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2007年12月23日(日)
ぎむれっと−または、ろんぐぐっどばい 7) SideT


――!

名を呼ばれた気がして振り返った。
しかし目前に広がるのは、紅葉した木々とすでに散って地を埋める落ち葉だけが織り成す世界だ。
あまり近づいては東の守り番に気づかれてしまうので、ボクは気配を殺し、距離をとって老木をみやる。
もっとも、守り番は主に結界の外を警戒する。
結界内、つまり村のほうにいるボクにはたとえ気づいていても、放っておくだろう。

村を覆う結界にはなんの問題もない。
それは、ボクごときが心配しなくてもいいことだ。
ただ、どうしても気になったのだ。モズの言った「東が変」の言葉が、ひっかかった。

確かに、結界札を貼られている木が朽ち果てたら、それは大事だ。
だが、モズが示唆したのは、そういうことだったのだろうか?
果たしてモズは、老木が病んでいることを告げたかったのか、その結果、結界が危くなることを告げたかったのか。
あるいは……病んだ老木がもたらそうとしていた、まったく別の“何か”を感知していたのか。

だが、いくら目を凝らしても、気配を探っても、老木の周辺に異変は感じられない。

こんなとき。
あのひとがいたら。
彼の天眼があれば、あるいは.

「あのひと? カカシ先輩?」
我知らず呟いていた。

確かに彼の写輪眼があれば、この老木の周辺になんらかの異変があるのなら、見切ることができるだろう。
どうしてこんなときに、唐突にそんなことを思うのか。
助力を仰ぐことなどできないのは、明らかなのに。
いや、自分でもわかっている。
先ほど、名を呼ばれたような気がしたとき。
あの声は、間違いなくカカシ先輩の声だった。
たとえ空耳だったとしても、ボクはあの声を先輩の声として感知した。
すぐ近くにいるかのように、思えた。

彼が暗部を離れてから、もうずいぶんたつ。
なぜ今頃になって、こんなふうに思い出したりするのだろう。
最初に配属されたのは彼の隊ではなかったが、ボクを一から鍛え上げてくれたのは彼だった。
戦果をあげているときは追い風となり、窮地に陥ったときは光明となり、常に部下たるボクらを前へ前へと突き進ませてくれた。
だから、思い出すのだろうか……。
彼だったら、この事態をどう打開するか。
小隊を任されるようになったころ、ボクはよくそうやって考えた。
そうすると、不思議と道が拓ける、そんな経験を何度もした。

いずれにせよ、ここにかの先輩はいない。
望んでも得られない助成に気を逸らせたりせず、ボクはボクのやれることをやらなくては。
ボクは歩を進めた。東の守り番が、振り返る。
「おう、トキか」
「はい。紅葉に見惚れて歩いていたら、ここに」
老年に近い彼、ハギは白くなり始めた髪を束髪に結っている。
彼自身は抜け忍ではなく、幼年のころ母親とこの村に辿りついたと言う。
父は、母とハギを逃がすため追っ手の囮となったそうだ。生死はわからないが、たぶん死んでいるだろうとハギは言う。
「確かに、綺麗に紅葉している」
目を細めて木々をみやった。
「ずっと、ここに暮らしていると当たり前の景色になってしまうんだな」
「この木が、もし朽ちてしまったら」
ボクは枝に立つハギを見上げ、木の幹にそっと手を押し当てた。
ざらついた木肌の奥に、命が息づいているのだろう。
「結界は、どうなってしまうのですか?」
「おそらく……朽ちる前に、村長が別の木を選ばれるだろう」
だが、見渡した周囲に、この木ほど見事なものは見つからない。
「若い木が選ばれる可能性も、あるさ」
ボクの視線からボクの思考を探ったのだろう、ハギが言う。
「年経りた木だけが神木となるわけではない、ということですか」
ハギはボクを見下ろし、はは、と笑った。
「若いくせに、面白いことを言うな、おまえは。そうだな。まぁ、神木とは違うが、こうやって人々の意識が注がれることで、神性が育つこともある」
「人々の意識、ですか」
ボクは押し当てたままの掌にチャクラを込めた。
ボクのこのチャクラを感知して、この木は何か答えてくれるだろうか?
しずかに、問いかけるように……。
ふわりとボクの意識の底で、うごめくものがあった。
チャクラに呼応して、ボクの意識のそこで何かが動こうとしている、そんな感じだ。
どこか懐かしい感覚だが、これはボクが望んでいた結果ではない。

