蜂蜜ロジック。
七瀬愁



 少し休憩+追記

次は何書こうかなと迷って小休憩。
そう言っていても、夜にでも明日の日付で書くかも。
内容はまだ決めていません。
高校生編か、Flowerのシュウスケ視点か、そこら辺かと思います。
ほかだと…ちょっと思いつきません。
ホリックでもいいですね、ちょっと考えます。

**********

Flowerですが、いい加減これもちゃんとしたタイトル考えたいと思います。
マヒロのモノローグに「花」とあったので、二秒で決定したものですが、当初適当に書いてたので思い入れが全くなかったのも影響しているようで。

そろそろ本腰入れて、書き直そうかな。
再掲載じゃなくリライトに近い感じ?になるのかなー。

というわけで、トーヤくん視点で短編。

2007年11月30日(金)



 中学生編4(春の日)

「有り得ないって言っといて」

ぱらぱらと、ノートをめくる。
どの箇所も、展開の書き方が綺麗で整っている。
変なところで几帳面だ。

「だよね」

気のない返事をした相手は着替えの最中だったらしく、上半身裸のままクローゼットを開けていた。
見慣れすぎて特に感想もないけれど、何か言うならもう少し筋肉付ければいいのに、と思った。

「ノート借りて行っていい? 後でちゃんと返すからさ」
「ん」

開けっ放しだったコーラを、ごくりと飲む。
細かい泡が、喉で弾けて通り過ぎる。
美味しいとは思わなかった。

視界の端に近付いてきたのが見えて、ベットが揺れた。
隣に着替え終わった春日が、右側に座る。この並び方は昔から同じ。

もう残り少なくなったボトルの中身を飲み干すのを、見るともなしに見ていた。
黒い液体を嚥下するたび動く喉元は、もうあたしと同じような造りじゃない。知らない間に、少しずつ変わっていく。
その内にこうやって勝手に部屋に入ったり、出来なくなる日が来る。

不意に春日がこちらを向いた。

「ね、泉ちゃん」

珍しく、真面目な口調。

「なに」

いつも通りの答えをしたあたしに、春日はいつも通りの顔をしなかった。

「橋田じゃなくって俺だったら?」
「は?」
「俺でも有り得ない?」

何を言っているのか分からなくて、聞き返そうとした言葉は、宙へと消えて行った。

すぐには、状況が飲み込めなかった。
ただ背中に感じるスプリングのしなりと、唇に感じる幾分冷たいコーラ味。

「――っ」

すぐ目の前にある、幼なじみの従兄弟。
たぶん、たった数秒。慣れない感触に戸惑い、じっと相手を見ていた。
全てが止まったように長く感じ、体は金縛りにあったように動けなかった。

今の、何。

「あれ。固まった?」

離れた唇の合間に、吐息みたいな台詞が漏れた。
確かに触れた、唇。

「な――」
「どうしたの」
「な、なにして――…っ」
「あ。もしかして初めてだった?」
「当たり、前…っ」

叩こうとした手はあっさりと絡めとられて、ベットに押さえ付けられる。
それからついでみたいに、唇を舐めとられた。

「何で、こんなこと…っ」
「何でって」

混乱する。そしてそれよりも。

「…むか、つく」

上から見下ろしてくる春日は明らかに優位に立った表情をしていて、何故だかあたしを不安にさせた。

「怒った?」
「わかってんなら、どいて」
「りょーかい」

あっけなく解放して、相手が起き上がる。
体にかかる負荷はなくなったって言うのに、動けない体。
それでもゆっくりと起き上がって、それから唇を拭った。

「なん…何、で」
「だって俺、泉ちゃん好きだし」
「は、」
「好きだよ」

唇が妙に熱い。
知らず内に手で押さえる。
少し濡れたそこは、初めての感触を覚えたみたいに、震えていた。

こいつが変なことしたからだ。最悪。
鼓動がうるさい。
静まれ、心臓。何なら止まったっていい。

こいつのせいだ。

真っ直ぐに見つめられているのに、あたしの目は相手を捉えず、混乱した頭の中を一生懸命整理するので精一杯だった。


【END】
**********
おわりです。
読んでくださった方、投票してくださった方、ありがとうございました〜。サイト掲載時は部分修正かけます。

2007年11月29日(木)



