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  月読 後日談


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 ぎむれっと前日譚


   ぎむれっと-40話 -キリリク話
  かっこいいカカシと、
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2008年11月26日(水)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 36) Side K -18禁-


並べて敷いた夜具のひとつに横たえられたかと思うと、身包み剥がされた。
今さら恥ずかしいもないはずだが、妙に恥ずかしくて顔が火照る。
きっとテンゾウが、オレの知っている馴染んだテンゾウとは微妙に違っているからだ。

全裸になったオレをじっと見つめ、それからオレの目を見て微笑む。
「少し、寒いですね」と言いながら、上掛けを被りながらオレを抱きしめた。
ピッタリと重なりあった肌の間で、互いの欲望の証が擦れ合う。
「くっ」
思わず喉を鳴らすと、嬉しそうに腰を擦りつけて来る。まるで発情期の犬のようだ。
だが押し付けられたそれは、犬のように可愛くはなく、むしろ熱く堅く猛々しい。
ここ半年余り無縁だった行為に、欲情よりもためらいが先に立つ。だが、久しぶりのテンゾウの温もりに、皮膚感覚ばかりが研ぎ澄まされ、気持ちばかりが先走る。
「こんなに」
と呟くと、テンゾウの滾り切った熱と一緒に握り込まれた。
「ああっ」
叫んで、仰け反った。ジンと腰椎に刺激が伝わり、足先まで走った快感に震える。
「浮気、しなかったんですね」
この期に及んでアホなことをほざく口を、塞いでやった。
途端に体中が熱を帯びる。
絡めた舌は、つい数日前と同じなのに、まるで別人のようにオレを蕩けさせる。
無意識のうちに腰を揺すりながら、まるで獣のような荒い息遣いのままオレたちは身体を絡ませ合った。

「すみません、ボク」
ふっと息をついたとき、かすれた声でテンゾウが訴えてきた。
「ん、いいよ」
オレは自分から腰を浮かせる。
そのまま引き裂いてくれてもいい、と思うのに、テンゾウは用意した傷用の軟膏を塗り込め、オレの堅く閉じた襞をゆっくりとこじ開ける。
久しぶりの感覚に、全身の表皮があわ立ち、汗腺から汗が噴き出した。
指先でかき回される刺激にあわせ、当たりはばからず声を上げ、自由に動かせる上体をくねらせる。
早く、早くあの、息が詰まるような……。
オレはテンゾウに抱きつく。
まるでテンゾウの熱にオレが浮かされているようだ。
いつも、オレに触発されないと動かなかったテンゾウの情動は、本来、これほど強く熱を帯びたものだったのか。
「もう、いい、いいから、早く」
「でも」
「いいから」
ついでに耳朶をかんでやると、うっ、とテンゾウは呻いた。
いい声だ。いろっぽくて、男っぽくて、腰の奥に響く。

ずるりと指が引き抜かれ、腰を抱え込まれた。
敏感な皮膚に感じる他人の熱に、またオレは声を上げた。
いくら、夜の早い村とはいえ、まずいだろうと理性が咎めるのに、抑えることができない。あてがわれ、貫かれる、そのひとつひとつに、身を戦かせるオレがいる。
たとえ拷問されても、こんなふうに声をあげたりはしないだろうに。
なぜ、この快感とも戦慄ともつかない、感覚に耐え切れず叫ぶのだろう。
我ながら不思議だ。

「そんな……こえ……カカシさん」
テンゾウの腕がオレの頭を抱きこむ。
それでも、オレは泣き叫ぶ。
テンゾウの動きに導かれるように、ああ、ああ、と声を上げる。
脊椎を通って脳髄まで、ただ痺れるような快感と欲望だけに支配され、本能のままに身を捩り、腰を振り、ただあさましく、わめき続ける。
「くるしい、ですか?」
違う、と首を振る。
「いい、きもちいい」
かろうじて、言葉を紡ぐ。

オレを壊せ。
ぐちゃぐちゃに、引きちぎり、砕いてしまえ。
テンゾウ。
ただの肉の一片になっても、オレはきっと。
きっと。
おまえの指先を感知する。
ただ、おまえだけに、反応する。

オレの細胞のひとつひとつが、記憶する。
オマエの感覚を、オマエの気配を。

だらだらと欲望の証をみっともなく垂れ流しながら、オレはテンゾウに身を委ねる。
受け入れる身体は常の絶頂を迎えることなく、それでも突き入れられるたびに震え精を撒き散らす。
そしてオレはといえば、上り詰めた後は急速にさめていく男の生理とは異なる快感に支配され、まるで天空に放り出されたかのように、もがき続ける。
あの、時空の狭間にいるような、あそこを漂っているかのような。

くぅ、とテンゾウが喉を鳴らした。
むちゃくちゃにかき回されて、オレは声がかれるほど、叫ぶ。
直後、脈動とともに腹の底に熱い迸りを感じた。
溶ける、溶かされてしまう、そう思いながら、オレは必死でテンゾウにしがみつく。
鼻先を掠めるテンゾウのかすかな汗の匂いに、思わず、肉厚な肩に噛み付く。
鼻腔を掠める血の匂いが、オレの神経を焼き切る。

どさり。

ずっしりと重みを感じるが、まだ、脳天が痺れているようで、オレは身動きできなかった。
テンゾウも同様なのだろう。
ゼイゼイと言うせわしない呼吸音だけが、耳元に響いてくる。
まだ、繋がったままだが、テンゾウの熱が冷めるのと同時に、ヤツが放った粘液があふれ出し、夜具を濡らした。
ごくわずか、血の匂いも混じっている。
切れたか、裂けたか、オレも出血しているらしい。

だが、じんじんと響いてくるのは、痛みよりも快感の波で、オレはまだ喘いでいた。

「だいじょうぶ、ですか?」
かすれ切った声を笑ってやりたいが、オレもほうも似たようなものだ。
「なんとか、な」
オレはオレのものとも思えぬ腕をのろのろと動かし、汗ばんだテンゾウの背に回した。
「おまえ、満足……した?」
「……とりあえず、は」

