カゼノトオリミチ
もくじ|過去|未来
わたしになにができるだろう
茶色い暖かな仔を抱きしめて
雨の午後は玄関に傘立てを用意し
けれどワガママな自分だから
人を傷つけてばかりいて
そのことにまた自分で傷つくという美談を演じる
わたしが風や花を愛するのは
私にわかるコトバで会話できない相手だから
都合よく美談を語れるから
だからつぶやくの彼らに冒頭の言葉を
そうすれば罪も謎も呵責も
溶けゆくと思うから
ユメでみた女のコ 泣いていた
モウ イッパイ ナノ
アタマ を トリカエタイノ
あとは轟音に かき消され
真夜中 ひらめく
カートリッジ という言葉
ココロも カートリッジ式に なりませんか
ゴミが たまったら とりかえたいから
使い捨てでも いいけれど
ええと 洗って何度も 使い回し できたり
スペアが 数個あっても いいし
おひさまと 風にあてて
さらっと 陽だまりのニオイの するのとか
洗いざらしのココロも いいじゃないかと 思う
も一度 眠りに落ちたら
あのコに 会えるかしら?
教えてあげよう
ユメの世界 なら カートリッジ式も
ユメじゃない かもしれないし
ことばと ことばの あいだを
風が すり抜けていくよ
スーパーの 棚と 棚の 間で
うごけない
おバカさん
悲しいのは 悲しくさせて いるからよ
鈍感なこと 笑うように
自転車こぐ 真正面から 風があたる
うん、うん、わかってる
悲しみだけを拾うのはやめよう
でも、でもやっぱり
ワタシは ワタシ
強くなりたい
でもね
強くなる前に 優しくおなりよ
優しくしたぶんだけ しか 優しくされないのよ
風は
そう 言っている みたい
大きな低気圧が ぐるぐるうずをまいているから
雲たちは ちぎれるように 飛んでゆく
ぼんやりしていると カラダの中から ココロだけ
もって行かれそうだ
びゅうびゅう 風が吹くと
緑の木々は いっせいに 葉の裏を見せる
ちいさなトリたちは ハタハタ 急いで羽を
はためかし カラスは ゆうゆう
右からひだりへ 風にのる
ふふ ふわり いいなぁ 風
肌がチリチリするくらいの 青空へ
ほっぷ すてっぷ じゃんぷ して
はたはた ばたばた してみたい
帰り道の 川沿いの
柳は だまって 風にゆれる
そこだけ 老いた猫が 目を閉じているよう
薄墨色がうずくまる
はやるココロを いさめるように
ワタシをみている 柳
長いながい みどりの髪を 揺らしたまま
もう すぐ しっとり 雨がふるから
もう おとなしく 静かにおしよ
と 言いたげに
低気圧は すぐそこ
そして季節は 梅雨の入り口に たっている
ある日
彼女は すべてのバラを 切り落とした
理由は…
理由は、なんだったのだろう
確かに もう 花は 散るころをむかえ
静かに 乾いた風に 吹かれていたけれど
ぽとり
石ころは ふかい 深い場所まで
落ちて行き 彼女さえ 知らない 緑の淵へと
ころがり 行き
コン と
心に 音が 響いて
それが 合図だったのかもしれないと
彼女は 剪定ばさみを動かしながら 思う
確かなことは 今 こうしていることだけで
ごめんね
まだ色を残す バラたちに
つぶやきながら 晩春に
理由など わからない けれど
遠い とおい ひびきを 感じている
緑の淵から わきあがり 彼女を そうさせる
衝動 の ようなものを
道 − みち
枝わかれの みち
気づいた時には 選んでいた
ふりかえっても
戻れない
春の のどかな わかれ道
ねぇ
「後悔」 というコトバは
人間だけにしか ないのかな
はるじょおんが
風に 揺れて わらってる
そうね
この道を ゆくのよ
扉 − トビラは
たたくために あるの?
それとも
閉めるため? 固く カギをかけるため?
あけっぱなしの トビラからは
いい風が 吹いてくるよ
さや さや さや と
南風に 吹かれたら
カミサマに
今を シアワセだと いえる気がするよ
ごめんね
今を シアワセではない と
思ったりして
チイサナ 野の花に
つぶやくよ
ひとつ ふたつ 糸の目を
数えるのは 時を 刻むのと同じで
布に 耳を あてれば
砂のように ふり積もった 秒針の音がする
水色の糸を
いつまでも動かせば 川は 長くなり
舟は ゆられて
そおいえば
帰り道は どこだろう
誰かに 言い置きも せずに来た
こんな遠くへ
いま来た道も
やがて 草色の糸で おおわれて
帰り道は もう わからない
みんな どうしているのだろう
朱色の糸 いっぽん
後ろに 道しるべ つけてきたのだろうか
私だけ 道しるべ
忘れてここまで 来てしまったのだろうか
ラベンダ色の 刺しゅう糸
ひと針させば 広がり 揺れて
ワイン色の 糸には
チイサクうずまく こころ
朝には 水やり桶の中で
漂う 黒い澱 に見え
反対の窓から 夕日 輝く頃には
灰色の 糸でさえ
愛らしく想えて
あまりの 自分勝手さに 自分で 自分に
タメイキが 出てしまう
変わらないはずの 笑顔でさえ
勘違いなだけ と
気づくのが 怖くなる
natu
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