 中学生編3(春の日)

しばらくしてエアコンから風が流れ出してから、窓を閉め、またいつもソファ代わりのベットの上に戻る。

「あー…眠い」
「いつまでも横になってるからじゃないの」
「アイス食べたら目が覚める」

何を言っているんだか。

「だから下行けばいーじゃん」
「そうだね」

伸びをして相槌を打っていたくせに、急に起き上がり横から擦り寄るようにして手に持っていたアイスをくわえた。

「あーっ何すんの!」
「もう遅い」
「返してよ」
「無理。てかもうないし」

一口で残りを食べてしまったらしく、触れた春日の手には棒しか残されていなかった。

「さいあく」

腕を掴んだまま文句を言うあたしの手をやんわりと離して、「欲しかったら下行けば?」なんて憎たらしい口をきいてくれる。

「うっさい」

出した手を避ける相手を一つ睨んでから、そっぽを向いてベットに横たわった。外の熱気とは雲泥の差の快適に、眠くなりそう。これじゃ、ミイラ取りがミイラになってしまう。

ゴミ箱に棒を投げ捨てたのか、かたん、という音がした。

「そんで。何か用事あって来たんじゃないの? 起こしに来ただけ?」

その言葉に閉じかけていた目が、ぱちりと開く。そうだ。

「――忘れてた、春日、化学の宿題やった? 見せて欲しいんだけど」
「は。なに。化学?」
「うん」
「やったけど。机んとこにあったはず」
「これ?」

相変わらず大して物がない机の上からは、あっさりと目当てのノートが見つかった。

「そう、それ」
「ちょっと見せて」
「いーけど、その代わりコーラ買って来て」
「何で」

唇を尖らせて睨んで見ても、「それくらいしてくれてもいいでしょ」と相手はあたしの手からノートを取り上げた。
文句を言いつつも、諦めて妥協する。
見せてもらう側としては、あまり大きくは出れない。

「じゃあちょっと待ってて、買ってくるから」
「ん」

見送られ階段を降り、再び裏口から外に出た。鈴菜おばさんにどこ行くの、と声を掛けられる前に扉を閉めた。
母親がいなくなってから、おばさんはよく構ってくれるようになった。
その気持ちは嬉しいけど、姿形や声までそっくりなおばさんを見る度、複雑になって上手く視線を合わせられなくなった。

痛いくらいの陽光に、頭がくらくらした。
毎年どうしてこんなに暑いんだろう。
春生まれのあたしには、夏の熱さも冬の寒さも大きな敵なのだ。

近くの自動販売機でコーラを買って、再び家に上がって階段を駆け上がる。

「さっきから何してんの、泉。春日起きた?」

後ろから、鈴菜おばさんの声がした。

「うん、起きた。ちょっとノート見せてもらうんだ」

手に持っていたコーラを見せると、そのまま一気に部屋まで行った。

「私出掛けるんだから、早く朝ご飯食べるように言ってちょうだい」

閉めた扉の外で、急いているらしいおばさんの声がした。
部屋の中はもう充分冷えていて、少し滲んだ汗がひやりとする。

「ご飯食べなって」
「あー……いらないって言ってきて」

寝起きの悪さのせいで、朝食はほとんど食べていないらしい。

「何で、あたしが」
「けち」
「うるさい。今日も外、すっごく暑いんだからね。そんな中で買って来てあげたんだから、感謝して感謝」
「ん。ありがと」
「…いーけど」

素直に返されたお礼に幾分戸惑いながら、手渡されたノートを広げる。

わりと見やすい字で、きちんと最後まで問題が解かれてあった。
こういうところは手を抜かないのが、春日らしいと思った。だらだらとしているくせに、やらなきゃならないことはやる。少し感心してから、いまいちわからなかった箇所を見た。

ああ、つまんない勘違いしてただけか。何だ。
色々と労働したせいか、感動が薄い。しばらく取り組めば自力でわかったような問題だったわけだ。

「そういやさ、うちのクラスの橋田が泉ちゃんと付き合いたいって言ってたんだけど」

ベッドから降りしなに、思い出したように春日が言った。

2007年11月28日(水)



