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2007年02月27日(火)
ぱすてぃす 後朝 <後>


テンゾウにとってカカシというひとは、ある面で、掴めそうで掴めない蜃気楼のような存在だった。
本人の姿を映してはいるのだけど、あるときそれは掻き消えるように見えなくなってしまう。

本人が意図して実像をはぐらかしている部分もあるし、意図せず、そうなっている部分もある。
結果、虚実ないまぜとなって、ますますカカシの実態はわからなくなる。
噂ばかりが先行するのも、そのためだろう。
だから、彼の感情を探っても、あまり意味がない。どっちみち、わからないのだから。
ならば、自分がどうしたいか。それに基づいて行動するほうが、ずっと建設的なのではないか。
――だったら、ボクはまっすぐにぶつかっていこう。答が否なら、仕方がない。諦めよう。
テンゾウの決心は前向きだった。

だから、試しに誘ってみた。我ながら少々強引だと思ったけれど、カカシは素直についてきた。
そこまではいい。問題はその後だ。
酔っ払った自分は、まっすぐにぶつかるどころか突進した勢いで、相手の反応も確かめず、そのまま突っ走ってしまった。

――一度、抱かれたら、それで終わりなんですか? なんて、普段そんなこと言ったら、間違いなく瞬殺だ。
――いや、その前に、恋人だと思っていいのかとか、聞いたんだ。なんだよ、それ。それこそ、一度寝たら恋人なのか?
おまけに、なぜかカカシは正座をして、妙にちんまりしていたような……。
――うわー、うわー、うわー。なんてことを、先輩に。

挙句、押し倒した。
今回は、間違いなく、押し倒した。

「さむい……」
寝ぼけたカカシが、上掛けの間から手を伸ばす。
「……ねぇ」
ねだるように言いながら、テンゾウの肘のあたりを、遠慮がちに引いた。
テンゾウは、ようやく冷え切った自分の肩と背に気づいて、カカシに促されるまま、また身を横たえ、上掛けを被る。その肩の辺りに鼻面を押し付けるようにして、カカシがひっつく。
「つめた」
小さく呟くと、両手でテンゾウの左腕を抱くようにして、カカシはまた、くーくーと寝息をたてた。
まるで忍犬たちに守られて眠っているときのような姿だ。

テンゾウの頬が、ふっと緩む。この前、カカシの部屋に泊まったときは、彼のほうが先に目覚めていた。そして、自分は彼が目覚めた気配も感じなかった。
だから、今日、こうやって眠っているカカシを見ることが出来て、テンゾウは嬉しかった。
――ボク、忍犬の替わりでしょうか?
と心のなかで問いかけながら、それならそれでいい、とも思った
彼が無防備に眠れるなら、なんでも。

規則正しい寝息が、肩先にかかる。

怒っていないのだろうかと、テンゾウはふと疑問を覚えた。
無意識とはいえ、腹を立てている相手にくっついてくるだろうか?

必死で開かないように抑えていた記憶の扉を少し開ける。
昨日、自分は先輩を押し倒した……いやその前に、そうだ抱きしめたのだ。
カカシは抵抗しなかった。
普段の彼なら、いくら突然でも避けることができる。
――いや、でも里にいるときはボーッとしてるから、何とも言えない。殺気になら反応するだろうけれど。
押し倒したときも、抵抗はしなかった。

――それで?

おずおずと、その先の記憶を紐解く。

口布を下ろして、キスをした。
この前したように舌を絡めて吸い、甘く噛むと、やっぱりくふんと鼻を鳴らして身じろいだ。
ギュッと抱きしめて、動けないようにしてそうすると、なんだかもどかしそうにする。
そうするうち、彼の腕が背に回ったのだ。互いにまだ忍服を着ていたから、ひどく窮屈だったのを覚えている。
でも、その途端、身体が熱くなった。体内でチャクラが膨れ上がるときに、似たような感覚だった。

――あ、そうだ。
思い出す。自分の熱をもてあまして、カカシの首筋に顔を埋めたテンゾウの額宛を、彼が器用に解いた。
それから、互いに装備をはずし合い、忍服を脱がし、ベッドに移動した。
笑えることに、その間、無言だった。ただ、黙々と、手を動かし、そしてベッドに入るなり……。
――抱きつかれたんだった……。
舌を絡めながら、カカシの手が背やわき腹をたどり、テンゾウはいいだけ煽られた。

どうも、一度火がつくと、カカシのほうが早く沸点に達するようだ。
――で、先輩、焦れたみたいになって。
テンゾウの顔が、かっと火照る。
半勃ちの自分に手を伸ばしてきたのだ。あわてて、避けたら、恨めしそうに睨まれた。
――あの顔、可愛かった……じゃなくて。
だから、態勢を変えて、それで。

あとは、思い出したくない。本能の赴くままに、カカシの身体をあちこち舐めまくっただなんて、忘れたい。
くぅ、と犬が鼻を鳴らすみたいな声をあげるのが嬉しくて、夢中になってしまったのだ。
でも、身体を繋いだ途端、テンゾウは冷静になった。たぶん、傷つけてはいけないと緊張したのだ。
そして、そんなテンゾウに反して、カカシは薬でトリップしているかのように、どこか焦点の合わない目をしていた。

「受け入れる側の身体が慣れるまでは、急に動かないこと」

こういうとき教えられたことが、自然に思い出される。
だから、テンゾウはうずうずする自分を抑え、カカシを抱きしめていた。
ちょうど左の体側を下に、背後からカカシの肩の辺りに腕を回していた。その手にカカシの手が重なったと思ったら、
「泣いちゃいそう」
と、うわごとのような声が聞こえた。
「動いてよ」
言葉と同時に締め付けられた。

緩く動きながら、自分の感覚に集中する。
一方で、相手の反応を、脳の別の箇所が感知する。
そんな感じで、繋がったままうつ伏せになったり、一度離れて、また繋がったりした。
なかなか終わらなかったのは、アルコールの作用でテンゾウの感覚が少し麻痺していたからだろう。
無心に遊んでいるような、それでいてどこかで切羽詰っている、でも、心地いい、不思議な感じだった。

最後、騎上位になったとき、自分の下腹の上で身体を弾ませながら、カカシは切なそうに声をあげていた。

最初のときは声を殺していた。
息が荒くなるのをとめることは、さすがにしなかったが、声は殺した。
翌日、じゃれあったときも、声はあげなかった。
だから、こんな声は初めて聞いた。まるで動物が交尾しているような、嗚咽交じりの声。
ただ、自分の本能だけに忠実で、テンゾウのことなど目に入っていないようでもあった。

結局――。
カカシは、抵抗しなかった。ただの一度も。
――イヤ、だったわけじゃないのかな?
テンゾウは、穏やかな寝息を聞きながら、天上を睨む。
でも、尋ねても、はぐらかされそうな気もする。
――たまってただけかもしれないし。なんとなく、気が向いただけかもしれないし。

テンゾウは目を閉じた。
カカシの心情を慮っても、わかるはずなどない。任務に関わることならわかるけれど、そうでないことはダメだ。

ふっと意識が眠りに引き込まれそうになったとき、思い出した。
――ああ、昨日って……。

じゃあ、先輩がパスティスをおごってくれたのは、もしかして?
いや、考えすぎかな? でも、もしそうだったら?
と言って、改めて聞くのもヤボだし……。
どうしよう……。

どう……。

そこでテンゾウの意識も、眠りにもっていかれた。

窓の外には、すっかり明けた初春の薄青の空が広がっていた。



<了>





2007年02月26日(月)
ぱすてぃす 後朝 <前>

*言葉のとおり「ぱすてぃす」の翌朝

東に向いた出窓から見える空の低いところが、ほのかに橙色に染まっている。
明け初めの空の色だ。
寝返りをうとうとして、テンゾウはとびおきた。

上掛けが滑り落ち、裸の肩と背から、急速に体温が奪われていく。

おそるおそる隣をみると、布団に埋もれるようにして白銀の髪が見えた。

えっと……。
寒さも忘れ、テンゾウは天上を見た。
――ここはボクの部屋。
間違いない。
――問題は、これ。

テンゾウは忍犬も忍猫も忍狐も忍狸も忍熊も、とにかく毛皮をまとった生き物を口寄せしたりはしない。
もちろん、いつなんどき里外任務に借り出されるかわからない今の生活で、迷い犬や迷い猫や迷い…(以下略)…といった動物を拾ってきたりもしない。

――だったら、これは、何?
「ん、さむ」
温もりを求めてだろう、もぞもぞと白銀は、さらに布団に潜り込む。
――人語をしゃべった。
窓の外を見た。橙の割合が増えている。それにつれて、藍の部分が減り、橙色との間に浅黄が広がる。
世が明けつつあるのだ。
――朝……だな。

自分が現実逃避しているだけなのは、テンゾウにもわかってた。
溢れ出しそうな昨夜の記憶を、できれば、このまま封印したい。
そして、なかったことにしたい。
うわー、と叫んで、里中を走り回ってしまいそうなほど、恥ずかしい。
――酔った勢いで、なんてことを。

テンゾウは頭を抱えた。
すっかり冷え切った肩と背も、気にならなかった。

記憶が飛んでいたのなら、まだ幸いだったかもしれない。しかし、しっかり覚えている。
そのときは、自分の酔いを自覚していなかっただけだが、酔っていたことも今ならわかる。
自分の言った一言一句。挙句……自分は何をした?
テンゾウは右手で額を押さえ、深いため息をついた。

憧れていた。
尊敬もしていた。
でも、それだけではなく、ひそかにシンパシィも感じていた。僭越だとわかっていたけれど。
このひとの背を守ることができるなら、自分が忍であることの存在意義もある、と思うほど。
そんな先輩と、流されるように関係をもってしまったのは、確かに自分の情緒が少し不安定になっていたからだろう、とテンゾウは後になって思った。
――そして、きっと先輩も。お互い、つらい任務だったから。

もっとも、傷を舐めあうような、そんな関わりではなかった。
だからと言って、欲望だけをぶつけ合うようなものでもなかった。
むしろ、手探りで相手の深みを探るような、相手の深淵に分け入っていくような……。
そして翌日には、まるで馴染んだ恋人同士のように、再び、肌を合わせたりもした。
なのに、それっきりだった。

任務で2回、顔をあわせたが、任務が終わるとそれっきり。
何もなかったころと、同じ。
だから、つまみ食いをされただけなのだ、と割り切ることにした。

もちろん、そんなにすぐに割り切れたわけではない。
表に出したりはしないが、とても悩んだ。
食欲も落ちたが、食べないともたないのはわかっていたので、無理にでも食べた。
物の味がしない、とは、こういうことなのか、というのを初めて経験した。

任務中は大丈夫なのだが、部屋に帰りつくなり、感情が急降下したり、逆に急上昇したり、時に、ピタリと停止して、微塵も動かなくなったりした。
これは、経験があった。
大蛇丸の研究所から助け出された当初は、いつもこんな感じだった。
すっかり克服したと思っていたのに、またあのころに逆戻ったのかと不安になった。
ヒガタに話すと、「オレ、任務の前後って、いっつもそんな感じだよ。おまえが安定しすぎ」と言われ、少し安心した。

結局、割り切るしかない、と思うのに、10日ほどかかってしまった。
あれこれ、伝説のあるひとだから、と、テンゾウは思う。
色恋に関するものだけでも、両手では足りないほどある。
そのいくつかは、ほんとうだった、ということだろう。火のないところに、煙は立たないのだ。

でも—-。
自分の彼への思いは、一度や二度、寝たからと言って、変質するようなものではない、とも、テンゾウは思った。
セックスはセックス。男の欲望は直截で即物的だ。
それは性欲の薄いテンゾウでも経験的にわかる。だからこそ、一度や二度で変わるものかと思った。
実際、憧れも、尊敬も、そして、背を守りたいという気持ちにも、ほんの少しの揺らぎもなかった。