正直な返答に思わず吹き出したら、腹筋に力がこもり、身のうちにあったテンゾウを押し出してしまった。

「あ」
とテンゾウが声を上げる。
「あ」
とオレも声を上げた。

テンゾウの吐き出した精がこぼれ、さらに夜具に広がった。
なんだか、おねしょをした子どものような気恥ずかしさに、オレは思わず「バカヤロウ」とののしっていた。
だが、テンゾウは「はは。参りましたね」と笑っただけで、オレの罵倒をやり過ごした。
そのおおらかな反応が、いかにもテンゾウらしく、オレはまた「バカヤロウ」と呟いた。



2008年11月25日(火)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 35) Side T


――綺麗だ。
先輩の紅蓮の瞳と、濃いグレーの瞳。
何度見ても、綺麗だと思う。、その双眸がボクを捉えている。

冷たい水が、チャプンと胸の奥で音を立て、水面に波が立つ。
――好きだ。このひとが好きだ。
ボクの気持ちに呼応して、波が大きくなる。
波頭が白く砕ける。
頭のなかで、ザザンと波打つ音が反響する。

……くっちゃっていい?

え?

残響に紛れるように、声が聞こえた。

……お帰りって言われたら、ただいまでしょ?

また、だ。

……だから、今回もお前を信じる。

なんだか懐かしい。でも、この先輩の声……。

……錆びない釘でいたいの。

なんだか、若いような……と思った途端、うわんうわんと耳鳴りがした。
そして、あのね、テンゾウ、とか、テンゾウのすけべ、とか、すご〜い、テンゾウ、とか、先輩の声が多重音声であちこちから響いてくる。
先輩の声の波にのみ込まれそうになって、ボクはうずくまる。

……ウ! ンゾウ!
「テンゾウ!!」
強く肩を掴まれた衝撃で、我に返った。
「せん……ぱい」

……もう、先輩じゃない、よ

ああ、そうでした。ボクにとっては、あなたはたとえ暗部を離れても先輩ですが、そう呼ばれたくないと暗にほのめかされましたね……。

「……カカシさん」

見開かれていた先輩の目が、さらに大きくなる。
「テンゾウ!」
「はい」

ザザザと引き潮のような音と共に、耳鳴りが遠のいていく。

……謹んで拝命いたします。

自分の声が、はっきりと記憶の底から浮き上がってきた。

そう、ここは抜け忍の村。潜入任務の命を受けると共に、先輩との記憶は五代目が封じた。
術も封印されたが、それは村長が解いた。
任務の途中、カカシさんと遭遇し、ともに敵忍を追い込んでいったことを、まるで映画でも見るように思い出す。
自分の記憶なのだが、スクリーンに映されているかのように距離がある。
早送りの画像のなかには、ボクがカカシさんを押し倒しているものもある。
あんなに、がっついていたのか、ボクは。

ああ、帰って来た。帰ってこれた、カカシさん、あなたの元へ。

ボクは、まだ目を見開いたままの先輩を抱きしめた。
「ただいま」
「え? あ?」と、珍しくうろたえている先輩をさらに抱きしめ、その首筋に顔を埋める。
ああ、懐かしい。ほとんど体臭のないカカシさんの、でもボクだけが嗅ぎ取ることのできる匂いがする。
「カカシさん、お帰りは?」
「は?」
「ただいま、って言ったんですから、お帰りって言ってください」
言いながら、笑いがこみ上げてくる。
ボクは勝ったのだ、相手が五代目なのだから、負けるはずはないのかもしれないが、でも、勝てる確信もなかった賭けに、勝った。
ざまあ、みろ、だ。

「カカシさん、ボクも大好きですよ」
「え? 何言って、ちょ……」
顔を埋めたついでに、首筋を吸う。
ドクンと下腹に熱が集まる。
「抱いても……いいですか?」
「は? や、いや」
「ダメですか?」
堅い大腿部に腰を擦り付ける。ゾクと腰骨がしびれた。
「や、ダメじゃないけど、じゃなくて、テンゾウ!」
グイ、と引き剥がされる。ほんのり頬を紅潮させた先輩が、怪訝そうにボクを見つめた。
「思い……出したの?」
「はい」
「全部?」
「はい」
「村に来てからのこと、覚えてる?」
「はい」
「ほんとうに?」
「はい……いまボクの頭が胴体と繋がってるのは、カカシさんがいてくださったおかげです。あやうく、首を飛ばされるところでしたから」
先輩の顔が、一瞬、表情をなくした。
そして、徐々に、眉根が寄る。
目元が細くなり、口がへの字になった。
と思ったら、口角だけが持ち上がる。
なんだか泣き笑いのような顔だ、と思った途端、背を抱き返された。
今度は先輩が、ボクの肩に顔を埋める。
ぎゅうぎゅう抱きしめられて、苦しい。

ああ、心配かけたんだ、とわかる。

「……すみません」
顔を押し付けたまま首を振るものだから、首筋がくすぐったい。
「いい。いいんだ、そんなことは」
そして、ほっと息とつく。

「ほんとうに、身体は大丈夫なんですか?」
「……ん」
「抱いても……いいですか?」
「ん」

腕のなかの先輩は、心なしかチャクラも弱く、まだ全快しているとは思えないのだが。
ただ、ボクの欲望が突っ走って、このままではどうにも仕様がないほどだ。
こんなことは、なかった。
こんなふうに、欲しいと思うことはなかった。
実験の後遺症だと医療忍からも指摘されていたから、そんなものだとずっと思ってきた。
だが。
この、自分でコントロールすることさえ難しい衝動は。
これが、情動というやつなのか?