 中学生編2(春の日)

東向きの窓からは、陽の光が差し込んできて眩しい。
それなのに少し前まで冷房でも付いていたかのように、部屋の中はひんやりとしていた。

「ほら、起きなって。早く」
「…さ、い」

ベットのほうから、小さく返事が聞こえて振り返る。
覗き込んだ横顔は少し眉を寄せているものの、確かに寝ていた。

「起きなってば」

もう一度、声をかける。

「……うるさい…」
「な、」

寝言だと、思うけれど。
体の向きを変えて、一直線にそちらへと歩み寄り。
そしてアイスをくわえたまま、薄い背中を思い切り蹴った。

「――でっ!」

叫び声を上げた部屋の主は、驚いたように起き上がった。

「うるさいな」
「な――…なに、すんの」
「むかつくこと言うからだろ」
「…は?」

むくりと起き上がり、寝癖の付いた髪をがしがしと掻いて、あたしを見る。
どうやら本当に、無意識で口にしたらしい。

「あ、」
「なに」
「それ、俺もほしい」

あたしの舐めるアイスに目を止め、指を差した。

「下行けば」
「泉のでいーよ」
「呼び捨てにすんな」

まだ眠いのか、ぼうっとした顔のまま座り込む相手の頭を、軽く叩く。ぱしん、と軽快な音がした。

「すぐに手出すのやめてくれる…なんか背中痛いんだけど」
「結構本気で蹴ったし」
「…何で、朝からそんなことするかな」
「そっちが悪いからじゃん」

べぇ、と舌を出せば相手はまだ眠そうな目を細めて、小さく笑った。
それから隣に座る。
正反対、とはいったけど外観を見るにあたし達はかなり似ているらしい。

髪の長さから顔に体つきまで似通うと鈴菜おばさんなんかは言うけど、それは多分に春日が、繊細な容姿をしているせいだと思う。

「泉ちゃん、エアコン付けくんない?」
「体温おかしいんじゃないの、涼しいじゃんこの部屋」
「湿気てる」

乾燥するより良いと思うけど、と独りごちながら立ち上がって、窓の脇の壁に付いたリモコンを取り、スイッチを押した。

2007年11月27日(火)



 中学生編1(春の日)

深い眠りの中、あたしの視界はどこもかしこも真っ暗だ。

不意に頭に触れる手に、体が反応した。
首筋に息がかかるのが、くすぐったいと思った。

「……今、何時」
「八時。まだ起きないの」

耳元で聞こえた声は朝にしてははっきりとした発声で、どこか浮かれているように感じた。
でもあたしの目は開かなくて、ベッドの温もりがさらに睡魔を誘う。

「起きてよ」

子供みたいだと思った。
出掛ける約束を心待ちにして早起きする、そんな幼さ。
朝日に瞼を照らされて、ぼんやりとまどろむ。

昔は逆だったはずなのに、いつからこうなったんだろう。
面倒臭そうに布団を被り直す春日を揺り起こすのは、いつだってあたしのほうで。それは変わらないように思ってさえいたのに。

もうずっと昔になる、夏の暑い日の一日。
あれはいつのことだっけ。

*

真夏日。そういう表現がぴったりの陽射し。
朝から容赦なくアスファルトを熱する太陽は、先週から絶好調らしい。

中学になって二回目の夏休みになれば、ある程度の要領もわかってくる。
前半に課題を終わらせて、後半は好きに使う。
あたしの予定はそれで決まっていた。

少しつまづいた問題を解くには近所の従兄弟の存在が何よりも便利で、家族ぐるみの付き合いもあったのだろうけれど、春日の家に行くのは何の抵抗もないことだった。

「ああちょうどいい時に来た。悪いけどさ泉、上行って春日起こして来てよ」

慣れた裏口から入って来たあたしを見て、フライパンで野菜を炒めていたらしい鈴菜おばさんがそう言った。
それから駄賃とばかりに、冷凍庫からアイスキャンデーを取り出し、手渡してくれた。