だから、3回目の任務も、いつもどおりこなした。忍ではない子どもの絡んだ、やっかいな任務だった。
その時、感じた。
以前よりカカシの次の動きを読みやすくなっている。
いや、読みやすいというより、トレースしたカカシの思考に合わせて動く自分が、前よりもスムーズに動いている。
今まで脳で情報を処理し身体に指令を与えていたのが、感覚で受け止めそのまま、動きに反映している、と言えばいいのか……。
スピードは前と変わらない。ただ自分も、とても動きやすい、と感じていた。

部下に当たる3個小隊を置いて――つまり見捨てて、単独で逃げた敵の上忍を追ってカカシが戦列を離れるとき。
一瞬、テンゾウを見た。アイコンタクトを交わすほどの間もない、掠めるような一瞬だった。
だが、部隊長がなぜ戦列を離れる、と暗部が動揺しかけたとき、テンゾウは叫んでいた。
「大丈夫、指示は聞いている」
カカシとバディを組んでいるとはいえ、部隊のなかでは新米の自分が言っても、信憑性がないはずの発言だった。
そして事実、テンゾウはカカシから何も聞いてはいない。一瞬、目があっただけだ。
けれど、みなは信じた。揺るがないテンゾウの様子に、だれひとり疑いを持たなかった。

そして、テンゾウ自身も、不思議なことに自分を信じていた。
カカシが何をしたかったのか。伝えたくて、でも時間がなくて伝えられなかったものが何か。
自分は、わかる。
そう信じた。
そして、それは正しかった。

他の隊員を先に帰して、戦列を離れたカカシを待っての帰路。
少しハイになっているらしく――実はカカシは、テンゾウと二人きりの帰路に緊張して、必死で話題を探していたのだが、そんなことはテンゾウは知らず、“先輩、ハイになっている”と思っていた――あれこれしゃべるカカシの声を聞きながら、思った。
――諦めて、それでいい? ボクは納得できる?

抱きしめたら、あんなに縋りついてきたのに。あれが、嘘だとはとても思えない。
たとえ、その場限りでも、あのひとには、ああやってだれかに縋る時間が必要なのではないか。
そう思ったら、胸が痛んだ。
それは恋情というよりは、背を守りたいというのに近かったかもしれない。

確かにカカシは強い。
忍としての力量も抜きん出ているし、精神的にも強い。
何を抱えていても、それを表に出すことはないし、どんなに過酷な任務のときも、決してあきらめたりはしない。
ひとたび任務を離れると緩みきってはいるが、だからこそ、どんな凄惨な任務の後でも、へらりとしている。
忍によっては、任務時の殺気をおさめることもできないまま里に戻ったりするが、カカシは決してそんなことはない。たとえ、自身の身が血塗れでも、殺気のひとかけらも感じさせない。それはそれで不気味な光景なので、良し悪しだったりはするのだが。

そんなカカシでも、完璧に自立していて他人を必要としない、なんてことがあるはずがない。
少しでも、自分がいることで彼が楽になれるのなら。
テンゾウはそう思った。



2007年02月25日(日)
ぱすてぃす〜前章 <後> -18禁-


今なら、わかる、認められる――とカカシはテンゾウに組み敷かれ、腕の中に抱き込まれながら思った。

ずっと、惹かれていた。
自分よりももっと辛いはずの過去を持ちながら、それでもまっすぐにしなやかな彼に。
自分よりもはるかに情け深く、でも、自分よりもはるかに怜悧な面をもっている彼に。
それでいて決して、バランスを崩すことのない強い彼に。

暗部にいながらあまりにまっとうなその精神故に、時にテンゾウは浮いて見えた。
彼自身、あまり他人と馴れ合うのを好まないようでもあった。
けれど協調性がないとか、唯我独尊というわけでもない。そんな性格だったら、カカシのサポートなど務まるはずもなかっただろう。
こんな後輩が現れてくれるのを、きっと自分は待っていたのだと、カカシは思った。

一緒にベッドに入ったとき、最初は本当に下心などなかったのだ。
たとえ自分で抑圧していたのだとしても、少なくとも気づいてはいなかった。
テンゾウが、今日の任務のことを思い出しているようだったから「寝ろ」と言った。
それでも鬱屈を抱え込んでいるような後輩に、胸が痛んだ。
さっき、ずいぶん和らいだと思っていたのに、とも思った。
でも、そんなものだ。大丈夫と思えるときもあれば、ふとしたきっかけで痛みが甦ることもある。
傷とはそうしたものだ。それが身体の傷であっても、心の傷であっても、同じだ。

だから、昔、“師”と呼べる存在が存命だったころ、その師がカカシにしていたようにテンゾウの頭を抱きこんでみた。そうしたら、なんだか、とても先輩の気分で、この出来のいい後輩がとてもいとおしくなった。

いとおしくて、可愛くて……手放したくない。

頭を抱きこんだカカシに抗いながら、緩く抱き合うような格好に持ち込んだのは後輩のほうだった。
そうやって温もりを分け合っているのが、とても楽しかった。

――テンゾウが好きだ。

ようやく、感情がカカシのなかで、形を成した。
形を成した途端、カカシは「キスしたい」と思った。「きっと、気持ちいい」と。
だから、触れるだけのキスをした。ついばむように、じゃれあうように。

不思議と、嫌われるかもとか、軽蔑されるかもとか、そんな考えは浮かばなかった。
雰囲気として、ここでNGはないだろうという無意識の計算が働いていたのかもしれない。
あるいは、その時点ではもう理性など吹っ飛びかけていたのかもしれない。

予想していたとおり、とても気持ちのいいキスだった。

顔を離すと、テンゾウは少し上気した頬をしていた。
あ、可愛い、と思わず頬が緩んだ。
テンゾウも、つられて少し微笑む。
みぞおちが疼いた。
――だめだ、やっぱり欲しい。すごく、欲しい。欲しくてたまらない。

ようやく、自分の願望と欲望をカカシは自覚した。
欲しい――という言葉は、カカシの身体からも心からも溢れ、思わず相手に喰らい付きそうになる。
そんな自分を抑え、カカシはもう一度、唇を触れた。
舌を絡めると、返され、尾てい骨が甘く疼いた。

もう、我慢できないと、思った。
だめ、欲しい、もう絶えられない、限界……そんな単語が、ぐるぐるとカカシの脳裏を巡った。

「喰っちゃっていい?」
と聞くと、テンゾウが目を見開いた。

「ボクが先輩を、喰っちゃいたいです」
テンゾウらしくもなく、かすれ、上ずった声。

カカシは、震えた。嬉しくて。

最初はおずおずと手を伸ばしてきたテンゾウだったけれど、一度、火が着くとためらいはなくなったようだ。
受け入れることに慣れない男の身体を、精一杯丁寧に拓き、多少は痛みも伴ったけれど、それよりも昂ぶった感情が先走り、「早く」とせかしてしまったのは、カカシのほうだった。

繋がった瞬間、ため息とも呻きとも聞こえる息を吐き、テンゾウはカカシを抱きしめた。
ぎゅっと、腕のなかの感触を確かめるように。それがカカシであることを確認するように。
そして、小さな声で「せんぱい」と言った。

ためらいがちで、でも、抑えきれずこぼれてしまったという声に、身体の奥底から震えが来た。
と同時に、いま自分はテンゾウとセックスしているのだという現実に、気づいた。
羞恥やら、歓喜やら……多少は狼狽も混ざっていたかもしれない。
さまざまな感情が一瞬で吹き荒れ、そしてすべてがテンゾウに向かって収束する。
叫びそうになるのを、ようやっと堪え、カカシは唇を噛み締めた。

カカシを抱きしめたまま、しばらくじっとしていたテンゾウは、カカシの身体の緊張が解けると、緩やかに動いた。
教えられていたのか、それとも本能的なものなのかはわからないが、優秀な後輩はこんなことにも優秀なのだと驚いたほど、ごく自然に身体も高められていた。

不能だという噂だったのに、とんでもない。
ふっと思い出したテンゾウに関する噂、あれは、いったいなんだったのだろう。
検証する間もなく、思考は突き崩されていく。

「んっ!」
身体が跳ねる

ねじ込むようにされて刺激された箇所から、快感が広がる。
もちろん、そんなカカシの反応を見逃すようなテンゾウではない。
ためらいなく、責めてくる。
シーツに顔をこすり付けて、断続的に襲ってくる感覚を耐える。
なんで、耐えているのだろうという疑問がチラとかすめるが、後輩に屈服するのはシャクだとも思う。

――なんで、こんなときでも負けず嫌いかね、オレは。

負けちゃえ、負けちゃえ、とはやし立てる自分と、負けるな、負けるな、と煽る自分との狭間で、カカシはただ声を殺す。

そして、なんの脈絡もなく、遠い記憶が掠めていく。

ああ、そう、酒。
香草を漬け込んだ酒。
甘さのなかに少しクセがあって、度数が高く、それが病みつきになる……そんなのがあったっけ、と。長期任務で、南のほうに行ったときに飲んだ。
口当たりがいいから、香草の香りさえ嫌いでなければすいすい飲めるが、間違いなく、あとからガツンと来る。
甘いものが苦手な自分が、ちょっとはまってしまった酒だ。

テンゾウとの情事は、まるであの酒のようだ。
甘くて、でも甘いだけではないのが気持ちよくて。
でもきっと、いい気になっていると、溺れてしまうのだろう。

なんていったっけな、あの酒。
今度、テンゾウと一緒に飲んでみようかな。

そのときは。
もう、負けてもいい、と覚悟を決めて、気持ちいいと泣き叫んでやるのもいいかもしれない。
テンゾウが先に酔っ払ったら、からかってやろう。

だから、今日は、まだ……。

そうして、シーツを掴み、歯を食いしばる。
絶対、いい、なんて言ってやるものかと、唇を噛む。

こんな夜も、あっていい。
きっと、明日に続く、夜だから。




<了>




2007年02月24日(土)
ぱすてぃす〜前章 <中> -18禁-


そして、今日――。
彼の出自に絡む任務で初めてツーマンセルを組んだ。
いつもと同じように、淡々と任務をこなす彼に、初めて不安を覚えた。
いや、任務中はいいのだ。余計なことを考えていては、足元をすくわれる。
でも、任務が終わってからも、テンゾウはいつもと変わらず淡々としていた。
これは、覚えがある。
感情をコントロールする余り、押さえ込み、なかったことにしてしまうときの反応だ。

でも、それではいけない。
なかったことにしても、感情は消滅するわけではなく、ただ押さえ込まれているだけだから。
完治していないのに塞がれてしまった傷口のようなものだ。奥深いところで、腐敗が進行する。
吐き出してしまわなくては。
せめて、自分が傷ついたことを認めなければ。
だから、アフターケアのつもりでいつも以上に関わってしまった。
こんなこと、滅多にないのに、と思いながら。

テンゾウを訪ねる口実に『花散里』の女将にまで、無理を言った。
「あーら、いいひと、できたんですか」
なんてからかわれて、
「そんなんじゃないよ」
と答えた。
女将は上品な笑みを返しただけだったが、きっと見抜かれていたのだろう。まだ、そうとは自覚していなかっカカシの執着心を。

テンゾウはいつもどおりだった。カカシの突然の訪問に驚いていたが、それ以外はいつもどおり。
どうやって切り出そうかと考えているうちに、彼の同僚が訪ねてきた。
なんだ自分が心配しなくても、ちゃんと友達いるじゃないかと少し安心したこともあって、カカシは帰ったのだ。
けれど日が暮れるころ、テンゾウはカカシの前に現れた。
酒でも買うか、気が向けば酒屋に併設の立ちのみ屋で、街のオヤジたちに混じって軽く飲むものいいな、と思いながら、部屋を出たところだった。
どうも、自分を訪ねてきたようだ。
理由は聞かなかったし、テンゾウもあえて言わなかった。
ただ、沈んだ様子だった。
それで、わかった。自分が心配しなくても、テンゾウは大丈夫、ちゃんと自分が傷ついたことをわかっている。