目を開くと、ハギが枝にかがみ込んでいた。
「どうだ? 何かしゃべってくれたか?」
ボクは首を振る。
「いえ。全然……です」
そうか、と呟くとハギは、コキと首を鳴らした。
「俺はもう何十年も、この東の守り番を務めている。最近、自分の老いを感じることも多い。だからかもしれないが」
そう言って、言葉を区切った。何かをボクに告げようとして、逡巡している、そんな雰囲気だ。
ボクはただ、ハギの次の言葉を待った。
「この木は、確かにそう長くはないのかもしれない。とは言っても、ひとよりよほど長生きするものだから、まだ何十年かは大丈夫だろう。そうではなく」
また、ハギがためらう。
「ここらあたりの気配が、わずかに変わっているように感じるんだ」
「気配が? その話は」
ボクの言葉半ばで、ハギは頷いた。
「長には報告してある」
「ほかの守り番は?」
「長に口止めされているので話していない。ただ、さりげなく聞いてみた感じでは、東のほかの守り番は、だれも気づいていない」
「なぜ、ボクに」
「トキには機会を見つけて話すように、と、長から言われた」
シン、と一瞬、空気が張り詰める。
ボクが、警戒したからだ。
「そう尖るな。長の真意は、俺にもわからん。だが、俺もトキなら話してもわかってくれそうだ、とは思ったんだ」
「ボクなら?」
「ああ。自分でもなぜそう思うのか説明はできない。でも、言葉で上手く説明できなくても大切なこと、というのはあるだろう?」
ボクは警戒を解く。忍として身についた習性ではあるが、悲しいことかもしれない。
だからこそ、この村に逃げ込んでくる忍がいる……身についた悲しい習性から逃れようとして。
「気配が違うというのは、どんな感じなんでしょう」
モズは何を感じたのだろうと思いながら、半ば自問するようにボクは言葉を発していた。
「そうだなぁ。強いて言えば……開けた感じ……とでも言えばいいか」
「開けた?」
「別に以前が閉じていた、というわけではないんだ。だから、強いて言えば……なんだが」
「その……開けて感じ、というのは一定した感覚でしょうか?」
今度は、明確な意図をもって質問した。
「一定した?」
ハギは首を傾げた。
そして、かがんでいた姿勢を延ばし、周囲に視線を送る。
「考えたこともなかったが……確かに、一定した感覚ではない、な」
己に確かめるようなハギの言葉に、ボクはパズルのピースがカチリとはまったのを感じた。
とはいえ、まだ、一部。
全体像は見えない。
「また、話す機会をくださいますか?」
「ああ。いつでもいいぞ。たまには、家に遊びに来い。別に、俺たちは上司部下といった上下関係にあるわけでもないし、そういった組織に属しているわけではないんだ。ゲンブもそういうことを気にする男じゃない」
はい、と答えて、ボクは村への道を辿った。



2007年12月17日(月)
ぎむれっと−−または、ろんぐぐっどばい 6) Side K


「カカシ」
「あの家はおかしい」
探索から戻った忍犬たちが、口々に訴える。
「突然、ひとの気配が消える」
「消える?」
「消えたり、突然、現れたりする」
「消えたり、現れたり?」
ワン、と5頭の声が揃う。
「わかった。ご苦労さま」
オレは忍犬を帰し、村の西北に向かった。

仮説……だ、仮説にしか過ぎない。
だが、突然、ひとの気配が消えたり現れたりする、という報告に思いつくのは、ただひとつ。

――時空を繰る者がいるか、時空のゆがみがあるか。

偶然なのか、一族のなかに術に長けたものがいるのかまではわからないが、彼らが時を遡ったり、越えたりしながら、忍の子どもを集めているのだとしたら……。
その仲介地点が、この村にあるのだとしたら。
「ときわ……」
オレは我知らず呟いていた。
時渡り、あるいは、とわ、あるいは……いくらでも解釈の仕様のある森の名。

「時空間忍術はね、カカシ。本来、禁忌の術なんだよ」

かつての師の声が、甦る。
「でも、先生。先生はそれを使いこなして、木の葉の黄色い閃光なんて呼ばれているじゃないですか。オレとしては、ダサいネーミングだと思いますが、二つ名がついているのは売れている証拠だと聞いています」
生意気なオレの言い草に、先生は笑った。
「使いこなしているわけじゃないんだ、ただちょっと、力を貸してもらっているだけ」
「力を……貸してもらっている?」
「ん。人間が踏み込んではいけない領域というのは、あるんだよ」
あのときの、先生の深い瞳の色を、いまでも覚えている。
いつもは空を映しているかのような明るい青が、深淵のように見えた。
「ひとつは生命そのものを扱うこと」
師の言葉に込められた裏側の意味に気づくのは、もう少し後のことだが、当時はオレなりに納得して頷いた。
「もうひとつが、時空を扱うこと」
「でも、先生」
「時空間忍術は、ただ通り道として時空の狭間を借りているだけなんだ。それ以上のことは、やってはいけない。それは、歴史に干渉することにもなりかねないからね」
そう言って、先生はボクの肩に手を置いた。
「だって、そうだろう? もし、時空を自在に繰る事が出来るとしたら、カカシ。過去を変えたいと思ってしまうだろう? くるべき未来を、違うモノにしたいと望んでしまうだろう?」
過去を、くるべき未来を……変えることができるなら……そう、父を……あんなふうに……それに、オビトだって……。
「みんながみんな、そうやって、己の望みをかなえようとしたら、どうなってしまうだろう?」
「……はい」
子どもだったオレは、ただ素直に頷いた。
だが、いまになって思う。
変えることが出来るのなら、とだれよりも強く切望し、苦悩したのは、きっと師自身だったのだ。

――許せない。

灯りを落として寝静まっている家々を前に、オレは怒りを覚えた。
たかだか人間のオレにできることは山ほどの後悔を抱えて生きていくことだけだ。
過去を変えて、後悔と言う荷を降ろしてしまうことは、できない。
そうやって、だれもが荷を背負って生きているのに、己の私利私欲のために時空を繰るなど……。

それが許されるなら、オレは父をむざむざ自死などさせない。
オビトを犠牲にもしない。
あの日、師の下を離れたりなどしない。
それに……テンゾウ。
里を離れる前に、会うことのかなわかった男を思う。
……大蛇丸にテンゾウをさらわせたりなどしない!
たとえ、そのためにテンゾウと出会うことなく、オレの人生がおわっても。そんなことなど、させない。

あいつが、過去の記憶を取り戻そうと、一時期やっきになっていたのは知っている。
彼は彼なりに、自分の人生に折り合いをつける方策を探っていた。
記憶を取り戻したとき、オレとの関係がどうなるのか。不安を覚えなかったと言えば、嘘になる。
でも、その不安の傍らで、オレは確かに望んでいた。
あいつが、あいつ自身の過去を取り戻すことを。
だれよりも、オレ自身が望んでいたのだ。

