歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2006年11月30日(木) 歯医者も通販全盛時代・お知らせ

今から10年ぐらい前のことでしょうか、僕の出身大学である某歯科大学時代の友人達と泊りがけの旅行に出かけたことがありました。呑み会の席で話題にあがっていたことの一つに歯科薬品、材料の調達方法のことがありました。

患者さんの治療に際し、歯科医院では数多くの歯科薬品、材料が用いられます。これら歯科薬品、材料の単価は基本的には安くはありません。歯科薬品、材料は日常生活品とは異なり、大量生産されていないことが多く、結果として単価が安くならないところがあります。
一方、歯科医院の経営を考えると少しでも経費を少なくしたいのは経営者の考えとしては当たり前のこと。どうしたら少しでも安く歯科薬品、材料を仕入れることができるのだろうか?
通常、歯科医院では契約をしている歯科材料店があり、そこから歯科薬品、材料を仕入れます。うちの歯科医院も例外ではなく、2軒の歯科材料店と契約し、週3回歯科材料店の担当者が注文を取りにやってきています。こういった歯科材料店は単に歯科薬品、材料の取り扱いのみならず、新規商品、器具の紹介やセールスや情報、評判などを教えてくれ、歯科医院にとっては貴重な仕事上のパートナーと言えます。

呑み会の席では、お互い歯科医院を経営している歯医者同士、意見の交換が行われたわけですが、話題に上がったのは、少しでも歯科医院の経営のことを考えれば、懇意にしている歯科材料店以外の歯科薬品、材料獲得方法を模索しても構わないのではないかということでした。友人の一人曰く

「最近、歯科薬品、材料を扱う通販がいろいろと出てきて、大量に購入すれば今までとは比較にならないくらい安く手に入れることができるよ。」

後日、その友人が教えてくれた歯科薬品、材料専門の通販の会社にコンタクトを取り、カタログを請求すると、非常に分厚いカタログを無料で送ってきました。その中身の豊富さに僕は驚かされました。これだけあれば、懇意にしている歯科材料店がなくても歯科薬品、材料をそろえることができる。
もちろん、歯科材料店とは長年の付き合いがありますから簡単に関係を切ることは出来ませんし、そうする必要もないのですが、歯科薬品、材料を調達する選択肢が通販にもあることに驚かされました。
今では、10年前に友人から教えてもらった歯科材料専門の通販会社はだけでなく、数え切れないほどの歯科材料専門の通販会社が存在します。うちの歯科医院の郵便ポストには定期的に数多くの歯科材料専門の通販会社からカタログやセールの案内が届きます。まさに歯科材利用専門の通販、選り取りみどりといったところでしょうか?うちの歯科医院でもいくつかの消耗品は通販を利用し、消耗品のコストを下げることができています。

その一方、既存の歯科材料店も相当危機感を持っているようで、これまでよりも更に歯科薬品、材料の単価を下げたり、サービスを追加するようなことを対策を立てるようになりました。それは歯医者にとって有難いことですが、懇意にしている歯科材料店の担当者曰く

「通販会社が設定している値段は僕らの業界からすればちょっと信じられないぐらいの価格破壊的な値段設定をすることがあるんですよ。かなり危ない販売ルートもあるようですから、先生も通販は慎重に選ばれた方がいいと思いますよ。」

このコメント。決して負け惜しみだけではないように思います。確かに素性がよくわからない通販会社が存在します。製品の質に問題があってもアフターサービスの対応がいい加減な通販会社も存在します。このあたりは、歯医者が歯科材料通販会社を見る眼力が必要となることでしょう。


さて、話が全く変わりますが、明日より“歯医者さんの一服”日記のURLが変わります。詳細は明日の日記に記すつもりです。ブックマークからいつもアクセスしていただいている方には変更をお願いすることになると思いますが、何卒ご配慮のほどを。



2006年11月29日(水) 溜まっていくばかりの悩み

2年前に我が家に取り付けたハードディスクDVDビデオレコーダー。皆さんもお使いになっている方が多いと思いますが、使ってみて非常に便利です。これまで録画というとテープ頼みだったのに、テープが手元になくてもボタン一つで録画でき、編集でき、消去できるのは大変便利な代物です。昨今のデジタル時代が生んだヒット製品の一つだといえます。我が家でも日常生活必需品となっています。

このハードディスクDVDビデオレコーダー、購入した当初は、ハードディスクに録画した番組を見たり、残したい番組はDVDにダビングしていたのですが、今では録画した番組そのものを見ることが少なくなってきました。全くの言い訳ですが、何かと雑用が増えてくる中、じっくりとテレビを見る時間が限られ、せっかく撮り溜めた番組を見ること自体が少なくなってきたのです。
最近では、この番組などがそうです。僕が参加している某アマチュアオーケストラ仲間の中では評判のこの番組。僕は未だに一度も見たことがありません。ハードディスクに撮り損ねた回のものはわざわざ借りたのに一度も目を通していない怠慢さ。