――ま、励ましとか、慰めとか、そんなのはいらないでしょ、こいつも。

そのまま、その酒屋でテンゾウが焼酎を買った。
部屋でだらだら飲んでいるうちに、後輩の気配も和らいできた。
特に、これと言って会話を交わしたわけではない。自分を訪ねてきたらしいのに、テンゾウも何も言わないし、カカシも何を話したいというのでもなかった。
どちらかと言うと、余計な言葉を紡いでしまうと、少し気だるく心地いい空気が壊れてしまうような気がしていた。
テンゾウもゆったりと酒を飲みながら、沈黙を楽しんでいるように思えた。

だからカカシはいつもどおり18禁本に没頭することにしたのだ。
読みかけの本が気になっていた、というのも、あったけれど、テンゾウはただ、だれかの側にいたい、そんな心境なのだろうと思ったからだ。
もっとも、どれもこれも、カカシの勝手な思い込みだったのかもしれない。
テンゾウが何を考え、何を感じていたのか、確かめたわけではないのだから。

それでも、テンゾウはごく自然にそこにいて飲んでいた。

彼が時折、カカシを見つめているのには気づいていたが、それも見ることそのものを楽しんでいるような感じで、様子を窺われているような嫌な視線ではなかった。
それどころか、普段、他人といるとくつろげない自分が、なぜか一人で部屋にいるときよりも、リラックスしているように思えた。
テンゾウのグラスのなかでカランと氷がぶつかる音、自分の空になったグラスにボトルから焼酎を注ぎ、さらにポットから湯を注ぐ音、そのたびに立ちのぼる焼酎の香り、ごくかすかに聞こえる衣擦れの音。そのどれもが、心地いい。

切りのいいところで、本を閉じると、こちらを見ている瞳とぶつかった。
グラスを片手に、片方だけ立てた膝にそのひじをもたせかけ、カカシをみている。
前々から思っていたが、こうしてみるとテンゾウは“いい男”だった。顔立ちも男らしく整っていて、ハンサムと言ってもいい。でも、テンゾウを形容するには、やはり“いい男”だ。

顔をあげたカカシと視線が合うと、ほんの少し目元がやさしくなる。
カカシに笑いかけたというより、本に没頭していたカカシの様子に思わずこぼれた笑み、のように見えた。
意図とは逆に、自分を丸ごと受け入れてもらったみたいで、カカシは少し面映くなった。
これでは、自分のほうがだれかに側にいてほしがっているみたいじゃないか。

――確かに今日は、オレもキツかったしな。

だからと言って、後輩に甘えようとは思っていなかった。
が、結果的に、甘えたことと同じになった。

見れば、焼酎のボトルもほとんど空に近い。
いつもなら、宴も終わりという空気だ。
「じゃ、お開き」と言ってしまえば、テンゾウは帰るだろう。
それはイヤだった。
テンゾウがいなくなったら、この心地いい空間と時間はなくなってしまう。
だから、引き止めることにした。

その時はまだ、引き止めて、泊まってもらい、実質オフとなっている明日も、つるんで遊ぼう、ぐらいの気持ちだった。いや、そう思おうとしていた、のかもしれない。
手放したくない、手の届くところにいてほしい。そんな気持ちが、心の奥底に潜んでいて、そこから目を逸らしていたのかもしれない。
――いや、きっとそうだったのだろう。



だから、今、自分はテンゾウに組み敷かれている。

キスを仕掛けたのはカカシだった。
煽るつもりだったわけではなく、ただ、やっぱりキスから始めたいと思ったのだ。
“処理”とは違うのだと。
身体だけでなく、気持ちも昂ぶって、それで抱き合っているのだと、そう確信したかった。
テンゾウがその気にならなければ、キスだけでもいい、とも思っていた。

まるで乙女のような思考回路ではないか、と後になってカカシは己を哂った。



2007年02月23日(金)
ぱすてぃす〜前章 <前> -18禁-

*「びとぅぃーん・ざ・しーつ」カカシ視点

――今日、ひとりの忍を殺した。

カカシの人生で、それは別に珍しいことではない。
ただ、今日、殺した相手は同胞だった。
5歳ほど年上の上忍で、正規部隊で任務を共にしたこともあれば、合同任務で組んだこともある。口数は少ないが、部下思いで面倒見のいい忍だった。
その彼が、なぜ里を裏切るようなことになったのか、その経緯をカカシはしらない。

彼と彼の仲間の討伐を命じられたので、足取りを追った。

「お前がきたのか」

面を被っていても、何度も一緒に任務についていれば、おのずと正体は知れる。

「……オレだよ」

彼の強さは知っていた。まともにやりあえば、カカシにも隙が生じる場合もあるだろう。
一発で確実に仕留めなくてはならなかった。できれば、忍具ではなく、己の手で。
右手に残る感触は、確実に相手の命を奪った証でもあり、己への戒めでもあった。
肉、骨といった組織を貫く衝撃は、己の手に返って来る。
殺す、ということがどういう意味をもっているのかを思い出させてくれる。
命を奪うことに慣れてはいけない。
カカシはそう考えている。



「せんぱい」
後輩のかすれた声が聞こえ、両脇についていた腕が折れた。
彼の胸板が背に密着し、吐息が首筋をくすぐる。
里を裏切った同胞の血に濡れた数時間前の感触を握り込むように、カカシの右手がシーツを掴んだ。
歯を食いしばり、それでも声が出そうになったから。

身体の奥、内臓の底に、感じる違和。
もどかしく、苦しく、それでいて甘美な感覚に、溺れそうだ。

今日、殺した相手の、今わの際の顔が、浮かんで消える。

こんなことじゃ、ダメだと自分を叱咤する。
一方で、溺れてしまえと囁く自分がいる。
溺れて、何もかも忘れてしまえと――。

「せんぱい……」
うわごとめいた言葉に、また身体が震えた。
少し甘えているような声を、初めて聞いた。
嬉しい。この後輩が、自分を欲しいと思ってくれたことが、とても嬉しい。

「喰っちゃいたいです」
と言った彼の声が、今も耳に残っている。
喰われてもいい、と思った。この後輩になら、それでもいいと思った。

もう逃げられない。
逃げなくていい。
嘘もごまかしもいらない。
そう思うと嬉しかった。



礼儀正しく、情緒も安定していて、その性根もまっすぐな後輩のことが、いつしか気になっていた。
バディを組んでみれば、最初こそちぐはぐなところがあったものの、すぐにコツを飲み込んでしっかりサポートしてくれる。
何より、動きが妨げられないのがいい。まるで自分の考えを読んでいるかのように、絶妙のタイミングでサポートが入る。
彼の使う術は、いまの里では彼しか使える者がいない。
その背景の壮絶さとは裏腹に、術は彼の性根と同じく、しなやかで力強い。
初めて術を目の当たりにしたとき、ああ、彼が、と思った。
そして同時に、ほんとうに? とも思った。

忍のなかには悲惨な過去を持つものも多くいる。
カカシは父親のこともあり、いろいろ言われもしたが、反面同情もされた。でも、本人は「そんなの普通だろ?」ぐらいに思っていた。
もちろんサクモの自死は幼いカカシに大きな傷を残した。けれど幼いころの傷に拘るあまり、親友とも呼べたかもしれない友を失ったことのほうが深い痛みとなって、今も残っている。
でも、テンゾウの経験したそれは、「普通だろ?」ですむようなものではないはずだ。

大蛇丸の実験体。
その呼び方が、どれほどテンゾウという個人の尊厳を傷つけているか。
それでも彼の性根はまっすぐで、その心はしなやかで、彼の使う術もまっすぐにしなやかだった。

――術って、使う者の質が出るものなのかな?
ふと浮かんだ疑問に、カカシは少し落ち込んだ。もし、そうだとしたら自分はいったい……。

アカデミーに通う子どもたちの中で一番人気の高いのは、火遁だそうだ。
確かに、人間は火を使うことで他の生き物を制圧してきた歴史を持つから、それは本能に近いのだろう。
そして木遁は、今の里で使える者が他にいないから、知られていない。
水遁と土遁から生まれる木遁の力は、自然を統べる。そして、人間の存在そのものを圧倒する。
尾獣をも押さえる力をもっていたという初代さまは、その圧倒的な力で忍の里を築いたけれど、それは力で制圧するというようなものではなく、むしろ自然にひとが初代さまの元に集まってくるようなものだったのではないかと、カカシは思っていた。
アカデミーで教える授業では、木の葉の浅い歴史を補うかのように、初代さまを天上のひとのように祀り上げている感がなきにしもあらずだが、直接教えられた三代目やご意見番をはじめとする年配者からは、穏やかで、でも意外と悪戯好きで邪気のない面もあった初代さまの顔を知ることができる。
だからこそ、古くから特殊な能力を有し、それ故に迫害されたり意に添わぬ使われ方をした苦い経験をもつ一族や、特別な能力をもった忍たちが、木の葉に集まってきたのだ。

その初代さまの遺伝子を組み込まれた後輩。
彼以外はほとんどが死に、生き延びた者も彼以外は廃人となった実験だったが、血縁でもないのに、遺伝子が適合したということは、彼はそういう器だったのだろうと、カカシは思う。
そう思わせるものが、彼にはあった。

だから、バディを組んで背を任せることも、躊躇わなかった。
万一、それで自分が死んだら、彼には辛いことになるだろうが、自分にとってはこのうえない死に方だとひそかにカカシは思っている。もちろん死ぬつもりなどないのだが、何が起きるかわからないのが忍の世界だ。

――テンゾウが背を守っていて、それで自分が死ぬなら、それがオレの寿命ってことでしょ?




2007年02月22日(木)
ぱすてぃす  <後編>


なのに、なのに、なのに。
なんで、こいつは白昼堂々、手を繋いでいるんだーーーー。

棟を出るところで、カカシは立ち止まった。
「ちょっと、待て。このまま街中を闊歩するつもり?」
カカシの視線を追って、テンゾウの視線が繋がれた手に向かった後、あきらかに「何か問題でも?」という顔で、カカシに戻った。
「だめ。絶対だめ」
強く主張すると、あっさりと手を離され、それはそれでちょっと寂しいと思ってしまった自分をなんとかしたい、カカシだ。

「先輩、いつもの食堂でいいですか? あそこなら、気兼ねなく昼から酒、飲めますし」
快活な声が聞こえる。
「どうかしましたか? 今回は、子ども、ひとりも死んでません。ってか、ボク、絶対殺さないぞって誓いましたし。ほとんど怪我もしてません。気の強い子が、ちょっと擦り傷、こしらえたぐらいで」

――あー、はいはい。
いいよね、木遁。自然にもひとにも、やさしくて。
オレの忍術なんて、ほとんどコピーだし? オリジナル技なんて、暗殺術だよ、暗殺。

やさぐれるカカシを気にすることなく――普段、割と気を使う後輩の、こういうところでの大らかさも、カカシは気に入っていた――テンゾウは、ズンズンと歩いていく。

そして、二人はいつもの食堂の片隅で、定食に酒という、よくわからないメニューに取り組んでいた。
ゴクゴクとビールを水のように飲みながら、大丼の麦飯(テンゾウはこれが好きなのだそうだ)にトロロをかけてかっ込んでいる。おかずは、蒸し鶏のゴマだれと青菜炒め、それに豚汁。
それは、自分も一般人よりはよほど食べるが、テンゾウには負ける。
テンゾウは脂っこいものは苦手なようだが、そうでなければ一般人の倍近く食べる。肉も脂身は苦手みたいだが、脂肪分の少ない部位は、むしろ好んで食べる。
――だいたい、オレは肉より、魚だし……。
時節柄、秋刀魚よりもおいしいと食堂の親父が進めてくれた銀鮭を突付きながら、カカシは思う。
スタミナの差って、こういうところで出るのだろうか。
――それに、メシ食いながら、酒、飲めないし。酒は酒、メシはメシなんだよ、おい、わかってる?
「ごちそうさま」
キレイに料理を平らげたテンゾウは、満足そうに呟く。カカシも、空腹だったのは確かなので、あわてて残りをかっ込んだ。

「先輩、何飲みます?」
え? これから、飲むの? と言いかけた口を閉じて、カカシは壁に貼られている品書きを見た。
ホワイトボードには、本日のお勧めがしたたまれている。
「あれ?」
その横に、「本日の特別入荷」とあり……。
カカシはにんまりと笑った。
「ね、テンゾウ。おいしーい、お酒おごってやる」
「え?」と驚くテンゾウを横目に、カカシは上機嫌で声を張り上げた。
「パスティスちょうだい。ボトルでね」

やがて卓に運ばれてきた酒瓶の、見慣れぬ異国の文字が印刷されたラベルを、テンゾウはしげしげと見つめる。
「これ、南のほうの酒。香草を漬け込んでいて、独特の風味があるけど、慣れるとうまいよ」
「へえ。任務で南に行ったときに、飲んだんですか?」
「うん、そう。好き好きはあると思うけど」
そこで、カカシは言葉を切って、テンゾウを見、ニッコリと微笑んだ。
「オレは好き」

好奇心を刺激されたらしいテンゾウは、ボトルの口を開け、甘い芳香のトロリとした液体をグラスに注ぐ。
くん、と匂いを嗅いでから、一口含む。
「……ちょっとクセありますけど、案外うまいですね」
そう言って、ゴクリと飲む。
「肉に合いそうだな」
「え? まだ食うの?」
「いえ、さすがに腹一杯ですが。でもこれ羊肉とか、臭みのある肉に合いそうですね」
――って、オレ魚派だから。それより、羊肉なんて食ったことあるの? テンゾウ、意外と野生派?