起きている人間の気配のないことを確かめて、オレは“ときわの森”に足を踏み入れた。
隠している左目を開く。
――歪んでいる。
確かに、ここに時空の歪みがある。
そして、その歪みを覆う結界が、かの5軒の家から貼られているのがわかった。

――さて。どうしたものか。

今回、オレは勅使という表向きの任務を担っている。
穏便に表向きの任務を終え、綱手さまに報告するのがいいか。
もうすこし、踏み込んで調査すべきか。

その逡巡が、隙を生んのかもしれない。

ヒュン! とうなりをあげ、耳元を暗器が襲った。
オレは飛びのいて、背後の木の枝に立つ。
「探りに来たか」
「まあね。何もなければ、このまま行くところだったんだけど」
「だが、アレに気がついた以上、このままではすまぬ」
「ま、こっちも、このままじゃすまない、って思ったしね」
キンと闇を裂く手裏剣を弾く。

「ねえ、ひとつ聞いてもい〜い?」
当たり前のことだが、返事はない。
「この歪みは、前からあったんでしょ? なんで急に戻ってきたの?」
「おまえにわかるか」
闇の底から声が答える。
「やっと、忍というクビキから逃れたと思った我らが、再び縛られることになる絶望など」
こいつら、もとはどこぞの抜け忍だったのかもしれない、とオレは思った。
「人身売買組織に人材を提供するのは、なんの代償?」
答えはなかった。その代わり、千本がオレを襲う。

物理的な攻撃しかしかけてこないのは、時空の歪みに関係があるのかもしれない。
咄嗟に、そう判断し、オレも術を発動するのは控える。
それに、あくまでもオレに命じられたのは探索であって、敵の殲滅ではない。
この夜をやり過ごせば、彼らも表立っては何もできないはずだ。

「そいつ、写輪眼のカカシだろ? んなことじゃ、生ぬるいって」
言葉とともに、ぐわんと空間が歪んだ。
「ば、ばか、巻き込まれるぞ」
対峙していた相手があわてる。
オレは、歪んだ空間越しに術を発動する相手を捕らえた。
――そうやってこの歪みを利用していたのか。
コピーし終えた瞬間、己の足元が揺らいだ。

――しまった!!

揺らいだ足場とともに、自分の身体がどこかに引きずり込まれるような感覚に襲われた。

そして、オレは見た。

会うことのかなわなかった、男の顔を、姿を……。
……紅葉する木々のなかに、立つ彼を。

ほんの、一瞬のできごとだった。



2007年12月10日(月)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 5) ide T


ボクはふかしあがった芋を、モズに手渡した。
「いいの?」
「いいよ。たくさんもらったんだ。あとで、みんなの分もわけてあげるからね」
そう言わないと、この遠慮深い子は芋を食べない。
「ざわざわした感じ、とキミが表現する感じ、って、もう少し具体的に説明できるかな?」
「具体的?」
「ざわざわ、というのは、多くの物やひとが動いたり音を発したりするときのイメージを表現したものだろう? 実際には、ひとの声のときと、森の木の葉が風に揺れる音のときとでは、違うだろう?」
芋を二つに割るとほのかに黄色味を帯びていた。パクと喰らいついて、モズは首を振る。
「そういうのとは、全然違うんだ」

はふはふと芋を頬張りながらモズは答える。その表情は、どこか和らいでいた。
「どう違うの?」
「どうって言われても……普通にひとや動物がいると、しゃべったり動いたりしていなくても、いろんな気配があるでしょ?それと一緒」
「ひとや動物の気配と……一緒? ひとや動物の気配ではないんだね」
モズはボクの質問に小さく頷いた。
「今までこういう話、したことがあるかい?」
「ううん。あ、うんと小さいとき、親には言っていたと思うけど」
「ゲンブには?」
「前に一度。でも、よくわかってもらえなかった。うまく説明できなくて」
この子の感知能力は、やはり五感を超えたものなのかもしれない、とボクは思う。
「あのね……」
ゴクンと芋を飲み込んでモズが口を開いた。
「ずっとずっと、あるんだ、その気配は。普段はとても静かなんだ。でも、何かがあると……ざわざわする」
「命が消えそうになると、ってことかな?」
「たぶん、そうなんじゃないかな、って、自分が思ってるだけ」
「助けを呼ぶとか、そんな感じかな?」
「ううん。そんな感じはない。ただ、ざわざわする」
「ただ、ざわざわ……」
ひとつの仮説がボクのなかに、生まれた。突飛といえば突飛な仮説だが、検証する必要はあるだろう。
「ざわざわの感じは、いつも一緒なのかな?」
ボクの質問に、モズはじっとボクを見た。まるでボクを値踏みでもしているような、探る視線だ。
この質問は、核心を突いた、そうボクは直観した。
感知能力に優れた者のなかには、ときたまひどく語彙に乏しい者がいる。
おそらく、モズもそのタイプなのだろう。実際、普段も口数が少ない。
それは、彼の感じている世界を表現するだけの語彙が言語にないからだ。
言語とは、つまるところ他者とのコミュニケーション、つまりは情報の共有のための手段だ。共有すべき情報の基盤が、そもそも他者と異なっているモズのような者には、言葉は使い勝手の悪い道具でしかないのかもしれない。
「いろんな、ざわざわをモズは感じているんじゃないかな」
モズは、あとひと口だけ残った芋を見た。まるでそこに答があるとでもいうように。
「……うん」
小さく答えて、急いで芋を口に押し込む。これ以上、口を割るものかとでも決意しているかのような様子に、ボクは思わず口元を緩めていた。
「じゃ、これ、みんなに持って行って」
まだ湯気を立てている芋をざるにあける。
「訓練は?」
「また今度、でいいかな? 今日は、ゲンブに君が感じたことを報告しないといけないからね」
うん、と言うと、モズは立ち上がった。
「いいの、これ」
「ああ。こんなに芋ばかり、ボクも食えないから」
ありがとう、と小さく答えて、モズはカゴを抱えると、出て行った。