この手の経験はこれまでも何度もありました。例えば、ラジオの語学番組。4月になると僕はいつもNHKの語学番組を継続して聴き、勉強しようと思い立ちます。最初のうちは生放送を聞いているのですが、時間が経つにつれ徐々に生放送を録音するようになってきます。後日聞き返して勉強しようということです。ところが、後日聞き返すことはまずありません。そのうち、日曜日に週の放送を全て再放送するのでこちらを録音して勉強しようと思うのですが、結局録音したテープやMDは溜まる一方。溜まったテープやMDは何を録音したかも記録せず、そのまま放置。挙句の果てにはギブアップしてしまうのです。
ラジオ番組、テレビ番組などは定時に生で見るのが最も効率的だと思う今日この頃。

溜まりだして整理に困っているのは何もハードディスクDVDビデオレコーダーだけではありません。例えば、子供の成長を記録したビデオテープ。こちらも整理したり、DVDにダビングし、編集していこうと思ってはいるものの、思っているだけでビデオテープに撮りだめするばかり。

そんな怠慢な僕ですが、その一方で溜まったものを有効に活用していることもあるのです。例えば、2年前に導入したデジタル式レントゲン写真装置ですが、これは非常に有用です。
医療現場では、過去の記録と現在の状態を比較することで教科書では得ることができない様々な経験、知識を得ることが出来ます。自分が良いと思って行ってきた治療を客観的に分析することができ、良いところは更に良く、うまくいかなかった場合には反省と自分の治療の改善につなげられる。患者さんが継続して来られている場合、過去から蓄積していたカルテや検査記録、写真などは患者さんの大切な健康の記録であり、資料でもあります。そういった資料をデジタル処理して保存しておくと、いつでもパソコンから取り出すことができるのです。デジタル化したデータベースの利点の一つです。
僕自身、このことを期待してレントゲン写真装置をデジタル式にしたのですが、その期待は裏切るものではありませんでした。いや、期待以上だったといえるでしょう。わざわざ保管棚からレントゲン写真を探す手間ひまをかけることなく、ボタン一つで過去の記録と現在のものを比較検討できます。このことは患者さんにも好評で、患者さん自身の歯の意識を高める助けにもなっています。
僕の知人の先生は、過去の取り溜めたレントゲン写真や口腔内カラー写真を全てデジタル化しました。その労力は相当なものだったそうですが、これまで取り溜めた写真を整理するのに所蔵部屋が一杯になり、新たに所蔵部屋を増設しないといけないと悩んでいたそうです。ところが、デジタル化することによりハードディスク装置一つで、これまでの何十年も溜めていた写真を保存できるだけでなく、今後何十年分ものデータも保存できると喜んでおりました。

結局のところ、蓄積したデータを活用するもしないも、その人の心がけ次第ということでしょうか。デジタル全盛時代になっても実際に活用するのはアナログな人間。そんな単純な事実はいつになっても変らないのだろうなあと感じる、歯医者そうさんです。



2006年11月28日(火) 歯医者でそんなことをするのですか?

先日、下顎が腫れてきたということで来院された患者さんがいました。診たところ、ある奥歯が歯周病に感染しているのが原因でした。歯周病の原因菌の一部が歯肉だけでなく、顎の下の方にまで波及し、炎症を起していたのです。早急に適切な処置が必要なケースでした。僕は腫れていた患部を切開し、膿を出すとともに抗生物質を投与しようと点滴セットを用意しようとしました。それを見ていた患者さんが僕に

「先生、歯医者でも点滴をするんですか?」
と問いかけてきたのです。

僕の答えは、

「歯医者でも必要と思われるような場合には点滴をしますよ。」

通常、歯医者における処置では内服薬による投薬が行われますが、内服薬だけでは効果が十分に期待できないような場合、または、早急に薬の効果を期待したい場合には点滴を行います。この点滴、歯科以外の内科や外科などでは当たり前の処置なのですが、歯科で行うことは珍しいため、歯医者で点滴を行うとなると驚かれる人が多いようです。

僕は、病院で研修をし、病院に勤務してきた経験から歯科の疾患でも重症のケースをいくつも処置してきました。病院では歯科でも点滴行為は日常診療の一部でした。
今僕は田舎歯科医院で診療をしていますが、都会に比べ口の中の衛生に関して関心のない人が多い土地柄。その結果、重症となってからうちの歯科医院へ駆け込んでくる患者さんがいるのです。そうした患者さんの場合、飲み薬だけでは対処できない場合があり、そのような場合、僕はためらわず点滴を行います。
もちろん、これは早急に病院の歯科や歯科口腔外科へ紹介しないといけないケースもあり、自分なりの出来る範囲、出来ない範囲は厳格に決めています。そうした基準の上で自分で処置できそうな場合には点滴投与をためらわず行います。