すいすい、と後輩はグラスを口に運ぶ。
香草の香りにさえ抵抗がなければ、口当たりのいいこの酒、度数はかなり高いのだ。
でも、酔った様子もなくボトルを空けること3本。
強い酒を飲ませて、酔わせて、からかってやろうと目論んでいたいたカカシも、さすがにストップを入れた。

「うーん、確かに少し酔いました」
店の外に出ると、テンゾウはカカシを振り返る。
「それより、先輩!」
ずい、と寄って来られて、思わずカカシは後ずさった。
「ボク、先輩に話があったんでした」
言うや否や、カカシはテンゾウに引っ張られ、お持ち帰りされてしまったのだった。

「なんで、ずっとボクを避けていたんですか?」
「いや、避けていたつもりは」
部屋に帰るなり、説教モードに突入したテンゾウの前で正座をしているカカシは、首をすくめる。
なんだか、よくわからないが、たぶん、今まで酔いというものを経験したことのないテンゾウは、おそらく人生初めて酔っ払いになって、ハイになっているのだろう、とカカシは思った。
酔っ払いに逆らうすべはない。

「そんな、上目遣いで、可愛い顔してみせても、ダメです」
いや、だから、可愛い顔なんてしてないから。
と言いたいのを、堪えた。酔っ払い相手に反論しても、空しいだけだ。
「一度、抱かれたら、それで終わりなんですか? あなたは」
いや、そうじゃなくて……って、終わりじゃないって思っていいんだよね。
微妙に腰の引けている自分が、いっそ笑える。
「だいたい、だれかれ構わず色気振りまくし」
は? 色気? んなもん、オレにあるわけないでしょ。
と思うが、やはり口に出すのはためらわれた。
「ボク、先輩の恋人って思っていいんですよね? 違いますか」
いや、オレこそ、それでいいの? って聞きたい。
「だいたい、この10日間、ボクがどれだけ……いえ、過ぎたことはいいです」
突然、消え入りそうになった声のわけを、聞きたい。すごく、聞きたい、切実に、聞きたい。

正座したまま顔色を窺うカカシに、ふっとテンゾウが笑った。
「細かいことはいい、にします。ボク、ずっと先輩に会いたかったです」
そう言うと、いきなり両手を伸ばし、カカシを抱き込んだ。
「ずっと、こうしたかった、です」
耳元をくすぐる声に、背筋がゾクリと粟立った。

「明日は待機ですよね。だから、今日は逃がしません」
そう言った瞬間、テンゾウはカカシを床に押さえつけていた。

そしてカカシの目を覗き込むように視線を合わせる。
「大好きです。先輩」
そう言うと極上の笑みを浮かべる。

キスは、文字通り甘かった。
パスティスに溶け込んだ、香草の甘さだとカカシは思った。
そして、その後、翌日声が枯れるほど泣き叫ぶ羽目になったのが、思い出したくない記憶となった。

甘い誘惑と強い酒にはご用心――。




<了>



Pastis:
リコリス、アニス、ディルなどの香草を漬けた40度以上のリキュール。地中海地方で好まれる



2007年02月21日(水)
ぱすてぃす  <前編>

*「びとぅぃーん・ざ・しーつ」の少し後

「な、なんでお前がここに?」
敵忍のリーダーと思しき忍の気配が揺れる。
「何? オレがここにいるの、意外? 甘いね〜。忍は裏の裏を読め、ってね」
印を組み始めた相手の手元を、カカシの紅蓮の目が見つめる。
――この岩隠れの術、覚えておきたかったんだよね。なんたって、オビトのカタキだし。
呟きながら、相手の手元とほとんど同じ速度で印を組む。
「土と……」
相手が術を発動するより、コンマ3秒早く、カカシの術が発動した。
「え」という顔の敵忍が、岩の間に沈んでいく。
「印を組む速さが違ったって発動するまでの時間で、追いつけるの。いかに正確に印を組むか、っていうのと、スタミナ? ま、オレは頭抜けてスタミナがあるほうじゃないけど、あんたよりは上ってことでしょ?」
それに、とカカシは声には出さず胸の内で呟く。
――部下を置き去りにして、自分だけ助かろうなんてヤツ……オレが許せるとでも思ってる?
その部下たちは、カカシの部隊の優秀な暗部、とくに木遁使いの若手によって、すでに拘束されているだろう。
だいたい彼らは、忍ですらない。ちょっと運動神経のいい一般人の子どもだ。彼らをそれらしく短期間で訓練し、今回の水面下で行われている諜報合戦に、囮として投入したのだ。
もし、真っ向からぶつかって殺しでもしたら、戦場ではないだけにやっかいなことになる可能性もあった。
場合によっては忍が一般人を攻撃したということになり、国家間の政治問題に発展しかねない。
岩隠れはむしろそれを狙っていた、というわけだ。巻き込まれて死んでしまう子どもも当然いるのに、そんなことには頓着せずに。
「エゲツないよね〜」
カカシはトンと崩れた岩を蹴った。

「他のみんなは?」
「先に里に戻ってます、子どもたちを担いで。分隊長3人は忍でしたので、死なない程度に痛めつけて拘束しました。尋問部隊が間もなく身柄を引き取りに来るそうです」
ほんとうにこの部下のやることには、ソツがない。
テンゾウはきっと遠からず、部隊長を任されるようになるだろうとカカシは思った。状況判断の的確さ、速さを考えると、任務によっては分隊を束ねる隊長も務まるだろうと思わせる。
「先ほど、式が届きました。極秘に岩隠れの上とは連絡をとったようです。あの子たちには記憶を封じる術を三代目がかけて返す、とか。もちろん警備に正規部隊をつけて」
部下の報告にカカシは頷いた。
「ま、子どもが絡んだ場合は三代目に預けておけば間違いないから」
「でも、あのなかの何人かは忍になるかもしれませんね」
テンゾウの言葉にカカシは首を傾げた。なぜか、テンゾウはわずかに眉根を寄せた。
「忍術も体術も使えない子どもが、ですよ。体力と気力だけで、ボクらに抵抗していたんですから。岩隠れには、アカデミー制度がありませんから、きっと勧誘されますよ、彼ら」
「そう……かもしれないね」
いつかまた、成長したあの子のだれかと、敵として合間見えるのだろうか。
あるいは、味方として共闘するのだろうか。

ヒュンヒュンと風を切って移動する二人の気配が、重く沈む。
「えっと……そういえば、南のほうの国に一般人が自分の能力を競う大会があったね」
「競技会ですか? ボクは知りませんが」
「そう? オレ、長期で南に行ったことあるから」
「先輩は、北にも行かれていたでしょう?」
「そうだね〜。あっちこっち行ってるね。でね、それは、走るの早いひとだけ集めて、競争したりとかするの。前にその記録を見たんだけど、ひとつの競技に関する限り、一般人でも下忍に近い能力もってるのも、ずいぶんいたよ」
「え? 一般人が?」
「うん。 ま、足が速いだけ、とか、跳ぶのが高いだけ、とか。それ『だけ』なんだけど。もちろん、歩いて木に登ったりなんかは、できないわけ。それはチャクラを練ることができて、さらにコントロ−ルすることが条件でしょ?」
「まぁ、そうですね」
「でも、走る事に関してとか、深く潜ることに関してとか、あと特別な道具を使ってうんと高く跳ぶとか。すごく重いものを持ち上げるとか」
「重い物を? そんなのがあるんですか?」
ふっと沈黙が流れる。相手が何を連想したのかがわかり、互いに噴き出した。
「はは……だめでしょ。そういう連想は。秋道家のあの術は、チャクラによるものなんだから」
「ってか、先輩。そこで固有名詞出しちゃ、それこそだめです」
「はいはい、閑話休題。とにかく、そういう『何か』に関しては、下忍なみなの。場合によっちゃ、下忍より上? そういう記録が、いっぱいあった」
「チャクラも使わない、一般人が? それは、凄いですね」
そんな雑談を交わすうちに、里に到着した。

報告を済ませ、部屋に戻る前に暗部の詰め所を覗き、それから更衣室でシャワーを浴び、正規部隊の任務服に着替えたところで、カカシはテンゾウに捕まった。
「飲みに行きません? ボク、飲みたい気分なんです」
――オレのこと、待ってたの?
そう尋ねたい気持ちを抑えて、カカシは通路に小さく開いた明り取りの窓を見た。
「まだ、昼……だよ?」
「明日、待機ですよね?」
「うん」
じゃ、いいですね、と、強引な部下はカカシの手を引いて、歩きだす。

先日、彼の出自に絡む任務で初めてツーマンセルを組んだ。
そして……自分は、彼に惚れたのだ。いや、惚れている自分を思い知らされた。
たぶん……自信はないのだが、たぶん、彼も、憎からず思っていてくれている……たぶん、だけど。
翌日も散々イチャイチャしたから、間違ってはいないと思うけれど。
身体に溺れているだけかもしれない、とも思う。それならそれでもいいと、カカシは思っていた。
飽きさせなければいいだけの話だ。ずっと溺れさせてやる、と密かに不穏なことを考えているのは、後輩には内緒だ。

でもその後、どんな顔をしていいのか、カカシはわからなくなった。
任務のときはいい。任務だから。自分も相手も任務モードで、いつものとおり。
そうでないときが困る。
だから、あれから10日ほどがたち、その間に、1日、2日で終わる任務を一緒に2回こなしたのに、プライベートでは会っていない。
それまでは普通に行っていた外メシにも誘えないでいるていたらく。
――オレって、こんなに純情ちゃんだったかしら?
思わず頭を抱えるカカシだった。



2007年02月20日(火)
びとぅぃーん・ざ・しーつ 12)


「あ、やっぱり……オレが喰われちゃうんだ」
のんびりした先輩の声を、夢うつつに聞いた――。

初めて経験すると言ってもいいほど、強い欲求だった。
激しく熱を帯び、ボク自身がその熱に燃え尽きてしまいそうなほどだった。
それは感情の深淵で起きたことで、表から見たのではきっとわからなかったはずだ。
でも、カカシ先輩にはわかったのだろう。

「いいよ」

たったひとことの許しだった。でも。
その裏に隠されている、先輩の気持ち。
ボクに対して、ではなく、忍として生きている自分に対して先輩が抱えているたくさんのもの。
痛みや後悔、哀しみや辛苦、そしてそれらを超えて尚、先輩の気持ちの奥底で燃え盛る火の意志――自分は木の葉の里の忍であるという、その誇り。
そんなさまざまな感情すべてが、その「許し」には込められていた。
そして、まっすぐボクのほうを向いていた。

