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2008年10月23日(木)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 29) Side T


気づくと、ボクは先輩の腕のなかにいた。
ボクの言動が、今の先輩を誘導した。

――カカシ先輩。

上も下も右も左もない空間が、急に天地を明確にし始めたときには、戸惑った。
ボクは天を下に逆立ちしていたのだから。
だが落下するほど急激な感覚は覚えず、やがて逆さになったボクの視界に先輩の銀髪が見えた。
それで、納得した。納得できてしまったのだ、理屈抜きに。
別に、先輩がすごい忍だからこの空間をも制御できたのだ、と思ったわけではない。
だいたい制御しようとなど、先輩はしていないだろうから。
ただ、ボクが知っている先輩は、どんな状況にあってもすっと1本まっすぐに芯が通っていた。
妙に儚く見えたりあやうくみえたり、まあ最近では……胡散臭いとかあやしいとか、そんな評価をされることが多かったのも事実だが、それでも“1本”は決してぶれることがなかった。
先輩も人間である以上、悩みもするだろうし、揺らぎもするだろうし、判断を過つこともあるだろう。
暗部を離れてからは猫背気味で、どうみても大地に対して垂直にすくっと、とは見えなかっただろうし。おまけに18禁本は読んでいるし。
だが、それらはすべて表層に過ぎない。先輩の本質は常に変わらなかった。
だからこの空間のなかでもごく自然に、己の立ち位置を掴めたのだ、とボクは思った。
そして、ボクはその先輩の感覚をよりどころにして、ようやくこの空間に身を置くすべを知った。
こんなふうに言うと、まるで依存しているようで情けないのだが、やはり、ボクにとってこのひとは指標なのだと、改めて思わざるをえない。

いまのボクは、もちろん先輩と出会った頃の未熟なボクではない。先輩のすべてに憧憬の念を抱き、賞賛し、追随しているわけではない。そういう時期があったことは確かだが、今は違う。
だいたい、先輩とボクは違う人間だから、まったく同じように振舞うことはできないし、そんなことに意味はない。
でも、ときどき己を省みる、そのときの基準は、やはりこのひとだ。
先輩だったら、と考え、自分は、と考える。
おそらく、先輩にもそういうひとがいるのだろう。あるいは、敬愛するご尊父や四代目がそうなのかもしれない。
それとも、先輩に目を残したと言われている仲間か。
どんなにまっすぐ立っているようでも、人間の身体はその人の生活上の必要や癖によって、少し捩れているものだ。
忍が行う鍛錬のなかには、そうした歪みを矯正するものが含まれている。
心も、放っておけば歪んでいくものなのかもしれない。
自省という行為は、歪みを矯正する鍛錬のようなもの、そう考えると、なんとなく慰霊碑に足を運ぶ先輩の気持ちも少しだけ理解できそうだ、と思う。

もっとも、そんなことを考えたのは、ごく一瞬のことだ。
ただ、ずっと折に触れ考えていたことに、筋道が立ったようなそんな気持ちになった。
そうしたら、先輩に感じていた違和も、情動のままに先輩を抱いてしまったことも、表層のことだと思えた。
ボクにとって何より根底にあるのは、先輩に対する抑えがたい思慕ではないか。
それで何もかもが許されるわけではないが、まず、それを伝えないことには、何も始まらないではないか。

だから、告げた。

こんな状況だから、もちろんボクも何かを期待していたわけではなかった。
ただ、ボクも暗部の一員としてさまざまな経験を積んできたが、こんな事態に遭遇したのは初めてだったから、もしかしたら、これは最悪を想定しないといけないのかも、と思ったのだ。
その結果、ボクは先輩の腕のなか。
当然のことながら、思いを通わせあった恋人同士の甘い抱擁、という雰囲気ではなかった。
むしろ……ボクの思い過ごしでなければ、先輩にすがりつかれているような。

「先輩?」
強く刺激しないように、そっと背に手を回す。
うん、とボクの肩に顔を埋めた先輩が答えた。
「テンゾウ」
呼びかけられて、答える。
「はい」
「おまえもオレも、サッサと任務を終えて、里に戻るよ」
顔は埋めたままだったが、先輩の声からは気力が感じられた。
里に帰る。「おまえもオレも」と先輩は言った。これが、先輩の答え。
「はい!」
勢いのままにボクは先輩をギュッと抱きしめた。
しばしの、後。どちらからともなく抱擁を解く。

直後、ぐらり、と身体が傾いた。

抗いがたい力に引っ張られる。
身体は傾いているのだが、立て直すこともできない。
そして、一瞬の後、抜け忍の村の東結界の近くにいた。
四方の守り番の長たちが、一時、封印を解いたのだ。

「どこだ?」
「なぜ、こんなところに」
「行き先が」
「何があった」
「ここは、どこだ」
男たちが口々に言い募る声が聞こえる。

彼らはつかまった仲間を見捨て、別の拠点に移動しようとしていたらしい。
そう、ボクたちの予想どおり。だからこそ彼らをここにおびき寄せることが必要だった。
今度こそ、決着をつけるために。

「させるかぁ!」
守り番の長たちが、再び、時空の歪みを封印するのに気づいた男が、攻撃をしかけてくる。
「木遁! 木城壁」
堅い木の壁が、敵の攻撃を跳ね返す。
きっと、この隙にカカシ先輩が彼らのなかに突っ込んでいく。言うまでもなく、敵の追い込みだ。

そのとき、どこからともなく村長が姿を現わした。
「テンゾウどの。この時空の歪みの守りは我らにお任せくだされ。それより、ヤツラを」
確かに、腕の立つ8人相手では先輩もきつい。
いつのまにか、ハギの父が長の側につけていた。
「彼らの手はわかっております。村長は、私が」
「わかりました。頼みます」