点滴以外にも僕は血圧を測定したり、心電図を取ったりしますし、細菌検査や採血をし血液検査を行うこともあります。これらの検査をすると患者さんの多くは驚かれることがあるのですが、歯や口も体の臓器の一つであることを考えると、内科や外科のような検査をすることは当たり前だと思うのです。

話が脱線しますが、歯科で用いる薬は歯や口の中しか効果がないと思っている患者さんが意外と多いようです。飲み薬は胃から腸へ移行し、腸から体内に吸収され血流にのって全身に移行していくもの。歯や口の処置のために薬を飲むといっても歯や口だけに薬が届くのではなくその他の臓器にも幅広く移行するものなのです。
例えば、腰痛を持っている患者さんが歯痛を生じたとしましょう。急場をしのぐために鎮痛薬を飲んだ場合、一時的とはいえ歯痛のみならず腰痛も緩和することがありますが、これなどは鎮痛薬が歯のみならず腰にも作用している証拠です。
このことは医療関係者にとってはごく当たり前というべきか、常識的なことなのですが、医療関係者以外の方で、高学歴と呼ばれている方の中にもこの事実を知らないようなケースが多いように思えます。
かといって、薬が全身に作用するからといって医者の指示通りに使うことは危険だと思います。薬には思わぬ副作用というものがあります。薬を使用する際には、必ず薬を出した担当医、もしくは薬剤師に助言を求め、適切に飲むことが大切であることは言うまでもありません。

世間的なイメージで歯医者では到底行うことがないような医療行為の中にも歯医者が行っても全く問題のない行為がいくつもの。あくまでも歯科の処置や救命処置という前提はありますが、歯医者も他の内科や外科が行うような検査や処置を行うことが可能である。そのことを皆さんには知って欲しいと思います。



2006年11月27日(月) 本物のホームページを作ろう

田舎弱小零細歯科医院であるうちの歯科医院ですが、最近、これまで全く来院したことがない患者さんが来院されることがあります。このこと自体は非常に有難いことなのではありますが、来院したきっかけを尋ねると、何人かの患者さんの口から思わぬことを耳にするのです。

“ホームページを見て来院しました。”

僕のホームページといえば、まずは皆さんが今読んでいる“歯医者さんの一服“ですが、このサイトは僕の本名は一切掲げず、ハンドルネームで書いているサイトです。うちの歯科医院の宣伝を目的としたサイトではなく、一人でも多くの方に歯医者になじんでほしいという思いから立ち上げ、運営しているサイトです。うちの歯科医院の名前は一切出していません。

また、僕は自分が所属している地元歯科医師会のホームページを作り、管理している立場でもあります。実際のところは管理から離れてもいい立場なのですが、僕の仕事を引き継いだ担当者がどうも乗り気でないようで、仕方なく現在も管理しているような状態なのです。“歯医者さんの一服”を管理しているついでに地元歯科医師会のホームページも更新しているような状態なのですが、更新頻度は近隣の歯科医師会よりもはるかに頻度が高いのではないかと自負しています。

そんな僕ですが、これまで自分の歯科医院のホームページは一切作っていませんでした。理由は単純です。単に面倒くさかっただけなのです。
インターネットが全国津々浦々まで普及している現在、数多くの歯科医院も自分の歯科医院のホームページを立ち上げています。これらホームページは一見すると立派なものが多いのですが、実態は大半が更新されていません。僕自身、“歯医者さんの一服”を4年以上管理してきた経験から言えることですが、どんなサイトであれ、継続して管理することは並大抵のことではありません。手を代え、品を代えていかないとサイトを訪問する方が増えないのです。ある評論家の方の話では、1ヶ月以上更新していないサイトは死んだも同然なのだそうですが、その話はそうかもしれないと思っております。
僕自身、自分の歯科医院のサイトを立ち上げず、“歯医者さんの一服”だけを管理してきたのですが、ここに至ってこれではいけないなあとやっと思い腰を上げる気になってきました。その理由は、先に記したように僕が関知していないうちの歯科医院のホームページを見て来院する患者さんが少なからず増えてきたからです。
どんな理由にせよ、人里離れたうちの歯科医院へ来院して下さる患者さんは歓迎すべきなのですが、自分で作った覚えがないうちの歯科医院のホームページを見て来院されるというのは内心おもしろくありません。うちの歯科医院について誤った情報が掲載されている可能性もあります。
今ではインターネット上には歯科医院の紹介をしたサイトが数多く存在しますが、僕の知人の歯科医院を紹介したところでは電話番号が誤って記載されていた場合がありました。住所や歯科医院の名前が間違っていたなんてこともあります。せっかく歯科医院を紹介しているサイトであるのに間違った記載がなされているというのは如何なものかと思うのです。このようなサイトは間違いを指摘し、連絡しても記載が変更するようなことがないことも多々あるので余慶に厄介です。
それならば、堂々と自院のホームページをインターネット上に立ち上げ、世の中に知らしめることの方がいいのではないか?自分の歯科医院の立場を守るために必要なことではないか?そのように感じ始めた今日この頃。

