お姉ちゃん記念日

中途半端な12月は
うっかりするには充分すぎて


忙しさの脇を今年も
するりするりと通り抜けていく


ほんとうは、だれも忘れてはいない
たからものがやってきた日のこと


だれも忘れてなんかいない
君が覚えていないだけさ


ね、笑う準備をしておいて
今日はわたしのだいじな記念日


夜が降参するまで
騒々しいうたを歌おう


お菓子は食べかけ
キッチンには立ちっぱなし


コーヒーはいつもどおり
インスタントでかまわないから
2007年12月28日(金)

星の砂

去った季節はふたつ
昨日を積み重ねるふりをして
なにもかもを連れて行く
白いかけらはだんだん崩れて
いつか並んで見上げた
冬の夜空に還るよ
2007年12月27日(木)

ゴセシケ

渡り廊下の突き当たり
教室から離れた「げんしゅく」なところ


旧校舎の二階の影は長く
焦げ茶色の床は歩くたびにきしんだ


お母さんが縫ってくれたブックカバー
図書カードはスタンプのにおい


雨ニモ負ケズ、って言ったのは
校長先生じゃなかった


君がタイヤを飛び越えて
駈け足で帰るころ


逆上がりの練習も忘れて
夢中になって選んだのは


窓際の棚、下から二番目に並ぶ
もう一つの不思議な未来



2007年12月22日(土)

Christmas Dinner

いつも牛乳ばかり飲んでいたひとは
玄関のすぐ脇の台所で
手際よくショウガ焼きを作った
わたしは一回も作らなかったけれど


いつも鼻歌を歌っていたひとは
ファイナルファンタジーに夢中になった
潜水艦の扉をくぐって
狭いダンジョンで髪を洗った


ジグソーパズルを作ってくれたひとは
観覧車が苦手だった
パズルはこないだの引っ越しで
ついに捨てた


そのひとが好きだった犬も猫も
もうとっくにいないのに
Peter, Paul & Maryは
手加減を知らない


第一関門、第二関門を突破して
都市高速は10階を目指す


今年もイチゴを並べよう
シャンメリーの栓を大げさによけたら
大人っていいねって笑いながら
お箸でワンホール、食べるんだ
2007年12月16日(日)

クロール

指先をピンとのばし
絶え間ない抵抗をかき分けて
降り注ぐしぶきをなだめ
目前のあぶくをいとおしみ


息は律動的に
つま先は調和と均衡の尾
流れるままに、流されぬように
優雅に、そして悠然と


待ち受ける底なしの闇
聞こえるは青い、青い深海の嘆き
冷たさは毛穴までしみ入る
曖昧な視界が心を惑わす


一人きり、声は届かない
それでも、うろたえることなく
身にからむ水が
心地よく肌を滑るまで


すこしずつ、すこしずつ
2007年12月14日(金)

ポテトコロッケ

靴を履く背中を呼び止める
大きな腕、
確信のどまんなか


力強い声は頭のうえ
望んだ音はダウンの奥深く
頬に当たるのはナイロンの温度


それくらいでちょうどいい
でなければきっと
こぼれ落ちてしまったろう


「こういうことって大事なのよ。」
そういってごまかした
別れ際の夜のこと
2007年12月09日(日)

どうしようもなく情けない夜


たとえば


痺れるほどの情熱
めまうほどの恍惚
数え切れない選択と
たとえようもなく甘い憂鬱


大切なものはみんな
12月の夜に水浸しになった
眠らない君は
デスクの下で夢をむさぼる


更新されない日記
更新し続けるマイナスの記録
二年と3ヶ月がただ
猫のあくびみたいに通り過ぎる


君らしくないと言うほど
君を知らない
「大丈夫。」を繰り返すほど
残酷でもない


君は君の着ぐるみをかぶって
しぶしぶ明日を生き
わたしは誰かを騙して
ひそかに思い出に住まう


手書きのメロディ
ハミング、ハミング、ハミング


あの人が好きだったワンピースは
ベッドの上で
今後の方針を待ち続けている


2007年12月02日(日)
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