木城壁を解くと、100メートルほど先の地点で二重の半円形に先輩が囲まれていた。
村の結界近くでは大技も使えないし、背後に守るべき守り番の長たちもいる。
対して相手は数を頼みに、やりたい放題。まったくもって、不利な状況だ。
それでも、ひとりでよくぞあそこまで彼らを後退させたものだと感心する。
見れば、敵方に向かって木々がなぎ倒されている。痛々しいその姿が、戦闘の激しさと、同時に、先輩が決して引かずに相手を追い込んでいった道筋を物語っていた。
――あとで。あとできっと、もう一度、根付かせてみせるから。
きっとこの気配はモズに伝わっている。
倒されても静かに倒れるだけの木々の念を感知するモズに、倒れた木々の再生の声を聞かせてやりたい。
きっと、それが彼にとって力となる。
ボクがこの村に遣わされたことに意味があるとしたら、モズという若い世代に何がしか、残すことではないのだろか。

「まったく、うるさい蝿だ」
先輩の向こうで、ひとりが印を結び始める。
明らかに先輩ごと、背後の守り番の長たちを巻き込もうとしていた。
――まずい。
まだ先輩に大技を使わせてはいけない。
「木遁! 大樹林の術」
「ぐわぁっ」
標的の男を弾き飛ばし、後方の男も二人なぎ倒す。左右はさすがに身をかわし後方に跳んだのを、先輩の投げた手裏剣が襲う。
キンと暗器をはじく音が、森に反響した。
念のために倒れた3人は木遁で拘束して、ボクも先輩を追う。
手裏剣の応酬に見えて、先輩は確実に敵を誘導しているのがわかった。
村から離れ、できればこの山の尾根を越えて向こう側へ。
ならば、ボクもそれに倣うまで。左右に散開しようとする相手に、しとめそこねた風を装い、手裏剣を投げる。
うまくかわしたと安堵しているうちに、こちらの思うとおりの場所にいつのまにか誘導されている、そう気づいたときには遅いのだ。

「先輩」
彼らを追う先輩に、並ぶ。
「いくよ、テンゾウ」
ぐいと斜めにかかっている額上げが、持ち上げられた。
白銀の睫に縁取られた、白いまぶたの奥――。
瞳の中、紅蓮の炎が、姿を現わした。



2008年10月18日(土)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 28) Side K


「ねえ、カカシ。時空間忍術ってのは、時空の狭間をちょっと間借りしているようなものなんだよ」
おそらくは、ここが時空の狭間なのだろうと思しき空間に放り込まれたとき、オレが最初に思い出したのが先生の言葉だった。
この任務を受けた最初のころにも、同じ言葉を思い出した。
こうしてみると、オレにとって先生の、あの時空間忍術というのはひどく印象深いものだったのだろう。

子どものころ、時間と言うのはまっすぐに続いていく道筋のようなものだと思っていたし、実際そうだった。退屈すればノロノロと感じるし、逆に何かに集中しているビックリするほど早く過ぎる、だが、それは本人の感性の問題だ。それぐらい、どんなガキだって知っている。
だが、先生が使う時空間忍術は、オレのそんな”時”に関する常識を軽く覆してくれた。
当時は、そんなふうには思わなかったが、オレにとっては一種のパラダイムシフトだったのだろう。
ところで、“空間”のほうにはとんと無頓着だった、と気づいたのは、つい今しがた、だ。
正直、笑える。

ここで、時、というのは、何かと比較しないと感知できない。
だが、この空間はオレたちが普通に暮らしている世界とは、まったく相を異にしている。
文字通り、次元が違うのだ。
テンゾウの気配も、敵の気配も感じるのだが、方向がまったく定まらない。
ここに飛び込んだら、オレが入り口を封印することになっていたのだが。

「時空間忍術はね、カカシ。本来、禁忌の術なんだよ」
これも、師の言葉だ。しかも、やはり、この任務を命じられたときに思い起こした。
時空間忍術がタブーなら、それを利用した作戦もタブーということにならないか?
今、ここで術を使うのは、危ないかもしれない。

タイミングを見て、抜け忍の村の東結界近くにある時空の歪みに施した封印を、一時開くことになっている。
そうやって、やつらを誘い込んだうえで捕獲する。だから、道が開かれるのを待てばいいのだが。
ここにいる者が感知する時間と、本来の世界にいる者が感知する時間とは、おそらく一致していない。
やつらも、何かをなすすべは持っていないだろうが、この”間”を考えに入れてなかったのは、正直、浅薄だった。
たとえ、これが現時点での最善の策であったとしても、だ。

オレは身構えた。
敵に向かってではない。
強いて言えば、この空間に向かって、だ。

しばらくして、空から降ってくるかのようにテンゾウが姿を現わした。
オレの視点を基準にすれば、逆立ちをしている格好で。
「ああ、やっぱり先輩だ」
言っていることが意味不明だ。
「たぶん、敵も姿を現わしますよ」
そう言うとテンゾウは、ヨッと掛け声をかけくるりと反転した。
「なんなの、それ」
問うと、眉間にしわを寄せた。
「説明するのは難しいです。ただ、上下も左右も定かではないこの空間が、先輩を基準に安定し始めている、とでも言えばいいでしょうか」
「何、オレが座標軸なの?」
オレの言葉に、テンゾウはポンと手を叩いた。
「座標軸、なるほど。いい事を言いますね」

直後、たくさんの気配が足元から湧いてきた。

「おまえ」
「なんだ、何をした?」
地面から生えてくるかのように、空間から顔を出した男たちが口々に言い募る。
「や、オレは何も」
「んだと!」
叫んだ男の姿が遠のく。
「先輩に反発すると、ああなるみたいですね」
みたいですね、って、おまえは何、達観してるの、とテンゾウに聞きたい。
だが、確かにテンゾウの言うとおり、オレと肩を接するほどに並んでいるのはテンゾウだけで、やつらはオレを基準にして下から顔を出したり、上から腕を突き出したり、横から背中を見せたりしては、遠ざかっていく。