現在、自分の歯科医院のホームページの作成を作り始めようとしている歯医者そうさん。
これまでもいくつもの歯科医院のホームページを見てきていますが、研究を重ねながら、うちの歯科医院のホームページを立ち上げようと考えています。



2006年11月24日(金) 痛いのはいや!

先週末、急いで外出しようとして自宅を出ようとした時のことでした。急いでいた僕は、居間に置いてあった家具の角に左足の親指を思いっきりぶつけたのです。あまりの激痛にしゃがみこんでしまったのですが、急いでいたこともあり何とか痛みを我慢し、足を引きずりながらも外出しました。

帰宅後、僕は靴下を脱ぎ、左足の親指を見てみました。親指の先は出血し、親指全体が腫れていました。

“またやってしまった!”

実は、僕は以前に何度か左足親指を机の角や柱にぶつけたことがありました。その都度、痛みが生じたのですが、絆創膏を張り、状態が治まるのを待っていました。この度の痛みも大丈夫だろうと高をくくっていたのが誤りのもとでした。

週が明け、僕はいつもと同じように診療所で仕事をしようとしたのですが、診療用の靴を履こうとしたところ、左足親指の傷に靴が触れ、痛みが生じ、靴が履けません。スリッパにしようとしたのですが、スリッパを履くこともできなかったのです。結局、僕は左足には何も履かず、靴下の状態で仕事をしました。
仕事が終わり、靴下を脱いでみると、左足親指の状態が悪化していることに気がつきました。出血こそ治まりかけていたのですが、傷の一部がひょうそうを起こしかけていたのです。

“これはえらいことになった!”

そのように思った僕は近所の整形外科医院に急患として駆け込みました。
担当の整形外科医の先生は、僕が歯科医であるということで多少驚きながらも、丁寧に受け応えをしてくれました。

「同業の医療関係者ですから、治療をする方も緊張しますよ」
と笑いながら、僕の左足親指を診査、診断してくれました。レントゲン写真を撮影し、僕に見せながら骨折がないことを確認しました。

「確かに傷跡が化膿し、ひょうそうを起こしかけていますね。そうさん先生の親指のつめは巻き爪ですから、傷が爪にひっかかかり、刺激になっているんですね。治療としては、この爪の一部を取って、刺激の元を取る。そして、傷を消毒して包帯をする。化膿を放置して骨髄炎になると大変ですから、抗生物質を点滴と内服薬で服用する必要があるでしょう。」
「先生、爪を取る時は痛くないですか?」
「痛いと思いますよ。」

内心びくびくする歯医者そうさん。痛みを我慢しながらの処置は避けたかったですので処置前に麻酔をするようにお願いしました。

「わかりました。それでは、最初から麻酔をして処置をしましょう。」

麻酔や処置の準備をしている間、担当の整形外科医の先生は、僕に気を使い、保険診療報酬改定の話や使用する麻酔薬、抗生物質の話などをしてくれたのですが、僕は話をしながらも“麻酔は痛いだろうなあ”という不安で一杯でした。
普段は患者さんに麻酔の注射をしている身でありながら、いざ自分が麻酔をされるとなると不安で一杯になる。何とも情けない話ではあるのですが、左足親指の患部に麻酔の注射をするのは初めてでしたので、内心は非常に緊張しました。

「そうさん先生、それでは最初ちょっと痛いですよ。」

そういった整形外科医の先生は患部に注射針を刺しました。そして、注射液を注入していったのですが、その瞬間、鋭い激痛が患部を伝わりました。思わず“うっ”と叫んでしまった歯医者そうさん。左足に力が入ります。その左足を側にいた看護師が押さえます。麻酔の注射をしてから10数秒後、痛みは徐々になくなります。

「そろそろ痛みが無くなってきたのじゃないですか。」

患部全体が痺れてきたのがよくわかりました。麻酔が効いているのを確かめた担当医は、左親指の爪の一部をはさみで切り取っていきました。そして、化膿していた皮膚の一部も除去してから、僕に患部を見せてくれました。
「麻酔が効き終わってから痛みが出るかも知れませんよ。その時は痛み止めを飲んでください。」
その後、抗生物質の入った点滴を行った歯医者そうさん。点滴の針刺しは看護師が行ったのですが、実に手馴れている感じで、針刺しの瞬間も痛くなかったのはさすがだなあ思いました。
点滴を終了後、担当医からは風呂は数日間入らないようにすること、内服の抗生物質は1週間飲み続けること、そして、翌日経過を見せてほしいことを伝えました。