「どう思う」
ゲンブに報告に行くと、逆に問われた。
「モズが『遠い』と言っているので、遠いことは確かだと思います。ただ、それが距離的な遠さなのか、まったく違う何かを意味しているのかまでは、ボクにも……」
「少なくとも、この村の近くではなさそうだな。おまえを見つけたときは、モズは『遠い』とも『近い』とも言わなかった。ただ、戦闘の気配らしいものを感知した、とだけ」
「あの……」
腕組みをして思案するゲンブに、ボクは声をかけた。聞こうかどうしようか、と迷いながら、でも、やはり確かめておかなくてはならないと思ったのだ。
「ゲンブがモズを見るようになったのは、いつごろからですか?」
なぜ、そんなことを問う、とでも言われるかと思ったが、ゲンブはあっさりと
「1年ぐらいだ。感知能力があるらしい、と聞いてな」
「モズの感知能力は、割と、知られていたんですか?」
いや、とゲンブは首を振った。
「親に聞くと、小さいころからたまに、それらしいことを口にすることがあったそうだ。ただ、親にもよく意味がわからず、夢見がちな子どもだと思っていたらしい、それが」
そこで言葉を区切り、ゲンブは茶の入った湯飲みを手にした。が、手にしただけで、また卓に戻す。
「1年前だ。結界の東を守っている老木が、虫に食われていることがわかった。モズが騒いだからだ」
「騒いだ? なんと言って?」
「東が変だ、と」
「それで老木を?」
「すぐには、意味がわからなかったので、とりあえず盛り番たちが東を探索した。特に異変もない。だが、モズは譲らなかった」
「老木が虫に食われているとわかったのは?」
「村長が、『もしや』とおっしゃったからだ」
「では、過去にも例があった、と?」
「ああ。ひとよりよほど長生きするとはいえ、樹木にも寿命はあろう」
「では、結界の位置は変わったのですね」
「いや。虫食いの範囲がそう広くなかったので、薬を注入したり……まあ、人間で言うところの治療を施したら、持ち直したんだ」
さまざまな仮説が、ボクの脳裏を駆け巡る。
モズの能力、一次は乱れた結界の境、そして村を守る老木……。

その日は、軽い仮眠をとった後、夜半前から北の結界の守りに就いた。
明け方、番を交替すれば、明日は休暇だ。
東の老木を見に行こうとボクはひそかに決めていた。
何が、という理由があるわけではない。ただ、気になっただけだ。
だが、それが直観というものだ、とかつて上司に言われた。彼もまた、ひどく勘のいい男だった。
確かに、ひとより嗅覚に優れてはいたが、そのためだけではない。
どう考えても、ここは歩を進めておくべきだろうという局面で、待機を命じる。
理由を問うと「ん、なんとな〜く、やな感じがするんだよね」と返って来るので、みな最初は呆れるのだ。
呆れつつ、しかし隊長には従わざるをえない。向こう見ずに突っ込んでいくことを部下に命じる隊長よりはましか、と最初は、自分を納得させるのだ。
だが、やがて思い知る。彼がそう言うとき、決まって、事前情報が間違っていたり、予想外の急展開のあげく局面が変わっていたりするのだ。

直観というのは、テレパシーではない、と彼は言っていた。
経験と観察によって導き出された必然だ、というようなことを、彼特有の語り口調で諭された。
疑心暗鬼になる必要はないが、己の勘は信じなさい、とも言われた。

昨夜、夢を見たせいか、かつての上司をよく思い出す。
確かに、暗部でのボクの基礎をつくってくれたひとだ。
いろいろ、振り回されたりもしたし、破天荒さに腹を立てつつ呆れたりもしたが、総合していい上司だったと思う。
そういえば、とても仲間思いのひとだった。
かつての部下であるボクが“抜けた”のを知ったら……万が一にでも、情報が漏れることはないはずだが、もし知ったら、きっと心をいためるだろう。
上忍師としてその成長を見守っていたうちはサスケが大蛇丸の元に下ったときも、あのひとは……。

ズキン、とこめかみが痛んだ。

あのひと?

あのひと、とは……そう、はたけカカシのことだ。
彼はかつてのボクの上司で、後に暗部を離れ、うちはサスケを含む3人の下忍の上忍師となった。
そう……そうだった。

気がつくと、いたんだこめかみを指で押さえていた。
なぜか、自分がひどく不安定な気がして、ボクは苦笑する。
やはり、潜入任務は精神的負担が大きい。
疲れているようだ、と思い、ボクは夜気を吸い込んだ。