「テンゾウだったら……いいよ」

それまで熱に浮ついていた感情が、すっと落ち着いた。
身を任せても、いい、と?
ボクだったら、いい、と?
このひとが? このひとが? このひとが?
――冷静でいられたのは一瞬だった。

ボクは先輩に手を伸ばした。捕獲者としての手、狩る者の手だ。
ためらわず、でも、これは任務ではないから、できればボクの心が伝わるように、作為なく。
こんな場面には相応しくないのだろうが、でもボクは願った。
ボクの心の奥底にも火の意志があることが伝わればいいのにと、願った。





  先輩の左目の写輪眼に、どんな秘密が在るのかボクは知りません。
  でも、ボクなんか、実験体ですよ、実験体。
  人間なのか、そうでないのか、ボク自身ときどきわからなくなるほどです。
  先輩が、その強さの余り死神呼ばわりされるのとは違って遺伝子レベルで捩れてるんです。
  あ、この際、DNAは螺旋でもとから捩れている、なんて突っ込みはなしでよ。
  そんなボクにも、どういうわけか火の意志があるみたいです。
  先輩にもあるように。
  一緒にその火を燃やしましょう。
  遺伝子レベルで捩れているボクの火は、ちょっとほかのひとと色が違うみたいなんです。
  混じりけのない朱ではなく、紅蓮――地獄の色です。
  同じでしょう? 先輩の目の色と。
  ボクは、この紅蓮の炎が好きなんです。
  身内に地獄の炎を抱え、でも、木の葉の忍でいる限り、それは火の意志になるんです。
  ボクは、そう信じて生きてきました。
  だから、一緒に燃やしましょう。

  でも、たまにはシーツの間で、温もりを探るのも……いいですね。
  ボクは、そういうのが好きだって、初めて知りました。
  自分のことって、案外わからないものですね。
  だから、先輩。
  先輩も、自分でわかってないことがたくさんあると思うんです。
  それを、ボクが見つけられたらいいなぁ……なんて……。





<了>


Between the Sheets:
 ブランデー、ホワイトラム、ホワイトキュラソー 各20ml
 レモンジュース 1ts
 ※材料をシェイクしてカクテルグラスに注ぐ。





2007年02月19日(月)
びとぅぃーん・ざ・しーつ 11)


「寝よう」
静かに言うと、先輩は目を閉じた。
ボクも目を閉じた。
眠気は去っていたけれど、先輩の腕の中で体温を感じているのが心地いい。

今日の任務を忘れることはないだろう。
思い出すたび、己の出自が他人の人生を狂わせたことを考えるだろう。
そのたびに、ボクの感情は乱れる。
任務中は、もちろんコントロールできる。でも任務が終われば、きっとボクは落ち込む。いつか落ち込むことがなくなるかもしれないが、それまでは落ち込む。
それでいいじゃないか。それが何かを背負う、ということなのだ。
ボクという忍が木の葉の里にあることで運命を狂わせる者がいて、ボクがそいつにできるのはこうやって背負うことぐらいなのだ。それは忍をやっていれば、大なり小なり、みなが抱えていることだ。
あるいは忍でなくても、ひとが生きるというのは、きっとそういう側面をはらんでいるのだろう。まだ二十年に満たない(しかもそのうちの半分ぐらいは記憶がない)人生しか送っていないボクには、ぼんやりとしかわからないが、忍でなくても、きっといろいろあるのだろう。
ようやく気持ちの落としどころを見つけて、ボクの心はずいぶんと軽くなっていた。

先輩のおかげです。
ありがとうございます。

心のなかだけで礼を言い、ボクはほんの少し温もりに身を寄せた。
眠りにつくときの本能的な行動、と言って良かった。
と、先輩の腕の拘束が、さらに強くなった。
反射的に目を開くと、先輩の少し細めた色違いの目が見えた。
ああ、この目は、やっぱり綺麗だ。
禍々しいというひともいるけれど、ボクは綺麗だと思う。
目が近づいたと思ったら、その角度が変わり、唇が触れ合っていた。
乾いた柔らかい感触でそれが唇だとわかり、ああ、先輩とキスしていると思いながら、ボクは目を閉じた。
ボクたちは、しばらく互いを啄ばむようなキスを繰り返した。

後に振り返ってみると、たぶんあれが「雰囲気に流された」というヤツなのだろうと気づいたけれど、そのときはわからなかった。
緊張もしていなければ、変な話だが、その時は欲情もしていなかった。
ただ、猫が毛づくろいをしているような、まどろみの一歩手前で無心になっている時のような、心地よさだけがあった。

先輩が離れたので、目を開くと、やはり色違いの目がボクを見ていた。
ふふ、と先輩が笑ったので、ボクも少しだけつられて笑ってしまった。
それから、再び唇を重ね、今度は舌を絡めるキスをした。
とても強いこのひとでも舌はやわらかいんだ、なんて、アホなことがチラッと頭を掠めた。
絡め取られ、緩く噛まれ、ボクも同じことを返す。
そんな行為が心地よく、先輩が気持ちよさそうに、くふっと鼻を鳴らしたのが嬉しかった。

実のところ、暗部所属になるときに、ひととおりの手ほどきは受けていた。
くの一ともなると、もっと念入りに房中術を教えられるのだろうが、ボクの場合は文字通り「ひととおり」だった。年が若いから念のため、といったようなもので、筆おろしも兼ねていた。
大蛇丸の私設研究所から助け出された後、健康な男子だったら、あって当然の欲というものを、ボクは持ち合わせていなかったので、そのとき初めて、自分のうちにもそういう欲があるのだと知った。
そのことで、ボクは少し救われた気分になった。
もっとも、ボクのそれは相手に触発されないと発動しない。その後、任務の合間に「これも経験だから」と連れて行かれた遊郭では大丈夫だったが、ボクに言い寄ってきた年上のくの一には反応せず、「不能」呼ばわりされた。
そういえば、カカシ先輩の部隊に配属になったのが、その直後だったっけ。

ひとしきり、じゃれ合うように舌を絡め合ってから、カカシ先輩はボクの耳元で囁いた。
「喰っちゃって、いい?」
不覚にも……そう、不覚にも、だ。
このとき、初めてボクは欲情した。
「ボクが先輩を」
気がついたら言っていた。声が掠れ、自分の声ではないみたいだった。
「喰っちゃいたいです」



2007年02月18日(日)
びとぅぃーん・ざ・しーつ 10)


綺麗だ。

それが第一印象だった。
濃いグレーの右目は光の加減で、時に青みがかって見えたり緑を帯びたりするのは知っていたし、写輪眼が紅のなかに黒い勾玉のような文様を刻んでいるのも知っていた。
けれど、戦闘中の張り詰めた空気のなかで遠目に見るそれと、目の前にある色違いの両目は、別物に見えた。

すぅっと先輩の左の瞼が閉じ、目を切断するように走る傷跡が繋がる。
そしてボクは思い出した。
ここは、野営地じゃない。
敵の様子を窺って身を潜めている場所でもない。
里の中、中忍以上に支給されるアパートのひとつ。

「カカシ先輩」
ボクは先輩を抱き寄せるように腕に力を込めた。
「先輩は、眠れるんですか、このまま」
幾度も生死を共にしたはずの同胞を亡き者にした、こんな日に。
何事もなかったかのように、安らかに眠れるのですか?
安らかに眠れるんだとしたら、なぜ。
いつも、仲間を背に庇いながら戦うのですか? 少なくとも里の中で最も、任務における死を納得しているはずの暗部にいて。
眠れないボクに気づきながら、自分はさも、いつもと変わらず眠れるようなふりをして、いったいどんな想いをどれだけ、胸の内に抱え込んでしまうつもりなんですか?

でも、ぐるぐるとボクの心の内に渦巻く質問は、口の端に上ることがない。
そんな質問をまっすぐにぶつけた途端、先輩は貝が口を閉ざすようにピッタリと自分を閉ざしてしまう。
たぶん……そんな気がする。
傷つきやすく、繊細な内面を、その卓越した能力で覆い隠そうとしているのだから。
ボクごとき、暗部の後輩に気づかれ指摘されでもしたら、きっと二度とこんなふうに、かまってくれることはないだろう。

不意に、胃の腑から燃えるような熱が沸き起こってくる。
それは喉でつかえて、まるでボクの息の根を止めようとしているかのようだ。

この感情はなんなのだろう?
この息詰まる苦しさは。
ボクは、いったい……。

「テンゾ? テンゾー? おい、テンゾウ!」
軽く頬を叩かれ、ボクは我に返った。
「大丈夫?」
軽く咳き込みながら、ボクは頷く。
「だ……いじょ……ぶ」
それに続く「です」は、かすれてしまった。
泣いているみたいにも見える笑顔で、先輩は「びっくりした」と言った。
「いきなり、息止めるから」
ああ、なんだ。息を止めていたのか。
そう思ってから、いや、今の自分のこの状態が異常なのだと認識した。
息を止める? 無意識のうちに? そんなことがあっていいはずがない。
呼吸を整えるのは、忍に限らず戦闘に携わる者にとって基本中の基本だ。
チャクラを練るのは、ある程度、経験を積まないと難しい面もあるが、己の息を整えるのは、ごく幼い子でも教えられれば可能なのだ。
そんなことが、ボクは今、できなくなっていた?

「先輩」
ボクの呼びかけに、先輩は「なーに」と答える。
呼びかけてから、ボクは先輩に向かって語る言葉を自分が何も持っていないことに気づく。
「いえ。すみません。ご心配おかけしました」
「あのね、忍も人間なんだから」
先輩の両腕は、いつのまにかボクの背を緩く抱くように回されていた。
「感情をコントロールすることは大事だけど、感情があるってことを、忘れちゃだめだよ」
はい、と答えようとして、また胸が詰まった。




2007年02月17日(土)
びとぅぃーん・ざ・しーつ 9)


「うち、客用の布団なんてなんから、一緒でいいよね」
そう言いながら、ベッドに潜り込む。
「テンゾウは、まだ起きてる?」
眠いと意識していたわけではなかったが、さすがに疲れてはいた。歯も磨いてしまったことだ。
「ボクも、やすみます」
「そ。じゃ、おいで」
ベッドは比較的ゆったりしていて、野営地で雑魚寝するのと比べれば、ずっと余裕もあった。
任務内容によっては、二人してマントに包まって木の根に座ったまま仮眠をとることなど当たり前だ。
そういうのに慣れていたからだろう、同衾するという意識は、まったくなかったし、カカシ先輩の話し方も、任務のときと同じ、ごく当たり前のそれだった。

「失礼します」
掛け布団の端を持ち上げて、身体を滑り込ませた。
先輩は仰向けより、やや向こう側――壁を向いた格好でいる。ボクは、それに背を向ける格好で落ち着いた。
身体は触れていないが、互いの体温が少しずつ布団の隙間を暖めていく。
身を横たえた途端に疲労を感じた。けれど眼を閉じると、自分が屠った相手が浮かんでくる。若木の緑に散った鮮血がまぶたの裏に甦る。
まるで、初めて任務でヒトを殺したときのようだった。
違うのは自分の身体が震えていないことぐらいで、あとはまったく一緒だ。木遁で拘束し、首の頚動脈を掻き切るまでの一瞬が、コマ送りのように脳裏に焼きついている。
眠いはずなのに眠りとは程遠く、眼を開く。
灯りを消した室内はカーテン越しに差し込む月光のせいで、まるで水の底にいるかのようだった。
やはりボクは、今回の任務に我が身の出自に関わる屈託をかなり強く意識していたのだと、改めて気づく。
冷静に、私情を交えず、と自分に言い聞かせ――つまりは、言い聞かせなければ心が乱れると思ったのだ。
人の心は、すっぱり割り切れるものではない。
自分では気持ちの整理がついていると思っていても、うっかり見過ごしてしまったがために部屋の隅に溜まる綿ぼこリのように、何かが溜まっていくのかもしれない。