現在、僕の左足親指はまだ包帯が巻かれています。傷の治り具合は順調のようですが、糖分の間、左足は診療用靴を履くことができません。思わぬどんくさい、情けないトラブルでしたが、普段治療をしている立場である僕がいきなり患者になったことで、改めて患者さんの心理状態を知ることができた貴重な機会だったと思っています。

それにしても、痛いのはいや。もうこりごりです。



2006年11月22日(水) 借金持ち同士

今月始めからうちの歯科医院に新しく導入した診療台ですが、ようやく僕も、そして、スタッフも使い方に慣れてきました。基本的にはこれまでの診療台と変わりはなかったのですが、いくつかの新しい機能を使いこなすのにそれなりの時間を要しました。ただ、これまでいつ故障し、患者さんに迷惑をかけるかもしれないという不安は全く無くなりました。ここ数年、診療中に診療台が不調になる度にストレスを感じていただけに、当分は治療に専念できる安心感が得られたのは実に大きなことだと感じています。

さて、新しい診療台ですが、時折治療を受けにきた患者さんからも尋ねられます。

「新しい診療台になったのですね。」
「ちょっと今までと感じが違いますね。」
「今までのものよりも格好良くなりましたね。」
「ハイテクの塊のようですな。」

先日、来院した患者さんの一人Hさんからも言われました。

「先生、この診療台結構高かったのではないですか?」
「そうですよ。優に高級車並みの値段はしています。うちのような弱小、零細歯科医院では自己資金のやりくりが苦しいので、某金融機関でそれなりの借入をして買いましたよ。某金融機関で借入できるか不安だったのですが、何とかできてほっとしています。」
「それは意外でしたねえ。歯医者さんって結構儲かっているものとばかり思っていましたよ。」
「かつて歯医者も儲かっていた時代があったことは僕も否定しません。今もそのような時代であれば有難いのですけど、今や街角で溢れているコンビニをはるかに凌駕する数の歯科医院が全国にあるんですよ。ほとんどの歯科医院は保険診療をしていますが、その保険診療報酬がこの4月の診療報酬改定でかなり減らされたのですよ。そのため、ほとんどの歯科医院では減収なのですね。一見、歯医者って派手に生活しているように見えるのですけど、内実は借金を背負っている歯医者がほとんどなのです。自分の歯科医院の建物、設備などの借金を返すのに苦労している歯医者が多いのですよ。僕もそんな歯医者の一人なのですがね、ハッハッハ・・・・」
と力なく笑う、歯医者そうさん。

「歯医者さんって僕が思っていたよりも大変なのですねえ。先生、実は、僕も最近結構高いものを買いましたよ。人生最大の買い物といってもいいくらいです。どうしようかと迷っていたのですが、時期的にいましかないと思い、買ったのですよ。僕も先生と同じ借金持ちですよ。」
「結構高いものといえば、住宅関係ですか?」
「ご想像にお任せしますよ。いずれにせよ先生も僕もお互い借金を持っているもの同士。これから精出して働かないといけませんな。」

Hさんの問いかけに妙に力強く頷いてしまった、歯医者そうさんでした。



2006年11月21日(火) 60年ぶりの同窓会

「60年ぶりに小学校時代の同級生と同窓会をするんですよ。」

こう言ってうちの歯科医院に来院したのは、うちの近所に住むFさん。Fさんは小学校を卒業して以来、小学校の同級生同士の同窓会が開かれていなかったそうなのですが、有志が発起人となり、卒業以来の同窓会を開く案内の手紙が届いたそうなのです。Fさんも久しぶりに同級生に会いたいという欲求が強く、同窓会に出席することになったのですが、どうもいつも使用している入れ歯の調子が悪いので、調整して欲しいということで来院されたのです。

「同窓会を開くお店が料理が美味しいところという噂なのですよ。いつも大した物を食べていませんから久しぶりに美味しい料理を食べたいのですが、入れ歯がちゃんと合っていないと食べられませんよね。」