「カカシさん……あなたが、欲しい」
ボクが口にすることができた言葉は、それだけだった。



2008年11月24日(月)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 34) Side K


――欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい……。
テンゾウの声にならない声が、一日中聞こえる。
本人は努めて隠そうとしているようだが、丸わかりだ。

こんなことは初めてなので、オレも戸惑う。
大蛇丸の実験のせいで押さえ込まれていた何かが、はじけたとしか思えない。
まるで10代まっさかりのような……。
記憶を封じられて尚、オレを求めるテンゾウに泣きたくなる。
ああ、オレってば、愛されてるじゃん、などとかつての弟子の口調を真似てみる。

オレの体力が完全に回復するころには、里からの指令も届くだろう。
そうしたら、テンゾウもオレも次の戦いに駆り出される。
そうなる前に。この穏やかな空気のなかで……。
黙々と日々、時を刻み生を営むこの村を、オレはとても好きになっていた。
だが、それもオレの日常が血塗られた忍のものだから、なのかもしれない。
それでも、今、この村にいることを許されている間に、テンゾウを求めて何が悪い?
本来、コイツはオレの恋人だった。
その過去を封じたのは里だ。仕方ないことだとは、わかっている。納得もしている。だが、オレだって血の通った人間だ。痛みは感じる。
だが、結局こうやってオレたちはまた、惹かれあった、そのことまで否定されたくはない。
何度引き裂かれようとも、その都度オレたちは出会い、恋に落ちる。ざまあ見ろ。
――と、まぁ鼻息荒く決意したものの、日々訪れる客人の相手に時が過ぎる。
まだ全快とまではいかないオレは、力尽きて床に伏す。
そして、テンゾウの「欲しい」という内なる声に揺さぶられるように、目を覚ます。
こいつ、自覚してないんだろうか? それは忍としてどうよ、と、いささか心配になる。

そんなこんなの3日目の夜。
珍しいことに、長だけでなくハギも訪ねてきた。モズは早めに帰し、まだそう夜も更けぬうちにハギが長を送っていくことになった。見送りのためにテンゾウが席を立つ。
その隙に、オレは多少だるさの残る体を起こした。とりあえず、座敷を片づける。
テンゾウは、体力の回復していないオレを気遣っているから、元気になったと思わせれば、きっと――。

「何してるんですか」
見送りから戻ったテンゾウは案の定、オレの行動を咎めた。
「別に、オレ、けが人じゃないし。今回は消耗したけれど、チャクラ切れは起こしていないし」
無難な言い訳を口にする。
「だって、日がな一日寝っころがって」
「こんな特別休暇みたいな日、こんどいつあるか」
ここが芝居のしどころだ。オレは、ニッコリ笑ってやった。途端に、テンゾウの眉間が険しくなる。
「ボクを心配させて、何が楽しいんですか」
ありゃ、やりすぎたかとは思ったが、今さら引くわけにはいかない。
「おまえを心配させるつもりは、ないよ」
「でも」
「テンゾウ」
テンゾウの言葉を遮る。繰言はもういい。オレは聞きたい。おまえの本心を。オレを求めるおまえの言葉を聞きたいんだ。
「何か、オレに言いたいことがあるでしょ?」

テンゾウは今度は、あわてて視線を逸らした。
「いえ」
どうしてそこで、ためらうのか、とオレのほうがじれったくなる。でも、こいつはこういうヤツだ。
「そう? なら、オレの勘違いか。ま、消耗したのは嘘じゃない、でも、おまえが心配するほどのことでもないんだ」
そう言って、オレは濡れた手を拭い、「寝るか」と座敷に上がった。
テンゾウも後に続く。
テンゾウが布団を敷き、オレがシーツをかける。
布の擦れる音だけが大きく聞こえるのは、二人とも無言だからだ。
夜具の支度が整うと、テンゾウは土間に降り、不自然な沈黙をごまかすかのようにことさらテキパキと顔を洗い口を漱ぎ、それから、しばし天井を見上げた。ただの煤けた天井だろうに……。
そして、オレはと言えば、そんなテンゾウの後姿を眺めていた。

ああ、そうか。
言いたいことがあるのは、オレも、だ。
オレこそ、まだ何も告げていないじゃないか。
まるで、欲しがりの子どものように、テンゾウから言ってくるのを待ちかねているだけで。
そうだ。
“このテンゾウ“は、オレとの過去など覚えていないのだから。

「テンゾウ」と呼びかけたオレの声と、「先輩」と振り向いたテンゾウの声が重なった。

ほの暗い土間に立つテンゾウの瞳は、ほとんど漆黒に見える。
だが、闇の黒ではなく、文字通り艶やかな漆の黒だ。
その目を見ていて、ふと思う。
たとえば、記憶を封じられたのがオレだったとして。
オレは、またテンゾウに惚れるだろうか。
自問しながら覗く瞳の底、いつも冷静なテンゾウが内に秘めている熱を感じる。
オレがナマクラになっていなければ、きっとテンゾウとの記憶をなくしていても、この熱を感知することはできるだろう。だったら、オレだって、たとえ記憶を封じられても、またテンゾウに惹かれる。

この秘めた熱に、心を奪われる。
それは、テンゾウという忍の核を成す熱――彼の内に消えず絶えず、常に燃え続ける火の意志だ。

皮肉なことだ、と思う。
テンゾウとオレを引き裂くのが、里の意志だったとして。
テンゾウとオレを、何より強く結びつけているのが、火の意志なのだ。
そうだ。
テンゾウもオレも、木の葉の里の忍として火を灯し続ける、そんな相手に惹かれたのだ。
もちろん、互いに言葉に出して確かめたことはない。
だが、オレたちの日々の大半は戦場だった。
振り返ると、たまの休暇を過ごしたあの日やこの日の記憶が蘇るが、それは”特別”だったからだ。
そして、思い返すまでもなく、オレたちが共に過ごした時間のほとんどは戦闘のなかだった。
当たり前だ。オレたちは木の葉の里の忍だから。
常に死と隣り合わせの世界で、だれよりも信じ、だれよりも頼り、だれよりも共に戦いたいと願ったのは……テンゾウ、おまえだ。
きっと、テンゾウも同じだったのだ、と。
だから、オレたちは惹かれあったのだ、と。
たとえ、引き裂かれても、やはり惹かれあうのだ、と。
――オレは確信した。

敬愛してやまぬ父さん、先生、大切な仲間だったオビト、リン……彼らに対しては、後悔ばかりのオレだ。
でも、テンゾウに対しては――。
悔やむ必要もないほどに、共に戦い、共に生き、たとえ、今、終わりの時が来ても――もちろん、少しでも長く一緒に生きたいという望みは抱いているにせよ――思い残すことはない、というほどに、いつもいつも、一分一秒、互いの魂を寄り添わせるがごとく、生きてきた。

ささいなことで喧嘩をしたこともある。
行き違ってすれ違って、なかなか会えなかったこともある。
けれど、そういうこともひっくるめて、それでも、後悔しない。そう決めて、生きてきた。
テンゾウも、同じだったから。
だから。
――だからテンゾウは、今回の任務を受けた。