「これじゃ、何をどうしようもないですね」
苦笑するテンゾウに、オレも苦笑を返す。
気になるのはハギの父のことだけだが、彼の気配もこの空間内にあるのは確かだった。
おそらく、事態を静観しているのだろう。
「ここから、出られるんでしょうか」
不安のかけらも感じさせない声で、テンゾウが問う。
「出られるでしょ? ただ、オレたちの体感している時間が、外とは違っているみたいだから。いつ、とは言えないけれど」
はは、とオレが笑うと、テンゾウも笑った。
ここで笑えるのは、テンゾウぐらいのものだろう。つくづく、肝の据わったヤツだと思う。

「こんなときに、なんですが」
テンゾウがオレを見る。
「ボク、先輩が好きです」

はぁ?、とオレは間抜けな声を出しそうになった。
いまさら何を、いや、このテンゾウは覚えていないんだっけ、オレとのことを。
一瞬、混乱しかけ、ああ、でもこのテンゾウもオレを抱いたんだ、と思い出した。
そう、まるで獣のようにオレに挑んできたのだ。

オレが応えずにいたからだろう。テンゾウはオレから視線を外した。
「いつまでここでこうしているのかわからないので。後顧の憂いはなくしておきたいんです」
「憂い?」
「ええ。甘いと言えば甘かったんですが、正直、こういう事態は想定していませんでしたから」
「ま、そうね。オレもちょっと甘く見ていたかもしれない」
「だから。この先、何が起きても後悔しないように、言っておきたかったんです」
ふっとテンゾウが息をつく。もしかして、柄にもなく緊張していたのか?
その割に、妙に冷静な……いや、テンゾウらしいといえば、らしいのだが。
「や、迷惑ってことは、ない……ないよ」
オレは、自分の言葉が次第に小さくなるのに気づいていた。
迷惑なわけ、ないでしょ? オレたち、ずっと恋人同士だったんだから。
そう叫びたいのを、かろうじて堪える。

初代様の術は封印することができたが、記憶のほうは封印するわけにはいかなかったのだ。
そうしたら、ただの記憶喪失の男だ。
だから、オレとの記憶だけが……。
オレは左目を抑える。
――そんなにまで、大事か、この目が。
オビトの目でなければ。こんなもの、うちはのだれかにくれてやってもよかったのだ。
だが、そのうちはは、今、だれも里にいない。イタチは暁に。そしてサスケは大蛇丸の元に。
皮肉なものだ、と思い、ふと……ほんとうに、「ふ」と、なのだが。
ものすごく、いやな想像が脳裏を掠めた。

まさか。
オレという写輪眼の適合者が現れたから、うちはは不要になったのか?

警務部隊を率いていた彼らと木の葉の里の中枢部が、常に友好関係にあったわけではないのは、オレも知っている。どちらかと言えば、狐と狸の化かしあいに、近かったと言った方がいいかもしれない。
それでも写輪眼は、里にとって至宝だった。
だが、そこに、オレという存在が現れた。
一族以外で、写輪眼を持つ者……一族内でも、開眼した写輪眼の移植は無理と言われていたのに、だ。
日向一族の白眼と異なり、写輪眼はうちは一族ならだれでもが開眼しうるものではなかっただけに、オレの存在は一族にとって脅威となった。
だからこそ、ずいぶんと迫害もされた。
もし、イタチが一族を抹殺しなければ、今ごろ抹殺されていたのはオレのほうだったかもしれない。
だからこそ、の疑惑――もし、そこに里の意志がかかわっていたのだとしたら。

「すみません、こんなときに」
オレの沈黙を誤解したテンゾウが、詫びる。

ああ、こいつがいた。
こいつもまた、数奇な運命を背負っている。
「テンゾウ」
「はい」
オレの呼びかけに、彼が答える。
その茶褐色の双眸に、心がかき乱された。
任務中なのに、と頭の片隅で思いながら。
オレは。

テンゾウの背に両腕を回し、抱きしめていた。



2008年10月17日(金)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 27) Side T


偵察を終えた木分身を消す。
ボクは、カカシ先輩の言葉に、ごく自然に木分身を出し、彼が役目を終えると、ごく自然にそれを消していた。
そう――これはボクの術だ。
先輩と再会したとき、「拘束!」という言葉に反応して組んだ印も、木遁だったのだ。
そういったことは、村長がボクの封印を解いたとき、すべて思い出した。
今回の任務を受けるとき、初代様から受け継いだ能力を封印したことも含めて。

だけど。
まだ、何か……。
それだけでなく……。

「では、陽動と、行きますか」
先輩がのんびりした声で告げる。
まるで、昼寝でもしましょうか、と言っているかのような、そんな雰囲気だ。
だが、これがこのひとの持ち味なのだ。どんな局面にあっても、たいていは、こんなふうにノホホンとしている。
戦闘のさなかにあっても、先輩の殺気を感じることは少ない。気配もなく鮮やかに、敵を倒す。
倒された相手は何が起きたのかさえわからず事切れただろう、と思うことも多い。
そういえば、先輩は「コピー忍者」と呼ばれるほど多くの術を会得しているが、一対多数で瞬時に決着をつけなくてはならない場合や、相手の力量が高く術と術のぶつかり合いになった場合以外は、戦闘のための術を使うことは少ない。
かく乱のために忍術を使うことはあっても、標的を倒す場合は、音もなく懐に飛び込んで首をかき切ることが多かった。
「明らかに、忍にやられましたよ〜、って状況を残すのは、よくないでしょ」
よく、そんなふうに言っていた。
そんな先輩が雷切を使うのは、大掛かりな戦闘の流れを変える一撃が必要とされるとき。
あとは、そう。
……仲間を守るとき。

