蜂蜜ロジック。
七瀬愁



 無題2-7

外灯が路上を照らし、家々には暖かな明かりが点いていて、それは俺の家も例外ではなかった。

兄二人はとうに帰っていたらしく、それぞれキッチンとリビングを占拠している。鍋の中を掻き回しているハル兄の背中に「ただいま」と告げれば、「お帰りー」と明るく返された。

銀に染めた緩やかな波を描く髪が、ライトに照らされて白く見える。煩いくらいアクセサリの類を付けたハル兄は、後ろから見ても派手なことこの上ない。

「シュウ、ちょっと」
「なに」

リビングのソファを陣取っていたナツ兄が、テレビ画面から目を離すことなく手招きをした。

「何だよ」
「お前、これ使う?」
「チケット……?」

映画のチケットかと思い手にすれば、テーマパークのフリーパスチケット、と教えられた。

「いらねえの」
「うん、ちょっと俺はね、こういうのあんまり興味ないし。でも捨てんのも何だし。せっかくだから誰かと行って来て」

俺の意向も聞かずに強引に渡すところが、ナツ兄らしい。
雑誌専属モデルという職に身を置くせいかやたらと顔が広く、こういう優待チケットもよく貰ってくる。これも、そういったものなんだろう。
だが、人混みが苦手な俺だって興味があるわけでもなく、立ったまま手にしたチケットをしばらく眺めていた。わりと有名な施設名だが、行ったことはない。

誰かと。

通常なら女でも誘って、となるのだろうが。ふとあの人の顔が浮かんで。
すぐに消える。いや、消した。

そんなことを考えていると、唐突に横から喧しい声が割り込んで来た。

**********
今年の更新は、明日ぐらいまでと思っていたのですが、急用が出来てしまいこれでもう終わりになるかと、思います。
今年もお世話になり、ありがとうございました。少し早いですが、良いお年を。

2007年12月28日(金)



 無題2-6

凪いだ風が冷たくて、窓を閉めに行った。

放課後にはこれまで通り、あの人は俺達を指導に訪れた。
短めだった髪がだいぶ伸びて、少しずつ≪ナミコ先輩≫は大人びていった。
外見は変わっても、内面までは早々変わるものでもなく、受験生だという緊張感も感じさせることなく、相変わらずよく笑ってよく怒った。冬の演奏会まで、こうやって顔を見せに来るから、とあの人は言った。

例のごとく時間ギリギリまでパート練習に励み、最後に音を合わせて解散となり、練習室は瞬く間に人気がなくなっていく。

結局最後まで残った俺とあの人が、準備室に片付けにいっているフルートのパートリーダーを待つことになった。純粋に考えれば二人きりでもないのだが、実際に視界に入るのが一人だけというのはプレッシャーに近いものがある。

「だいぶ気合い入ってきたよね、皆」
「…そうですね」

静かになった練習室を愛着込めた目で見回した後、あの人は「ふふ」と笑った。

「何ですか?」
「相変わらずね、やる気なさそうなのに、結局一番頑張ってるところ」
「俺のことですか」
「勿論」

しばらく考えた後に返した変哲のない答えに、さも気の利いたものであったかのような笑みを浮かべる彼女は、とても眩しいと思った。

「どうせやるなら、やり切りたいだけです」
「でも好きでしょう?」

柔らかな笑みを浮かべたまま尋ねる内容は、当たり前だが楽器のことを問うている。わかってる。だがその問いは、俺の中の何かを動かすには、十分過ぎるほどの力を持っていた。

「好きですよ」

思ったより、ぎこちなくは感じなかった。

言ってしまえば、随分簡単な台詞だとも思った。真面目くさった俺の態度に、あの人は少し目を見開いてから、また笑った。

「あは、びっくりした。あんまり真面目に言うから、私のことを言ってるのかって思ったじゃない」

悪戯めいた瞳。漏れた吐息は、笑い声にも聞こえた。自然と笑みが浮かぶ。

「――好きですよ、俺。先輩のこと、今でもずっと」

困らせてしまうとはわかっていた。でも言わずにはいられなかった。もう前のように、話せなくなったとしても。少し俯いたあの人の表情はうまく見えなくて、ちょうどいい。見えないから、言ってしまえる。想っていた気持ちを、感じていた全部を。

「勝手に言ってるだけ、ですから気にしないでください」

何と言っていいのかわからない、困惑の空気に心がぴりぴりした。本当は違う。そうじゃない。気にして欲しくて堪らない。明日も明後日もその次も。俺を見る度、思い出して欲しい。俺があなたを好きだと言った、その言葉を。

いつも凜としているあの人が、まるで違う人のように小さく、見えた。さっきまでの和やかさは、もうない。代わりに降りかかる沈黙。卒業して会えなくなるまで、言う気はなかったのに、吹き出した吐露は尽きない。

「…シュウ、くん」

二の句が継げないでいるんだ、とは気付いてる。気付いていて、笑い返す。あるはずのない余裕をみせるように。

目線を伏せていたあの人が、俺を見る。そうして近づいてくる。

一歩、二歩、三歩。たった数歩の動きさえ、スローモーションに見えた。腕が俺を捕らえる。生まれて初めて、心臓が跳ねるという意味を知った。いつものように、凜としたあの人が目の前にいた。

「あ…」

「すみません! 終わりました」

時を止めていた沈黙は、準備室から出て来た部員の恐縮した台詞に、霧散した。

2007年12月27日(木)



 無題2-5



変に優しくしないで欲しい。泣いてしまうのは、悲しいからで。でも優しくして欲しいと願う、あたしもいて。矛盾してるかもしれないけど、離れたいけど離れたくない。それはどちらも切実で偽りない、気持ちだった。

「マヒロ」

何度目かの呼び声。昨日に引き続いて泣き止まない、あたし。重いと思うし、ぐだぐだしていて鬱陶しいと思う。こんなふうになりたくないのに、シュウスケの前ではいつだって、強がれない。

それは昔から知られているということもあるだろうけど、やっぱり心の中ではずっと頼り切っているせいだって、本当はちゃんとわかってる。一番甘えてるからだって、ちゃんと知ってる。

「顔、上げろ」
「…無理」
「いーから」
「よく、ない」

ただでさえ寝起きの状態を見られて落ち込んでたって言うのに、さらに泣き腫らせば見せれるような顔になっていないことぐらい、鏡を見なくてもわかる。

「いいから」
「…や、」

両の掌であたしの頬を押さえ、ぐい、と上げさせられる。「…っ」すぐ間近に、覗き込むシュウスケの顔があった。

「酷い顔してんな、お前」
「誰のせ…、」

口元を緩めて、シュウスケが笑う。

「俺だよな、ごめん、わかってる。泣かせたくて来たんじゃないから。だから泣くなって。お前、明日も顔戻らなくなるぞ」
「シュウ、スケが…、泣かせてんじゃん…っ」

こんなんじゃ明日だって、学校に行けない。諦めきれない想いは、ぐるぐるとずっと駆け巡るままだ。見ていられなくて、目を伏せた。小さく、溜息が聞こえる。困らせてる。わかってる。想ったからと言って、叶うものじゃないことくらい。

好きだから、相手にも好きになって欲しいっていうのは、傲慢だけど本音だ。

好きな人の気持ちを尊重できないのは、本当に好きじゃないからだって何かの本で読んだ。それはとても正しいかもしれないけど、それは綺麗事だと思う。

自分が好きなら、相手にも好きになって欲しい。少なくとも、あたしは。

何を言いたいのか、考える前に、視線を上げた。「シュウ…、」でも、言葉は続かなかった。

「明日は」
「明日は、ちゃんと…行く。だい、じょうぶ」

シュウスケの言葉を遮って伝え、涙を拭う。

わかってる。困らせることは、引き止めることと違う。想いを伝えることとは違う。
それくらい、わかってる。

あたしは自分にそう言い聞かせた。


2007年12月26日(水)



 MerryChristmas!

聖夜ですね。厳粛なる佇まいはどこにも見当たりませんけれども。
とりあえず、帰宅しました。眠いです。明日からはまた仕事です、年賀状は書いたので明日あたりに投函します。年々、賀状にかける時間が減っているような気がします。味気ないのは重々承知。

**********
【クリスマス(篤史×綾)】

「ツリー大きいねー」
「近くで見りゃ、ただの電球だけどな」
「でも雪とか凄くキレイだよ?」
「人工雪じゃん」
「お兄ちゃんって」
「何だよ」
「ひねくれてるよね、そういうとこ」
「…帰る」
「うそ、ごめん、うそだってばー!」

**********

某市内にて。
人工雪に幻想を感じるかどうかは、人それぞれだと思う。

何か思いついたので、書きましたがその内消します(笑)

2007年12月25日(火)



 雑記。

イブですが、ココアをぶちまけてしまいせわしない夜を送ってしまいました。部屋を変えてもらうことで落ち着いたものの、何だかあっというまの数日だったなぁと既にぐったりしております。明日には帰らなくてはなりませんが、基本的に家が恋しいタイプでもないので帰りたくないと今から駄々こね中。
や。仕事納めはまだなので、帰らなくてはいけないのですが。

一昨日、昨日とあまり意味のないSSを掲載してしまい、すみません。今日は自重して、雑記のみです。
明後日からはFlower再開します~。


そういえば、人生銀行(貯金箱ですね)欲しくてハンズに行ったら、フェイスバンクというなにやら顔がやけにリアルに硬貨を食すという貯金箱を見つけ、危うく買ってしまいそうになりました……。