“同窓会や結婚式、旅行などがあるから入れ歯を調整して欲しい“という希望で歯科医院に来院する患者さんがいらっしゃるのですが、こうした患者さんの場合、同窓会や結婚式、旅行などの日程が直前であることが多いのです。ところが、実際の入れ歯の状態は決して良いとはいえない状態であることが多いのです。長期間、口の中に合っていない入れ歯を我慢して使っていた場合が多いのです。自分の家や近所だけで生活している分には問題が無いが、普段会っていない人に出会ったり、いつも食べない種類の食事をする場合、困ってしまう。そこで、入れ歯を調整して恥ずかしくないようにしたい。そのような気持ちで歯科医院に来院する患者さんが多いのです。
このような患者さんの入れ歯を調整は、正直言って大変です。“どうしてもっと早く歯科医院に来て調整しなかったんだ!”と言いたくなるくらい調整に時間がかかるケースもあるくらいです。患者さんは気楽に考えているような場合でも、歯医者が専門的に診た場合、患者さんが考えている以上に入れ歯の不具合が深刻で、中には直前に迫った同窓会や結婚式、旅行に治療が間に合わないこともあるのです。

幸い、Fさんの入れ歯の場合は、調整する箇所は数多くあったものの、比較的短時間で調整を終えることができました。

「これで同窓会では恥をかかなくて済みますよ」
と言いながらうちの歯科医院を後にしたFさん。

それから、一週間後、家の近くを散歩しているとFさんに出会いました。Fさんは入れ歯の調整のことを感謝してくれました。

「入れ歯の調子はすこぶるよかったですよ。」
「60年ぶりの同窓会は如何でしたか?」
「60年ぶりに同級生と再会したのですけど、最初は誰が誰だかわかりませんでしたよ。何せ同級生の記憶は60年前の小学生時代のままでしたからね。それでもよく見てみるとどこかに当時の面影があって、お互いに名前を確認しながら挨拶を交わしていましたね。」
と言いながらつい顔がほころぶFさん。更に続けて

「小学校を卒業してから60年経つと中にはこの世にいない同窓生も何人もいました。中には、当時私は憧れだった人が既に故人になっていたのはショックでしたね。けれども、仲がよかった友人が何人も同席していたので、時間が経つのを忘れるくらいいろんな話に華が咲きました。」

「最後に写真撮影したんですけど、中腰になれって言われたんですけどよ。ところが、これが厄介でして・・・。年寄りというのは腰が悪い人が多くて、みんな中腰になれないんですよ。情けない話なのですが、『お互いに年を食ったものだね』と笑っていましたねえ。」
と笑いながら話すFさん。

旧交を温め、楽しそうな雰囲気が顔から滲み出ていたFさんでした。



2006年11月20日(月) 矯正治療中女子マラソンランナーの勝利

昨日、雨降りしきる中、東京女子マラソンが行われました。今回の東京女子マラソンは、当初からQちゃんこと高橋尚子選手と土佐礼子選手の一騎打ちという話でしたが、結果は土佐選手が途中から抜け出し見事に1位を獲得しました。その一方で高橋尚子選手は怪我によるアクシデントで途中で失速し、3位に沈んでしまうという結果に終わりました。

今回の東京女子マラソンで僕が注目したのは土佐礼子選手の口元です。既に気付かれた方も多いとは思いますが、土佐礼子選手は歯の矯正治療中で、矯正装置を歯の前面に装着してマラソンをしていたのです。僕が記憶する限り、スポーツ競技選手の中で矯正装置を装着し、結果を出している選手というのは今までになかったのではないかと思うのです。

外国人であれば矯正治療をしながら競技を続け、結果を出している選手はいます。例えば、この夏ハワイで行われたゴルフの試合、アメリカ女子アマチュア・チャンピオンシップで史上最年少チャンピオンになったキンバリー・キム選手の口元を見てください。トロフィーを掲げにっこりと微笑む彼女の口元には歯の矯正装置が見えています。彼女はまだ15歳です。アメリカでは歯の矯正治療が日本以上に盛んに行われているわけですが、歯並びも見た目を重視する要素の一つとして捉えられています。そのため、歯の矯正装置を装着した口元を人前で見せることは決して恥ずかしいことではないのです。
写真はないのですが、オリンピックの陸上競技で金メダル9個を獲得したカール・ルイスも歯の矯正治療をしていたことで有名です。

以前であれば歯の矯正治療というと歯が生え変わる小学生時代から中学、高校にかけて行われることが一般的でしたが、最近の矯正治療の進歩で歯の矯正治療に年齢は関係なく行われるようになってきました。土佐礼子選手が30歳という年齢で歯の矯正治療を受けるということは決して遅すぎることはないと思います。むしろ、歯の矯正治療を受けることにより歯並び、かみ合わせが変化し、彼女のアスリートしての能力を向上させる可能性さえあるのです。

かつて、僕は土佐礼子選手も出場したアテネオリンピック女子マラソンの日本人選手の中で、野口みずき選手が一番良い成績を取ることを書き、それが見事に当たったことがあります。まさか、金メダルを獲得することは予想できませんでしたが、その理由として出場する女子マラソン選手の中で野口みずき選手が最も歯並びが良いからということを挙げていました。正直言って、この予想は歯医者としての独断と偏見に満ちたもので、たまたま当たっただけのことなのですが、土佐礼子選手はアテネオリンピック女子マラソン選手の中で最も歯並びが悪かったのです。そんな土佐礼子選手が忙しい競技生活の合間をぬって歯の矯正治療を受け、今回、歯の矯正治療途中でありながらも見事に東京女子マラソンを制した事実。見事に結果を出した土佐礼子選手が相当の練習、準備を重ねて望んだ結果であることは言うまでもないことですが、歯並びの治療を受けたことも優勝という栄冠を勝ち得た一因だったのではないかと信じたい、歯医者そうさんです。



2006年11月17日(金) おとうさんのチェックリスト?