やっと、オレは理解した。
いくら任務とはいえ、本人の意志の確認もなく、記憶を封じた上で抜け忍の里に潜入させる、などということはありえない。それでは、いろいろな意味でリスクが大きすぎる。
つまり、テンゾウがこの任務に就いたのは。
テンゾウが承諾したからだ。
もちろん、断りたいのに否応なく承諾せざるを得ない状況に追い込むことは、可能だ。
だが、あの綱手さまがそんなことをするか……それは、否だ。
何故なら、なんらかの形で遺恨の残る方法は悪手であることを、あの方はよく知っているはずだから。

テンゾウの意志だとしたら。
あいつは、確信していたはずだ。
たとえオレとの記憶を消されても、オレたちを繋ぐ絆を断ち切ることはできない。
確信していたから、任務を受けた。

ほんとうに、皮肉だ。
今、オレとの過去の記憶をなくしたテンゾウを前に。
だからこそ、テンゾウはオレを信じ、心の底から、オレを好きでいてくれたのだと確信するとは。

「テンゾウ……オレ、おまえが好きだよ」
オレの口をついて出てきた言葉に、オレ自身が驚いていた。



2008年11月23日(日)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 33) Side T


「もへじさん、こんな感じですか?」
「いちいちオレに聞くんじゃなくて、自分で感触をつかまなくっちゃ」
「でも……」
「印の組み方は間違ってないよ。あとは、チャクラの練り方だけ。ゆっくりでいいから、ひとつひとつの動作に意識を向けてごらん?」
「はい!」

あれから、3日――。
ボクに与えられた家の畳敷のひと間に寝そべって、カカシ先輩がモズの修行を見ている。
寝込むほどではないが、かなり消耗の激しかった先輩は、報告書を忍犬たちに託し休養中。ボクの報告書も届けてもらうように頼み、目下、先輩の回復を待ちつつ、モズの修行プログラムを組んでいるところだ。
とはいえ、敵の身柄は、まだこの村の牢にある。
いずれ木の葉の里から引き取りに来るだろうが、それまでは不測の事態に備えての待機、という意味もあった。

ボクもカカシ先輩同様、正式に客人待遇となった。村としては異例のことだろう。
任務で潜入していたボクなどが大手を振って、と思ったが、ひっそりと暮らすひとびとの心根は穏やかで、正規忍に対する妙な気負いもなければ、負い目もないようだった。自身が抜け忍という者もいるにはいるが、その子孫のほうが割合としては多いのだから、そういうものかもしれない。
もちろん、これらの背景には村長に対する絶大な信頼があった。長が「案ずることはない」とひと言言えば、だれもが納得する。
その長だが……。

「あ、長!」
モズの無邪気な声が聞こえ、見かけによらず律儀な先輩も身体を起こす。
「よいよい、そのまま、そのまま」
笑いながら長は、大降りのかごを差し出した。なかには、きのこと野菜、締めて捌いた鶏肉などが入っている。
「護衛もつけず」とボクが呟いたのを聞き逃さず、「なんの、おぬしらと一緒におるのが一番の安全」と嘯く。
昨日も一昨日も、こうやって手土産を携え、長はやってきた。結局、モズを助手に使いながら、ボクは夕餉の支度を整える羽目になったのだ。
先輩も交えての術についての考察や、ボクらも知らない時代の話など、楽しくはあるのだが。

――もどかしい。

唐突に先輩を抱き、任務のあわただしさのなかで思いを告げた。
先輩も応えてくれている、ように思えた。
だから、今度は手順を踏んで、まず好きだと伝えたい。
まだ完全に体力がもどっていない先輩を抱くことは叶わないが、抱きたいという己の意思ぐらいは伝えたい。
せめて、了解をもらったうえで抱きしめるぐらいは、したいと思うのに。
夜、座を辞す長をひとり帰すわけにもいかず付き従って、戻ってみれば先輩はもう眠っている。
そして、朝餉を終えるころには、モズが来る。時に、モズの友人たちも一緒に。
日中は日中で、守り番たちが入れ替わり立ち替わり尋ねて来る。

思えば、この村に来てこの家がこんなに賑わったのは初めてのことだ。
そして先輩は、「こんなナリですみませんね〜」と言いつつ、縁側に近い座敷の一角に寝ころんだまま彼らの相手をする。時に庭のほうに向きをかえ、モズの修行を見る。
それは長を相手にしてもそうだった。挨拶のときこそ起き上がるが、あとは断りを入れて横になる。
一日も早い回復を望む先輩のそんな姿に、だれも意義は唱えない。むしろ、取り繕わない姿は、自分たちへの信頼の証と思っている節がある。
そして、本来ならゆっくり休むべき相手に会いにくるのもまた、回復したら村を去る先輩から、少しでも多く学びたいという、これまた真摯な願いに基づいている。
ボクがかろうじて嫉妬心を抑えていられるのは、だからだ。
ボク以外、だれひとりとしてヨコシマな想いを抱く者はいないのだから。
それに、みなが先輩を慕う気持ちもよくわかる。たとえ子どもであっても侮らず、年上であっても礼は尽くすがおもねることのないひとだ。
自分が想いを寄せている相手が、みなから好かれる、というのは、嬉しくもある。
だから、それ自体、迷惑なわけではなく……やはり、ただ「もどかしい」としか言いようがない。

この日、長が来てボクが例のごとくモズを助手に夕餉の支度をしているところに、ハギが来た。
上等の焼酎と、取れたばかりの青菜を手土産に。
「見事なちぢみほうれん草ですね〜。これはゴマ和えにするとうまそうだ」
先輩の声に、モズがすり鉢を手にする。
「これ?」
ボクに確かめる。
「ゴマがどこにあるか、わかる?」
「はい」と元気良くこたえ、モズは戸袋に手をかけた。
「ゴマは体にいいから、もへじさんも、きっとすぐ元気になるよね」
「ああ。そうだね」
答えながら、ボクは思う。元気になったら、そのときがこの村との別れのときだ、と。
「あ、あった」とゴマの入った壷を取り出したモズは、ボクに向かってニッコリ笑う。
「ぼく、トキやもへじさんと会えてよかった。ずっと一緒にいたいけれど、トキやもへじさんがいた村でも、待っているひとがいるよね。トキだって、もへじさんだって、帰りたいよね? だから、もへじさんには早く元気になってほしい」
ほんとうに、この子は頭がいい。ひとの心の機微にも聡い。だからこそ、無駄な言葉を発しないのかもしれない、とここ数日のモズを見て、ボクは考えを改めつつある。
「ボクも……先輩もこの村が好きだよ。でも、やはりボクたちはここにずっといることはできない。うん、モズの言うとおりだ」
「でも、ぼく、トキのこと忘れない。トキが聞かせてくれた、樹の声を、絶対忘れない」