「打ち合わせどおりに」
ハギの父は軽く会釈をすると、走って藁葺きの家の一軒に向かった。
ボクと先輩は、ヤツらが時空を越えようとせず村の中に逃げようとした場合に備え、森とは反対側に移動する。
ハギの父が一軒の戸をトンと叩くと、明かりがついた。
「おお、どうした」だの、「何かあったか」だのといった言葉が飛び交い、彼は家の中に姿を消す。
この距離なら中の声も聞こえるのだが、あいにく向こうもそこまで無防備ではないらしい。
そう思いながら目をこらしたとき、先輩が「来るぞ」と鋭く声をかけきた。
鼻だけでなく、耳も滅法いいんですか、先輩は? と思いつつ、身構えた。
「動くな」
低く、命じられる。
ダン、と戸が開き、ひとりが飛び出してきた。
キョロキョロと周囲を見回しながら、固まって建っている他の3軒の戸を叩く。それぞれの家から、人が出てきた。
――あれが仲間か。
3軒から出てきたのは成人の男ばかり、4人ほど、呼びかけた男を入れて5人。
敵の中心となる人数は8人、と長は言っていた。残り3人は、先ほどハギが入っていった家にいる可能性が高い。
あとは、女、子どものなかに、戦闘要員がどれほどいるか、だが。
今回の作戦では、敵に感づかれることさえなければ数に入れなくてもいいはずだ。

5人が散ったのに反応しかけると、闇の中から先輩の鋭い制止が飛んできた。
「無闇に動くな」
やがて、5人が森の方角から戻ってくる。
ひとりが、「大丈夫だ、追っ手はいない」と言うのが聞こえた。
時空の歪みまで偵察に向かったらしい男たちは、ハギの父が入っていった家に向かう。
あの家が、頭なのだろう。それぞれが吸い込まれるように扉から入る、とピタリと閉ざされた。

「テンゾウ」
しばしの後、呼びかけられた。どこかのんびりした、いつもの先輩の声だ。
「いざとなったら、あの家をそっくり覆ってくれる?」
「家ごと、ですか?」
ボクは広さと高さを目算する。そして、己のチャクラ量と照らし合わせる。いける……だろう。
「できるよね」
「はい」
ふふ、先輩が笑う。
「ほんと、頼りがいがあるよね、テンゾウは」

先輩はボクが長年、知っていた先輩のままだ。この緩急の差も含め、変わっていない。
……はずなのに。
ボクは闇を透かして、その先に焦点を合わせる。
よく見知った先輩がいる。もっとも今は、正規部隊の忍服を着ているので、暗部装束を見慣れた目には違和感があるのは事実だ、
だけど……。
ボクが感じている違和は、そのせいなのだろうか。
たとえば、危険を伴った勘――先輩と見えたのが変化した敵だったり、先輩自身がケガをしているのを隠して元気そうに振る舞っていたり、という勘が働いているのだとしたら、違和もわかる。
だが、そういったものではなく、なんとなく座りの悪い感じ、とでも言えばいいのか。

もしかして、先輩を抱いてしまったから。
だから、だろうか。

自覚したばかりのこの想いを、正直、ボクは棚上げしている。
それどころではない、のは事実だ。
先輩が好きなんです、先輩はどうなんですか? などと問えるはずもない。
そして、先輩とボクの間に事実としてあるのは、情動のままに衝き動かされた結果の“行為”だけだ。
ボクが後腐れのない関係を望んでいるなら、むしろ幸運かもしれない。
このまま放っておけばいいのだ。緊迫した特殊な状況のなかで起こった、一過性の出来事ですませられる。
だが、ボクのこの想いに偽りなどない。
それでも、状況を見れば、お互いに“処理”だったといわれれば、それまで。
そんな宙ぶらりんなまま。

だから、違和を覚えるのだろうか?

いや、何かもうひとつ、霧が晴れないとでも言えばいいか。
封印が解かれたときの、何かが解きほぐされていく感覚が、完結しないまま、とでも言えばいいか。

そんな思念を抱きながらも、もちろんボクの意識は四方を警戒し、前方の家を監視していた。
――動く!
扉が開き、男たちが森へ向かう。
しんがりと勤めるハギの父が、チラとボクらのほうに視線を寄越した。
ボクは気配を消して、男たちを追う。先輩の気配は完全に消えていて、もうボクにも察知できない。だが、同じように男たちを追っているのは確かだ。

ひとりの男が印を組み、道を開く。
彼らの姿が、森の闇に飲まれていく。
ボクはその残像に向かって走る。

ぐわん、と周囲が歪み、身体ごと引っ張れた。
先ほど、この森に飛んだときと同じだ。
だが早回しの景色は見えず、無彩色の濃淡の渦のなかに立ち尽くす自分を感じた。

「なんだ」とか「どうした」と言った声が渦の上方から聞こえる。
ボクのイメージでは、細長いトンネルのような場所だったのだが、どうやら時空の狭間とは、そういうものではないらしい。

どこに座標軸があるのかわからない、広さも不明な空間。
投げ出された先は、そこだった。
先に飛び込んだ“敵”の姿も、先輩の姿も見えない。

――なんなのだ、ここは?