中学二年生にもなってアイスに釣られたわけじゃないけど、炎天下の外から来たばかりの火照った体には何よりもありがたい。「ありがと」と受け取ってから袋を破いて取り出し、きんきんに冷えた氷菓を口に入れた。

口内にくっつく程の冷たさは、上がりすぎた体温を幾つか奪い去っていった。

「アイツまだ寝てんだ?」

ソーダ味のキャンデーを口に含みながら、階段を上がる。行儀が悪い、とよく嗜めたあたしの母親は昨年に交通事故であっさりといなくなった。

後ろから「起きなかったら蹴っていいから」おばさんの明るい声がする。
一時期は避けていたこの人の顔も、真正面から見ても平気になった。

あたしと春日の母親は、双子の姉妹だった。

結婚した時期も同じなら、妊娠して出産した時期も同じで「さすが双子ね」なんてよく自分達で笑い合っていたらしい。
でもその偶然は、子供達には及ばなかったらしく、同じ春に生まれたあたしと春日は、性別からして異なっていた。

従兄弟というだけあって、容姿は似ていると言われたけれど、内面に関してはまるで正反対だったと思う。

それに関しては良くも悪くも思ってない。
別々の人間なんだから、違うところがあって当然だからだ。

軽快に走って上りきり、扉を開ける。
最初に視界に入る位置にあるパイプベットで、死んだように俯せに寝る春日に「はる、」と呼び掛けた。
動かない。たぶん、聞こえてもない。

もう一度「はーるっ、起きて」と言って、カーテンと窓を開け放った。

**********
続きます。

2007年11月26日(月)



 ミステイク1

マヒロ(女子高生)
ハルト(マヒロの隣人、長兄)
ナツキ(マヒロの隣人、次兄)
シュウスケ(マヒロの隣人、次弟)
トーヤ(マヒロの隣人、末弟)

**********

綺麗なピカピカのキッチン。
整理整頓当たり前、調味料の類から調理器具の類まで、ピシっと並べられて性格がすっごく出てるような佇まい。

勿論、あたしの家じゃない。
うちのママは、こんな綺麗好きじゃないし。

「結構上手く出来たと思うんだけど」

ちょっと恐る恐る、と言う聞き方になるのは、恋して止まない相手だからだと思う。
いわゆる片想いだし。
少しくらい猫被るのは仕方ないってところ。トーヤあたりに言わせれば「乙女過ぎ」だの何だのと煩そうだ。

「食べないの?」

伺うように顔を覗き込めば、眉を寄せたシュウスケと目が合った。
今日は眼鏡掛けてない。家だからかな。
さらさらした黒髪が目にかかって、いつもと雰囲気が違って見えてドキドキした。

「いや、何コレ。お前マジふざけてねえ?」
「ふざけてません」

ダイニングに向かい合って座ったあたし達は、さっきからこのやり取りを何度か交わしている。いるんだけど、一向に進まない。

「…味見したのかよ」
「してなーい」
「アホか、それくらいしろよ」
「えー、面倒だもん」

思い立ったのは五日前。
友達の「この間さ、彼氏にお菓子作ったんだよね」なんて言う、些細な一言が原因だった。

普段全くやらないくせに、一生懸命作ったらしいそれは物凄く高評価を受けたらしい。
あたしとシュウスケは付き合ってるわけじゃないけど、でもそれっぽい関係ではあるわけだし、と考えた結果このキッチンに乱入することになった。

何で自分の家じゃなくって、お隣さんであるこの家かって言うと、うちのママよりハルちゃんの方がずっと料理が上手だからだ。

そのハルちゃんに教えてもらうこと、五日。
その成果が今テーブルの上にある、クッキーだったりする。

「ハル兄が教えてこれなわけ」
「だから、何度も言ってるじゃん」
「あーそ…」

何が気に入らないのか知らないけど、全然食べようとしない。
それどころか、手を出そうとすらしないってどうなの。
せっかく作ったのに、この態度は何なの。
そりゃ勝手に作ったのは、あたしだけどさ。
見た目もちょっとって言うか、わりとって言うか、良くはないけど頑張ったんだし。