2007年12月24日(月)



 雑記

携帯からだと当日分しか書けないことを初めて知りました。追記も不可のようで、昨夜追記するつもりが出来ず仕舞い。フルブラウザ使えばいいんだろうけど、所詮携帯なので打ち込みがかなり重くて途中で断念しました。

FFⅣがDSででていたことを今日初めて知り、興奮気味。エッジが、リディアが!Ⅶも好きですが、やはり私の世代ではⅣです。ストーリーが好き。恋愛、友情、基本は愛情でしょうか。エッジに会うために買います。メイン二人よりエッジ×リディアが好きなのでそこらへん浸りたい。彼女には召喚士が似合います、やっぱり。
バハムルよりリヴァイアよりミストドラゴンが一番コスト的に良いんですよね。で、その一番使えるミストドラゴンがリディアのお母さんだから、と思えば尚良し。娘のためにコスト削減して威力増して頑張ってるんだなぁ、と脳内補完とかして楽しみたい、再び。
あれ、なんか語ってる(笑)

むかーし(中高生くらい)書いてたファンタジーは人工人間か、召喚モノだったくらい。モロにFFの影響受けてた私ですが、久々にまたその世界に浸れそうです。

2007年12月23日(日)



 雑記


夜に雑記を書きに来る予定です。

2007年12月22日(土)



 無題2-4+お知らせ

駄目だと言ってもよかったはずだった。
あたしとシュウスケは付き合ってるわけでもなくって、それどころか、昨日は止めとばかりにフラれてしまった。そんな相手を家にあげる必要なんて、どこにもないのは充分わかっていた。

「え?」
「いや、駄目だったらいいけど」
「…駄目、じゃない」

何でそう答えたのか、自分でもよくわからなかった。昨日の今日で忘れられるはずもない相手だからか、それともまだどこかで期待して待ってるあたしがいるからか。

どちらにしても良い結果になりはしないのに、性懲りもなく一緒にいたいと思うあたしが勝って、扉を大きく開けた。後ろから一緒に入ってくるシュウスケの気配に、一瞬ぎゅっと目を閉じた。

ありえないくらい、どきどきした。部屋にあがるくらい、どうってことはないのはわかってる。幼馴染だし。でも今の状況で考えると、息を吸うのも苦しくなるくらい、血液が異常な速さで流れてることを実感した。息苦しい。

「入んの、ちょっと久しぶり。でもあんま変わってねえよな」

もう少し片付けておけば良かった。今更後悔しても遅いけど。部屋の鏡に映る自分の姿にも、同じようにげんなりした。

「そ、うかな。あ、なんか、飲む?」
「いや、いい。すぐ帰るし」
「…そっか」

シュウスケの一言一言に、びくびくしてしまう。床に敷いたラグの上で寛ぐ後姿をしばらく見てから、ベッドの上に座る。好き。見ているだけなのに、そんな気持ちが溢れだす。昨日さんざん泣いたくせに、まだ出てしまいそうになる涙のせいで、あたしはきつく唇を噛んだ。

「マヒロ?」

振り返ったシュウスケが、驚いたような声をあげた。それから立ち上がって、こちらにくる。

「泣くなよ」
「…泣いてない」
「泣いてんじゃん」
「泣いてないってば!」

頭の上に乗る、掌。「あー…もう」ハルちゃんがいつもそうしてくれるみたいにその手が何度も頭を撫で、そのせいであたしは不意を突いて流れ出した涙を止める術を失った。

**********

※更新のお知らせ※
サイトのほうでもちらりと言っておりましたが、12/22~25日は旅行のため、更新がとまり、雑記またはSSのみとなります。申し訳ないです。年末も更新はバラけると思いますが、よろしくお願いいたします。

2007年12月21日(金)



 無題2-3

数秒前まではぼんやりと過ごしていたはずなのに、一瞬で煩く鳴り響く鼓動に戸惑い混乱した。もう一度時計を見る。二時、ちょっと過ぎ。こんな時間に?

違う、そうじゃなくて。どうしてシュウスケが、ここにいるの。返事をするのも忘れて、立ち尽くす。マイクからは、ざあざあと雑音が流れ出ていた。

じとりと手に汗が浮かぶ。そうしている内に、『マヒロ、いるなら――出て来てほしいんだけど』少し困ったような、いつもと違うシュウスケの声だけが雑音に混じって、クリアに聞こえた。

「しゅうすけ…」
『聞いてる? つーか、聞こえてんのかこれ』

後半は独り言だったらしく、焦れたような呟きが聞こえた。

「ちょ、っと待って」

それだけ言って、通話を切る。知らずに走っていた。

かちゃり、とロックを外して玄関の扉を開ける頃になって、ようやくまだパジャマだったことを思い出す。

「寝てたのか?」

あたしの顔を見て、シュウスケは首を斜めにした。顔だってまだ洗ってないし、髪だって梳かしてもいないままだ。あたしだってこんな姿、見られたかったわけじゃない。だってまさか来るなんて。

「うん、寝て、た」
「どっか、悪いのか?」
「ん、ちょっと、」

真っ直ぐに見据えてくる目に、思わず逸らしてしまう。きっと会いたくなかったことは、シュウスケだってわかってるはず。気にしてくれたのかもしれないけど、こういうのは、ひどいと思う。好きじゃない、と言ったときと同じ顔で、「大丈夫か」なんて言うシュウスケは狡いと思う。心配してくれて嬉しい、と思う気持ちと、余計にかき乱すようなことをして酷いと思う気持ちと。ぐるぐると頭の中を両方が回って、また、泣きそうになった。

「ちょっと頭が痛くて。でも、大丈夫だから」
「――なら、いいけど」

口を閉じれば、沈黙が訪れる。シュウスケは普段から無口だ。正反対にずっと喋るあたしがこうやって黙ってしまえば、あたし達の間にたいして会話なんてないんだ、と今更のように思った。

「今日、部活は?」
「休み。つか、休んだ」
「なんで?」

最近ずっと練習に打ち込んでいただけに、平然と言い切るシュウスケに今度はあたしが首を傾げた。

「あー…練習室がしばらく、使えないみたいで。その間はパート練習だけっつーから、帰ってきた」
「そう、なんだ」

また、沈黙。どうしよう。居心地が悪い。本当意地悪。今まで休んだってこうやって来たことなんて、なかったくせに。

どこからか、銀杏の葉が一枚舞って、足元に落ちる。

どこかに銀杏の木があったっけ、と考えていたとき、

「上がってもいい?」

不意にシュウスケがそう言った。

2007年12月20日(木)



 無題2-2

「マヒロ、いつまで寝てるの」

扉を開けて入ってくる音、ママの声。頭からすっぽりと被った布団のせいで、あたしの視界は暗いままだ。

「早く起きて、」
「行かない」

即答した。起きていると思ってはいなかったらしく、「起きてるなら――」「行かないってば」布団の端をぎゅう、と握る。幼稚園の時も同じようなことをした。何となくだけど、覚えてる。

友達と喧嘩して行かないと言って、その後はうろ覚えだけど無理矢理行かされた気がする。大泣きしているあたしを見送り、溜息を付いたママの顔も、何となく記憶に残っている。あのときと同じようなことをしている自分にも、溜息が漏れた。でも、やっぱり、行きたくない。

「体調が悪いの?」
「頭痛いの、今日は行かない」

体調は悪くはないけれど、頭痛がするのは本当のことだ。病気じゃないだけで。ただの泣きすぎと、寝不足。

部屋から出て行くママの気配に、そっと布団から顔を出した。薄暗いけれど、真夜中の暗さとは違う外の色。時計の針は六時半。

ママが開けたカーテンを閉じるために起き上がる。斜め向かいにある隣の家の窓はまだカーテンが下りていて、ほっとする。こんなところで顔を合わせたら最悪だ。はあ、ともう一つ溜息。それからまた、ベッドに入り頭から布団を被りなおして、目を閉じた。

家の前を通り過ぎる小学生や中学生たちの喧騒を夢現に聞き、「学校には電話しておいたから。じゃあ仕事、行ってくるからね」と言うママの声に「うん」と答えた。

何度か寝て、起きて、その度に時計の針が気になってしまう。「静かにして」電池を抜いて、放り出す。そして時計を裏返して、見えないようにしてまた眠った。

夢は何も見なかった。
――お腹すいた。

とても静かだ。時間の感覚がない。そっと起き上がり、下へ降りても家の中は静まり返っていた。リビングの壁時計を見上げる。二時。パンを一つ食べて、牛乳を飲んでいると、玄関のチャイムが鳴った。

宅急便か何かかもしれない。ママは色んなものをすぐ買うから。そんなことを考えながら、インターフォンの通話ボタンを押した。

「マヒロ?」
「――」

マイクから流れるシュウスケの声に、どくり、と心臓が波打った。

2007年12月19日(水)



 無題2-1

シュウスケが笑う。髪を撫でて何か言って、あたしはそれに対して笑い返す。綿菓子みたいにふわふわした気持ち。甘くて楽しくて、笑ってばかりいた。
雲の上を歩いたらこんな感覚なのかもしれない。周りは見えない。でも気分が高揚している。抱き締めてくれる腕が心地良くて、幸せだった。

突然、足元が冷やりとした。寒い。

その冷たい空気の流れに、目を覚ました。夢。よりにもよって、何て夢だろう。反射的に枕元の時計を見る。午前四時。起きるには少し早すぎる時間。はあ、と溜息を一つついて、頭を枕の上に投げ出した。