2008年10月12日(日)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 26) Side K


「ご武運を」
ハギがオレたち――ハギの父、テンゾウ、オレを見る。
そして、四方の守り番の長たちが、オレたちに続く。
結界が開き、7人が外へ出ると、閉じた。眼前には、もみじの紅が美しい深い森が広がるばかり。
この先に村があるなど、だれも思わないだろう。
もちろん迷い込んでも、そのまま結界の外に出てしまう。西か東から入れば北の結界の外へ、北から入れば西の結界の外へと誘われるようになっているそうだ。
ほとんどいないが、南に広がる湖から舟で近づく者も、気づくともとの岸に戻される。
閉ざされた村――だが、そこにも人が在る限り、因縁は生じる。

「では。行きます」
写輪眼で捕らえた時空の歪みに立った。
今、ヤツらは本拠地とも言える40年ほど前のとある地点にいるという。
首謀者が、この組織の母体を作ったのは15年ほど前、つまり忍界大戦の末期のことらしい。
当初は大戦で疲弊した里へ、戦火の影響を受け働き場所を失くした一般人のなかから下忍程度にはなれそうな資質をもった人材を斡旋する、言ってみれば人材派遣業のようなことをやっていたらしい。それがどのような変遷を経て、こんな犯罪組織になってしまったのか。
詳しいことはハギの父も知らないと言う。ともかく、はっきりと人身売買に関わり始めたころ、彼らは本拠地をさらに過去に移したそうだ。
40年前といえば、まだ世情も落ち着かなく、地域によっては土地やひとの記録も整っていない時代だ。だからこそ、彼らにとって好都合だったのだろう。
里の追っ手との交戦中、彼らと行き会ったのが、ハギの父にとって幸いだったのか、不幸だったのか。死ぬはずの命を助けられ、しかし否応なく犯罪に手を貸すことになった。

これから、ハギの父によって本拠地への道を開いてもらう。
オレがやってもいいのだが、本拠地の正確な時代と位置を把握している彼にやってもらったほうが、間違いない。そして道が開くと同時に、ここからその道までをも封印する。そのための4人の守り番だ。
それによって、本拠地からはここへ通じる道しかなくなり、しかも、ここは行き止まり。
つまり、ヤツらの動きを封じることができる。
オレの任務は、ヤツらの拘束。最悪、命は保証しなくてもいいことになっている。
抜け忍の村にとっての急務は、過去から続くこの因縁を断つこと。今は結界に守られているとはいえ、抜け忍の村、などという「おいしい」話を、彼らが簡単に諦めるとも思えない。いつまた、標的にされるとも限らないのだ。

両者の利害が一致したのが幸いだ。
と言うか。
おそらく、五代目は予測していたのだろう。
こうなることを。

オレの任務と、テンゾウの任務が、こうして交錯することを。

賭け事には滅法弱いくせに、こういう読みに関しては恐ろしいほど当たるのだ。
だからきっと、これは五代目の筋書き通りの展開なのだろう。

すっとハギの父が、背筋を伸ばし、印を組む。
まだ、若い。ちょうどテンゾウぐらい、だろうか。
でも背景となっている時代が異なるせいか、若いけれど、今の同世代とも違っている。
三代目が若かった頃は、こんなだっただろうか、などとふと思う。
ぐらり、と身体が傾くようなひっぱられるような感覚と共に、周囲の景色が歪んだ。
早回しの映像を見ているような感覚も、すっかりお馴染みだ。
平衡感覚が戻ってくるのと、森のなかに立っているのに気づいたのが、同時だった。

「ここは?」
なんとなく見覚えがあるような、ないような、と首を傾げるオレに、ハギの父は首を振った。
「自分は、ここからは時空を飛ぶことしかしていませんので、ここがどこに位置しているのかは、実は知らないのです」
「ここでは、いつもどうしていたんですか?」
「この森を抜けた先に家があり、ここと家の間を移動するだけです」
「家がある、つまり家から出ることは、この森に来る以外にない?」
「はい。おそらく逃亡を避けるためでしょう。もといた時代に、近いので」
それでは、ほとんど軟禁状態ではないか。
「もっとも移動した先では、比較的自由に動く時間も与えてもらいましたが」
言い訳するように付け加えられた言葉が、いっそ虚しい。そうやって、いいくるめられていた、ということではないか。まあ、そうはいっても、彼の時間軸では2年あまりのことなのだ。
「もしかして」とテンゾウが口を挟んだ。
「あの、抜け忍の村に行ったことがありますか?」
はっとしたような顔をし、彼は視線を伏せた。
「はい。妻に……どうしても会いたくて。会って告げなければ、と……。1年ほど過ぎたときに、別れて10年後の時代に移動したことがあったので、時間を作って」
やはり、と呟くテンゾウは、何か符号する事実を知っているのかもしれない。
「妻は驚いていましたが、私が生きていることを喜んでもいました。二度と会えない、いや会ってはいけないだろうけれど、私は元気にやっているから、と……妻は、私よりも年上になっていましたが、私が知っている妻のままでした」
消え入るような声で、彼が告げた事実に、オレは思う。
彼は、短い間におそらく何十年分もの苦悩をしたのだろう。彼の佇まいが異なっているのは、そのせいかもしれない。
だが、今は感傷に浸っている暇もなければ、人間の生と時間に関する哲学的考察にふける余裕もない。

「計画どおり、この時空の道筋にヤツらを誘い込む」
オレの言葉に、ハギの父とテンゾウが頷く。引き結んだ口元が、二人の緊張を表していた。
この時代、ハギの父が知る限り、ここ以外に時空を越える道を彼らは持っていない。
だからこそ、の計画だ。
向こう側は行き止まりだから、こちら側をオレたちがふさげば、ヤツらに逃げ道はない。
誘い込む役を、ハギの父にやってもらうことになっている。
「とりあえず、偵察ですかね」
テンゾウを振り返ると、木分身を一体、繰り出した。