昨日、僕が会員である日本歯科医師会が発行しているPR誌を読んでいると、あるチェックリストがありました。その名も“おとうさんのチェックリスト”。
“『おとうさんのチェックリスト』とは一体何ぞや?“と思われる方もいらっしゃることでしょう。このチェックリスト、歯周病に該当するかどうかをチェックするチェックリストなのです。項目が13個あることから、13の語呂合わせで”おとうさん(お十三)のチェックリスト“と名づけられているのです。”おとうさんのチェックリスト”ではありますが、性別の関係なく、女性も対象となっているチェックリストです。
前置きはともかく、“おとうさんのチェックリスト”は以下の13の項目です。

□ 歯肉の色が赤い、または紫っぽい
□ 歯と歯の間の歯肉が丸くなり、腫れぼったい
□ 歯肉が疲労時やストレスがかかると、腫れやすい
□ 歯肉が退縮して、歯と歯の間にすき間ができてきた
□ 歯が長く伸びてきたように見える
□ 歯と歯の間に食べ物が挟まりやすい
□ 歯の表面を舌で触るとザラザラする
□ 歯磨き時、歯肉から出血しやすい
□ 起床時に口が苦い、ネバネバして気持ちが悪い
□ 人から口臭があると言われる
□ 歯肉を押すと白い膿がにじみでてくる
□ 歯肉がむず痒い
□ 歯がグラグラする


この13項目のうち1つでも該当することがあれば、あなたは歯周病の危険性があるといっていいでしょう。一つぐらいあっても大丈夫だと高をくくらず、一刻も早くお近くの歯医者、かかりつけの歯医者へ行って下さい。放置しておくと後悔することになりますよ。



2006年11月16日(木) 僕の右に出る者はいない・・・

先日、診療の合間の昼休みに郵便受けを見てみると、僕宛の葉書が一通来ていました。差出人はS先生。
S先生は僕が某病院の研修医時代に他科の研修医だった先生で、某病院在籍中、僕が懇意にしていた先生の一人です。某病院を去ってからS先生と会う機会はわずかしかありませんでしたが、毎年年賀状のやり取りだけは欠かしませんでした。そんなS先生からの葉書には、S先生が自らの出身大学の医局に戻り、講師になったことが書いてありました。

“これからは以前にも増して、自分の診療だけではなく、学生や研修医の臨床指導や研究指導に忙しくなりそう”
というようなことも添えて書いてありました。

また、僕宛の郵便物の中に歯科関係の学会雑誌が送られてきました。その雑誌をパラパラとめくって拾い読みしていると、ある先生の論文に目がいきました。“どこかで見た著者名だなあ”と思った瞬間、僕は気が付きました。その著者は僕の大学院時代の後輩のK先生だったのです。
K先生は僕が大学院時代に所属していた教室の隣の教室に在籍していた大学院生で僕より1年後輩でした。教室が隣同士だということと、お互いに1年しか違わないということでK先生と親しくなり、お互いの研究の話やプライベートの話に華が咲いたものです。大学院を終了後、僕は研究生活を終えたのですが、K先生はその後も研究活動を続けました。その結果、K先生は某大学歯学部の助教授に抜擢されました。30歳代後半で助教授です。

最近、僕の周囲にはこのようなことが度々あります。かつて僕と一緒に仕事をしていた仲間や後輩がどんどん地位を得て実績を挙げてきています。考えてみれば僕が今年40歳なのですから、同級生や後輩も決して新人とは言えませんむしろ中堅と呼ばれる仕事に脂の乗り切った年齢に差しかかっているのです。当然のことながら医局の部長になったり、教授や助教授、講師といったポストについているのです。

みんな偉くなったものです。このような状況を最近の僕は下のような冗談で言うようにしています。

「僕の右に出る者はいない。けれども、僕の左に出る者はたくさんいる。僕の左に出るだけでなく追い越してしまい、既にどこへ行ったかわからないくらい前を走っている者がいる。みんな偉くなったものだなあ!」