『マヒロちゃんにしては…まあ、頑張ったよねぇ』

ってハルちゃんも言ってくれたし。
やけに笑ってたのも食べてくれなかったのも気になるけど、それはこの際忘れるとして。

「ねえってば」
「……」

何度かの要請で、ようやくシュウスケが手を伸ばす。
物凄く気が進まない、という気持ちが指先にまでありありと表れている。

確かに今まであたしの作った物で――言っても数えるほどしかないけど――美味しかった事は無いかもしれないけど。
何もそんなに嫌がらなくてもいいじゃない。

ゆっくりと口に運ばれる濃い茶色の焼き菓子を、じっと見つめる。

ぱり、と音がした。
さっくりではなくって、お煎餅みたいな音。
同時にシュウスケの寄せられた眉が、さらにきつく寄せられる。
何か言いたいけど、言えないようなそんな感じ。

「……」

ぱりぱりと噛み砕く音以外、全く静かな部屋。
みんな出掛けてしまって、他には誰もいない。

「どう?」

また覗き込んで感想を聞くあたしを、シュウスケがじっと見て、無言で手招きをする。

こっち来い、ということらしい。
何だろう。
頭の中に「?」を飛ばしながら、傍へ行った。

「わ」

途端に腰を引き寄せられ、シュウスケの方に倒れ掛かった。膝の上に乗る形になり、そしてそのまま。

「ん…っ」

強く抱き寄せられるようにして、唇がくっついた。頭を押さえ付けるみたいにしたせいで、キスしているって言うより『くっついている』と言う表現のほうが正しい。

腰を抱いた腕が痛いほど締め付ける。
無理矢理こじ開けた唇から舌が入り込んで、あたしは目を閉じた。

「――?」

ざらざらした異物感。口の中に細かい焼き菓子の破片が入り込んで。
途端に。

「にが…っ」

舌に広がる嫌な、苦味。まるで漢方薬。何これ、有り得ないくらい苦いんだけど。
思い切り突き飛ばすように、顔を離す。
耐えれない。
出してあったオレンジジュースを一気で飲み干して「にがいーっ」と叫べば。

「こっちの台詞だ、バカ」

と、シュウスケの低い声に遮られた。

「だって」
「だから味見しろって…つーか、わけわかんねえもん作んな。だいたいこれ何だったんだよ」
「…ココアクッキー」
「分量ちゃんと教えてもらってねえの」
「教えてもらったもん」

少しむせながら水を飲むシュウスケを見てから、クッキーに視線を落とす。
おかしいなあ。
ちょっとアレンジしたのが、駄目だったのかなぁ。

結局何が駄目なのかわからないままに、二度と食べないと言い切るシュウスケを前にして、がっくりと肩を落とした一日。

**********
(おまけ)
「ハル兄、ちゃんと教えてやったわけ、あれ」
「ああ、クッキーでしょ。ちゃんと食べてあげた?」
「すっげえ味してたんだけど、」
「あー…」
「あーって何。なんか思い当たんの」
「ココアパウダー大量に入れてるなあ、とは思ってたんだよねえ」
「パウダー?」
「ココアパウダーって、甘いんだと思ってたんだろうね、きっと。そりゃあれだけ入れれば大変なことになるね」
「…わかってんなら止めろよ」
「何で? 俺は食べないのに」
「……どういう理論だよ」

2007年11月25日(日)



 お出かけしましょう5

「本当に、何でもないんだって。ご飯食べて、プラネタリウム見て、それから」
「それから?」
「帰ったよ。仕事あったしね、会社に。遅い日あったでしょ」
「いつも遅いじゃない」
「まあそうなんだけどさ」

