ラブレター

想い焦がれて
狂ってしまうのが正しいとするなら
これは恋ではないのでしょうが

真夜中に目を覚まし
隣に眠るかわいい人を妬むほどには
あなたを想っています

かかとを踏んで玄関を出る朝
ポケットの煙草を花束にすりかえて
似合わないねと笑いあえたら

ベランダに並ぶ街の灯を
今度はもっと、大切にしよう

逢いたくて逢えなくて
泣いてしまうのが正しいとするなら
これは恋ではないのでしょうが

今日を届けるすべを
何ひとつ知らないことを嘆くほどには
あなたを想っています
2009年02月14日(土)

朝時間

三両目の扉が開いたら靴を見る時間
デスクの書類を思い出すなら
いつもの場所を確保してから
靴はすぐに見えなくなる
溜め息は上を向いてひとつ
駅に着くたび押し寄せてくるから
ひとりにひとつを必ず守る


二つ目の駅へはまどろむ時間
ほかの駅より少し長い区間
あの夜のあの人を思い出しては
おじさんのくしゃみで我にかえる
思い出はいくら古くてもかまわない
誰も責めはしないのだし
みんな思い出すのに忙しいのだし


まもなく水面に朝日が映る時間
列車は知らせる、音を変える
きらきらの上を飛び越えるとき
線路を捨てることは誰も知らない
本を読むお姉さんが顔を上げた
ぎゅうぎゅうの車内が
すこしだけゆるくなる7秒と半分


列車は黙ってみんなを運ぶ
秒刻みで時間をあてがいながら
あふれる溜め息を拾い集める
何もかもを知っていて
何も知らないふりをしている
たまにやりきれなくて
ひどく揺らしてしまうことがある


だからそろそろ左足を踏ん張る時間
みんなで一斉に振られる準備
列車は最後の駅に滑り込み
ベルとアナウンスが頬をたたく
溜め息ごと吐き出される時間を前に
靴や朝日や思い出を全部
忘れる時間も用意されている
2009年02月06日(金)
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