まだ、何もわかっていない。
ボクの任務は、まだ端緒についたばかりなのだ。
そう自分に言い聞かせた。



2007年12月03日(月)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 4) sideK


出立の日、オレは柄にもなく大門を出てから、里を振り返った。
勅使、などと大層な役目を帯びている割に、携帯しているのは巻物ひとつ。条約更新の確認書のようなものだ。

テンゾウからの式は届かなかった。
里には戻ったらしい。少なくともオレが送った式の封印が解かれたのは、確かだ。
だが返事はなかった。
どんなに忙しくとも、それこそ会う時間がなかったとしても、テンゾウからの式だけは届くのが常だった。
まったく律儀なヤツだと呆れる一方で、律儀さを嬉しくも思っていたのだ。
それがない、というのは、初めてだった。テンゾウの身になにかあったのかと思い、昨夜は、部屋を訪ねようかと思ったほどだ。
あれも子どもではない。暗部を束ねる手練れのひとり、そういうこともあるだろう、とオレは自分を納得させた。
それでもざわつく気持ちを鎮められず、窓の外を眺めていたら、暗部の一小隊が闇夜を過ぎっていくのが見えた。
移動の速さが、任務の緊急性を告げている。
続く小隊がない、ということは、極秘任務なのだろう。
だれかが致命的なミスを犯したか、あるいは、暗部から抜けた者が出たか。
あの小隊にはテンゾウはいなかったが、そういう事態なら彼もまた暗部棟に詰めているのかもしれない。
またすれ違いか。
そう呟いて、オレは布団を被った。
寂しいなどと泣き言を言うつもりはない。だが、テンゾウの体温が恋しかった。
当たり前のように一緒にいられた昔が、無性に懐かしかった。
いい歳した男が、と苦笑して、オレは眠ったのだ。

振り返った大門は、任務から戻ったときに見る景色と同じはずなのに、違って見えた。
里はいつもの朝を迎えようとしている。連綿と続いている日常の、新しい一日が始まろうとしていた。
任務に赴き、帰還してまた任務に赴くのも、忍たるオレの日常だ。
だが、今日はそれが断ち切られたような気持ちだった。
ある日、突然、父が逝ったように。友を失ったように。師を……。
そういえば“あの日”も、オレは師に命じられ、火の国の国主への勅使として里を発った。
報を聞いたのは、ちょうど国主との面会中だった。

あのとき――先生のように時空間忍術が使えたら、次の瞬間には里に戻ったのに。
歯噛みしながら木の葉の里からは遠い空の下で、泣くことも叫ぶことも叶わず、天を仰いだ。

振り返ったままのオレをいぶかしんでか、門の詰め所から中忍が顔を覗かせた。
「じゃ、いってくるね〜」
右手を振るオレに、怪訝そうな顔でその中忍は手を振り返し、それからあわてたように礼をした。
この前、中忍に昇格したヤツだが、うん、おまえは使えるね。覚えておくよ。
心の中で声をかけ、オレは地を蹴った。

道中は何事もなく、夜は手配された宿に泊まり、翌日、出発する。
そして三日目、いよいよ問題の村に差し掛かった。
雲隠れの里から正式に依頼されていることもあり、村長自ら出迎えてくれた。
「お役目ご苦労さまです」
「木の葉の里の上忍、はたけカカシです。このたびは宿泊の許可をいただき、ありがとうございます」
病に臥した父親から一昨年、代替わりしたという長は、40手前、といった年頃の落ち着いた男だ。
「なんの、宿という設備のない村なので、客人を迎えるのはもっぱら長の仕事です」
にこやかに言って、オレを家に案内してくれた。
特に塀などで囲ってはいないが、厩に離れもついた大きな平屋が、森を背に建っていた。
年輪を感じさせる古びた作りだが、定期的に補修をしているのだろう、どこにも傷みは見られない。
装飾性こそないが、確かな腕の職人がしっかり仕事をしたことが伝わってくる、なんともいえない温かみが感じられた。
「古いばかりで」
と長が恐縮する。
「いや、見事なものです」
世辞ではない本音が口をついて出た。
通された客間も、やはり質素だがしっかりした作りの八畳間だった。
床の間には、藍の色も鮮やかな菖蒲の花が活けられている。
道中のホコリで汚れた忍服を、洗濯済みのものに着替えたところで、家の使用人らしい女がふすま越しに声をかけてきた。
「もし、お疲れでなければ、すぐに膳を調えます」
「よろしくお願いします」

山菜や川魚を中心とした献立の夕餉は、村長夫婦と3人の席となった。
道中、見聞きした村々の話題を提供しながら、それとなく村の様子を探る。
「若い者は、やはり外の世界に心を惹かれるらしく、村を出て行く者も多いのですよ」
「気候も温暖で過ごしやすい土地なのに、もったいないですね」
「ええ。でも歳を重ね、それを実感するのか戻ってくる者もおります」
長の言葉に妻女が頷く。
「ずいぶん昔に村を出て、もう孫までいるような方が、一族で戻ってきたりもするんですよ」
「お子さんやお孫さんも一緒に?」
オレの質問に妻女が笑った。
「ええ。街で育った方は、こういう暮らしに憧れがあったり、なかにはお子さんが病弱で、健康をお考えになった挙句、という方もいたりで、村に戻るのは息子さんのほうが熱心だったとか」
「多いのですか、そういう方は」
「そうですねぇ」と妻女が、いち、に、と指を立てた。
「昨年と今年で、5組ほど、でしょうか。」
「お孫さんも一緒だったので、村の学校も一気に賑やかになりましたよ」
「子どもが増えると、やはり活気が出ますからね」
答えながら、オレは5組というのは多い、と感じていた。
村全体で、50世帯ほどだという。5組と言えば1割だ。
昔は100世帯以上が暮らしていたそうなので、土地はあるのだろうが。
――いかにも不自然だ。
「街からいらした方が、ここの暮らしに馴染めるものなのか私どもも心配したのですが、みなさん、村の行事にも積極的に参加してくださって」
「望んで来られたのでしょうから、馴染むよう努力もされているんでしょうね」
適当な相槌を打ちながら、考えを巡らせる。
仮に、彼らが人身売買組織と関わりがあるとしたら、この村の子どもがさらわれている可能性もある。
しかし、そういう話は今まで出てこない。
こうした小さな村で、子どもの行方不明というのはさまざまな波紋を投げかけ、あちこちに微妙な軋みを生むものだが、この村にそんな気配はなかった。
さりげなく、越してきた5世帯の位置を確かめ、オレは夜の更けるのを待った。