あうんの呼吸で事が運ぶのは嬉しいのだが、封印を解かれた彼は、なんだかふてぶてしく思えてならない。いや、見方によっては頼もしいとも言えるのだが。
オレの知っているテンゾウとは、やはり、どこか微妙に違っていた。
だが、今はそんなことにかまけている場合でもない。
オレたちは、瞬身で姿を消した分身のあとを追うように、慎重に歩いて森を出る。
「ん?」
やつらの本拠地らしき藁葺きの平屋を前に、オレはまた既視感に襲われる。
「ちょっと、ごめんね」
断りを入れてから、周囲を見回し、結局、森の木の上に立った。
やはり、そうだ。
ここは、あの「ときわの森」だ。
家々の様子は、少し違うが、地形といい、風景といい、あの村だ。
ただ、オレが飛んだことのある33年前よりも、どことなく荒れた感じがする。
40年前といえば、火の国と雷の国との関係がこじれていたころ。このあたりを境にして領土争いが繰り返され、この村は下手をすると数ヶ月単位で、火の国になったり雷の国になったりしていたはずだ。
――荒廃は、そのせいか……。
歴史に翻弄された村だから、ヤツらも本拠を構えやすかったのだろうか。
あるいは、首謀者のだれかがこの村の出なのかもしれない。

「みな、寝ています」
分身のテンゾウが戻ってきて報告する。
「どう? 抜け忍の村を襲ってきそうな準備はしているみたいだった?」
分身は、「特に、戦闘準備をしているようには見えませんでしたが」と言って、首を傾げる。
「むしろ、何も警戒していないような感じです」
長の話では、抜け忍の村に捉われている仲間の戻りを心配して、襲ってくるようなことを言っていたが。
「それは、たぶん、まだ期限が過ぎていないので」
「期限?」
「今回、自分たちの仕事は、新たな道を開くことにありました。開いたのち、その先の地に、再度、拠点を構える……先ごろ、未来の……と言いますか」
えっと、とハギの父が言葉を探す。
「あなた方がいた時代……の、拠点を失っていますので」
視線がオレを捕らえる。そうか、彼らがあの村を引き払ったのは、オレのせいだった。
「普段は、何らかの理由で一度、道を閉ざすと、いろいろな混乱や面倒を避けるために、数年ほどはその時代と交渉をもたないようにするのが方針なのですが、あの時代には、お得意さまがいるのでどうしても再度、道を開く必要がありました」
「お得意さまは、ひとつじゃないでしょ?」
オレの言葉にハギの父は頷いた。
「こんなことを言うのは僭越かもしれませんが、一見、平和に見える時代ですが、水面下ではいろいろと」
「戦こそ少ないけれど、戦闘要員ではない人材を求める組織が多い?」
「はい。正直言いまして……戦こそありませんが、人心が腐っているとしか思えないような依頼がたくさん……」
まあ、お稚児趣味の大名からの依頼などは、まだマシなほうとも言える。音の里などに送られた日には、実験体か、生きた標的か。
「期限は4日。ですから、まだ戻らなくても心配はしていません。きっと彼らは、つかまってからの時間を実際よりも長く感じていたのでしょう」
「ってことは」
オレは森を振り返り、それから平屋を睨む。
「相手が油断している今こそ、オレたちにとって好機、ってことだね〜」



2008年10月11日(土)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 25) Side T


「夢を根拠に、木の葉の里に依頼を?」
先輩の言葉に、長は頷いた。
「ですから、賭け、だったのでございます」
しん、と沈黙が落ちる。

――村長とは、やはりなるべくしてなるものなのか。
そんな見当違いの感慨を、そのときボクは抱いた。
まだ、生まれる前の先輩とボクを夢に見たという長。
その夢は、先輩とボクは出会うべくして出会ったのだ、とも読み取ることができる。
ならば、ボクが先輩に魅かれることも、そうなるべくしてなったのだ、と言えはしまいか。

「木の葉の里には、無理を申し上げました。抜け忍として、この里に来ていただくことはできるか、と」
「ああ、夢の……」
「はい。最初、火影様はお断りになりました。それはそうでございましょう。どの里も関知せず、が原則のこの村からの依頼のうえ、この内容でございます。それは険しい顔をされておりました。そこで、私は人払いをお願いして、村の予言について腹蔵なくお話いたしました」
情に篤い五代目のこと。そうした村長の態度に、考えを軟化されたのはわかる。もちろん、木の葉の里にとって今後、おおきな利に繋がることも計算しただろう。
「夢、のこともございましたが、木の葉の火影さまが一番、信頼おけるとの判断ももちろんございましたから、こちらも必死でございました。下手な里に依頼しますと、村の存続そのものが危うくなりかねませぬ」
「わかります」
先輩の静かな声に、深い悲しみがこもっている。
村に来るはずだった抜け忍を利用して悪事をたくらんでいた男たち。少なくとも、そのなかの一人、ハギの父は村に来る途中に彼らと遭遇した抜け忍だった。
ボクよりも多く彼らと接触していた先輩には、ボクより多く思うところがあるのだろう。
ボクとて、先ほどのハギとハギの父との、あの奇妙な再会を思うと、なんともいえない気分になる。
自分よりもずっと若い自分の親。見掛けが若いだけでなく、実年齢も経験も老成したハギよりも若いというのは、どんな感じなのか。もはや父というより、息子といったほうが近いだろうに、それでも父は父なのだ。
「最終的には火影さまは、引き受けてくださいました。それも、金銭的な報酬以外の見返りもなく、でございます。ただ、村のことを正式の記録に残すことになる、とは言われました。もちろん、機密事項として、ですが」
情報、ほかの里がもちえない情報を握っていること、その価値を五代目は買ったのだ。
「そして、あなた様がいらした」
長の視線がボクに向けられる。
「あの夢の方でした。この判断は正しかったのだ、と確信いたしました」
ようやく、先輩が来たときの村長の対応に納得がいった。