短くなった煙草を灰皿に投げ捨てると、「でも何て言うか」と、向き直る。

「結局そうやっていつも思うんだよね」
「何を」
「泉ちゃんのほうがやっぱりいいなぁって」

緩やかな照明。
落ち着かせるような効果が、あるのかないのか。

「そんな比べ方されたくないんだけど」
「だってやっぱり泉ちゃんが一番だし」

自信持って言い切るより、身の潔白でも証明してくれたほうがすっきりする。
深い深い溜息を、一つ落として。

「前も言ったけど、一番だとか二番だとかいう言い方が嫌。だいたいさ、一番があたしで、二番があんたで。じゃあ三番目はどうなるわけ」

そう聞いてから、やめておけば良かったと思った。
これじゃあ相手のペースに、すっかり巻き込まれている。

「三番目?」

しばらく考えているような――実際はどうだかわからないけれど――顔をしてから、彼は涼しげに微笑む。

「自分より下になる人間なんて、俺にとって必要だと思う?」

あたしはやはり、少々選ぶべき相手を間違ってしまったようだ、と今更ながらに理解した。


【END】

**********
小話終了。
とりあえず、試し書きをさせてもらいました。
次回からやはりこういう感じで続けていくつもりです。
このSSは過去編に行く前の前フリなので、あまりオチがなくて申し訳ない。
明日からは〜どれから書こう。
表で書くのが凄く楽しいと思っている時に、書いて行きたいと思うので。

2007年11月24日(土)



 お出かけしましょう4

「ねえ、誰と行ったの?」

あたし達を乗せた箱が、一階に着いた。どっと吐き出される人に混ざって、降りる。
やけにはしゃいでいた親子連れの姿は、あっという間に人込みに紛れて見えなくなった。

「この間が何て?」

微笑みながら、春日の手を握ってみる。
でも握り返して来ないところをみると、それなりに困っているようだった。
普段の彼なら、そうするはずだからだ。

しばらくそうしていた後、いらない起爆剤を落とした相手は、軽く頭を振った。

「何でもない」
「なんでもない?」

往生際が悪い。

「うん、何でもない。…ほら、あっち、行かない?」

どうせ相手は女だろうとは、予測がついている。
元々、深く聞くつもりはなかった。聞いても腹が立つのは、いつもあたしだけで利益がない。
だけど、“好きじゃない”プラネタリウムに付き合ったのがあたしじゃない、ということが気に入らなかった。

「言わないんだ」
「だから――」

大人の女が不機嫌に立つ姿なんて、様になるものじゃないのはわかってる。
わかってるけどうやむやに出来るくらい、懐は深くない。

「行って欲しかったら言えば」

随分偉そうな台詞。
でもそれを春日は気にした風もなくて、「えー…」とか言いながら、煙草に火を付ける。
自然と喫煙コーナーと書かれた、プレート付近に移動した。

「――何でもないんだって、本当に。それよりこんな所で時間潰して勿体なくない?」
「何でもないなら答えれば?気になる態度取るあんたが悪い」
「何でもないって言ってんのに。俺、本当に信用ないよね」
「あると思ってたことが、驚きなんだけど」
「さりげなく酷くない?」

煙に目を細め、それは少し笑っているようにも見えた。

自分がこんな気持ちなるなんて、少し前まで思ってもいなかった。
春日との付き合いは、生きてきた人生のほとんどになるって言うのに。

学生の頃は何をしていようが、ちっとも気にならなかったし、二十代なんて店が忙しくてそればかりに気を取られていたし。

少し時間に余裕を感じ出した最近になって、こういう感情を持つ事が多くなった。
どこで何をしているのか、あたしのいないところでどんな顔をしているのか、昔なら下らないと済ませられた小さな事が気になり出した。
そんな事、格好悪くて口に出したり出来ないけれど、結局こうやって態度に出してしまうのだから、同じことなんだろう。

2007年11月23日(金)



 お出かけしましょう3

呆れて溜息が出る。

そこで『そんなことないよ』と答えられないなら、聞かないで欲しい。苦手なんだと宣言している人間に、それを強要して楽しくあるはずもない。
マイペースなんだと言えばそうだけど、この人は基本的に思いつくままに言葉にしている節があるから厄介だ。