いつのまにか布団をはいでいて、その寒さに目を覚ましたらしい。

仰向けになって目を開けば、薄暗い室内の天井を見上げる形になる。途端に、気分が落ち込む。

昨夜のことは思い出したくもなかった。なのにこんな時間に目を覚ました自分が憎らしい。目にあてていた冷えたタオルは、体温でとっくに温くなっていた。

『よしよし』
『…ちっしゃいこじゃない、んだけど』
『泣きそうだなーと思って』
『泣かないもん』

家の玄関まで送ってくれたハルちゃんが、いつまでも頭を撫でてくれた。それにまた泣きそうになったあたしだったけど、我慢して帰ってきた。帰ってきてから、また泣いた。顔を洗うころには、酷い有様になっていた。頭が痛い。ホント、格好悪い。

瞼に熱を感じて、冷蔵庫に行き冷却シートを取り出す。

明日、会いたくない。会いたいけど、会いたくない。少しでも腫れがひくことを願いながら、あたしはまた布団に潜り込んだ。

2007年12月18日(火)



 思いつき※(意味なしSS)

※息抜きがてら書いた下らない他の話に関係のないSSです。
微妙にアホエロ路線を目指したら、おかしなことになってしまいました。
18禁傾向はここではNGということで、そこは削除。加筆修正したらジャンクにでも放り込んでおきます。
どうか見逃してやってください(汗)






日本人の基本は正座だ。
でもって、あたしも現在正座中。
いやいや違うか。したくてしてんじゃないのね、これ。
何て言うの? 切羽詰まると何だか知らないけど、人間礼儀正しくなるモンらしいね。

「えーと。…もう一度言ってくれると助かるんですケド」

これで何度目か分からない台詞を、あたしは繰り返した。
現状を再確認。
あたしはベッドの上。もちろん自室。でもって眠る気だったから、キャミソールのワンピを着た格好。
うん、ここまではイイ。オッケー。
問題はその次だ。

「や。だから、あんたにとり憑かせて欲しいって、こーやって頼んでるだろ」

そう、コレ。
原因コレ。
何がってこの唐突に現れた、コイツ。

「言ってる意味がーわかんないんですけどー」
「ああ、あんたよくよくアホか? それとも人をからかってんのかよ」

はい、それコチラの台詞なんですけど。

「だから、何で…」
「わかんねぇ女だな、俺はな、てめぇンとこのバカ教師にだな、フクシューするっつってんだろ」

ユーレイくんハタチ。どこをどう見ても品行方正には見えない姿よろしく、不良街道まっしぐらをその年でも突っ走っていたそうで。
いかにも無敵、と顔に書いてあるしね。
いつものように側道をバイクで走らせていたそんな彼の頭に、頭上が予期せぬモノが降ってきて。

「それがウチの担任が歩道橋から投げた缶コーヒー?」
「そのせーでこーなっちまったんだろーがっ」

そんな漫画じゃあるまいし。
ネタだよ、ネタ。
だいたい復讐したいんなら何もこっちこないで、真っ直ぐ向こう行けっての。

「何か言ったか」
「…いーえ」

頭をふるふると左右に振るあたし。こういう人形あったな。
「それでー」と、相変わらず正座したままに、宙に浮かびっぱなしの相手を見上げた。

「とり憑きたいと?」
「やっとわかったか、バカ女。細胞どんだけ無駄に殺していってんだよ、殺すぞ」

何なんですかね、この性格の悪さ。妙に具体的に人の細胞についてコメントまで頂いちゃってるし。
むしろ死んで正解なんじゃないんでしょうか、コノヒト。

「あ?」
「いーえ」

ガンつけやめてください。

「わかったらさっさと寝ろ」

は。何で。
呆けて見上げるあたしの顔を見て、相手は苦く舌打ちした。

「意識ある内はとり憑けねぇんだよ、そんなの常識だろ。ほんと何にも知らねぇ女だなオマエ、いっぺん死ねば」

いえ、ご遠慮いたします。
というかお言葉ですが、知らなくて当然だと思うのはあたしだけでしょうか。

「はーやーく、しろ!」

って言ったって。

「そ、そんな急に寝れない…」

無理です。突然現れたユーレイのせいでただでさえ興奮してるってのに。
だいたいこんな状況でいきなり爆睡できる女ってのもどうなんでしょう。

「あー、まあそう言われちゃそーだけどな」

腕を組んで妙に納得する彼。
うん、そのままどうか成仏していただければ嬉しいんだけど。

「バカ、復讐もしてねえのに成仏できるかっ」

いえ、あの、思考を読まないでください。

「じゃあキゼツしろよ、そしたら一発だ」

名案を思いついたとでもいわんばかりに、掌をぽんと打つ。そんな動作、今時漫画でも見ないような。意外と古風だなこいつ。
というか。

「気絶ってそっちのほうが難しいと思うんだけど」

自慢じゃないけど、生まれてこのかた、気絶なんて一回もしたことないし。随分無茶言う幽霊だ。

「殴れば一発だろ、すぐ済むぜ、じっとして…」

あっさりと腕を振り上げる彼。

「…ちょ、ちょっとタンマ!!」
「なんだよ」

残念そうな顔をするな!

「い、痛いのは嫌だもん」

もうこの際、憑くやら憑かないやらはおいといて、暴力は反対。断固反対。痛い思いするなら、絶対憑かせないと豪語したあたしの剣幕に驚いたのか、幽霊はしばらく腕組み――また古風だ――して、考えたあと「あ、そーだ」とこっちを向いた。

「キゼツできるイイ方法があった、あった、忘れてた」

死んでおいて思い出すやら忘れるやらややこしいな、ユーレイって。
にやり、と不敵に笑う。それに何故か背筋が寒くなるあたし。

「な、なに。痛いのはヤダから…っ」
「痛くねーって。それどころかマジ最高って言わせてやっから」

…ものすごく、不安な台詞。

「…え、いや遠慮したいんですけど…」
「遠慮すんな」

します。思い切りします。
世界最高の思い付きをした、とでも言いたげに近付き、彼はあたしを組み敷き。

「ちょっと待って!」

なんというか、もはや目的変わってませんか、コレ。

「待てねえな」
「ありえない!」

不穏な空気を払拭するために、どうやらあたしは今宵、死ぬほどの抵抗をしなければならないらしい。

ああ、あたしが何をしたっていうんだろう。ついてない。いっそ、あのバカ担任呪ってやろうか。


【END】

2007年12月17日(月)



 雑記らしきモノ

やはり日曜日は時間的ロスが激しくて、何も書けませんでした~。もしも楽しみにしてくれていた方とかいたら、すみません。明日は何か入れて、その次からまたFLOWER書こうかなーとか思ってます。

もし他のがいい、なんてありましたらコメントからよろしくお願いします~。あ、コメントと言えば、サイト改装したときに設定をあやまってしまい、機能してませんでした。確認不足です、申し訳ありません。

今は書くのが楽しいです。何て幸せなんだろう。来てくださる方も、読んでくださる方も感謝です。そして投票してくださった方にも溢れんばかりの感謝を。


2007年12月16日(日)



 無題(10)

立ち上がったのがわかったけれど、あたしは顔すら上げることが出来なかった。
扉を開けて、「後で食う」とシュウスケが下に向かって言っているのが聞こえた。

こめかみが、ずきずきする。声を押し殺して泣いているせいだ。自分の部屋だったらきっと今頃子供みたいに泣いているだろう。そしてそうできたほうがよほど楽なのに、と思った。

なんでこのタイミングで、言うんだろう。本当なら今頃は、笑って楽しくご飯を食べていたはずなのに。こんな顔では帰ることもできない。シュウスケは意地悪だ。

「あの人のこと、凄く好きだった。でも別れようって言われた。聞いてたろ?」

こくん、と頷いた。

『凄く好きだった』

その言葉が胸に突き刺さる。凄く、とても、どうしようもないくらい好きだと。

「別れたくなんてなかった。でも、そんなこと言うのは格好悪いっつーか、プライドが邪魔した。あの時は自分の事しか考えてなかった。その場の気分で流されて、あんなことして。勝手にお前を巻き込んで、凄く後悔した」

ぐずぐずと泣くあたしの頭に触れる指の感触。触らないで、と突っぱねられたらいいのに。

「…あ、たし…は駄目なの? あたしは、シュウスケのこと…」

何とか頑張って泣き止み、手で目を押さえる。熱い。明日にはきっと、腫れてしまうに違いない。

「駄目とかじゃない。お前のこと嫌いでもないし、それに――嫌いだったらあんなことしないだろ。でも、好きなのとも違う」
「――つっ」
「だから、ごめん」

致命的だ。と思った。どうしようもない。わかってたけど。隣にいないのは、知ってたけど。考えるのと言われるのとでは随分違う。でも。

「…今、ゆわなくても、いいじゃない…」

喉が痛くて咳き込んだ。格好悪い。

「そう、だよな。言ってから気付いた、ごめん」

自嘲気味に笑っているのが分かる。そういう気遣いが出来ないのは、とてもシュウスケらしい。真っ直ぐに自分の気持ちを言えるのは、とてもシュウスケらしい。

でも、今はそんな“らしさ”が酷くあたしを傷つける。こういう気持ちをどうせ味わうなら。もっと早く『好き』だと言えれば良かったのに。言ったからって何も変わりはしないけれど。もっと早くに。ナミコ先輩に会う前に、ぶつけられていたら良かったんじゃないかって。

そればかりを何度も心の中で思った。

【一部 了】

**********

中途半端ですが、とりあえず。
何か最初決めていた方向とだいぶ変わってしまいました。
シュウスケが勝手なことをばかり言う。


2007年12月15日(土)



