドへとただ浸み込むだけ。結局、演じることで廻る世界に踊らされて、何ひとつ残らない。虚栄と自尊心の境も見えぬままに、ただ守ろうと躍起になっていても、本当に欲しいものはもう何処にも、無い。馬鹿みたいだ、と思った。
 鼻風邪に効くカプセルの、白い粒だけ集めれば幸福になれる、だとか、白粉草とナツメグのアロマで夢が見られる、だとか、一瞬の輝きを手にする為に支払う嘔吐や眩暈、目の玉が抉られる様な頭痛。そんなジンクスを試す余暇すら奪われて久しく、ただ終わらせて欲しいと、白や灰色で固められた科学を体内に捩じ込む。
 仰向け、痺れた腕と、重く圧し掛かる腹、今にも口から零れそうな水分と、込み上げる厭な痞え。天井がぐにゃぐにゃと蕩けて、ぽたり、ぽたりと落ちる。額に押し当てた手の平、目蓋や鼻筋を伝う、生温い、雫。肺を満たす匂いに眉間に皺を寄せる、つもりになって気付く、動かない表情。酸素を渇望して、身体を丸める。何処までも、落下する感覚。透明になってゆく、透けて見える。携帯から弾き出される言葉も、もう必要の無いものに思えて、救えない、救われない、救われてたまるものか。
 倖せになれない、なりたい、なれる筈がない。ひゅうひゅうひゅう、加速度が増す。あの、無理矢理に乗らされたアトラクションよりも遥かに早いスピードで、降下する。ハレルヤ。
 デスペレートの中に詰まる躍動がうずうずと溢れて、何か途方も無く可笑しくなった。アハハ。唐突に湧き上がる衝動、壊したい、失くしたい。無かったことにしたい。投げ付ける宛ては宛てではなく、始まりすら無かったのだと思い知るだけ。知っている。
 誰も帰ってこない、誰も気にしない、素晴らしい決行日。さようならの向こう側に待ち人は居るのだろうか。

2008年08月01日(金)...卑怯

 傷付けて追い詰めて、其の果てに生じる後悔と罪悪感に裏打ちされなければ優しさを発揮出来ない。不満や哀しみを堪えた肯定の中に潜む従順を確認したいだけ。

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