「テンゾウ?」
呼びかけに首だけ巡らせると、カカシ先輩がこちらを見ていた。
ボクは身を反転させ、先輩のほうを向く。
「すみません。やはり、もう少し起きています」
帰る、という選択肢は、そのときなぜか思いつかなかった。
「まだ眠くない?」
「ええ」
答えた途端――視界が暗くなった。
「だめだよ。オレが寒いでしょ?」

あまりに唐突で、先輩に抱きこまれたのだと気づくのに、少し時間がかかった。
え? と思った途端、さらにギュッと頭を抱え込まれ、先輩の肩口にぎゅうぎゅうと押さえ付けられる。
髪の毛にくすぐられる首筋が、くすぐったい。
「だーめだよ。テンゾ」
からかうときと同じ口調のまま、ずっとひそめた声が耳元で聞こえた。
「眠くなくても……眠らなくちゃ」
子どものように後頭部を撫でられる感触に、ふっと気が緩んだ。
「そうそう……その調子」
それまで、ぴったりと体側につけていた腕が、急に邪魔になる。下になっている右腕は先輩の胴周りのあたりから、そして上になっている左手はボクの頭を抱きこんでいる先輩の脇の下を通る形で、背に回した。
互いの距離が、さらに縮まり、ボクたちはやや不自然な態勢ながら抱き合う格好になった。

「先輩」
「何?」
「あの……頭、離してください」
「……」
「起きませんから。それに」
「……」
「髪が、あの……えっと……少し、息苦しいので」
ふっと拘束が緩む。息を吐いて仰け反るようにすると、鼻先が触れ合いそうなほど近くに先輩の顔があった。
色違いの眼が、ボクを覗き込んでいる。
こんなに近くで写輪眼を見たのは初めてだ。紅蓮の炎のような眼に、ボクは我知らず見入ってしまっていた。



2007年02月16日(金)
びとぅぃーん・ざ・しーつ 8)


先輩の部屋に入るのは、初めてだった。
今日は、“初めて”を多く経験する日だ、となんとなく思う。
最初は少し緊張もしたのだが、別にどうということのない、独身の男の忍の部屋だ。
だらだらと飲んでいるうちに、緊張もどこかに行ってしまった。
「この佃煮、うまいですね」
ボクがそこそこ値の張る焼酎を買ったからか、店のひとが飲み屋のほうで出すつまみをいくつかもたせてくれた。
「……うん」
「よく行くんですか?」
「……たまに」
そして先輩との会話はさっきからこんな調子。
読みかけだったらしいイチャパラの続きに没頭している。
先輩のグラスが空になると焼酎を注ぎ、ポットの湯で割る。たぶん、それにも気づいていないのではないかと思うほど、先輩はイチャパラの世界だ。
それが不快というのではなく、むしろ心地いい。
心配して、緊急時にしか認められていない屋根伝いにでもやってきたい気持ちを抑えて、苛々しながらもちゃんと歩いてきたのに、先輩はくつろいで酒を読みながらイチャパラを読んでいる――この状況に、ほんとうだったら、もっと腹を立ててもいいのかもしれない。
でも、ボクの気持ちのどこを探っても、そんな腹立ちはない。
先輩がページをめくるときの紙の音が、時折聞こえてくるだけの静かな時間が、なぜかとても気持ちいい。
飲み屋で飲んでいては、決して経験することのない空間と時間だ。

それにしても、こんなふうに隣にいることを許してくれるのは、どうしてなのだろう。

ボクはオン・ザ・ロックにした焼酎を、一口含む。
少し癖のある香り。でも慣れると、これがおいしい。
ふぅ、と小さく息を吐いて、先輩が本から顔を上げた。
そしてボクを見る。
その視線は、ボクを見ているような見ていないような、むしろボクを突き抜けてしまっているような感じだ。
「そろそろ寝よ?」
そう声をかけてきたということは、先輩はボクをちゃんと認識しているということだ。
視線は相変らずだけど、別にボクの存在を忘れたわけでも無視しているわけでもないのはよくわかった。

「着替える?」
立ち上がってタンスの引き出しを開けながら、
「これだったら大丈夫かな」
と、パジャマを放り投げてきた。
薄青のそれからは清潔な洗剤の匂いがする。
「オレにはちょっと大きめの、ゆったりサイズだから」
身長はボクのほうが低いが、肩幅や胸板はおそらくボクのほうがあるだろう。
これからもっと背が伸びれば、先輩よりもガタイもよくなるはずだ。
……じゃなくて。
泊まるつもりだったわけじゃない。
ただ、ヒガタたちから聞いた話が気になって、先輩の様子を見に来ただけだった。
なのに、あまりに当たり前のように、ボクが泊まっていくと思っている先輩に、今さら「帰る」とも言えなくなった。
投げて寄越されたパジャマを手に、それでも少し逡巡する。
そして、そんなボクの逡巡を笑うかのように、カカシ先輩はさっさと服を脱いで、脱いだ服を乱雑にハンガーにかけると、着替えた。
まだ着替えていないボクを見て、ちょっと首を傾げるようにしたが、何も言わず立ち上がる。
グレーの細かい格子模様のパジャマを着た先輩は、薄くはかない影のように見えた。
「歯、磨く?」
そう尋ねながらも、返事はまたずにドアの向こうに消える。
シャコシャコシャコと音がするということは、歯を磨いているんだと気づいて、ボクはあわててパジャマに着替えた。
脱いだ服はざっと畳んで、隅のほうに寄せる。
ドアを開けると、やはりというべきか、そこは洗面所で、先輩はボクに向かって、使い捨てらしい歯ブラシを突き出した。コレを使えと、そういう意味なのはわかった。

並んでシャコシャコと歯を磨きながら、ボクは自分の置かれた状況がよくわからず、少し混乱していた。
そして混乱しながらも、その一方で、こうしていることに違和感を覚えていないことにも気づいていた。



2007年02月15日(木)
びとぅぃーん・ざ・しーつ 7)


確か、このあたりだったと周囲を見回したとき、ちょうどカカシ先輩が目の前の建物から出てきた。
ボクを訪ねてきたときは、任務服のアンダー姿だったが、今は一般人の服装だった。
もちろん、額宛もしていない。
左目には眼帯をしていて、猫背気味にぼさーと歩いてくる姿は、なんだか怪しい。
あ、と言ったまま立ち止まったボクに気づいて、カカシ先輩はあれ?と言った。
「同僚は?」
「食うもの食って、飲むもの飲んだら、帰りました」
ふーん、と首を傾げ、先輩は空を見上げる。
澄んだ初春の夜空に星がまたたいていた。
「夜は、これからなのに」

ほんとうは、カカシ先輩のことが気になったボクのノリが悪かったのだ。
彼らが、気を使って早々にお開きになった。もしかしたら二人でどこかに飲みに行ったのかもしれない。
そういうところのある二人だから、ボクも付き合っているのだろう。そして、そういう気遣いに申し訳ないと思うより、素直に感謝したほうが喜んでくれるようなヤツらでもあった。

「先輩は? 彼女のところとか?」
「酒、買いに出ただけ、って彼女って?」
「え? この前のくの一は?」
んー? などと首をかしげ、「この前?」と言っている。
ちょうど先輩と飲んでいたときに声をかけてきたくの一がいたのだ。同じ店の離れた席で、くの一たちが飲んでいたらしい。里から支給されるベストを着ていたから、中忍以上。チャクラの感じでは特別上忍ではないかと思われた。
「今度、一緒に薬草取りに行くとか行かないとか」
「ああ。あれ。うん、行ったよ。薬草取りに」
「それだけ?」
「それだけだよ。薬草の取れるところを教えて欲しいっていう話だったじゃない。テンゾウも聞いてたでしょ」
あれはどう見ても、コナをかけてきていた以外の何ものでもなかったと思うのだが。
遊郭で流される浮名の派手さ加減に反し、先輩は噂とはことなり異性の同僚、つまりくの一には手を出さない……らしい。出さないというより、アプローチされても、わかっていないのだろうと、このときボクは確信した。
長期の任務でも、伽を命じたところを見たことがない。ボクだけかと思ったら、みんなそうだと言う。
まったく処理をしないわけでもないらしいのだが、なんというのか、その場の雰囲気らしい。そして、決して命令という形での無理強いはしない。ついうっかり、雰囲気に流されて相手をしてしまったことがあるというヤツが、そう言っていた。もちろん男だ。
「俺も、たまってたからなぁ。あんときは」
というのが、彼の言い分だ。
「どうだった?」
と興味津々に聞いてくる仲間たちに、
「うん、まあ。身体に負担がかかるようなことはしなかったけど」
そこでちょっと間が空いて、
「よかったよ」
と照れたように答えたのが、印象に残っている。なぜだかボクは、チクショウと思ってしまったから。

「それより、なんでテンゾウがここにいるの?」
ボクは先輩の質問には答えず、「酒、買いに行くんですよね。行きましょう」と歩き出した。
通り過ぎた道筋に酒屋があったのだ。
めずらしくコンビニではない、れっきとした酒屋だ。店の裏手が、立ち飲みの暖簾になっている。
「さっきのお礼に、ボクがご馳走します」
ええ? いいのに、と言う先輩を無視して歩く。
「いらっしゃーい」
店に入ると、立ち飲みのほうから年配の女性が顔を出した。
そして、カカシ先輩を見つけると「あれ」と笑った。
「久しぶりだね。今日は、飲んでかないの?」
「うん、後輩がね。遊びに来たから。部屋で」
どうやら馴染みの店らしい。
「先輩、何飲みます?」
「うーん。焼酎……かな。気分的に」
ボクは棚の焼酎を見回した。狭い店だが品揃えはなかなかだった。



2007年02月14日(水)
びとぅぃーん・ざ・しーつ 6)


あの“木の葉の白い牙”を父に持ち、5歳でアカデミー卒業、6歳で中忍。四代目火影就任と同時に暗部所属となり、火影の最後を見届けた一人でもあるはたけカカシには、さまざまな伝説があった。
曰く――中忍になった後、すぐにでも上忍になれる実力を持ちながら、それを時期尚早と止めていたのが、先輩の師、後の四代目だったとか(それでも、結局、異例の速さで上忍になっている)。
曰く――実ははたけカカシはその師のお稚児さんで、上忍になって自分の手が離れるのを師が嫌ったから昇進が遅れたのだとか。
曰く――左目の写輪眼は仲間を殺して手にいれた呪われた眼で、呪いが解けるまで彼は死ねないのだとか。
曰く――暗部に所属になってすぐ、一撃必殺の暗殺技である千鳥で雷を切ったとか。
曰く――精通を迎える前から遊郭に出入りしていた彼の筆おろしに、遊里の花魁たちがこぞって名乗りをあげ、オークションさながらの様相を呈し、結果、相当な高値がついたのだとか。
曰く――彼と組んだくの一は当然みんな、彼のお手つきだとか。

そんななかのひとつに、「はたけカカシと組んだ忍は、間もなく死ぬ。それも悲惨な死を遂げる」というものがある。
はたけカカシ死神説だ。
実際、戦闘の場でのカカシ先輩を知っていれば、そんな伝説がたわごとなのは明白だ。
任務の多くは戦場だから、同じ部隊の仲間が死ぬこともある。が、カカシ先輩のお陰で、死ぬはずだった命を生きながらえた忍のほうが圧倒的に多い。
それでも死神説がすたれないのは、ひとつにはうちは一族でもないのに有している写輪眼にあった。
暗部のなかでも古参は経緯も知っているようだが、詳細は伏せられている。公開されない情報というのは、胡散臭く見えるのが常で、仲間を殺して手に入れた呪われた眼というのは、いわばその胡散臭さの象徴なのだ。
その延長線上に、はたけカカシ死神説がある。