 無題(9)

ごめんって何、とか、じゃあ何で抱き締めるの、とか、言いたいことがたくさんあった。でも言えなかった。

たった一言『好き』とさえ言えない臆病なあたしには、そんなこと言えるはずもなかった。だって、わかってるから。『ごめん』の意味はわかるから。

それでもいいから傍にいたいって思うあたしは、未練がましいんだろうか。それとも。

「――っ、」

気付けばきついほどの拘束を、振りほどいていた。「マヒロ?」慌てたようなシュウスケの声。顔は見えない。見れない。声が出ない。

「…ん、で…っ」

息が通り抜ける。呼吸をするより、無理に出した声は上手くいかなかった。喉が狭まったような感覚に陥る。ごめんって何。そんなの、いらない。いらなかった。

「なん……で謝る、の」

泣くな。自分に言い聞かせた。でも泣き虫なあたしには、引き金になってしまうだけで。何で、という言葉をきっかけに零れ出した気持ちは、易々と引いてはくれない。好きで好きで仕方ない。いつからなんて、もう覚えてないくらい。だから、嬉しかったのに。一度だけの関係でも、少しは近くに、心の中に入れたと嬉しかったのに。

そういうのを全部、否定された気がした。

「本当は、ずっと、謝ろうって思ってた」

そう小さく低く耳に届く。それからがしがしと髪を掻く音。何かを言い足そうとして、やめる気配。無言。

「だから、何で…っ」

肌にぴりぴりするような沈黙に耐え切れなくて、顔を上げた。眉を寄せてあたしを見る顔に、余計に悲しくなった。

「好きじゃないから? 好きになれないのに抱いたから?」
「そんなんじゃない」

更にきつく眉間に皺を刻んだ表情は、怒っているようにも見えた。

「じゃあ何で謝るの。謝らないでよ、後悔、しないでよ」
「――するだろ」
「、」

間髪いれずにぴしゃりと言い切られ、返す言葉を失う。

「後悔くらい、するだろ」

息が止まりそうになった。

頭の中がぐちゃぐちゃする。かちかちと秒針を刻む時計。波打つ心臓。階下からは賑やかな笑い声がした。ここだけ、まるで別世界だ。

ハルちゃんの声がする。あたしを、シュウスケを呼んでいた。

2007年12月14日(金)



 無題(8)

ハルちゃんから聞いていたらしく、あたしが部屋にいたことにシュウスケは驚かなかった。少しだけこちらを見てから、鞄を置く。何が入っているんだろう、と思うくらいにそれは薄っぺらい。

「あ…」

お帰り、と言う前にシュウスケが遮った。

「疲れた」
「ずっと練習してたの?」
「ああ」

シュウスケは普段そういうことを言わない。だから本当に疲れているんだろう。クラリネットの入ったケースを大事そうに床に置いてから、「お前、今日こっちで飯食うの?」制服の上着を脱ぎ、服を着替え始める。

「うん。ハルちゃんがね、こっちで食べればいーって言ってくれたから。…着替えるの?」
「あ? ああ、そうだけど」

何となく言った自分の台詞に赤くなった。一度だけでもしたことは事実。だからってそんなことと結びつけるのは、おかしいと思うけど。シュウスケは変な顔してあたしを見てから、

「馬鹿じゃねえの」

きっと、呆れた顔しているに違いない。

「だって」
「着替えてるだけだろ、何気にしてんだよ」
「そーだけど」

たいした時間がかかっているわけでもないのに、やけに長く感じて俯いたり天井を見上げたりと、挙動不審なことこの上ない。だいたいこういう気恥ずかしさって、女の子が感じるものなんだろうか。男が思うならともかく、あたしがこういう態度を取る必要はないような気がする。

そうだ、普通にしてればいいんだ、普通に。できるだけ今まで通りに。ああ、でも駄目だ。今まで通り過ぎても困る。

「マヒロ」

そんなことを考えていれば、不意にすぐ近くで名を呼ばれ、ぴくんと反応してしまった。「シュウ――」振り返ろうとしたのに、背中から暖かな腕が体に巻きつき、動けなくなった。

「どーしたの…」

夏の日の記憶が蘇る。
初めて、手を繋いだ日。
初めて、肌を重ねた日。

返される言葉はなくて、ただ強く抱き締められる。唐突のことに、どうしようもないくらい心臓が煩く跳ねる。何か、言って。

「あ、あのね」

何か言わなきゃいけない、と思った。開いた唇は結局何も言葉を生み出せないまま、俯いてしまう。下を向いた視線の先には、シュウスケの腕が見えた。勿論嫌なはずはない。でも、何故だか居心地は良くなくて。

シュウスケの胸があたしの背中にあたる。でもシュウスケは、きっとどきどきなんてしてない。それはわかった。こんなに近いのに、二人とも黙ったまま、時間だけが過ぎる。

何か、言って。


「――ごめんな」
「え?」

長く感じた沈黙の後、ぽつり、と零された言葉。

「ごめん」

そんなことを。言って欲しいと思ったわけじゃなかった。

2007年12月13日(木)



 無題(7)

少し涼しくなった。教室の窓から見る銀杏の色付きはまだだけど、朝の空気の冷え方が違っていて窓を開けていると心地いい。秋季選抜が終わり気を抜くこともなく、次の全国に向けてシュウスケ達の吹奏楽部は練習に励んでいた。

あれから何も変わってない。時々練習は覗きに行っているけれど、練習室にナミコ先輩の姿を見かければそのまま帰ることが多くなった。気にすることないと友達は言った。『図々しさが足りないんだよねマヒロって』そうかもしれない。でも、何かイヤ。何で別れたとか知らないし、知りたくもないけど、でもあたしとシュウスケの距離よりはずっと近くにいた人に、知らない振りをすることなんて出来なかった。

そしてその距離は、今でもあたしよりはずっと近い気がする。

シュウスケに避けられてるわけじゃない。帰ろうと言えば一緒に帰れるし、家に行きたいと言えば入れてくれる。でもその位置は、あたしが望むものと、少し違う。

練習室には、今日も行かなかった。

帰って来てみれば、家の中は真っ暗だった。明らかに留守だ。そういえば出かけるって朝言ってたっけ。ご飯はどうしよう。自分で作る気なんて、最初からない。鞄から鍵を取り出し差し込み、今日はコンビニでいいかと思った。

「今帰り?」

ふいに話しかけられて、振り向いた。でも人影はなくて。

「こっち、上」

その言葉通り視線を上げてお隣の二階を見れば、ハルちゃんがひらひらと手を振っていた。

「――びっくりした。うん。今帰ってきたとこ」
「おばさん今日いないんでしょ? ご飯こっちで食べれば」
「いーの?」
「イイの、イイの。華があったほうが俺も嬉しいし」
「良かった。どうしようかと思ってたんだよね。じゃあ着替えてから、そっち、行くね」
「ん」

窓を閉める途中、誰かの声がした。きっとトーヤだ。差し込む途中だった鍵を開けると、部屋に上がった。鞄を置いて着替える。少し薄着だけど、近いから平気なはず。

開いたままの玄関から、勝手に入った。二階がキッチンとリビング。ここへはよくお邪魔する。二階はいい匂いが立ち込めていた。またお菓子でも焼いているのかもしれない。

そういえば、結局あたしが食べ損ねたこの間のスコーンは、吹奏楽部の中では物凄く好評だったらしい。

「いらっしゃい」

ハルちゃんはいつも元気だ。いつも笑ってるし、楽しそうだし、見てると元気になる。

キッチンで泡立て器を振って出迎えてくれたハルちゃんとは対象的に、「何しにきたわけ」トーヤが偉そうな口を利いた。黙ってその金色の頭を叩く。口で言い返すだけ無駄。

「いてーよ、バカ」
「馬鹿に馬鹿って言われたくないんだけど」

トーヤはシュウスケの弟で、今は高校一年になっている。小さい頃はよく遊んであげたし、そうでなくても勝手に後ろからついてきた。ハルちゃんと同じように色が白くてお人形さんみたいで、めちゃくちゃ可愛かったし、よく懐いてくれた。けど、中学に上がる頃からやけに生意気になって、可愛いげが全くなくなった。

口も悪くなったのは、いつの頃からだろう。

「すぐ手ぇ出す奴のほうがバカじゃん」
「何でそーなるのよ」

本当に可愛くない。顔立ちは昔の面影を充分残して幼いくせに、口を開けば喧嘩になる。

「ハイハイ、喧嘩しないのー。ね、マヒロちゃん。シュウはもうすぐ帰ってくると思うから、先に部屋行ってたら? ご飯できたら呼んであげる」
「いいの?」
「うん、ここにいてもトーヤが邪魔でしょ」

にこり、とハルちゃんが笑う。その言葉にトーヤが何か言いかけたけど、すぐに黙った。あたしには逆らえても、ハルちゃんには逆らえない。そういうことらしい。

キッチンを通り抜けて階段を上る。ここまで甘い香りがする。この家ではハルちゃんが、全部の家事をこなすらしい。そういうのが全く駄目なあたしからすれば、ハルちゃんは凄いと思う。

シュウスケの部屋は、階段を上りきった反対にある。この家にはよく来るけど、シュウスケの部屋に入るのは久しぶりだ。開ける時、勝手に入って怒られるんじゃないかと一瞬躊躇したけど、ハルちゃんが言い出したことなんだしと思い直す。