あの戦闘のあと、すぐにというのはさすがに無理だったので、翌日、ボクは裏山を訪れた。
そして戦禍に倒れた木々たちの根を探り、再生を試みた。何本かは、それこそ根こそぎだったので、叶わなかったが、何本かはそこから若木を芽吹かせることができた。
本来の木遁の使い方とは違う――どう言いつくろおうと、木遁とて戦闘のための術だから――ボクにとっても珍しい経験となったその作業を、やはりモズは鋭い感覚で逐一捕らえていた。
「ボクも……トキみたいに、なれるかな」
ゴリゴリとすりこ木を動かしながら、俯いたままモズが問う。
「……モズ。きみはボクみたい、じゃなくて、ボクを越える、そんな大人になるんだ」
戦闘のための術ではなく、森羅万象を支える、そんな術が、モズなら可能かもしれない。
戦争が忍の術を極めさせ、強い忍を生む、だけど、そうではない方向に伸びていく道筋があってもいいんじゃないか、そんなことをボクは考える。
「できた!」
ねっとりと艶を帯びるまですり潰されたゴマに醤油をたらし、ゆでて水に晒したほうれんそうを絞って、和える。
「ほうれん草のゴマ和えです」
モズが座敷に小鉢を運ぶ。
「おお、うまそうじゃの」
長のやさしい声。
「もへじさん、ここに置きますね」
「ありがとう。モズくん」
ここで、この村で、先輩と二人……そんなことをふと思ってみる。そして首を振る。

先輩はそんな甘いひとじゃない。忍としての矜持を内に秘めている。
「抜けましょう」などと言った日には、ボクなどきっと瞬殺だ。
そして、先輩は”ボク”という後輩を殺した傷を背負って行く――それは、ダメだ。

「お待たせしました」
土鍋をコンロに載せる。すぐにクツクツと煮え始めた。新鮮な肝は血抜きをし、薬味を添えた。
土間を背に座るボクの正面に、庭を背に横たわる先輩。
居間はもう雨戸も閉めてしまったので、先輩の背後には障子貼りの引き戸があるだけだ。
「寒くありませんか?」
声をかけると、「ん、だいじょ〜ぶ」と答えが返る。
「砂肝と肝、刺身でもいけますよ」
「じゃ、ちょうだい」
モズがさっと動いて、小皿に取り分け、薬味と醤油を手に先輩のところに運ぶ。
「よっ」
先輩が身体を起こす、その背に綿入れ半纏をモズがかける。
盆の上に、ハギのもってきてくれた焼酎を取り分けた徳利があった。
「お湯割り?」
この3日で先輩の好みを覚えたモズが尋ねると、先輩がニコッと笑う。
モズは土間に降り、まだ竃に乗せたままだった薬缶から、別の徳利に熱湯を注いで持ってくる。
その間に、ボクはたたきにしたササミを取り分けた。
「モズ、これも」

手酌で湯で割った焼酎を飲みながら肴をつつき、先輩は長の話に相槌を打つ。
「ええ。彼らが本拠にしていた村は、ちょうど火の国と雷の国の国境にあります、火の国の統治になったり、雷の国の統治になったり、いわば大国の力関係に翻弄された村です。その一番の混乱期を選んでいた節がありますね」
「なるほど。混乱しているからよそ者が紛れ込んでも追求されにくい、ということですか」
ハギが言う。彼の父は、まさにその時代のその村に戻った。
「でも、戦場になったことはありませんし、あの村の村長は代々なかなかやり手で、村のなかにいる限りは安全でしょう」
カカシ先輩の言葉に、ハギがほっと笑みをこぼす。二度と会うことはない父の行く末を、ハギは案じていたのだろう。そして現代のその村から飛んで来たという先輩は、報告書とともに、村に宛てた書簡も託していた。
ボクは詳しく聞かされていないが、もしかしたら、家族は今の時代に移ってくることになっているのかもしれない。あるいは、彼らが過去に干渉することで現れる影響について、何か示唆したか。
「民あっての国のはずが、統治する者の勝手で民が翻弄されるとは、のぅ」
「国も大きくなると、民という言葉そのものが記号のようなものになってしまいます。長のように、この村のすみずまで知り尽くしている、というわけには、やはり……」
「そうでなければ、統治も叶わぬのだろうが、難儀なことよのぅ」

今日もまた、先輩に想いを告げないまま、夜が更けていくのだろうか。
そう思うと、胸の底にひたりと冷たい水が湧く。
つらいというよりも、どこか甘美な陶酔にも似て、ボクは自分が恋に酔っているのだと自覚した。



2008年11月17日(月)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 32) Side K


「くそ!」
気づいたら、オレは跳んでいた。
同時に鎖分銅を投げる。

戦闘のさなか、切迫した状況下での、らしくもない、テンゾウが見せた隙。
そこを、敵が突く。
強力な結界をまとった腕が――。

腕だけが、テンゾウに迫る。

「なに?」
結界ごと腕を絡めとろうとして、引っ張られる。
なんだ? これは。この術は……。
周囲の時空が歪んでいるのか?

