もうひとつの土曜日

アップルパイと世界地図を抱えて
古いエレベーターに乗り込む


いつものように
チョコレートが準備されているだろう


いつも歌ってくれた歌は
古くて、やけに切なくて


見えない未来の話を
テレビの音でかき消した


一緒に過ごさなくなったのは
いつからだったろう


そんなことは
とっくに忘れてしまったけれど


あの歌なんか聴かなくたって


欠けた前歯の優しい笑顔は
今でもちゃんと、思い出せるよ
2008年03月28日(金)

かわらない


あのひとが言ったことばを
ふと、口にした


あのひとと同じところに立って
ほんとうの意味に気づいた


だからどうと言うには
時間がたちすぎていて
2008年03月24日(月)

雨の降る庭

窓を打つ雨
春を呼ぶ雨


木々の輪郭はうるみ
墓石までも色めく


雨の降る庭
春を待つ庭


絵画のような部屋に
春は来ない
2008年03月14日(金)

夜を縫いとめる

つぎはぎの夢にくるまり
逃げるように
ふたり、眠り続けた


こぼれる光は
レンブラントの梯子
永遠の幻に怪しく誘う


あのまま君に溶けていたなら
ちぎれた夜など
こなかっただろう


ずっと眠り続けていたかった


夜があけても、明日が呼んでも


世界を欺き
すべてを裏切ったとしても
2008年03月10日(月)

ねがい

遠いとおい異国の地に
わたしをひとり、捨て置かないで


名前はいらない
花も飾りも祈りでさえも


美しいものも優しいものも
愛しいものも悲しいものも


すべて砕いて
こなごなにしてくれたなら


この身の最後のかけらとともに
太古のらせんへ還るとしよう


2008年03月04日(火)
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