予想通り部屋の中はこざっぱりとしていて、わりと整頓されていた。綺麗というよりは、無駄な物があまりない感じ。そう思って見回していたら、扉ががちゃりと開いた。

2007年12月12日(水)



 無題(6)

結果を待ちわびていた皆の歓声。喜ぶ声。初めての入賞。辺りを見回す。待ち合わせ場所に現れたシュウスケは、あたしを見るなり腕を掴んだ。そして、歩き出した。

息が切れる。どうしてこんなに早く歩かなくてはならないのか。掴まれた腕は、前へ前へとだけ引っ張られる。

「ね、」
「……」
「ねえってば」
「なんだよ」

止まることもなく、不機嫌そうに返される。切れ切れになる息の中、「ちょっと待ってってば」と言うだけで精一杯だった。

「シュウスケ」
「なんだよ」

今度は唐突に足を止めたせいで、ぶつかりそうになってしまった。ホールから駅に向かう途中にある公園で、あたし達は止まっていた。周囲は閑散としている。公園と言っても遊具はブランコぐらいしかなくて、木ばかりが生えて見通しが悪い。夜だったら、絶対通りたくないような場所だ。

「なんでそんなに急ぐの。せっかく皆でご飯食べに行こうって言ってたのに」
「じゃあお前だけ行ってこれば?」

僅かに眉を寄せて、見下ろす顔からみるに、機嫌が悪いらしい。意味がわからなくて、ぽかんとしてしまった。秋季選抜の結果は上々で、来月にある全国大会への出場も決定した。客席から見ていても、贔屓目のせいかもしれないけれど一際良かったように思っていた。上機嫌になるならわかるけど、不機嫌になる理由なんて。

「どうしてそういうこと言うの」

好きと言ったことがない。言えたこともない。だけど、この気持ちをシュウスケは知っているはずだ。それなのにそうやって突き放すようなことを、平気で言う。それに悲しくて、腹が立った。

「行きたくないから行かなかった。それだけだろ」

顔を背けられる。木の葉の隙間から漏れる日差しが、照らす。二人とも汗が滲んでいた。

「痛いよ、離して」

掴まれたままだった腕が、解放される。結局シュウスケに渡せずじまいだった差し入れは、顧問の先生に半ば押し付ける形で渡してきた。

「…ナミコ先輩がいるから?」

自分が傷つくとわかっていても、その名前を出さずにはいられなかった。
シュウスケが黙り込む。あたしを見ない。

「そうなの?」
「違う」
「だって、」
「違うって言ってるだろ」

蝉が鳴いている。煩い。黙って。シュウスケが背を向けて歩き出す。今度はゆっくりと。

「シュウスケ」

返事はない。慌ててその後を追う。いつだって、置いて行かれてるような気がする。隣には歩けない。その背中を追うだけ。ふとそう思って、目の端が滲んだ。

2007年12月11日(火)



 無題(5)

「今日って多いよな、人」
「そんなに出るの?」
「出るんじゃねえの」

人の間を擦り抜け、言っていた集合場所にはすぐに着くことが出来た。正面玄関からは見えないが、裏口から入ればすぐにあるスペースだった。楽器ケースを持った、同級生や後輩たちが数人談笑している。

「一年と二年だけだよね?」

うちの高校はどの部も夏を最後に、三年が抜ける。だから一番中途半端な時期にある大会なのだ、と前に聞いた。

「いや、何人かは来てる。まあ、出るわけじゃないけどな」

手元に缶ジュースが手渡される。しばらくして、ミーティングが始まり、後ろに下がった。ふと見れば、輪の端っこのほうに、ナミコ先輩の姿を見つけ慌てて目を逸らした。あの別れ話を聞いてから、あたしはナミコ先輩と話したことがない。避けることもなく、夏の大会を終えた時期と重なり、会うこと自体がなくなった。今までだってそんなに親しくしてたわけじゃないけれど、廊下で擦れ違った時のことを思えば、会わずに済んでほっとしていたのが本音だった。

たった一度の関係。

シュウスケは何も言わなかった。あたしも、何も聞かなかった。だから何も始まることもなかったし、進んでいくこともなかった。
あの日のことはまるでなかったみたいに、あたし達の仲は今まで通りで[幼馴染で同級生]の位置から少しもずれることなく秋になった。
辛いとか思う前に、シュウスケとナミコ先輩は終わってしまっている。
でもこうやって先輩の姿を間近で見ると、やけに緊張して強張ってしまう自分がいた。

「そろそろ行くから」
「あ、うん」

ミーティングを終えたらしいシュウスケが、背中を押す。片手にはクラリネットのケース。もう片手が、あたしの背に触れたままだというだけで、どきどきする。長く細い指が、ずっとあたしに触れていればいいのに、と思った。

「俺らはこっち行くから、お前はそこの階段上って好きなところから見てろよ」
「え、何番目?」
「正面玄関から入ってきたくせに、プログラムも取ってねえのかよ」
「だって、人多かったし…そんなのあるの気付かなかったんだもん」
「お前な」

少しくしゃくしゃになったプログラムを黙って手渡され、シュウスケが背中から手を離した。

「ありがと。終わったら、一緒に帰れる?」
「うん」
「どこで待ってたらいーの」
「さっきの集合場所」

愛想の欠片もない返事。それでも一緒にいれるなら嬉しい。頑張ってね、と手を振ろうとした時、背後から割って入る声がした。

「シュウくん」

落ち着いた、アルトの声。とくん、と心臓が跳ねた。ナミコ、先輩。

「今日、頑張ってね」

綺麗な顔立ちに淡く笑みを浮かべて、先輩は立っていた。それから先輩はシュウスケの返事を聞こうともせず、「じゃあね」と先に客席へと行ってしまった。

「シュウ……」

何か、言ってほしいと思った。そんな場合じゃないのは、充分わかっていたけど。

「――じゃ、また後でな」

でもシュウスケは余計なことはなにも言わず、立ち止まってしまったあたしを置いていくように、さっさと背を向けて控え室のあるほうへと歩いていく。
その後姿をぼんやりと見送ってから、差し入れを渡すのを忘れたことに気付いた。

2007年12月10日(月)



 無題(4)

着いた駅から徒歩五分。秋季選抜というこの時期にある大会は、いつもこのホールを借り切って開催される。

現在九時。

開催時刻まで、後一時間。それでも受付にはわりと人がいて、混みあっていた。和やかさはあまりなく、ぴりぴりした空気が漂う。人がいるにも関わらず、一定静けさが保たれている。こういうとこ、本当に苦手。シュウスケがいなきゃ、来るはずもないような場所だ。
まず、その本人を探さないと。聞いてあった集合場所を、壁にかかってある案内板で探す。ここが正面玄関だから――。

足を踏み入れ慣れない空間の案内板はやけに不親切で、どこをどう行けばいいのかわからない。誰かに聞こうか。きょろきょろと辺りを見回し、そう思っていた時、軽く肩を掴まれ、そちらを振り返った。

「何やってんの?」

短めの焦げ茶色の地毛、フレームのついていない平たい眼鏡。その奥にある、あまりやる気のなさそうな切れ長の瞳が、あたしを捉えていた。

「…あ、シュウスケ」
「あ、じゃないだろ。お前、また迷ってたの?」
「またってことないもん。探してだけだし」
「いつも迷うだろ、お前。裏口の階段らへんにいるって、昨日言ってたの聞いてた?」

すっと呆れたような苦笑を混じえたような色を浮かべて、肩にあった手を離される。

少し距離を取ったシュウスケを、じっと見る。
いつもは締めてない制服のネクタイをきちんと締めて、心なしか姿勢だって正しいような気がする。本番の時はいつだって、不似合いな緊張感を感じさせる。そういうシュウスケを見るのが、あたしはとても好きだった。

やる気がなさそうなわりには、学年の成績首位を保っている。たいていなんだって簡単そうにこなすけど、本人なりに努力しているのはよく知っている。だから、好きになった。頑張ってない振りして頑張っている、この人が。

「なんだよ、ぼーっとして。眠いのか?」
「馬鹿にしてるでしょ」
「…そういうのはわかるんだな」
「どういう意味よ」
「さー」

つい、と引っ張られて人混みを掻き分け歩き出すシュウスケの後を追う。一人かのように早足で歩くから、着いていくのがやっと。時々ぶつかりそうになりながら、先へと進む。ちょっとくらい手を繋いでくれっていいのに、と思った。

2007年12月09日(日)



 無題(3)

あれはまだ夏に差し掛かる前の、雨の日だった。

旧校舎と新校舎を繋ぐ、長い廊下。距離にして十メートル以上あるその廊下を、一人歩いていた。

その内この廊下も通行禁止にして、古びた旧校舎に入れなくする、という計画がある場所らしい。旧校舎と言えば、物置として使われる教室の他、移動教室に使うぐらいの使用頻度しかないのだから、その決定は仕方のないものに思えた。

ただ、老朽化が原因というわりには、壁や廊下に傷みはあまり感じない。綺麗な場所ではないけれど、目に留まるほど古びてはいないということだ。

吹奏楽部の練習室は、この長い廊下の先にあった。ある程度の場所を確保する必要がある部には、この旧校舎は丁度都合の良いものだった。ひっきりなしに、色んな楽器の音が聞こえてくる。何の楽器がその音を出しているのか、全くわからないしあまり興味もない。シュウスケが入っているから、という理由だけであたしは吹奏楽部に入り浸っている単なる暇人だった。