ぎゅん、と写輪眼を回す。

間違いない、時空が歪んでいる。
あの腕に捕らえられたら。
テンゾウは――。

ざ、と血の気が引き、総毛だった。

渡してなるものか。
オレのテンゾウを。
テンゾウの命を。

間に合え!
間一髪。

「退け!」
叫びながら、オレは鎖を引く。
ぐんと手応えが返ってくる。
1秒でいい。時間をくれ。

指先がまさに喉にかかろうとする刹那。
テンゾウが身をかわした。

オレは鎖を放す。
加速した腕は、そのまま木の幹にぶつかり、抉り――消滅した。
オレの鎖分銅もろとも、消え去った。

ゼイゼイと、己の呼吸が煩い。

別の木に飛び移ったテンゾウが、呆然と抉られた幹を見ていた。
無意識にだろう、喉元に手を当てている。
テンゾウの替わりに傷つけられた樹木が、ゆっくりと傾いていく。
ミシともバキとも聞こえる音が、まるで断末魔の叫びのようだった。

「先輩」
テンゾウが隣に立った。
「あれは?」
「ごく小さな時空の歪みを強制的に作る術、だろうね」
「血継限界?」
「ああ、おそらくは」
「恐ろしい……術ですね」
そう、恐ろしい術だ。
たとえ、ひと一人を引きずりこめなくても、身体の一部でも異次元に飛ばしてしまえば、致命傷となる。
特に、あの腕が狙っていたのは……。

「ありがとうございました」
テンゾウの声がかすれている。
「あやうく……」
「もういい」
オレは謝罪の言葉を遮った。
「敵の身柄確保と遺体の回収が残ってるでしょ」
「はい」
「オレもう、余力ないから。力仕事は任せたからね〜」
ひらひらと手を振ってやる。
「はい」
短い答えを残し、テンゾウが消えた。
いつもなら突っ込みが入るところなのに、余程、堪えたのだろう。

この空間から抉り取られたのが、テンゾウの首でなくてよかった。
心の底から、そう思う。

酷使しすぎたのか、熱を持ち始めた左目を額宛で押さえ、オレは尾根を反対側に下った。

脳裏には時空を歪めながら飛ぶ腕の映像が焼きついている。
あの腕は結界に守られていた。だから周囲の時空の歪みに呑み込まれずに移動できたのだ。
あの結界こそが、血継限界なのかもしれない。
なぜなら、オレの左目は時空の歪みが作られていく過程を記憶に刻んでいた。
だとしたら。
あるいは……。
いや、今は――任務を無事終えることが先だ。

村長と、四方の守り番の長が守る時空の歪みにたどり着く。
傍らにハギがいた。その隣に、まるでハギの息子のようなハギの父の姿。
「終わりました」
村長が頷く。
「無理を聞き入れていただきました」
いえ、とオレが答えると、村長はハギの父に向き直った。
「よろしく、お頼み申します」
ハギの父は「かしこまりました」と頷き、ハギを見た。
「立派に成長したお前と会えるなど、望外の幸せであった」
「いえ。私のほうこそ。どのような姿でも、父上は父上でございます」
「……おろかな父を許してくれるか?」
「許すなど」
ハギの声が震える。
「私や母上のことを考えたすえのことでございましょう? この村に来てからの私の人生は、幸せでございました。このまま静かに、ここで生を終える……それが私の望みでございます、父上が困難の末に与えてくださった、私の人生でございます」
「そう……そう思ってくれるか」
ハギの父の問いかけに、ハギが頷く。
「父上も息災に」

四方の守り番の長たちが、結界を解き、ハギの父が印を組む。
「さらば」
語尾は、遠い空に掻き消えていった。

「ハギの父は、後世に因縁が残らぬよう、捨てられた家族の面倒を見ることを約束してくれ申した」
村長が問わず語りに告げる言葉に、オレは思わずハギを見た。
ハギは、じっと時空の歪みを見つめている。
その胸に去来するのは、どんな思いなのか。

時を戻すことができるなら。
あるいは、早送りして未来を覗くことができるなら。
それは、叶うことのない望みだからこそ、希望となりうる。
実際に、時が巻き戻ったり、早送りされたりしたら……その分だけ、きっとひとは傷つくのだ。

「捕獲および、回収完了しました」
たわめた材木に簀巻きにされたかのような、4名の遺体と4名の捕虜を伴って、音もなくテンゾウが姿を現わした。
さすがに、隠し切れない憔悴が彼の顔に影を落としていた。



2008年11月12日(水)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 31) Side T


周囲を見回す一瞬、先輩は、右目を開いた。
白銀の睫に縁取られたなか、濃灰色の瞳が動く。

この色彩のない濃淡こそが、先輩の本来の姿のようにボクには思えた。
決して自ら主張することなく、己を隠す忍という生き物そのもの。
暗部でさえ時に驚くほどの気配のなさも、内面に抱え持つひととしての情の篤さを感じさせない飄々とした物腰も、端正な素顔を微塵も予想させない普段の姿も、無彩色の世界に己を埋もれさせようとしているカカシ先輩そのものに感じる。
けれど、紅蓮の炎の写輪眼が、それを許さない。

それでも先輩は写輪眼を使い、極め、さらなる高みを目指している。
先輩という先達がいたから、ボクも木遁などという大層な術を否応なく伝授されてしまった己を受け入れることができたのだと、改めて思う。

「テンゾウ」
低く潜めた先輩の声に、ボクはやはり低く「はい」と答える。
「陽動」
「はい」
「結界ごと、持ち上げられる?」
「結界ごと……ですか」
「ん。アレは浮かせて移動させることができる類の結界でしょ」
ボクは地面に接している部分の結界の面積を目測した。
かなり広範囲に木遁を発動させなくてはならない。広く根を張る大木をイメージし、次に、根は浅くとも広く自在に伸びるつる草をイメージした。
「……わかりました」
チャクラを練り上げ、両手を合わせて融合させる。でも、慎重に。
地面から緑色の芽が顔を出す、と、見る間に伸びて太い蔓となり、結界に絡みついた。
――よし。
ここからが、勝負だ。さらにチャクラを送り、蔓を成長させる。結界を絡めとったまま、うねうねと地を這っていく。
「はっ」
緩く傾斜した地面から蔓が頭をもたげるように、浮き上がった。
そのまま先端を巻き込むようにすると、結界も一緒に緩やかに傾き始めた。
先輩の言ったとおり、あの結界は大地や樹木などをよりどころとせず、術者が意図した空間だけを覆う類のもの。
――見ただけで、結界の種類までわかるのか。
それも写輪眼のなせるワザだと言うひとも多いだろう。だが、結界の構成というのは、そんな単純なものではない。
結界に関する豊富な知識と経験があって初めて、写輪眼が生きてくる。
もしかしたら、かつて写輪眼を持っていたうちは一族のだれよりも、カカシ先輩は写輪眼を使いこなしているのかもしれない。
後付の、もらいものの、それも片方だけの天眼……。
だとしたら、皮肉なことだ。