でも、今回のこれは。
……おそらくボクが殺したか、あるいはカカシ先輩自身が始末した忍のどちらかが、ヒガタの言う行方不明の上忍なのだろう。
だったら。あの、仲間想いの先輩は、ボクのことだけでなく里を裏切ろうとしたターゲットのことでも、胸を痛めたことだろう。
ためらわず殺し、そしてそ知らぬ顔をしながら、たったひとり、だれにも告げられない痛みと重荷を背負う。

「いいひとなのになぁ。一度でも、一緒に任務をすれば、いいひとだって、わかるのになぁ」
ヒガタのその言葉が、今のボクには救いだった。
「でも、一度も一緒に任務をしないと、わからないんだよ」
イナダが言う。
「圧倒的に強いだろ? そこそこ強いってのはさ、安心だけど、圧倒的に強いってのは、やっぱりきっと、怖いんだよ」
「それで、助けられているのに……報われないよなぁ」
報われない、ほんとうに、そうだ。
「野営しているときなんて、けっこう抜けてるのにな」
「そうそう。いつだったかも、野営地で忍犬呼び出して、じゃれててさ。晩飯の伝達にいったら、いないんだよ、カカシ先輩。で、よくよく探したら、忍犬と一緒に団子になって寝ててさ」
あはは、想像つくよ、とヒガタは笑った。
「でさ。あの、しぶいパグ犬いるじゃん。あいつが、『もう少し寝かせてやってくれないか』なんていうもんだから、俺も『ははぁ、仰せの通りに』みたいなさ。だって、敵の不意打ちを警戒して、カカシ先輩、その週、ずっと夜の間起きていたの、知ってるからさ」
「あったね。あのときの隊長がもうちょっと頭の働くヤツだったら、夜襲を警戒するのはセオリーってわかってくれたんだろうけど。夜襲を懸念するカカシ先輩のことを、うっとおしい若造って思ってたからな」
それはボクも覚えている。
結局、カカシ先輩の分隊だけが夜襲を警戒していて、でも、その結果、まんまと新月に乗じて仕掛けてきた相手の精鋭部隊を一網打尽にしたのだ。
ヒガタもイナダもそのときは別の分隊にいたけれど、ボクたちの分隊の動きを気にしてくれていて、そのなかにはちゃんとカカシ先輩のこともわかっている分隊長もいたから、ひそかに厳戒態勢を敷いてくれていたのだ。



2007年02月05日(月)
びとぅぃーん・ざ・しーつ 5)


「ごちそうさまでした」
けっこうな量はあったが、味付けはあっさり上品で、先輩と二人で食べれば、そう多いというものでもなかった。
こう見えて、激務だから忍の大半は大食漢だ。先輩もボクも例外ではない。
任務中で食料の捕獲がままならいときは、兵糧丸でしのいだり、携帯食でつないだりもするし、水だけで半月やそこらは生き延びることもできる。
その場の状況にあわせて臨機応変というのが、ボクたちだ。
「この重箱……返すんですか?」
「え? いや。返さないよ。重箱も込みだから」
こんな重箱、あっても使うことなんかないなぁと思いながら、改めて眺める。
うわ、螺鈿細工まで施されてるよ。すげ。
「握り飯でもつめて、ピクニックにでも行きましょうか」
冗談のつもりで言うと、寝転がったまま先輩が笑った。
「いいね〜。オレ、具は鮭と梅干がいいな」
「え? ボクがつくるんですか?」
「え? テンゾウが作ってくれるんじゃないの?」
こんなふうに意味のあるようなないような会話をダラダラと交わす午後。
ボクは自分が生きていることを実感する。

そんな平和で満ち足りた時間は、同僚のノックの音で壊れた。
「あ、じゃ、オレ帰るね。またね、テンゾウ」
先輩はそう言うと、床に落ちたままだった本を拾い、ヒョイと出窓から出て行った。
ボクが、一言も発するまもないすばやさだった。
ドアを開けるとそこにポッチャリ系同僚のヒガタと、もう一人、イナダがいた。
それぞれ、手に惣菜屋の包みと酒瓶を提げている。
「俺たちもこれから待機だからさ。一杯やろうと思って」
いいか? と言う仕草が、先ほどのカカシ先輩を思い出させた。
「ああ」
曖昧に返事をすると、二人は顔を見合わせ、それでも部屋にあがった。
暗部のなかでも浮いている自覚のあるボクが、比較的親しくしているのがこの二人だ。
二人とも、ボクの出自を知っていて、なおかつ、こだわりをもっていない。見かけによらず繊細なヒガタと、よく言えばおおらか、つまり大雑把なイナダは、たぶん今回のボクの任務の内容を知っていて、それでこうして尋ねてきてくれたのだろうと予想がついた。

「あー、なんだよ、コレ。なんで『花散里』のご膳がぁ」
ヒガタの声にしまったと思っても遅い。
「なんだよ、おまえ。なんで、ひとりでこんなもの……てかさ。なんで手に入れられたんだよ。ツテないとダメなのに」
どどーん、と低くなった恨みがましい声でヒガタが迫ってくる。
「もういい。せっかく、おまえのために食堂の親父さんに頼んだのに。俺が全部食ってやる」
「あ、ご、ごめん」
タン、タン、タンと提げ袋から取り出した惣菜を並べると、ヒガタは早速食べ始めた。
「おいおい。おまえ、それ」
声をかけたイナダは、ため息をつくと、ボクを振り返って苦笑した。
ボクも苦笑するしかなかった。

「でもさ、ほんとになんで?」
惣菜のあらかたを一人で片付けたヒガタが、ようやくボクに声をかけたのは小半時もしてからだ。
指さす先には螺鈿細工も見事な黒塗り重。
「うん。ちょっと……知り合いが」
まさか、ここでカカシ先輩の名を出すわけにもいかない。
「任務かなんかで知り合ったんだろ?」
ヒガタほど関心のないイナダはそう言い放つ。
「いいじゃないか。無事、任務を終えて帰ってきたんだから」
腹がくちくなると、さほど腹も立たないのか、ヒガタも「そうだな」と言うと、すっかりぬるくなったビールの缶に手を伸ばした。
「そういえばさ」
ぐびり、とヒガタの喉が鳴る。
「上忍がひとり、行方不明だってよ。カカシ先輩とは正規部隊で、よく組んでいたらしいから、また、口さがないヤツラが、はたけカカシ死神説を蒸し返してたぞ」
ドクン、と心音がはねあがった。



2007年02月04日(日)
びとぅぃーん・ざ・しーつ 4)


「な、な……ど……」
「なーに。テンゾウったら。任務ではてんぱったりしないのに。変なヤツ」
いったい、なんの魂胆があって、こんな……。
と聞きたいけれど、声にならない。
っていうか、食べたいなんて言ったことあっただろうか?
自慢じゃないが、食に関するボクの関心は、せいぜいが暗部が利用する定食屋のメニューどまりだ。
だいたい、このお膳、破格と言われる暗部の報酬をもってしても、暗殺任務の1回や2回ではとても、というほど超ウルトラ高いうえ、ふつうに頼んだのではまずお断りされてしまうほどの代物、コネがなければ拝むこともかなわない。何しろ「上得意のための特別」だからだ。

「あー。昔……まだ、四代目がオレの師匠だったときにね。その料亭がらみの任務を請け負ったことがあったんだよ。なんでか女将が気に入ってくれて、『いつでも融通しますよ』なーんて言ってくれて」
なんでか、って……それは先輩の将来性を買ったんでしょう。忍としての資質と、美貌と。ああいうところの女将の目は確かだ。
「たまに任務に協力してもらったり、こっちもお偉いさんの護衛なんかのとき、あそこの仕出を使ったり、ついで紹介したり。ま、もちつもたれつ?」
そこまで言って、先輩はふっと表情を曇らせる。
「もしかして、メシ食ってきちゃった?」
「いえ。メシは食ってきちゃってませんが」
「じゃ、食べよ。おいしいよー、ここの」
ローテーブルににじり寄った先輩が、重箱の蓋をあける。
「いっつも、任務がらみだからさ。オレも味わって食べるの、初めて……あ、この、先付けの山独活の木の実和え……絶品だよ」
ひょいと指先で行儀悪くつまんで、先輩が口に運ぶ。ん、うまい、なんて満足そうにする。
つられるように、ボクも行儀悪く手を伸ばした。
ほんのり青っぽい香りを、こっくりとした木の実の甘みが包んでいて、確かにおいしい。
急に自分が空腹だったことに気づく。
「じゃ、遠慮なく」
ボクは箸袋から割り箸を取り出して、パキンと割る。
厚みのある和紙の箸袋も杉を使った高級割り箸も、普段、縁のない代物だった。

きっと、先輩はボクの気持ちに気づいていた。
今更、自分の出自に傷ついたりはしないが、己の存在が他人に引き金を引かせてしまうことの、苦さを。
だから、こうやってボクの気持ちを引き立てようとしてくれている。
でも、そう言ったとしても、たぶん先輩はとぼけるだけだ。
だからボクは箸を動かし、
「おいしいです」
と言った。先輩はうんうんと頷いて、ビールを飲む。
「先輩、食べないと、なくなっちゃいますよ」
そうだね〜なんて笑いながら、ヒョイと指先で小鯛の唐揚げをつまみ上げる。
淡い朱をはいた小鯛が、先輩の口の中に消える。

すっかり忘れていたけれど、思い出したのだ。
ちょうど、暗部に配属になってすぐぐらいのころのこと。
詰め所で雑談していたときに、「何を励みに生きて帰るか」という話になった。

最初は、真面目な話だったのだ。
もうだめだ、と思うとき。にっちもさっちもいかなくなって、こうなったら自爆したほうが楽だと思うとき。
それでも生きて帰りたいという強い意志を持っていると、不思議と道が開けるという、そんな話だった。
「オレの場合は、子どもだな」
その話をした暗部の先輩は、独身の多い暗部のなかでは珍しい既婚者だった。
「まだ、あいつを残して死ねないと思うんだ」
しーん、とした空気を変えるようにおどけたのが、ボクの同僚。
「そりゃ、子どもだとか恋人だとか、いればいいですけど。オレみたいに、恋もまだ、なんてのは、どうなるんでしょうかね」
「いや、それこそが究極だよ」
「死ぬ前にいっぺん、いとしのなんとかちゃんとやっとけばよかったなぁ、とか」
「いや、オレ。どっちかっていうと食い気だし」
某家の親族とよく間違えられるというデ……ポッチャリ系のそいつは、遠い目をした。
「あ、でも、ありかな。『花散里』のお持ち帰りご膳を食べるまでは死ねない! いや、一度食ったら、きっともう一度食べたくて、絶対、生きて帰ろうと思う!!」
なんだよそれ。いや、やっぱり女だよ、女。そうだよ、子作りってのは本能だから。え〜、本能っちゃ、食欲も本能でしょう。
そんなふうにわやわや、みんなが言い出して、場が賑やかになった。
「ふうん。食べてみたいな」
と、つい声に出したのは、無意識だった。
そこまで同僚に言わせる料理とはどんなものだろうという単純な好奇心からだった。ただ、それだけのことで、それ以上の意味はなかった。
そもそも、異性にも興味はないが、食にも興味がない。
あの場に、先輩はいたけれど、話には加わっていなかった。
でも、聞いていたのだ。聞いていたから――。



2007年02月03日(土)
びとぅぃーん・ざ・しーつ 3)


「で? なんで、そこにいるんですか?」
ドアを開けた途端、居間のガラス窓にひょっこりと顔を出したのは、先輩だった。ドアをノックするように、ガラスをコツコツと叩く。
なぜ、よりによってベランダに向いた窓ではなくて、こちらの出窓のほうに顔を出すのか……。わざわざ余計なチャクラを使って、アパートの外壁にへばりつかなくてもよさそうなものなのに。
ボクはため息をついて、窓を開けた。
「おかーえり」
「……」
「あれ? テンゾウ、ただいまは?」
「……」
「お帰り、といわれたら、ただいま、だろ?」
「……ただいま……」
その前に、何か言うことないんですか? と喉まででかかった言葉を止める。
「いい?」
部屋の中を指さす。
「どーぞ」
我ながら、先輩に対する後輩の態度ではないと思いつつ答えると、カカシ先輩がチラとボクを見た。ほんの一瞬。
「お邪魔しまーす」
次の瞬間には、部屋のなか。
「適当にくつろいでいて下さい。ボクはシャワーを浴びてきます」
先輩からは血臭も火薬の匂いも何もしなかったので、たぶん一度部屋に帰ったのだろうと判断し、ボクは背を向けた。