こんな風ではたして、社会に溶け込めているのかどうか。

「じゃあ春日ってああいうの、見たことないんだ」

嫌味のつもりで、わざと名称を省いて言ってやる。
それに気付いているのかいないのか、定かでないような反応を相手はした。

「んー。いや、この間見に来たかな。その時はあまりにつまらなくて途中から寝てたんだよね」
「この間?」

附に落ちなくて、聞き返した。

「うん」

何でもないように煙草の箱を出し、春日はそのうちの一本を唇に挟んだ。
そしてそのままエレベーターに乗り込む。行儀が悪い。
これで火を付けたら顰蹙ものだ。

「へえ。誰と見に来たの」

そう言ったあたしの声は、たぶん一オクターブくらいは低くなっていた気がする。

「え?……あ」

ようやく、聞かれた意味が分かったらしい。
扉が閉まった。一階のボタンを誰かが押して、ゆっくりとエレベーターは動き出した。そこにしか止まらないようで、階を選択するボタンは一つしかなかった。

休日でもないのに、エレベーターの中は割合混んでいる。
これならば充分大盛況と言えるのではないか、と苛立ちを持たない冷静なほうの思考が考えた。

目の前には、賑やかな親子連れが騒いでいる。
子供が欲しい、とは未だかつて思ったこともないし、実際その予兆は全くと言って良いほどない。

春日はどう思っているのか知らないけれど――と横目で見れば、当の本人は口元を押さえて苦く笑っている。

2007年11月22日(木)



 お出かけしましょう2

「プラネタリウムなんて、出来たんだ」

車を停めた駐車場エレベーター脇の壁の表示を見て、思わず呟いた。
元々ショールームがあった場所が撤去されて、ワンフロア丸ごとプラネタリウムの施設に成り代わっている。

テナントの入れ替わりの激しさはこういった場所では仕方のないことなのだろうけれど、まるきり他人事とも思えない。

「見たいの?」

動物園で小さい子供に何が見たいか、と問うのと同じような響きで春日が聞いた。

それから「そういや小学校の時とか夏休みの自由研究、泉ちゃん天体観測ばっかりだったね」なんて要らないことを付け足した。

確かに自由研究課題と言えば、あたしの場合そのほとんどが天体観測だった。母親の影響もあったのだろう。その頃は家が隣同士だった春日も、時に一緒に見た記憶もある。

小さい頃、屋根にのぼって見上げる空は、今よりはずっと綺麗だった。明るいアルクトゥールスを見つけなくても、星座を辿るのは得意だったし、好きだった。

その内そんな事もしなくなって、あまり関心もなくなった。

生活する空間の中で見上げる夜空は、いつだって薄汚れて靄がかかっていて、夜のネオンを反射するための暗幕みたいなものでしかない。
だからと言って作り物で良いというつもりもないけど、静かな空間で見上げる天井は暗幕よりは綺麗なはずだ。

「見たい?」

春日がもう一度聞いた。
地下にある駐車場からは、エレベーターで中に入るらしい。

「んー。見たいけど、春日こういうの苦手じゃなかったっけ」

あたしがそう問えば、彼は素っ気無く「うん」と答えた。

2007年11月21日(水)



 お出かけしましょう1

珍しく休みがかちあった。

「出掛けない?」

春日のその一言で、あたしはせっかくのオフ日に、化粧をしなくてはならない羽目になった。

目当ては特になく、去年出来たばかりの複合施設に来たのも、ここの建築デザインを春日が気に入っているからだった。
有名な建築デザイナーだと何度か名前を聞かされた覚えはあるけど、ことごとく忘れてしまった。

インテリアと同じようには、建築に興味は持てない。
それでも彼は嫌な顔一つせず、何度も同じ事を教えてくれるのだからある意味、とても気が長い性格をしていると思う。

入居しているテナントは、在り来りにアパレル系がそのほとんどを占めている。他に列挙するなら大手ゲームセンターに多種多様の飲食店と言ったところか。

個人的には屋上にある展望台が気になっているものの、二十四時間解放されたビルという以外売りはなさそうだった。

その売りも、あたしにしてみれば人件費の無駄と治安の悪さを増長させるだけに過ぎないのではないか、としか思えないのだけれど。

2007年11月20日(火)



 しばらくここを使おうかなと思います

使い勝手がわからないなりに、纏める前の小説を書き散らかしていこうかなと。そういう場所欲しかったので、ちょうどいいかな。
使い心地が悪ければ、撤退する予定。



2007年11月19日(月)
初日 最新 目次 MAIL HOME


My追加