「手ごわいね〜。まるで無反応だ」
結界のなかはボクにはわからないが、先輩には見えているのだろう。
「いっそ、転がしますか?」
「あ? できる?」
「浮かせることができたんだから、たぶん……できます」
「じゃ、よろしく」
気軽な調子で言いながら、先輩は左目で結界を凝視する。
「スリーツーワン、で行きます」
「了解」
「スリー」とボクは声に出す。同時に蔓の先を伸ばして、結界を二重に巻き込んだ。
「ツー」で少しだけ傾ける。
「ワン」
巻き込んだ蔓を一気に解く、と、お椀を伏せたような形の結界が一回転して、そのまま放り出された。

「そこだ!」

チチチ……という放電の音が響き、先輩が跳んだ。

バキンとも、バチンとも、言いがたい音と共に、結界がはじけた。
まるで、爆発でもしたかのような、そんな音――先輩が雷切で結界を砕いた、と認識するのに少し時間がかかった。結界というのは決まった手順を踏んで解除しないと解けないし、強引に壊した場合、その影響が周囲の空間をゆがめたりすることもある、そういう類のものだ。
いくら先輩といえど、物理的な攻撃で結界を破るなどということができるはずがない。
いや、実際、結界は砕けるようにはじけたのだ。ということは、可能なのだろう。
結界のよりどころとなる要の部分を壊せば、理論上、結界は解除できる。だが、あくまでも「理論上」だ。
だいたい、要の部分を壊す、そのこと自体が難しいのだ。
それをやってのけた。確かに写輪眼と雷切の使い手たる先輩だからこそ、の方法ではある。
だが、正直「びっくりした」というのが本音だ。
ボクとて、長年、暗部に所属する身、それ相応の知識も技術もあると自負している。
だが、こんな方法は思いつかないし、仮に思いついても実行できない。

相当強固な結界だったようだから、破られた衝撃も相応のものになった。
ずん、と大気が揺れる。
「かしらぁ!」
絶叫が聞こえ、はじけた結界から放り出された人影が二つ。
空中に、血潮が飛び散る。
「ぐはぁっ」
人影の一つが、まるで鳥が地に降り立つように落下した。
こちらが、結界を貼っていたほうだろうか?
もうひとつの人影は、放り出された空中で体勢を立て直し、木の枝につかまろうとしていた。
そこに、先輩の放った手裏剣が跳ぶ。
だが、それをクナイで弾き、幹をけって枝に立つ間に、印を組む。
頭、だけあって、相当できる。
だが、燃え上がる火が襲い掛かる前に、水遁で応戦する。
当然、これはボクの役目。

先輩が枝を蹴る。
クナイを敵に向け、接近戦の構えだ。
だが、これこそが陽動。
一瞬で近づいてくる先輩に相手が気をとられた隙を突いて――。

「拘束!」

「はい」
答えるより早くボクの手が印を組む。
この呼吸、このタイミング。先輩と組むときの、爽快とも言える感覚。
自分が隊長として隊を指揮していても、決して味わえない。
先輩とだから。
ボクを信頼し、背を託し、前へと進んでいくカカシ先輩とだから。
その背を追いかけていく――この時が、戦闘のさなかだというのに、至福。
因果といえば因果だが、忍としてこれ以上の幸せはない。

こんなふうに先輩とバディを組んで、何度、戦場を駆けたことだろう。
何度、闇に潜み、敵を仕留めたことだろう。

先輩。

ボクは、あなたが好きだ。
暗部の後輩としての尊敬や憧憬だけではなく。
といって、ただあなたに焦がれ、想いと熱を滾らせるだけでもなく。

憧れ、敬い、同時に、恋い求め、欲する。

なぜ、とさえ思う。
なぜ、今まで、無自覚でいられたのか。
いっそ、そちらのほうが不思議なぐらいだ。

――っつ。

ズキン、と痛むコメカミに一瞬、目が眩んだ。

「テンゾウ!」

先輩の声に我に返る。
目前に、血まみれの手が迫ってきた。
あの結界の術者の手か?
手だけが?

掌紋までもがはっきりとわかるほど。
――手が、目の前にあった。



2008年11月01日(土)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 30) Side K


ザッとテンゾウが、枝を蹴る。
オレの右手、斜め後方――正確には、3時半の方角に移動するのを確かめた。

これは、暗部時代オレが先陣を切って複数いる敵を追い込むときに、よく使っていた陣形だ。
相手も腕の立つ忍の場合、やはり利き腕側とそうでない側というのは対処に差が出る。だから通常なら左側が手薄になるのがセオリーだが、オレの場合、写輪眼を使うときは右目を閉じることが多いので、右側が手薄になる。
3人以上のセルの場合は左右についてもらうのだが、2人のときは右についてもらうのが常だった。
オレよりもやや後方に位置するのは、テンゾウがオレよりも広い範囲の敵を瞬時に捉える術を持っているからで、こういうときの彼は攻撃はオレに任せフォローに徹してくれる。
まだヤツらに大技を仕掛けられると不利だ。長たちは、背後、しかもオレたちより低い位置にいる。
早く尾根を越えて、背後を気にせずに相手を捕獲することに専念したい。そんなオレの意図を汲んだうえで、テンゾウが動いていることもわかる。
これが、目立ちたがり屋だったり、短気だったりすると、追い込むよりも先に攻撃を仕掛け、結局、戦闘をムダに拡大し被害を大きくするだけ、なんてこともあるのだが、テンゾウは決してそんなことはしない。
オレもあいつを信頼しているから、いちいち細かい指示は出さなかった。
彼自身が部隊を率いるときは、当然、違う戦法を取ることもあるだろうに、オレと組むときは、こうやってオレのやりやすいように動いてくれる。そのことに、オレは素直に感謝する。
そして、暗部のトップになってもそれのできるテンゾウを、ある意味、尊敬もする。

