カゼノトオリミチ
もくじ|過去|未来
あれだけいったでしょ
しゃべりすぎちゃ いけないって
カラスの声が 曇り空に よく響く
しゃべりすぎるから
こんなに空は 灰色で 重たくて
なのに 閉め忘れた 蛇口のように
コトバが口から 出てきてしまって
そして
しいん
カラン
洗面台に 後悔の音
カァ カァ カァ
おバカさんねと アンテナの上で
カラスが 笑っている
窓の外 急に 雨が降ってきた
闇の中から 土のにおいが流れ込む
一瞬 自分が茶色い土に
大地に溶けて
大地の一部に なった気がした
雨は それから 遠い知らない国の
緑の木々の 話をしているように
パラパラと 降り続けてくれている
ありがとう
少し暖かな 今夜の雨
緑色の糸を 刺すあいだ
私は緑の森の中にいる
ひと針ひと針 刺すごとに
さやさやと しだれた柳を 風が揺らして
キラキラと 木漏れ日は ピアノの音になる
糸の入り込む 布の穴に 私も入り込み
陽だまりで 眠る夢を見ながら 布に糸を刺す
いつまでも 終わりのない
糸に紡がれた 森のなかで
シアワセな時の 夢を見る
いつの間にか 音楽はいらなくなった
その代わりに 窓を少し開けて
闇と共にしのびこむ 冷たい空気と
通りをゆく 車の音を数えて
静かな夜はゆく
丸まった小さなたいせつな 茶色いかたまりが
まだ 温かいことに
寝息がすることに
ただ ただ 感謝して
秋の夜は更けてゆく
なさけないな
なさけないな
情けないと思うことが なさけない
キイキイキーイと 今日もヒヨドリは
自分の仕事に集中してる
アンテナの上のカラスも
見張り番に集中
私もがんばらねば
なさけなさも みじめさも
それもすべて ひっくるめて
自分だよね
トリさんたち 教えてくれて
ありがと
だいじょうぶ 風に乗る
ここから あの赤い屋根のほうへ すうっと 降りて
それから すうっと 上昇する
できるよ そうして あの紅葉した森へ
子ども達の 遊び場の上を 飛ぶ
それから 茜色に染まった
西の空へ
カラスたちが 町のあちこち アンテナで 見張ってる
秋の夕暮れの むらさき色が
山のほうから におい立つ
ああ なんて ステキなんだろう 軽いんだろう
西の空では シルエットの山々が 私を呼ぶ
そこは父の生まれた山
なんでかな
秋の雨のニオイは
ひとりぼっちのニオイ
灰色の世界に
くる くる
赤いカサさして
歩いていく 小さいころの
自分が見える
キーボード 打つ手が
止まる
息を吸って 大きく吸って
ひとりぼっちも
案外
それも ラクだよね
鼻歌うたって
雨の帰り道
ランドセルも 濡れている
リセット リセット リセットするのよと
11月の晴れの朝 ヒヨドリが 得意げにけたたましい
考えるスイッチを 切りなさい
ハイ、ハイ、 わかった
ヒヨドリに 教えてもらった朝
natu
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