「では」と長が立ち上がった。
ボクも立ち上がる、尋問するのはボクの役目と先ほど長が言ったからだ。だが、
「ああ、その必要はありませぬ」
と長がボクを留めた。
「あれは、守り番の長たちがいたための方便。尋問など必要はありませぬ」
そう言って、村長は印を組む。と、牢を覆っていた結界が解けた。
「この!」「おまえ!」
罵声をあげる男たちにすっと近づくと、長は手をあげた。
ぼぅっと手が光を帯びる。チャクラを集めているのだろろうか。
ほわほわとした柔らかい白光に包まれた手を長はひとりの男の頭上に載せた。
男はあっけにとられている。とくに苦痛があるわけでもないらしい。が、突然、男が昏倒した。
「な、何を!」
わめく男の上にも手が載せられる。男はしばらくわめいいていたが、やがて彼も昏倒した。
「ふむ……。敵はあと8人。うち2人がとき渡りの術の遣い手。こやつらの」
そう言って長は、足元に横たわる男二人をみた。
「予想では、自分たちが戻らないことに業を煮やした仲間が、この村にやってきてこやつらを救出する、ということになっているらしい」
「記憶を読めるのですか?」
長は先輩の声に振り返った。
「思考……とでもいえばいいでしょうかの。そのとき、何を考えているかははっきりとわかりまする。本人にとっては無意識のことも含め、考えていることは、はっきりと。そこから連想される記憶も、比較的明確にわかります。ですが、本人の今現在の考えとはまったく繋がりのない記憶については、わかりませぬ」
一種のテレパシーのような能力なのだろう。
「8人……いかにして迎え撃つべきか、ご助言くださいますな」
長はボクと先輩を見た。

半年ほども前、五代目に呼び出され、明確な目的も告げられぬままこの任に就いた。
不安がなかったと言えば嘘になる。
だが、不安ばかりだったかと言えば、それも嘘になる。
この村の穏やかな暮らしは、長く暗部に身を置いていたボクには、まるで御伽噺の世界で暮らしているような安寧をもたらしてくれていた。
だが、長の「迎え撃つ」の言葉に体内の血流がざわめき、気が昂ぶる。
戦闘を前にしたときに生じる生理的な現象だが、ボクはそれをしみじみ懐かしいと感じた。
ここは、いい村だ。
この村を守ることに異存はない。
だが、やはりボクは木の葉の忍だ。それ以外の者にはなれない。

ボクは先輩を見た。
先輩もボクを見た。

最近は共に任務に就くこともなくなったが、ボクにとっての最高は、やはりカカシ先輩とのバディだ。
この前の偶然の邂逅の際にも、はっきりと思った。
暗部を離れて久しくとも、先輩の動きにムダはなく、技の切れは抜群で、ほれぼれする。
ずっと離れていたにもかかわらず、先輩の動きはトレースできたし、絶妙のタイミングで指示が飛んでくる。
それに応えて術を繰り出すとき、ボクは確かに快感ともいえる達成感を覚えた。
だが……そう、あの意味不明な己の行動。

「長にお聞きしたいことがございます」
ボクが先輩に呼びかける前に、先輩が長に声をかけた。
「トキ……いや、テンゾウの封印を解くことはできますか?」
封印、とボクは先輩を見た。先輩はボクを振り返って頷く。
「あるいは、そのことについて何か五代目から指示されてはいませんか」
長は、ふっと笑みをこぼした。
「なるほど、優秀な忍というのは、全容を見通す力に長けているもの」
意味不明の呟きに首をかしげたのは、ボクだけだ。
「確かに聞いておりまする。私の懸念が的中し大きな戦闘が予想された場合のみ、封印を解け、と。それが村を守る大きな力になる、と、そう申されました」
「ならば、敵の相手はこいつと二人で十分。むしろ、ほかにいないほうが動きやすいと言えます。守り番や守り番の長の方たちは、万が一に備えて、結界を強固に張り、決してかれらを中に入れないでください」
長はゆっくりと二度頷いた。
「そして、もし、可能ならば」
先輩が付け加える。
「ハギの父をお貸しいただきたい」

再びの沈黙が落ちた。

「迎え撃つ、のではなく、攻め込みます」
先輩の手が、ボクの肩を軽く叩いた。
「こいつと二人。先手を打ちます」



2008年10月10日(金)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 24) Side K


3人は別々の牢に入れられているらしく、それぞれに強力な結界が張られていて中は見えない。
「結界のなかではチャクラを練ることができません」
長の家の使用人――おそらく警備も兼ねた忍だろう――が、説明してくれる。
「こちらへ」
長がテンゾウとオレを振り返り、使用人に頷く。
「解!」
使用人と四方の守り番の長によって、結界が解かれた。

両手を後ろ手に縛られ、足かせをはめられた男がゆっくりと顔をあげる。
格子越しに自分を見る男たちに、順繰り視線を移した。
オレと目が会うと、なるほど、とでも言うかのように小さく頷いている。
隣のテンゾウに視線が移り、ふっと皮肉めいた笑みが口元に浮かぶ。
ひとわたり見回すと、男は目を伏せた。一言も言葉を発しないのは、腹を括っているからだろう。
あるいは、ここを木の葉の里だとでも思っているのかもしれない。
ハギはもちろん、4人の守り番の長も村長も、そしてテンゾウもオレも、今は額宛をつけていない。
だが、こいつらと遭遇したとき、オレは木の葉の額宛をしていたから、オレが木の葉の忍だということはわかっているはずだ。

「ハギ」
長の声に、ハギが一歩、前に出た。
男は下を向いたままだ。
ハギは格子の前まで進み、膝を突いた。
「とうさん」
それでも男は下を向いている。
「お久しぶりです。ハギです」
わずかに男のチャクラが乱れた。下を向いたままだが、男の激しい葛藤が伝わってきた。
「また、お会いできるとは思っていませんでした」
男がゆっくりと顔をあげる。じっとハギを見つめる目が、やがて見開かれ、唇が戦いた。
「お懐かしゅうございます」
ハギ……男の唇が、そう動いた。
立ち上がろうとして、足かせに阻まれ、男がうろたえる。
ハギが、格子を掴んだ。肩が震え、嗚咽がこぼれる。
「なぜ……このようなことを」
絞りだすようなハギの言葉に、男は呆然としていた。
「長、お願いでございます。しばし、父と二人」
「ハギ!」
東の守り番の長にさえぎられ、ハギはこちらに向き直った。
「お願いでございます」
ガバと両手を突き、地に額をこすりつける。
「よかろう」
守り番の長たちがいっせいに長を見た。
長自ら、牢の鍵を外し戸を開くのに、ハギはひれ伏したまま「ありがとうございます」と声を震わせた。
ハギが這うようにして牢に入ると、使用人と4人の守り番の長たちは、また結界を張った。