先輩がボクの部屋に来るのは初めてだ。
誘い合わせて一緒に食事をしたり、飲みに行くことこそあれ、互いの部屋を訪ねあうようなことは、今までなかった。こんなふうに、他人の領域に足を踏み入れてくるようなひとではないと思っていたのだが。
いったい、どうしたというんだろう。
疑問符は次々浮かんでくるが、もともと任務を離れるとあちこちのネジが緩んでいるようなひとであるのも事実。深く考えても仕方ない、と諦めた。
汚れた任務服をランドリーに突っ込み、シャワーを浴びて出てきてみれば、居間にはくつろいでいる先輩の姿があった。
ソファに仰向けに寝そべり、その手元には缶ビール。腹の上に伏せられている本はたぶん……。
ソファからはみ出した足先をブラブラさせながら、
「あ、ビールももらっちゃった。ごめんね〜」
と、笑う。
あー、いいんですよ。缶ビールの1本や2本。それより、そのだらけきった姿、なんとかなりません?
と思ったが、もちろん口に出したりはしなかった。
どうして、このひとは、任務のときとそれ以外のときとのギャップが、大きいんだろう。
その落差と言ったら、もういっそ、すがすがしいぐらいだ。
いつだったか資料で異国にある『グランドキャニオン』なる壮大な崖地の写真を見たとき、なぜかボクの頭のなかにこの先輩の顔が浮かんできたのを、思い出す。
荒々しい岩肌を見せる景色よりも何よりも、その落差に目を奪われた。
「何、テンゾウ。なんかへ〜んなこと考えてない?」
「あ、いえ」
ボクは先輩の視線から逃れるように冷蔵庫の扉を空け、缶ビールを取り出した。
プルトップを引くと、ビール特有のホップの香りが炭酸に混じって弾ける。
そのまま缶半分ほどを飲み干した。

「あ、そうそう……これ、おみやげ」
冷蔵庫の前に突っ立ったままのボクの背に先輩が声をかける。
「はい?」
振り返り、先輩の伸ばされた白い指をたどった先、ローテーブルの上に、立派な漆塗りの重箱があった。
さっきは、ソファに寝転がる先輩に目が行っていたせいで、気づかなかった。
「前に、食べてみたいって言ってたでしょ?」
え?
「『花散里』の持ち帰りご膳」
ええー?!
それはもしかしなくても、火の国の王族御用達の料亭が、特別な顧客にのみ提供すると言われている?
「頑張ったごほうびだよ」
先輩は、ソファから起き上がりテーブルに向かって。
……にっこり。
三日月みたいな形に右目を細めて笑った。
腹の上に伏せられていた本が、床に落ちる。
うっすらと背筋が寒くなった自分が情けなかった。



2007年02月02日(金)
びとぅぃーん・ざ・しーつ 2)


「うむ。ご苦労じゃった」
報告をすませたボクたちに、火影さまは頷く。
いつもの任務報告と、なんら変わらない。
「明日、明後日は、待機じゃ」
暗部で言うところの“待機”とは、実質上の休暇だった。ただ、何かことが起これば真っ先に召集がかかるので、常に連絡が取れるようにしておく必要はあるが。
カカシ先輩とボクは礼をして、火影室を後にした。
「じゃあね。お疲れ」
そう言うと先輩は、ふっと掻き消えるようにいなくなった。
待機と聞いて、きっと遊郭にでもしけこむことにしたのだろうと思いながら、ボクは暗部の詰め所に顔を出す。ここは、里内警備にあたる暗部が交替で詰めていて、里内に異変があれば真っ先に報告の行く場所でもある。
なんの異変も起きていないことを確認しがてら少し雑談を交わす。
「おー。お帰り。里外任務から戻ったんだろ? 俺もさっき戻ったとこなんだ。飲みに行こうよ」
「いや。今日はだいぶチャクラを消耗したから余力がない」
そう言えば一番無難に断ることができる。
「ふうん。そっか」
別の相手を探すためだろう、室内を見回す同僚から離れ、ボクは部屋に向かう。
自分の出自に関する秘密を持ち出そうとした同胞を暗殺する、などという任務の後、脳天気に騒ぐ気にはなれなかった。

どうしても、思ってしまう。自分が生き残っていなければ、あの忍も罪を犯さずにすんだんじゃないか、と。
この力は里のために使うと決めているけれど、そんなボクの意志とは関係なく、秘密を探ろうとする輩は現れる。
もちろん……ボクを助けようと必死になり、関わってくれた多くのひとがいる。そのひとたちの想いを無にしないためにも、ボクは里に貢献したいと思っている。けれど、同時に屈託も抱えている。
なぜ、ボクはボク自身の過去をすっかり忘れているのだろうか。
ボクに家族はいたのだろうか。いたとしたら、彼らはどうしているのか。
ボクたち実験体が見つかったときには、ほとんどが死んでいたというから、ボクだってあのとき死んでいてもおかしくなかった。そのボクを生かしてくれたのは、この里の医療技術だ。
そのことに感謝はしている。あのとき死んでしまっていればよかった、と思うほど、厭世的にはなれない。生きているからこそ、咲く花実もあると思っている。
けれど、自分の人生は歪められたのだという思いを捨てることはできない。
ならば、ボクは不幸なのか? 意に添わぬ人生を歩まされているのか、と問えば、否と答が返ってくる。
どこまでいっても、アンビバレンツだ。

カカシ先輩は、もちろんボクとは違う。抱える過去も、屈託も違うのだろう、と思う。
でも、どこかでアンビバレンツを抱えているように思えた。
今の自分を否定しているわけでもなく、世を拗ねているわけでもなく、でも、どこかで”否応なく生かされている自分”を自覚している。だから、ボクはあのひとの思考をトレースできたのだと思っている。
どういう過去があのひとにあるのかは知らないけれど、彼は常に、仲間を死なせないことを第一に考える。戦闘中なら、まず敵を倒すことを第一とするけれど、第二は自分の身を守ることではなく一緒に動いている仲間が敵忍に狙われていないかどうかだった。
通常、というか、当たり前のこととして、連携で動いていても、まず人間として働く本能は保身だ。自分に向かって武器が飛んできたり、術をかけられそうになったりすれば、当然のことだがよける。
けれど先輩は敵の攻撃が仲間に向かっていないかどうか、避けたとき余波を被る仲間がいないかを確かめたうえで、自分の動き方を決める。
もちろん、カカシ先輩ほどの力と速さと、相手の術や力量を見極める力があるからできる技ではある。
先輩もまた、写輪眼という類稀なる能力をその身に備えている以上、自分の身が敵の手に落ちることは、味方の忍の一人や二人では補えない多大な被害を里にもたらすことはわきまえている。

だから先輩は、死んでもいいとは思っていない。
けれど、死なない程度に傷を負うことには、まったく躊躇しない。
自己犠牲というのとも違う、かといって博愛精神というのでもない、独特の立ち位置で、戦っている。
そんな先輩の負う傷が少しでも減るように、できれば傷つくことなどないように、というのが、ボクの想いだ。
だから今回、ボクに関わる任務で先輩が怪我をせずにすんで、とてもほっとしていた。



2007年02月01日(木)
びとぅぃーん・ざ・しーつ 1)

* 暗部時代のテンゾウとカカシ 二人のお初

チチチッという、鳥のさえずりにも似た音が上方から聞こえた。
――ああ……雷切。
ボクは目の前の敵と対峙しながら、音の位置を確認する。
ちょうど7メートルほどの切り立った崖の上、さらにそこから2時の方角に3メートルほど。もうひとりの敵の命運は、今まさに尽きようとしていた。
遠目には何度か見たことのあるそれ。一撃必殺の暗殺術を、かの天才はまだ子どもと言っていい年齢で編み出したと言う。
チッと目前の敵が舌打ちするのが聞こえた。
ボクは、両手のそれぞれに別々のチャクラを込める。
パンと掌を合わせると、乾いた地面から若木が生えてきた。
「お……おまえが」
だが、彼の言葉が最後まで紡がれることはなかった。
――ボクが。
うねる木々に絡め取られ目を見開いた男の首を掻き切る。
――おまえたちが探していた、大蛇丸の実験体だよ。
心のなかで、敵忍の最後の言葉に答える。
いつの間にか鳥のさえずりもやみ、崖上から血臭とたんぱく質のこげる匂いが漂ってきた。
――見たかったな。先輩の雷切。
刀を背に納め崖を見上げると、ヒョイと銀の髪が覗いた。
「任務カンリョー!」
次の瞬間、先輩は崖下に移動していた。
「処理班が来るから、このままでいいって」
「はい」
狗面が傾く。カカシ先輩が首を傾げたのだ。
「がんばったね、テンゾウ」
「いえ。自分に関わることですから」
「それでも」
そう言って先輩は、ボクの肩にそっと触れた。鉤爪が肌を傷つけないように、そっと。
「がんばったよ」

暗殺戦術特殊部隊、通称・暗部に配属されて1年。割と直ぐ、カカシ先輩が分隊長を勤める部隊の所属になり、何度かバディを組んだことはあった。
敵陣に切り込んでいく先輩の背後を守るのが役目で、暗部のなかでも一、ニと言われる速さについていけることが第一。そして、多彩な術を駆使して変幻自在の戦い方をする先輩の動きをさえぎらないことが第二。
なかなか適任者がいなくて、単独で動くことも少なくなかったと聞いていたから、けっこうドキドキした。
確かにスピードはピカ一で、最初のころはさすがのボクも遅れをとることがあった。が、慣れてくると戦闘時の先輩の思考をトレースすることができるようになり、結果として次の動きも完璧とはいえないまでも、ある程度は読めるようになった。
「テンゾー、いい勘してるねー。おまえと組むと、すっごく動きやすい」
たとえ、それが新米暗部を励ますためのおだてだったとしても、ボクはとても嬉しかった。
ほめられたことが、ではなく。いつも孤独な戦いを強いられている彼の、役に立てるということが。
そして今回――。
木の葉の里でも極秘扱い、火影直属の暗部のなかでも知らされているのはごくわずかという大蛇丸の実験データを、里外に持ち出そうとした3人の男がいた。
封印されたはずの実験データが、なぜ彼らの手に渡ったのかは知らされていないが、一人はすでに捕らえられ尋問部隊に引き渡されている。
彼の持っていたデータは実験体の生き残りがいることを示唆していた。ただ幸いなことに、それがだれなのかまでは特定されていなかった。
木の葉の里の秘密を持って里を抜けようとしている残り2人の討伐を命じられたのが、先輩とボク。初めてのツーマンセルでの任務だった。
実験体の唯一の生き残りであるボク自身が彼らを追うことの危険性を、火影さまが考えなかったはずはない。
万が一のことがあれば、初代さまの能力に関する情報が奪われてしまうのだから。
それでも、その任をボクに命じたのは、たぶん、これからもこういうことは起こりうるのだという覚悟をボクに促すためだったのではないかと考えている。
だからこそ『写輪眼のカカシ』をボクにつけた。
だれよりも仲間を大切にし、木の葉の里に忠誠を誓い、それゆえ時に冷酷にも見えるほどの決断を下す、はたけカカシという天才を。
ボクは決して失敗してはならなかった。
もしボクが失敗すれば、先輩はボクもろとも敵を一掃しなくてはならない。
みじんもためらわず、わずかの動揺もみせず、先輩はやり遂げるだろう。
けれど、きっとカカシ先輩は、その痛みと重荷をずっと背負っていく。