2005年10月31日(月)...秋栗の、
掲示板に張り出された休講の文字に、歓喜が全身を駆け廻るのが解った。早々と乗り込んだバスの乗客はひとりで、それでも朝とは違ってほかほかとして居る。
到着した駅で買ったワッフルを黙々と食べながら、今夜はもしかしたら呑まれずに済むかもしれない、と思った。
2005年10月30日(日)...止めて欲しい
学校、塾、予備校、乗り合わせたエレベータや電車、病院。そんな、偶然世界から少しずつ母性や父性を探して、必死に繋ぎ合わせても望むものなどには成らない。掻き集めている間にも時計は関係なく進んで、初めからゆるゆると紡ぎ直してくれる誰か、など在りもしないものを求めてはデスペレートしてみる日常。
昨日より深く、昨日より深く。そうやって終焉の切欠を失った行為はエスカレートしていて、義務感と焦燥感が日増しに募ってゆく。衝動を堪えるために眠気を引き出して、明日を続けていた。
2005年10月27日(木)...分岐点
午前9時を回った新快速はひとが疎らで、ゆったりと腰掛けたシートの先に広がる長閑を噛み締めていた。丁度良い空調と静けさの中でぼんやり映すビルに、陽射しがきらきらと反射していて世界の美しさを思った。
流れ着いた先のマクドナルドでは、既定の生活様式から少し食み出したひとたちが規定された制服やスーツを巧みに着崩して、新聞や携帯に眼を落として居る。
此の侭、使い古された口実を手に逃げて仕舞えば、また何事も無かったかの様に世界に合流することなど出来る筈もないのは解っているけれど。
2005年10月22日(土)...裏打ちの無い
今なら大丈夫だと思った。悲観に後押しされた無敵がじわじわと身体から沸き立って、頭の芯が熱いことに気付く。半開きの眼に掛かる睫毛で不鮮明になった視野は、無造作に落ちている其れを捉えた。リビングから漏れるテレビの音が酷く煩く耳に纏わり付いて、眼の奥がちかちかと揺れる。カチカチと苛立ちを表した後は空っぽな達成感が転がっていた。
2005年10月20日(木)...風が速い
秋晴れの水色と白の流動を眺めて居ると、地面がぐらついて気持ちが悪くなった。眼の奥がちかちかして、頭が酷く痛む。薄桃色の携帯電話に揺れるストラップがちりん、と音を立てた。
2005年10月13日(木)...授業中
無理だ、と思った。久々の快晴にきらきらと透ける埃が、世界を穏やかに遠ざけてゆく。
ルーズリーフもシャープペンシルも酷くかさかさとささくれ立っていて、大教室に響く音声が言葉を成さず有耶無耶になって広がり続けていた。子供っぽさを引っ張り出す度に、付随する厄介がずるずると攀じ登って吐き気がする。
焦点の合わない視野に飛び込んできた黒板の、エンドルフィンという文字に酷く卑猥さを憶えた。
2005年10月10日(月)...その柵の前で
先々週末からの漠然とした感傷が、そろそろ収束へと向かっている。肺の中には薄っぺらな共感が漂っていて、ディスプレイ越しに残る役目を終えた文字が酷く不恰好に見えた。
買ったばかりのNintendo DSを弄りながら、ふわふわとした蟠りを和やかに塗り潰してゆく。違和感を含んだ美しさと造られた穏やかさ、白さが脳裏を過ぎって、気持ち悪さと呆気無さの間にある感心がへぇ、と口から零れた。
2005年10月09日(日)...胃洗浄
食道に押し込まれたチューブの感触がまだ生々しく残っていて、胃がひくひくした。喉仏の奥がちりちりと痙攣して、唾液を飲み込む度に少し疼く。点滴の刺さった左腕に、隠すようにそっと掛けられていたタオルケットが優しさの様な気がした。ぼんやりとして酷く白い視界の先には、虹がくるくると渦巻きながら点滅を続けている。
2005年10月07日(金)...エンドルフィン
首筋が徐々に緩んで、ゆらゆらと腕の力が抜けるのが解った。オレンジ色の視界に追い討ちを掛ける様に部屋を埋める音楽が反響して、脳味噌を詰っている。重複する声がついには会話になって、呼吸をするだけでひくり、と痛む頭に時代を映し始めた。
>フィイドバックを衰退させて醒めぬ夢を見よう
2005年10月05日(水)...戻りたい
甘過ぎるココアラテを飲みながら、明日がなければ良い、と思った。未来を気に掛けて今日を積み立てる遣り方にそろそろ限界を感じている。
睡魔を引き摺り出して、総て壊して仕舞いたい。
2005年10月04日(火)...痛覚がなくなる
毎朝に挟む疑念が少しづつ少なくなっていって、今日にはもう何の隔たりも無かった。背中に感じる振動にゆっくりと世界との膜が破られてゆく。自我がとろとろと器から溶け出して、何処まで広がっているのかさえ解らなくなった。
浮遊する核は全ての感覚を失くして、其の余りにもの存在の希薄さに実感を得るためにならば痛みですら良いとさえ思う。
2005年10月01日(土)...鈍感になる
捲り損ねたルーズリーフの端が折れて、勉強意欲がするすると身体を這い出してゆくのが解った。皮膚の隙間からは浅緋色がちらりと顔を覗かせている。シャープペンシルで白くなった皮膚を突きながら、遠ざかった教師の声をぼんやりと耳にしていた。
潤んだ赤は水分を保ったまま隙間を徐々に埋めて、ひと指し指にぴりぴりと響いた。