「よろしいのですか?」
「我らの目的は制裁ではない。因縁を解くことにあるゆえ、ハギを呼んだ。これであの男の執着も解けよう」
それより、と長はオレを見た。
「木の葉の方には、無理をお願いしたのだ。早く、われらのすべきことを成さねばなるまい」
使用人と守り番の長たちは、頷き合った。
5人が印を結ぶと、残り2つの牢のなかが見渡せるようになった。
だが、向こうからはこちらが見えないらしい。
男たちはいらだった様子で四方に視線を送り、動こうとして適わぬことに舌打ちしている。
「仲間が何人いるのか、そのなかに時わたりの術を使う者が何人いるのかを確かめねばならぬ」
長はそう言ってオレを見、その視線をテンゾウに移した。
「尋問を、トキに頼もうと思っておる。そして木の葉の方とわたしが立会いとなる」
村長の言葉に、5人は沈黙する。納得はしていないのだろうが、逆らえない。
「わかりました」
一人の答えが合図となり、5人が印を結んだ。
長とテンゾウ、そしてオレだけをなかに残した形で、結界が再び閉じた。

「これで、ここは閉じた空間となり申した。私が解かぬ限り、我らの声は外にも、そしてあやつらにも届かぬ。このような土間ですが、立ち話もなんなので、お座りにならぬか」
そう断ってから長は、牢の格子の前に腰をおろした。テンゾウとオレも、事態が飲み込めないまま、長にならった。
「まずは、トキ。いや、木の葉の暗部に所属される、通称テンゾウ殿。任務を、よくぞお受けくださった。感謝いたします」
テンゾウは無言だった。もしかしたら、内心では「うわぁ、驚いた」とでも言っているかもしれないが、それを表に出すようなヤツではない。オレも、もちろんびっくりしていたがそれを表に出すようなペーペーではない。
「こたびのこと、私の一存で、木の葉の里に依頼いたしました。敵……と思われる者たちの力量を鑑みるに、わが村の人材では手に余るとの判断の末。ですが、こやつらが現れぬ可能性もあったので、その場合はあなた様の命はただの内偵、ということになるはずでございました」
テンゾウはほんの少しだけ目を見開き、それから頷いた。
「みな、それなりに修行も積み、鍛錬もしてはいるものの、戦闘の経験など皆無という者も多い村でございまする。今回のように戦慣れした忍相手では、どれほどの力を発揮できることか……」
「僭越ながら、長の仰せの通りかと存じます」
テンゾウは、黙礼しつつ応えた。

「これは、賭け、でした」
「賭け、ですか」
オレの問いかけに長は、わずかに笑みを浮かべた。
「予言どおりなら、この夏から秋のいつの日か、因縁を持つ者たちが過去から現れる。村の古い記録によれば、何度かそのような予言の日がございます、が、こたびのみ『因縁を断ち切らんとする者』が彼らを追って現れる、となっておりまして、な」
「つまり、この機を逃せば、因縁を断ち切ることは難しい、と?」
はい、と長は頷いた。
「でも『因縁を断ち切らんとする者』が私、つまり木の葉の忍であるとはわからなかったはずなのに、援軍を木の葉に依頼したのですか?」
オレはテンゾウを見た。内心で何を思っているにせよ、生真面目な顔はほとんど表情を変えない。だが、彼も十分驚いていることが、付き合いの長いオレにはわかる。
ほんとうに何も聞かされていなかったようだ。

「夢……を。夢を見たのです」
長はオレとテンゾウを見ると、また少し笑みを浮かべた。
「私の知らない忍の方たちでした。時の狭間で、一瞬、その方たちが邂逅するのを、私は鳥になって上空から見ているのです」
敵の罠にかかって最初に時空を越えたときのことを思い出す。まさか、あの時のことなのか?
「その夢を見たのは、まだ子どものころのことでした、と申し上げたら、笑われるでしょうかの」
「では、まだ村長になられる前……」
「自分がこのような立場に立つなどとは思いもよらなかったころのこと」
オレはなんとなくテンゾウを見た。と、やはり、何気なくといった態でオレを見たテンゾウと目が合う。
この長が子どものころと言えば、オレたちはまだ生まれていない。
では、違うのか。

「紅葉したもみじの中に立つ、お一人。もみじがこの村の東の結界のあたりであることはすぐにわかりもうした。そして、その方が突然、振り返る。その側を、もう一人の方が通り過ぎてゆかれる。もう一人の方は、もみじの中の方に気づき手を伸ばすものの、もみじの中の方には、もう一人の方の姿は見えなかったようでございましたな」
うっそー、と言いたい。いや、内心では言っていた。
それは、まさしく、あの瞬間のことではないか。恐る恐るテンゾウを伺うと、テンゾウも奇妙な表情をしてオレを見ていた。何か、覚えがあるのだろう。
「そのときの、胸のうちに満ちてくる切ない気持ちや美しいもみじとともに、その夢はずっと記憶に残っておりました。その方たちの一人は木の葉の額宛をつけ、もうお一人は抜け忍の証の額宛のようなものをつけていらっしゃることも」
そう言って、長はオレたちを見て、今度ははっきりと微笑んだ。
「あなたさま方のことでございます。そうわかったのは、つい先日のことでしたが」