月のない晩だ。
昼間は汗ばむほどの気温だったが、夜の空気はしんと冷たい。
静かな庭に出て母屋を伺う。
農作業を主な生業としているためか朝の早い家は寝静まっていた。
裏の森に向かい、そのなかに分け入る。
伐採されたのか切り株だけが残っている空間を見つけ、印を結んだ。
家族以上に馴染んだ八忍犬の5頭に、5世帯の位置を伝え、様子を探るように言いつける。
夜の闇の中、了解の意を示し、ひそやかに鼻を馴らして散る。
「ぱっくん」
オレは忍服のホルダーから巻き物を取り出した。
「これを預ける」
ぱっくんは、無言で巻物の匂いを嗅いだ。
「もし、明日の朝までにオレが戻らなければ、これを雲隠れの里に届けてくれ。おまえたちは、ぱっくんの護衛だ」
「わかった」
オレはばっくんのマントの結び目を解き、巻物をくるむとたすきがけに背負わせた。
「頼んだよ」
「カカシ。気をつけることだ。この村は、どこかおかしい」
うん、とオレは頷いた。
こうやって夜の空気に触れて初めて覚えた違和感が、しきりにオレの直観に訴えている。
ここには、確かに何かある。
村長が知っているのか、あるいはまったく気づいていないのか、そこまではわからない。
だが、確実に何かがある。

「ときわの森……」
「ん、なんだ?」
「ああ、ぱっくん。この森の名前だよ。ときわの森と言うそうだ。どういう字を当てるのか、なにが由来なのか、まったくわからないらしい」
ちょうど村長の家の背後が北の中心にあたる。そこから西北にかけた区域は、昔から禁忌の地なのだそうだ。
だが、不思議なのは、北から南東にかけての森には、普通に立ち入ることができる。山菜やキノコ類なども豊富にとれ、村にとっては食料庫でもあるらしい。
「いにしえより伝えられるなかで、由来はわからなくなってしまいましたが、なにか意味があってのことでしょう。幸い、そこに立ち入らなくては村の存続が危いという事態にはなっていませんので、こうした言い伝えは守るに越したことがない、と考えています」
村長はそう言っていた。
しかし、その北から西北にかけた森のそばに、5軒はあった。
もっとも、山の恵みを収穫するには便が悪いので空き家が多く、そこに新参者が集まっただけなのかもしれない。
だが、禁忌の森と、新参の5軒。オレには妙な取り合わせだとしか思えなかった。



2007年12月02日(日)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 3) SideT


浅葱色に白み始めた空を眺めながら、ボクは綱手さまと交わした会話を思い出していた。
半年前、唐突に聞かされた言葉……。
「抜け忍の村?」

長く暗部に身を置いていても、聞いたことがなかった。だから思わず聞き返してしまったのだ。
「ああ。本来ならあってはならないはずの村だが、あることはある。その意味がわかるか?」
「建前上、あってはならない。けれど、目こぼししている、ですか?」
「その通りだ。里に仇成す意志もなく、利用される懸念もない限り、目をつぶろう、そういうことになっている」
そう言って、あのとき綱手さまは吐息をついた。

「あたしなんか、なまじ血筋が血筋だったから、シズネをつけられただけで放浪生活なんかができた。逆に、絶対に抜けられない、ということを意味しているわけでもあるんだが……そうはいかないヤツもいるだろう?」
はあ、とボクは相槌を打つ。
このひと、抜けられたら、抜けたかったんだろうか? と思ったものだ。
まさか。いや、ギャンブルのためだったら、あり得るか?
一瞬の間にボクの脳裏を過ぎった想像が不敬罪に当たるというなら、きっと木の葉の里の忍の半分以上は不敬罪に値するだろう。
そんなボクの内心に気づいているのかいないのか、眉間にシワを刻んだ険しい顔で五代目火影は言葉を続けた。
「それに、まぁ、隠れ里もいろいろだ。嫌気がさすのもわからないわけじゃない、という里もなかにはある」
「だから、目こぼし……ですか」
「ああ。だが、要は、里を抜け、追い忍にも始末されずにいる忍たちだ。運が良かったというのもあるだろうが、それなりの腕がある。それを利用されたら……」
「脅威ですね」
「ただ、それがどこにあるのかはわからない。どの里の長も、知らないことになっている。意図的に触れないようにしてきた、というのもあるがな」
そんな話が出るということは、今回の任務は、その村……なのだろうとボクは悟った。
「では、今回の任務は」
綱手さまが頷く。
「抜け忍の里を見つけ、潜入探索してもらいたい」
「目的は?」
「不穏な動きがないかどうか、探ってもらいたい」
「……漠然としていますね」
「漠然としているのはわかっている。ただ、今回の任務の背後関係を話すことはできないのだ。なるべく、その村を刺激したくないのでな」

不穏な動きとはなんなのだろう?

この半年、村を見てボクなりに考えた結果、“不穏な動き”に相当するような出来事は見出だすことはできなかった。
小さないざこざは起きるが、それはあくまでも村のなかでのこと。
だれも村の外にまで広がるような何かは、考えていない、そう思えた。
唯一、気にかかるのは……。

ボクは東からゆっくりと朱を帯びていく空に目をやった。
まだ、何もわかっていない。何も探れていない。
なのに、ここの空気に飲まれて、ここで朽ちてもいいなどと思うとは……。
ボクはパンと己の両頬を叩いた。