『何か部活入れよ』

という彼の台詞も、二年も半ば過ぎれば聞かれなくなった。諦めたらしい。だいたい受験を考え始めるこの学年から部活に入る人間は、早々いないはずだ。ましてやここは進学校なのだから、その風潮は余計だった。そうでなくても、あたしは部活なんて入る気はちっともなかった。シュウスケの傍にいたかった。

だから同じ高校まで入ったし、こんなに傍にいようとする。幼馴染という立場にいるのは主にあたしだけで、シュウスケはあたしにあまり関心を払わない。それでもいいと思っていた。好きだった。ただそれだけだった。なのに、最後の一言だけはどうしても言えずに、時間だけが過ぎていった。

『…ごめんね、』

旧校舎に響き渡る管楽器らしい音に混じって、切れ切れに声が聞こえた。思わず足を止めた。

『別れたいわけじゃなの。でも、今は色々と忙しくて。わかるでしょう? 受験のこともあるし、一度ゆっくり考えたいのよ』

困ったような感情は滲ませているけど、低めのそれは比較的落ち着きを感じさせる。廊下を渡りきってすぐ、のところで話しているらしいと見当が付いた。誰だろう。この場所なら吹奏楽部の人だろうか。聞き覚えがある気はする。でも、すぐに顔は思い浮かばなかった。

内容からして、友達同士の会話というわけじゃないらしい。かと言って、今更引き返せない。中途半端に立ち聞きして、後から変に勘ぐられても困る。
それなら思い切って通ってしまうに限る。

『いいですよ、俺は』

そう思って再び歩き出したあたしの耳に、今度は聞きなれた声が届いた。息が止まる。すぐにわかった。シュウスケだ。

他人事である別れ話なんて、噂話のネタにはなっても、自分に何の害もない。今、すぐ近くで行われている話も、あたしにとってそうであるはずだった。だから、堂々と通り過ぎて、何なら顔くらい見てやろうなんて頭の隅っこで考えていたぐらいだ。

唐突のことに、頭が混乱する。
何で。そして。誰と?

『先輩も部のほうへはしばらく来れないでしょ? ちょうどいい。俺も少し離れたいって、そう思ってたんです』
『シュウく…』
『別れませんか、俺達』

感情なく言い切るシュウスケ。沈黙。相手の人は何も答えない。空気が重くなる。止まったままの足の先を見つめ、あたしはじっとしているしかなかった。シュウスケが別れる? 誰かと付き合ってたってこと?そんなの、ちっとも。知らない。

『じゃあ練習あるんで。もういいですよね』

じゃり、と音がした。廊下の曲がり角から人が早足で出てくる。顔に見覚えがあった。シュウスケと同じクラリネットの――。その人は廊下に立ち止まるあたしに驚いて、一度立ち止まった。どうしていいかわからなくて会釈するあたしの横を、相手は黙って通り過ぎて行った。咎められることもなく、相手はただ無表情で唇を噛んでいた。

ナミコ先輩。胸の中でその名を呟く。シュウスケがとても尊敬して、傾倒していた人。その人と、付き合っていて。そして今、別れて?頭の中がごちゃごちゃして、わからなくなる。そんな話、噂でも聞いたことがなかった。シュウスケは好きなのかも、そう思ってはいたけど。でも。

『何やってんだよ、お前。そんなところで』
『…シュウスケ』

顔を上げれば、シュウスケが立っていた。掠れた声。切れ長の瞳が、僅かに揺れる。壊れてしまいそう。この人は泣きたいんじゃないか。何故だかそう思った。

見ていられなくてその頬に、そっと手を伸ばした。

どうしてそういうことになったのか、わからなかった。何を話したのか。何を聞いたのか。どこをどう歩いたのか。何にもわからないままに、あたしはシュウスケと手を繋いで、歩いていた。前後は覚えていないくせに、初めて手を繋いだことだけは強く記憶に残った。制服のままだとかそんなこと、気にしてすらいなかったように思う。今思えば、よく誰にも見られなかったものだと。

規律の厳しいこの高校では、あんな所に制服でいるのが見つかれば、即退学処分になっていただろう。普通じゃなかった。浮かされていた。何とかしてあげたかった。してあげられることなんて、本当はないってわかっていたけど。

今だけでいいから、代わりにしていいから。
一緒にいたい。強くあたしはそう思っていた。

2007年12月08日(土)



 無題(2)

「えー。シュウスケすっご上手なんだよ、見てあげればいいのに」
「へえ、そーなの。家でも練習しないからさぁ、あいつ。聴いたことがないんだよねえ」
「じゃあ行こうよ。今日定休日なんだよね?」

時間だって間に合うし、とホースを持たないほうの腕を掴めば、ハルちゃんは目を少し大きくして驚いたようにあたしを見て。
それから、ふわっと笑った。

「いや、やっぱイイ」
「どうして?」

やんわりと腕を離してそう言ってから、またシャワーを掛け始める。
薄く色付いた花についた雫が、雨上がりのようで綺麗だった。
緩く波がかかっていて、ハルちゃんの髪に似ている、と思った。

「シュウはね、ああ見えて緊張しちゃうタイプだから。俺なんか見ちゃうと余計そうなりそうでしょ」

目元が優しくなる。こういう顔をすると、シュウスケとどことなく似ている。血が繋がっているんだから当たり前なんだろうけれど、ここの四人兄弟は普段から似ているように思っていなかったから、少し驚いてしまった。

「意外に考えてるんだねー」
「弟想いでしょ」
「うん、そう思った」

その通りだ。シュウスケはとても落ち着いて見えるけど、とても神経が、細いところがあるから。

「まあ、ただ単に高校生にもなった弟の応援がメンドーだってのもあるのよねー」
「……なにそれ。結局どっちなの?」
「秘密」

薄い唇から、八重歯がちらりと覗く。
さすがお兄ちゃん、と思った気持ちは、しゅるしゅると萎んでいった。

「じゃあさ、今度でいいから行こ?」
「デートのお誘いだったらいつでも行くけどね」
「からかわないのー…」

水を止めて、悪戯っぽく笑うハルちゃんにむくれれば、「ごめんごめん。お詫びにイイモノあげるから、ちょっとだけ待ってて」とホースをあたしに手渡した。

代わりに水をやっておけ、ということらしい。片手で制して、家の中へ入っていく後姿を見送る。

お隣りの花壇は広く、綺麗に手入れがされている。花が好きだとかいう話は一度だって聞いたことがないけど、春夏秋冬の四季に合わせ名前も知らないような色々な花を、絶えず咲かせていた。


それらに水を降りかけている内に、ハルちゃんが戻って来た。

手の中には、わりと大きな紙袋が一つ。そのまま傍までやってくると、あたしの持っていたホースを取り上げ、がさりとその紙袋を手渡された。
袋の大きさのわりには、重くはない。

「なに? これ」
「紅茶のスコーン。うまく出来るようになったら店でも出してみようと思って。その練習台」

袋の中には、フィルムで綺麗に包装された焼き菓子。買ってきたものと同じくらい、上手に出来ている。いい香りがした。

「こんな朝から作ったの?」

純粋に驚いた。

「朝弱くないからね、俺。それなりに入れといたからシュウスケにも渡しといてよ、お兄ちゃんからの差し入れだって」
「うん、渡しとく」

出したままだった水を止める。もう一度、袋の中を覗く。製菓どころか、料理の出来ないあたしとは、根本的に出来が違うらしい。

「あ、ねえ。これってバラ?」

さっきも目に入った、薄い桃色と白の混じり合う花を指差してみる。

「これ? ああうん、そう、バラね。フロリバンダローズ」
「フロリバンダローズ…?」
「それのマチルダっって花。綺麗でしょ、一昨年貰ってやっと花が咲いたんだよねー」
「ふうん。ハルちゃんて、お花好きなの?」
「別に好きじゃないね、何せ手入れが大変なのよ、花って」

じゃあ何でこんなたくさん植えてるのかとも思ったけど、ふと見た時計の針に余裕がないことを知らされ、それどころじゃなくなった。時間を潰し過ぎたらしい。

「時間?」
「う、うん。じゃあ行って来る」
「行ってらっしゃーい」

ひらひらと手を振るハルちゃんに振り返して、日に照らされ始めたアスファルトの上を駅に向かって走った。


2007年12月07日(金)



 無題(1)

朝は弱いほうだと思う。

それでも予定より三十分も早く用意を終えれたのは、はやる気持ちを抑え切れなかったからだ。
朝の天気予報では今日も暑いと告げていて、げんなりする。
残暑と言っても十月も半ば。いい加減、涼しくなってもいい頃、なはず。

「あれ? 今日は休みじゃなかったっけ。制服着てお出かけ?」

七時ジャストに出た家の前で会ったハルちゃんは、花壇に咲かせた淡い桃色の花に水をやりながらあたしを不思議そうな顔で見た。

「そーなんだけど、今日って秋季選抜あるでしょ、その応援」

はしゃいで話すあたしに合わせてか、「ああシュウの吹奏楽ね」と相手も破顔する。

銀に色付いた髪が、朝日に透けて真っ白になってきらきらと映える。
そうでなくても、お隣のお家の長男になるハルちゃんは、とても繊細で目立つ顔立ちをしていた。

あたしの家のお隣りには、目の前のハルちゃんを含む、男ばかりの四人兄弟が住んでいる。
両親らしき人はいなくて、昔事故で亡くなったと聞くけど、その頃のあたしは小さすぎてどんな人達だったのかは知らない。