「このぉ!」
このままでは形勢不利を悟ったか、4人が防御する形でひとりが印を組み始めた。
土遁だ。オレの知らない印だが、もちろんすかさずコピーする。
ここで、このタイミングで仕掛けてくるのだ。相当、大掛かりな術だろうし、だとするとそれなり印も複雑になってくるはず。そこにスキが生じる。
「え?」
オレが寸分たがわず同じ印を組むのを見て、防御している忍の間に動揺が走った。
「なに? おまえ」
ほんとうは、多少、オレのほうが印を組むのが遅れているのだが、こういうとき人間というのは不思議なもので、相手が自分と同じ印を組んでいることに、より強く関心を払い、多少の遅れには目を瞑る。
「どうする? 先を続けるか?」
自分たちがかけようとしている術を知っているだけに、同じ術を返されることに怯える忍も少なくない。
彼らもそのタイプだったらしく、術を発動しないまま今度は走る速度を上げた。
もちろん、引き離されたりなどしない。もっと接近することも可能なのだが、わざと一定の距離をたもっているのだ、こちらは。

「見事な、ハッタリ」
ボソ、とテンゾウが呟く。
はは、とオレは笑い声だけを返した。
ヤツのこういう冷静なところも、けっこうオレは気に入っていたのだ。
盲目的にオレに従うのではなく、オレの姑息な手をわかっていて、それでもオレを司令塔と決めたら何があっても――たとえテンゾウ個人としては、納得いかないことがあったとしても、従ってくれる。

記憶に欠落があろうと――。
やはりテンゾウはテンゾウだ。

時空の狭間にいたとき、テンゾウはまるで欠落した記憶を埋めるかのように「好きだ」と告げてきた。
オレはまず動揺し、次に、揺らいだせいで生じた隙間に何かが満ちてくるような、満足感を覚えた。
付き合い始めたころ、互いに若かったテンゾウとオレは、「好き」と言葉にするのが照れ臭くてしょうがなかった。
あんなに好きだったのに。なぜか、素直に好きとは言えなかった。
それはテンゾウも同じだったようだ。もっとも、あいつの場合、自信のなさ、というか、遠慮深さ、というか、後輩という立場上、というか、そんな諸々が影響していたようだが。
要するに、気持ちを伝え合ったうえで付き合い始めた、などという、悠長な「お付き合い」ではなかったのだ。
若かったオレたちは、そんなことよりも互いの身体に夢中になった、とも言える。もちろん、それがすべてではないが、そういう面も少なからずあった、ということだ。

だから、律儀に「好きだ」と告げてきたテンゾウが、ひどく新鮮に思えた。
あの村でテンゾウに与えられた家で、闇雲にオレを求めてきたテンゾウに感じた新鮮さと、それはどこか共通していた。

この任務のため、オレとの個人的な関わりに関する記憶を封じられたことには、本音を言えば、腹が立った。
というより……こんな言い方はしたくないのだが、正直……つらかった。というのも、オレとの記憶を消されたということは、要するに、オレたちの付き合いは、里にとって好ましくない、ということを意味するからだ。
ああ、やっぱり、と思った。やはり、歓迎されないのだ、と。もちろん、仕方ない、という理性も働いた。
だが「好きだ」と告げてきたテンゾウに感じた「新鮮さ」は、こうしたオレの感情をすべて覆って塗り替えるにも等しい「新鮮さ」だった。
いつも紳士的で、決してオレに無理強いしないテンゾウのことが好きだった。
けれど、獣じみた欲情とともにオレを求めるテンゾウを初めて知って、オレは驚くとともに、テンゾウの想いの深さを実感した。
――こんなにも、オレを求めてくれるのか。
そう思ったら、記憶の欠落などチャラにしてもいいとさえ思えたのだ。

オレたちが共に過ごした時間を忘れさせられたテンゾウであったとしても、オレはテンゾウが好きで、テンゾウもオレを好いていてくれるのだから、もういい。そう思ってしまった。
ここから始めても、いいじゃないか。
それに、運良く二人とも生きながらえ長生きしたら、いずれ失くした記憶も戻ってくるかもしれない。
あるいは、そのころにはなくした記憶よりも、もっともっと長い時間、共に過ごした記憶が刻まれているのかもしれない。

テンゾウがテンゾウである限り、オレは……。
オレはテンゾウが好きで、テンゾウもオレを好きで。
それ以上、いったい何を望む?

視界から、敵の姿が消えた。
ヤツらが尾根を越えたのだ。
「仕掛けてくるよ」
オレが声をかけると、テンゾウが「はい」と答える。
直後、尾根にさしかかったオレ目がけ、千本の嵐が吹き上げてきた。
おおっと。これはすごいかもしれない。
以前、雨のように千本を降らす術を持っていた忍がいたが、下方から吹き上げてくるというのは、インパクトが大きい。
だが、それらもテンゾウの木遁にはばまれる。
さらに高く跳躍したオレは、高みから水遁を仕掛けた。
このあたりはちょうど、抜け忍の村の発電所の真裏に当たる。
向こう側に滝となって注ぐ水があるなら、こちら側にも水脈があるだろうと思ったのだが、予想通り、鉄砲水のような水流がヤツらに襲い掛かった。
「く!」
間一髪で、ひとりが結界を張った。
ザァと音を立て水が引いた後には、お椀を伏せたような結界だけが残った。
写輪眼でも、中は良く見えない。だが、チャクラの流れは荒れた画像のようではあるが、かろうじて確認できた。
「2人……か」
3人は流された、ということだ。結界を張ったヤツが守っているのは、おそらく頭だろう。

尾根に生えている木の枝に立ったオレの隣に、テンゾウがタンと上がってきた。
「やりますね。かなり強固な結界だ」
「結界専門の忍かなぁ。特別上忍ぐらいの力量はあるね。あれを破るのは難しいでしょ」
「抜かりなく地面も覆ってますから、土遁も効きませんし、地中から木遁で攻めるのも無理です」
「だねぇ」
「どうします?」
「ん〜。どうしますかねぇ」

2対2。

あれが頭だとすると、先ほど土遁の大技を仕掛けようとしたヤツかもしれない。
だとしたら……。
結界をずっと張っているわけにはいかないだろうが、地面に接する面だけでも結界を解けば、土遁は可能だ。

――持久戦といくか。あるいは、誘導して、早く決着をつけるか。とすると、どうやって?
オレは、ところどころに紅葉が見え隠れする山を見回した。