カゼノトオリミチ
もくじ過去未来


2009年03月31日(火)




のぞきこむ 画面のなかに

なにを 探してるんだろ

カチャカチャ 夜は更けてゆく



マウスは 行ったり来たり 机の上で

ただ なされるが まま

 

 …そこに 答えは きっとない 

けれど

救いなら あるかもしれない



今日も ヒカル カケラを

求めてる

液晶画面のなかも

ベランダに吹く 風も おなじ

結局は カタチなど なくて

両手のひらを

すり抜けてゆく
 




2009年03月25日(水) エスケープ




ツメタイ窓に 手のひらあてて 思う

少しの間 逃げよう

ココロは決まった

少しの間 だけ 



その先は?

カゼがびゅうと吹いて 言葉をさらっていったから

よく 聞こえなかったよ



今日は とりあえず 今日は

スタートラインの 一歩手前で

足ぶみしながら ゴールの方向を

見て見ぬふり



2009年03月15日(日) 天使のこと




ユメの浮力で 浮かんでいたと

気づいた時から

背中の羽は ゆっくりと 消えはじめた

それでも 飛んでいるフリ

していたの

笑顔が みたくて



お日様は 確かにいつも

地面に 描いてた

二つの 大きな羽の 黒い影を



もういいよ

そんな声が 聞こえた朝

足が

地面に触れた

その時

もう 空へは戻れないと 知った



ユメを抱えて 浮かんでることに 疲れて



足の裏に 触れた 地面は 少し

チクチク したけれど

春の光の ぬくもりがした



羽は いつのまにか 消えてた


2009年03月11日(水) 結ぶ




取りこわし前の 木造校舎は
この学期で お別れと知ってか 歩くと
いつもよりキシキシ 鳴っていた

さざめく紺色のスカートが 
てんでに ひらひら揺れるのや
校舎の 木枠の窓の脇で 芽吹き始めた 柳の枝が
さびしそうに 吹かれているのや

校庭を駆け抜ける 砂ぼこりや
帰宅する生徒たちの 呼び交わす声や

それらはどれもみな 
解体の時を待つ 木造校舎の老いた木目を
やさしく 労わるように
寄り添っていた

最後の5時間授業の日
破れそうな 薄いガラスから差し込む
か弱い春の光の中で 先生が教えてくれた

水を手ですくうことを他になんというか

誰も知らず答えられず 長い数秒間のあと
先生は少し驚いて そして静かに
ムスブ と言った

てのひらに こうやって
川の流れをすくうとき 手に水を結ぶというのだよ

あれから何度も 二つの手のひらで
水を結ぶ 真似をしてみた

なぜこんなにも
ココロから消えないのかわからない

川沿いの柳も切られ
華やかな アメリカハナミズキの並木になった
学校の制服も ハイカラなネクタイになった

手で水を結んでみる よく見れば
そのカタチは
チイサナ トリの巣にも 見える
両手のひらの あわさった辺りには 
シジュウカラの卵が
いくつか 転がっていそうにも 見える

春は 何度でも訪れ 校舎の横の 川はいまも流れ
紺色から グレーにかわった制服の
プリーツの数は変わっても

変わらず スカートは ひらひらと 揺れ続ける
いまも 登校時にも 下校時にも


2009年03月03日(火) ハルノヨル に




春の雨のふる晩に

指先から ふうっとチカラが 抜けて

おかずを盛った お皿がするりと 落ちました

せっかく せっかく…

あとは コトバにならず ただ呆然と 立ち尽くす

外は シトシト ふり続く

畑をうるおし 土を緩めて

チイサナ イキモノ 目覚めさせる

春の雨の ふる夜に

おかずが テーブルに 並ばなければ

夕食を 作る暮らしが 唯一の 生きてるアカシ

なのに一瞬で 砕け散る

それは 白いお皿とともに

やがて 新聞紙に

拾い集める カケラたち

家の外では

もこもこ うごめく 畑の土の

チイサナ イノチ たちの 声


natu