――昼も間近の刻限。
守り番の明けた足で訪ねると、モズは同輩の子どもたちと組み手の最中だった。
「あ、トキ」
トキというのがここでのボクの呼び名だ。命名したのは村長。
「聞きたいことがあるって、ゲンブから聞いた。なんだい?」
うん、と言いながらモズはボクを見上げる。
この子は感知タイプの能力を備えている。
半年前、村の近くに行き倒れていたボクを見つけてくれたのもモズだった。彼の感知能力は結界の外にまで及ぶ。つまり、それほど高いのだ。
だからこそコントロールする能力が必要で、ここ10日ほど、ボクはときどき助言をしていた。もちろん、ゲンブに頼まれて、だが。
「えっと」と言いかけて、モズは同輩の子どもに視線を送った。
彼らの前では言いにくいこと、なのだろう。
「ああ、そうそう、ボクはこれから家の片づけをしないといけないんだ。もしよかったら、手伝ってもらえるかな? 話は、手を動かしながらでもできるだろう?」
「うん、わかった」
そう言うとモズは組み手をしていた相手に
「ごめんね。あとでまた戻ってくるから」
ボクがゲンブに頼まれ個人的にモズを指導していることを知っている子どもたちは、「ああ、わかった」などと言いながら、また組み手を始めた。
「行こうか」
ボクの言葉に頷いて、モズは小走りについてきた。

「で、話っていうのは?」
この前、隣家からたくさんもらった芋をふかしながら、ボクはモズに尋ねる。
「あのね。またなんか……ざわざわしているんだ」
「ボクを見つけたとき、みたいな?」
うん、とモズは頷く。
半年前、彼が、というよりも彼の訴えによってゲンブが結界の外に出て、ボクを見つけた。
モズの訴えは「ざわざわした感じがする」――つまり、どこかで戦闘がある、ということだったらしい。
だが、そんな気配もなく、ただボクが倒れていた、とゲンブから聞いた。
確かに追い忍部隊から逃れるため多少の戦闘にはなったが、それはここからもっと遠いところだ。
だから戦闘の痕跡がないのは当たり前で、ボクがたおれたのは、ただの疲労と空腹、それに追い忍部隊から逃れた安堵のためだった。
しかし、モズの訴えも無視できるものではないとゲンブは考えたと言う。
感知タイプの忍は、訓練なくして己の感覚器官に飛び込んでくる情報を取捨選択できるようにはならない。
だからこそ、モズの感知した戦闘の気配は、確かにどこかにあったと言えるのだ。ただ、それがどこか、わからなかったらしい。
四方の守り番たちが総動員で当たったらしいが、村の周辺に戦闘の痕跡はまったくなかったとのことだ。
大人たちはモズの能力が多少不安定になっているからだろう、と軽く片付けた。
だがゲンブは気にしていた。
乏しい情報に基づいた見解なので間違っている可能性もあるが、モズの能力は実際の空間にそのまま対応しているのではなく、ショートカットのようにどこかに飛ぶことも可能な能力かもしれないとボクは思った。
事象か、あるいはひとの想念といった不定形なものか、それはわからないが、モズの能力に働きかける鍵があるのだろう。
そう言うとゲンブは、納得したようだった。
そしてモズに、あまり感じたことをひとに言わないように、と、言い渡したらしい。

そのモズが、里の外での戦闘の気配を訴えている。

「どう? 結界を破ってこっちにきそう?」
モズは顔を上げてボクを見た。
「わからない。なんか、変なんだ」
「変、とは?」
「結界のせいかもしれないんだけど。なんか、遠いんだ」
「遠い?」
「遠いんだけど、近いんだ」
ボクはモズの顔を見た。自分が感じたことを言葉にしようと苦慮している様子が伝わってくる。
「遠いと感じるのは、どうしてだい?」
「はっきりとわからないから」
「はっきり?」
「たくさんの命が死にそうになっているんだけど、それがぼんやりしている」
ボクは頷いた。
「普段は、もっとはっきりわかるのかな?」
「言葉としてわかるわけじゃないけれど。もうすこし、はっきりしている……大きさとか」
「大きさ?」
「消えそうな命が多いと、大きいんじゃないかなって思うんだけど」
ひとの想念を嵩として捕らえているのだろうか。モズならぬボクには、想像のしようもないが。
「近い、と感じるのは?」
モズは首を傾げ視線を床に落とす。己の感覚を探っているようだ。
「ざわざわした感じとは別に、伝わってくるんだ」
「別に、ってことは、全然別の感覚なのかな?」
「うん、こんなの初めて。凄く強くて……これはなんなのかな」
モズ自身にもよくわからないらしい。
モズに能力をコントロールすることを教えるのに、ゲンブが行き詰っているのも、ここに理由がある。
本人が、己の能力を明確に捕らえていないからだ。
感知タイプにもいろいろあるが、だいたいが五感に基づいている。木の葉の里の犬塚家などは、その代表だろう。
そういう場合、もともとひとが備えている能力がより突出しているのだから、能力そのものについても理解しやすいし、コントロールの仕方も教えやすい。
だが、モズの能力は聞けば聞くほど、五感とは別の力が働いているとしか思えない。
いったいモズが感じているものがなんなのか、第三者には想像できないのだ。