ハルちゃんには小さい時、よく遊んでもらったし今だって仲が良い。
いつもたくさん付けている髪と同じ銀色のアクセサリーは、朝も早いせいかピアスとブレスレットくらいしか付けていなかった。
どちらかと言うと、そういうハルちゃんの方が話しかけやすいと思う。

「ハルちゃんは行かないの?」
「んー…店は休みだけど、家の用事が忙しいしねぇ。マヒロちゃんは熱心よね、俺なんて一回も行ったことないんだよね」

店。近くでやっている、小さな珈琲専門店のことだ。
始めて何年か経つその店は、この界隈ではわりと有名な場所だった。
ハルちゃん目当てに来る常連客が多いことも、シュウスケから聞いたことがある。

そのシュウスケは、お隣の三男。
あたしの同級生で、幼馴染。

そして、現在、とても微妙な間柄。


**********


サブタイトルのみで更新していきます。
以前書いていたものと、さほど変わらないと思います。
ハルちゃんが脇役に徹することを除けば。

なんかもう、サイト改装だとかやめて、ここだけでやっていけばいいんじゃないかとか思った昼下がり。

2007年12月06日(木)



 災難⑤+雑記

俺の混乱度がマックスに跳ね上がった時、廊下のほうでばたばたと騒がしい音がした。
扉の開け閉めをする音、それに誰かの声。
同時に、がちゃり、とこの部屋の扉が開け放たれた。

「誰か俺の部屋に……っ」

入ったか、と小さく続けて入って来たのは、シュウちゃんだった。

「は。何やってんの」

俺がいたことに驚いたらしいシュウちゃんは、一呼吸置いた後、明らかに馬鹿にしたみたいにそう言った。
馬鹿にしたっつーか、むしろアレだ、憐れみを浮かべたってつーか。

イヤ、そんな目で見られるようなコトまで、してないと思うんですけど。

「べ、勉強?」
「おかえり、シュウ」

なぜか疑問符になる俺の台詞を無視して、ナッちゃんがやけに明るく迎える。さっきまでの暗さとは打って変わった態度に、自分でも驚くほどの速さで振り返った。

「ナッちゃん!? ちょ…っ」

言いかけた抗議の声は、空しくも今度はシュウちゃんに遮られた。

「ただいま。…ナツ兄、今日そんな暇なの? 馬鹿をからかうと本気にするからやめとけよ」
「失礼な。可愛がってるだけじゃん」

するりと腕が離れ、背中にあった温度が消えた。
からかう? 可愛がる? 頭の中に疑問符が飛びまくる俺は綺麗に無視されて、二人は話を続けた。

「ふうん。まあ何でもいいけど、誰か俺の部屋入った? 参考書がないんだけど」
「ああ、トーヤが」

入ったね、と俺の持って来た参考書を手に取って、ナッちゃんがぴたりと止まる。

「トーヤこれ」
「へ?」
「お前には全く関係ないね、どう見ても」

シュウちゃんに手渡される、さっき持って来た参考書を見れば。
[理系コースの大学受験対策]などと銘打たれた、物理の参考書で。
あんなの持って来たっけ、とまた悩む頭の上で、最初の疑問が湧き上がる。

「…で、ナッちゃん」
「ん?」
「失恋したんじゃなかったのかよ…?」

ストレートな疑問に、ナッちゃんは少しだけ首を傾げてから、
「素直っていいよね」と、相変わらずな顔をしたシュウちゃんに向かって笑った。

【END】

**********
サイト掲載時にはかなり修正するかも、と思いながらも終了です。
オチを何回も変えたためにかなり強引になってしまったので(笑)

普通なら使わない記号もたくさん使った書き方はある意味新鮮ですが、自分でとても気持ち悪い。
トーヤ視点はちょっと無理があるようです、わたし的に。
感情をふんだん描写することが、いつもあまりないからでしょうか。

句読点の打ち方が変なのはいつものことですけれど。

次回からは前に「Flower」というタイトルで書いていた話を、微妙にリライトしながら一話完結型として書いてみようかと思います。
タイトル変更と言えど、まだ新たなタイトルは思い浮かんでいません。
変更にあたっては、18禁にあたるものはここ(ジャンル違反となる為)では全て削除し、サイト掲載時に削った部分を付与するというスタンスになる、のかな。

2007年12月05日(水)



 災難④

背後から抱きつくように、ぴたりと寄り添っている兄の顔はちょっと引くくらい近い。
まあ言えば、男が女にするような。
どう考えてもこの体勢は書きにくい、じゃなくて。おかしい、絶対。
うん、気のせいじゃなくて。

腕の位置も、微妙に抱き締められてるみたいになってるし。それで何で俺は、さりげなくナッちゃんの足の間に座ることになってんのか、もはや意味不明だ。

「面倒見とけって言われたし」
「近すぎね…?」
「こんなもんだろ」

前々からシュウちゃんを除く兄ちゃん達の、わりと濃いスキンシップには疑問を感じてはいたけど、これも疑問を感じずにはいられない。

つーかもっと前から感じるべきだろ、俺。

「まさかまだ酔ってんの」
「素面に見えない?」
「あんまり…」
「んー。今日は人肌恋しいんだよ」

ますます意味がわかんないんですけど。

「女のとことか行けばいーじゃん」

そうしれくれれば、俺もこんなやりたくねー勉強する必要もなくなるし、万々歳じゃないか。

「今は女はいい。そんな気にならないし。トーヤが勉強しながら慰めてくれればいいよ」

そんな俺の喜びの声を遮るように、更に背後を陣取ったままの兄は静かにそう言った。
だから何でそれを俺に求めるかな。

「こ、高校ん時の人は?」

最終手段として、その名前を出してみる。

「……」
「な、ナッちゃん?」

途端に空気が沈んだのが、わかった。
振り返れば、視線を落としたナッちゃんがいて。

整った顔をしたナッちゃんはそりゃ昔から女関係は派手だったらしいけど、特定の恋人っていうのはいないらしくて。
でも何回か綺麗な女の人と歩いてんのを見かけたことがあって、それが[高校の時の同級生で特別な人]だと教えてもらったことがある。

でも[コイビト]ではなくて、[トモダチ]なんだってことも。

『ナツキは好きなんだよね』

内情を知っているらしいハルちゃんなんかは、たまにそう言ってからかう。
俺は見かけたことがあるくらいで、どういう関係だとかは知らないし、聞くつもりもないけど。

今でもって言うのは。

――昔から好きなんだろうなって思うわけで。

「会ってないって…なんで?」
「さー。彼氏でも出来たんじゃない。連絡が、取れないんだよね」
「え、」

声が、低くなる。
何となく聞いた一言が意外に言ってはいけないことだった、ということに鈍い俺はここでようやく気付いた。

「もう、俺に会いたくないのかもね」

もしかして。
そんな時間に家で寝てたのも、酒臭いのも、全部そういうことを忘れたかったからだったり、とか。

思い当たってしまえば、軽口はきけなくなった。
肩に顔を埋める気配がして、さらりとした髪が頬に当たる。

「な――」

呼ぼうとした声は、横から伸びた掌に押さえ付けられ止まる。

「別にそれは関係ないよ。面倒見てって言われたから、こうしてるだけだから」

くぐもった声が、耳のすぐ近くでする。
低くて淡々とした響き。いつもとは明らかに違う雰囲気に、動揺した。
関係ないって言われても、とてもそうには思えない。

ゆっくりと退けられた掌。呼吸が楽になる。罪悪感を感じるのは筋違いなのかもしれないけど、今そばにいるのは俺だけなわけで。関係ないって言うのは簡単だけど、そんなことを言えるほど無神経でもないし。

「だから、ね。ちょっとだけこうしててもいいだろ?」
「う…」

俺をガキ扱いして甘やかしまくるナッちゃんが俺に頼るなんて、考えもしなかったし、有り得ないと思ってた。
代わりのように、両腕が体に巻き付いて。冗談で抱きしめられるのなんか日常茶飯事だけど、この状況ではかってが違う。

嫌だとかすげー言いにくい。つか、言えない。

「じ、じゃあ俺、勉強するから」

返事はなかったが、頭が僅かにずれて首筋に息がかかって、思わず体が跳ねてしまった。

2007年12月04日(火)



 災難③

「…あぁ、おはよ」
「もうオハヨウって時間でもないね、一時だよ」
「思ってたより早いって。なにトーヤ、また怒られてんの」

眩しそうに瞬いてから、こちらを見上げ寝起きの顔で可笑しそうに笑った。

「違うし」
「違わないでしょ。俺ねもう出ないといけないんだよね、だからこの子の面倒見てて欲しいのよ、逃げ出さないように」

否定した台詞はあっさりと覆され、伸びるんじゃないかと危惧した襟を解放された。
いや、むしろ前に押しやられたっていうのが正しいのかも。

「ナツキ腹減ってる? 先に何か食べるなら待ってるけど」
「いや、いい。適当に自分でやるから。それより俺、十時頃にはまた出るんだけどハルはいつ帰んの」
「んー、それまでには帰るよ、たぶんね。とりあえず、数学のプリントでも山のようにやらせてといて欲しいんだよねぇ」
「げ」
「見とくだけでいいんだろ」
「勿論」

言うだけ言うと、ハルちゃんは「じゃあヨロシクねー」なんて言って、さっさと出て行こうとする。

「ちょ、ま……っ」

夜までプリント漬けなんて、冗談じゃない。遊びに行くのが駄目なら家で大人しくしてるから。だが、乞うように伸ばした手は、振り返ったハルちゃんの笑顔で一蹴された。

「じゃあね、トーヤ」

それが、やらなかったらわかってるよね、とでも言っているようで、思わず俺はこくこくと首を縦に上下してにへらと笑った。

情けねー…。

扉が閉まると同時に背後でまた欠伸が聞こえた。

「眠いなら寝てたらいーのに」
「そうしたいけど、そうもいかないじゃん。お前何やったの」
「学校サボっただけだし」
「だけだしって。反省しろよ反省。お前の学費だけでもわりと幅食ってんだから、行きたくなきゃやめちゃえば」

ベッドの脇に肘を付いて、横目で見上げられる視線は、いつもと違って心なしか冷たい。

「冷てー…」
「何言ってんの。ただでさえお前のせいでエンゲル係数高いんだから、どっかで貢献しないと追い出されんじゃないの、そのうち」
「…未成年に言う台詞かよ、それ」
「シュウを見習えば」
「シュウちゃんと一緒にすんのが、そもそもの間違いって気がするんだけど」

やっと入った高校のレベルは、シュウちゃんやマヒロの通う高校とは偏差値自体、かなりの開きがある。その中でも優等生やってるっていうシュウちゃんと俺じゃ、自分で言うのも悲しすぎるけど天と地の差だ。

「ああなるほど。まあ何でもいいや。なんだっけ、数学プリントだっけ」
「納得すんのかよ。…だいたいそんなん持ってないって俺」
「シュウの部屋に一年の参考書あるはずから、持っておいで」

あれこれと指図してから、ジャケットを脱いでベットに放り上げる。
しわになんないのかな、なんて余計なことを考えてから言われた通り参考書を取りに行った。

家で勉強なんて受験の時以来だ。あの時はハルちゃんに呆れられ――高校行かなくてもイイってゆった――、ナッちゃんにやたらと笑われ、シュウちゃんに馬鹿にされ、ついでに隣のマヒロにまで心配されたという苦く忘れ去りたい記憶しかない。

上二人なんかいつもはウルサイくらい可愛いだの何だのと構ってくるくせに、三者面談の後は手の平返したみたいに冷たくしてくれたし。

『トーヤがこんな頭悪いとは、思わなかった』

なんて言う重苦しい溜め息も、深い同情を込めた視線も、半年経った今でもありありと浮かぶほどだ。
ハルちゃんやナッちゃんを見て騒ぎ立てていたクラスの奴らの興奮も、遠くのほうで聞こえ消えたさざめきに感じるほどにあの時はショックだったし。
まあでも晩飯ん時には、わりと立ち直れてたってのが、俺のセールスポイントだと思う。

「なにやってんの、ぼーっと立って」

ちょいちょい、と手招きされて、入口で突っ立ってた自分に気付いた。

「だって、やりたくねーもん」

真ん中にあるローテーブルに参考書やらノートやらを放り投げて、唇を尖らせる。

「自業自得って言葉、知ってる?」
「……」
「トーヤには難しいか」

ふざけたような真面目なような、どちらとも取れない口ぶり。どれだけ馬鹿だと思われてんだろ、俺。

「それくらい知ってるっつーの」
「あはは」

笑い事か。笑い事なのか。
黙ってカーペットの上に座り、嫌々参考書を開く俺の背中が、ふと温かみを帯びて、驚いて振り返った。

「…なにしてんのナッちゃん」

2007年12月03日(月)



 災難②

「で。学校は?」
「へ?あ、あのー……ご、午後から終わり…」
「な、訳ないよねえ」

声はすげー優しいけど、全然笑ってねえよ、ハルちゃん。
目がマジで怖い。

「う、うん」
「サボったんでしょ」
「え」

淡々と問われる内容にただ頷いていたけど、さすがにぴたりと止まる。
はいと言ってしまえば、長々と説教でもされるに決まってる。

「サボったんだよね?」
「……はい」

だがそんな心の内は見え透いていたらしく、覗き込まれるようにして聞かれればあっさりと頷くしか出来ないわけで。

「何でそんなやる気ないんだろうねぇ、トーヤは」
「え、と。つ、つまんねーから?」
「……」

掴まれた襟が、心なしか更に強く引っ張られたような気がするんですけど。
猫か何かと間違われてんじゃないか、俺。

元はと言えばアイツが、電話なんかしてくるから逃げ損ねたんだ。いやそれ以前に、女と病院なんか行ってんじゃねーっての。

このまま引きずられて行きそうな雰囲気をバシバシに感じながら、上へと連れて行かれる。二階のリビングでいつもみたいに説教されんのかと思いきや、三階まで上がらされた。

三階はそれぞれ自室しかない。
勉強でもしとけってことか。
遊びに行けないのは残念だけど、籠もってるだけでイイなら説教よかマシだ。ダルけりゃ寝て時間潰せばいーし。

そう頭の中で算段をして、ほっと胸を撫で下ろす。

だけどハルちゃんが開けたのは、俺の部屋ではなく。

「ナツキ。入るよ、いいね」

向かいの部屋の扉を開け――俺の腕の長さでは届かない距離dと悲しくなったが――ナッちゃんに声をかける。

既に開け放って入ってる、とは思ったけど黙ってることにした。
こういう時はとにかく黙っているに限る、とは今まで生きてきた中で覚えた唯一の策だ。

シュウちゃんあたりには『バカの一つ覚え』とか言われてるけど、これ以外解決策があるなら教えて欲しいもんだ。

それにしてもこの部屋、なんか酒臭い。
…しかもナッちゃんまでいたのかよ。
てっきり仕事でいないものだと思い込んでいた俺は、どれだけ周りの気配に疎いんだろう。

ここまで疎いと、逆に切なくなるんだけど。
小学校の通知表に、もう少し落ち着きましょう、と書かれた担任の所見まで思い出してしまって溜め息を吐いてしまった。

「ナツキ、起きて。ちょっと、トーヤの面倒見て欲しいんだけど」

そんな俺の切なさにも気付かずに、ハルちゃんがそんな事を言った。

…面倒って。
そりゃ人の面倒を見れるくらいしっかりしてねーけど、面倒を見られるほどでもないだろ。
ああ何かもうこの家における俺の立場って、幼稚園時から変わってない気がしてきた。

そして部屋の主であるナッちゃんと言えば、服を着たままベットの端に背中を預けて眠っていて、ハルちゃんの呼び掛けに答える気配はなかった。
よくこういう状態で寝ているのを見るけど、体痛くないのかと不思議だ。

俺ならソッコーで寝違える自信がある。

入った瞬間から思った酒の匂いは、どうやらナッちゃんのせいらしく、傍に寄ればさらに酒臭さに顔を顰めてしまった。

「ナツキ。ほら、起きて」
「……んー」

亜麻色の頭がかくりと揺れ、ものすごくのろい動きで俺らを見てから、眠そうに欠伸を一つ。
職業モデル、というだけあって、そんな小さな動作でもやたらに映えて見えるのは俺が身長コンプレックスを抱えてるからか。
あんま考えたくないけど。

**********
すみません。
草稿保存したつもりが、登録になっていたようで、日曜日分が土曜日にupされていました。推敲前の文章というか大まかな流れだったので、とりあえず消しました。
読んだ方はそれなりにいらっしゃるようですが、ご迷惑をお掛けします。
そして次から気を付けます~。

2007年12月02日(日)



 災難①

トーヤ(高校生)
ハルト(長兄)
ナツキ(次兄)

**********

つまんないとしか言いようのない授業を抜け出し、午後からは中学の時の親友と遊ぶ。
それが今日の予定った。

『だーから、マジでごめんって』
「はあ? 何言ってんだよ、お前」

一旦帰った家で鳴った電話を取れば、約束した相手からで「行けなくなった」なんてさらりと言いやがった。

『なんかさぁ、今付き合ってる女が妊娠したかもーとか言っててさあ。仕方ねーじゃん、病院くらい付き合わないとヤバイし』
「バッカじゃねーの」
『うっせ、ドーテーに言われたかねえよ』
「ビョーキ持ちよかマシだっての」
『は?』
『誰がビョーキ……』
「うっせえ」

最後まで聞かずに、さっさと切ってやった。
どうせ病院とやらに行かなくちゃならないんだったら、文句言って言われるだけムカつき損ってもんだ。
ついでに性病検査もしてもらいやがれ。

派手な音を立てて置いた受話器は少しずれていたが、放っておく。
くそ。暇になった。

誰かのとこ行って――誰もいなけりゃゲーセンでも行くか。
よし、決めた。

「ちょい待ち」
「ぅわっ」

外に出ようと靴を履いた時、唐突に後ろから襟を掴まれ、変な声を出してしまった。

「家具に奴当たりして、どこ行く気なの、トーヤくんは」
「ハルちゃ…っ」
「サボり?俺の目の前でイイ度胸ね」

全然気付かなかった…っ
足音もしなかったし、それよか気配がなかったじゃねえかよ。
そんな心の内を見透かしたみたいに、薄く笑われる。

普段のほほんとして見えるけど、実のところやけに整った顔の造りしてる分、そういう表情をするとやたらと冷めて怖く見えた。
俺は昔からこの歳の離れた一番上の兄ちゃんには滅法弱くて、外でどれだけやんちゃしても家では上手く逆らいきれたことが一度だってない。

二番目の兄ちゃんのナッちゃんはすぐからかってくるけど結局俺に甘いし、すぐ上のシュウちゃんなんかは普通に喧嘩出来るほど素になれんだけど。

面倒見てもらってるって気持ちと、親代わりに頼ってる意識がそうさせてんじゃないか。
最近そう自分なりに思うようになった。

2007年12月01日(土)
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