「そろそろ、ふかしあがったころだ」
鍋の蓋を開くと、盛大に湯気が立ち上った。



2007年12月01日(土)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 2) sideK


「人身売買?」
オレの言葉に、五代目が賭けに負けてスッテンテンにでもなったような顔で頷いた。
「半月ほど前、火の国を本拠にしていた組織が摘発されたのは、カカシ、おまえも知っているだろう?」
「貿易会社を隠れ蓑にしていたんでしたっけ? あれは表向き火の国の警務組織が摘発したことになっていましたね」
裏で木の葉の暗部が動いたことは明白だ。
「その際、保護された子どもたちのほとんどが誘拐されてきていることがわかった」
「全部で17名でしたか?」
「と公表された」
「つまり……」
「実際には19名いた」
「二人は?」
「保護された翌日、失踪した」
「素性は?」
「不明だ」
なるほど。素性を知られては困る者が背後に控えている、ということか。
「17名の出身は?」
「13名がそれぞれの隠れ里で忍の訓練を受けている、いわばアカデミー生のような子どもたちと判明した」
「4名は?」
五代目の表情が一瞬、険しくなり、掃き捨てるように言葉が続く。
「親に売られた」
オレは黙って頷いた。
「そして素性のわからない2名……ですか」
「子どもたちの話では、その2人は一番最後に合流したそうだ。みなが怖がって怯えるなか、平然としていたらしい」
「どの隠れ里にも属していない、しかし忍として訓練されたらしい子ども、ということですね。彼らの買い手はわかっているんですか?」
「ああ。音の里だ」
不機嫌そうな声に、オレは「おっと」と言いかけた言葉を飲み込む。
こりゃ、五代目の機嫌が悪いのももっとも、といったところか。
ポリポリと後ろ頭をかきながら、口元を歪めている五代目を見る。
事件から半月が経過している、ということは、ある程度、背後関係の絞込みができている、ということだ。
「で? オレはどこを探ればいいんですか?」
チラと視線がオレを捕らえる。
「相変らず、察しがいいな」
「Sランク任務から戻ってまた、Sランク任務に舞い戻る生活ですからね。勘も鋭くなりますよ〜」
おかげで、近々、里外任務から戻るはずのテンゾウとまたスレ違ってしまうのだろうが、そんなことにも慣れた。
残念だな、とは思うが、仕方ない。仕方ない、と言って諦める以外にないのだ。それ以上深く考えると、やるせなくなってくるのがわかっているから、考えない。
「子どもたちの話を総合して検討し、暗部を調査に向かわせた結果、どうやら火の国と雷の国の国境近辺の山里に人身売買組織と繋がりを持つ村があるらしいことがわかった」
「あるらしい? 暗部の調査にしてはお粗末ですね」
「そう言うな。特出した産物もない寒村で、いまは一応、雷の国の領土に入っているのだ。過去、火の国と雷の国の衝突のたび、火の国の領土になったり雷の国の領土になったりしているため、村人たちは自主独立の風を重んじ傾向にある。暗部と言えど、目立つ動きはできぬ」
なるほど、大国の歴史に翻弄された貧しい村、ね。
「で、オレが出張るためのお膳立ては、どうなっているんですか?」
「ほんとに、察しのいいヤツだな」
言葉とは裏腹に、五代目の表情は険しい。オレは仕方なく、はは、と笑った。
要するに、裏から探れないからオレという駒を使って陽動をかけるのだ。写輪眼のカカシ、コピー忍者などという二つ名をもつオレが表立って動くことで、相手の動揺を誘うという作戦――そういう駒にオレを使うことを、苦々しく思っているのだろう。
「雲隠れの里との友好条約の期限がそろそろ切れる。条約は更新されるわけだが、それに先立って勅使を立てるのが慣わしだ」
「それを、オレが? 普通、ご意見番あたりが、護衛を伴って動かれるのでは?」
「世代交代した火影は跳ねッ帰りで、まだるっこしいことが嫌いなのさ」
そう言って、ようやく五代目は笑った。
「面倒なことはサッサと片付けるに限る、ということで、おまえを派遣する。ご意見番は後で知らされ、オロオロする」
「そういう筋書きですか」
「日程的に、途中、その問題の村で一泊するように仕組んだ」
「わかりました。で、出立はいつ?」
一瞬、五代目がじっとオレを見つめた。どういう意図があるのかは、わからなかったが、思いのほか強い瞳の光にオレは柄にもなく妙な胸騒ぎを覚える。
「明後日だ」
「御意」
礼をしながら、胸騒ぎだけが残っているのをオレは感じていた。

テンゾウの部屋には式を飛ばした。
もし、明後日の出立までにテンゾウが戻ればオレからのメッセージが伝わる。
それでもゆっくり会う時間はとれないだろう。
何しろオレもSランク任務から戻ったばかりだ。明後日までに、体力を回復させることも含め、やるべきことはたくさんある。
それでも、ほんの少しでも顔を見ることが出来れば、声を聞くことができれば。
それだけで、いいのに、と思う。
会わずにいることが不安に繋がる、というほど、青臭い付き合いはしていない。
でも、会いたいものは会いたい、というのが本音だった。
一抹の不安は、常に付きまとっているが、会いたいという感情は、不安を消し去りたいがために生じてきているわけではない。
むしろ、ただ、会えるものなら会いたい。そんな素朴な感情だ。
ある意味、無欲で、ある意味、貪欲な感情を、いまだ抱き続けていることこそ奇蹟だとオレは思う。
一言では言い切れぬ、さまざまなときを経て、それでもオレはテンゾウに会いたいと願っている。それだけは、変わらない。出会い、気づかぬままに惹かれていたころから、変わらない。
ずっと変わらないこの感情こそが、オレにとって何よりも大切なものだと思う。こっぱずかしくて、とても言葉に出して言うことなど、できないだろうが。

忍具を調えながら、オレはとりとめもなくそんなことを考えていた。

そのころテンゾウの身に何が起こっていたのか、オレが知るのはずっと後になってからのことだ。
その夜のオレはただ、Sランク任務に向けて心を鎮め、淡々と準備を進めていた。
その合間に、ふとテンゾウの面影が浮かんでくることに苦笑しながら、ずいぶん会っていないなぁと再確認などしたりしていた。
こんな長の別れになるとは知らず、道端の花を摘んで花占いをする少女のように「会える、会えない」と自問を繰り返した。つむべき花びらはなかったので、コチコチという時計の秒針に合わせて、ただ繰り返していたのだ。