2006年11月15日(水) 迷惑な親戚

先日、うちの近くの病院に勤務している弟から電話がありました。勤務先の病院の休診日である週末にある患者さんの診療を救急外来で診ることになったという連絡でした。いろいろと話を聞いてみると、どうもこの患者さんは、親戚Yさんからの紹介だったことがわかりました。
弟の話によると、最近Yさんから直接電話で依頼された患者さんが何人もいるとのこと。弟からの電話の後、我が家でこのことを話すとある事実が浮かび上がってきました。それは、当初Yさんは弟に患者さんを紹介する際、我が家に連絡を取ってから弟に紹介していたのですが、最近では我が家を通じず、直接弟にコンタクトを取り、患者を紹介していたという事実です。

単に患者を紹介するというのであれば弟にとっても歓迎すべきことです。医療も一種のサービス業です。異論反論はあるかもしれませんが、医療もある意味、商売の側面があります。一人でも多くの患者さんが来院することで病院の評価につながり、病院経営を向上させることになります。そういった意味で、Yさんのようにどんどんと自分の知人を紹介してくれる人は、弟や弟の勤務先にとって大切なお客さん、患者さんだと思います。
Yさんが患者さんを積極的に紹介してくれるのは有難いことではあるのですが、一方でYさんは弟の仕事の状態、都合を確認せず、自分のペースで患者を紹介していることもわかってきました。

現在、弟は循環器内科医として毎日多忙な日々を過ごしています。最近は、近隣の公立病院の循環器内科が閉鎖になったため、本来そこへまわる患者が一気に弟の病院へ来るようになり、仕事がさらに多忙になっています。弟が言うには、現状で既に昨年の患者数を上回ってしまったのだとか。これから年末を迎え、循環器疾患で病院に駆け込む患者さんが確実に増えることが予想される中、勤務先の科の責任者として仕事をしている弟にかかる負担は確実に重くなっているのです。

僕はそんな弟の現状をよくわかっているつもりです。僕が弟に患者を紹介したり、相談をもちかけたりすることがありますが、緊急性がある場合を除き、弟の仕事の邪魔にならないよう気を配っています。
一方、弟の勤務先の病院に歯科がないため、弟も時折自分の患者さんで歯科治療を希望する患者さんを僕に度々患者を紹介してくれるのですが、僕の診療に差しさわりがないよう、事前に連絡を取って紹介してくれます。お互い医療関係の仕事についているということもありますが、いくら兄弟だといっても今ではお互いに別々の仕事をしている身。お互いの生活リズム、パターンというものがあります。お互いの患者さんを紹介するということは普段の仕事の合間に時間を割いて診ることになります。これも仕事の一部だといえばそこまでなのですが、親しき仲にも礼儀ありと言います。いくら仲の良い、気心の知れた兄弟だといっても仕事に関することは一定の手順を踏んで依頼することが必要だと思うのです。
ところが、Yさんは非常に忙しい弟の都合を全く考えず、自分の好き勝手な時間帯に弟の勤務先の病院に弟に連絡をし、患者を紹介していたようなのです。弟も親戚であるYさんから紹介患者さんである手前、無下に断るわけにもいきません。忙しい合間をぬって丁重に対応しているようですが、今回の場合、弟はYさんからの患者さんを病院の診療日ではなく、週末の休診日、しかも、弟が救急待機の時間帯に診ざるをえなかったということです。Yさんの紹介の患者さんに緊急性がある場合ならまだよかったのですが、その患者さんには緊急性は全く無く、週明けの診療日に外来で診察してもよい患者さんだったのです。

友人、知人に医者や弁護士、政治家があれば心強いということはよく言われていることですが、どうもYさんは自分の友人、知人を助けたいために弟に紹介しているというよりも、自分の親類に医者がいることを自慢したいがために弟の都合も考えずに一方的に患者を紹介し続けていたようなのです。自分の周囲の人の相談にのり、力になっているように見えて、実際のところは自分のエゴのために弟を利用しているようにしか見えないのです。
これでは弟もたまったものではありません。

そのことに気が付いた我が家では、Yさんと親しいお袋がYさんに一言お願いすることになりました。弟の仕事の現状を説明し、むやみに弟の状態を考えずに一方的に患者を紹介することは止めてほしいことを伝えることにしたのです。
お袋がYさんに連絡して以降、Yさんの一方的な患者紹介は収まったようですが、今度はYさんが弟や弟の勤務先の悪口を言い、足をひっぱらないか心配です。口コミというもの、良い評判は伝わるのは時間がかかりますが、悪い評判はガセネタでも伝わるのが早いものですから。

それにしても自分のことしか考えない親戚は困った存在です。



2006年11月14日(火) フロイトと葉巻

先日、ある医学業界関連の雑誌を読んでいると興味深い記事を目にしました。その記事に書かれていたのは精神科医であったジークムント・フロイトに関する記事でした。
精神分析学の創始者であるジークムント・フロイトのことをご存知の方は少なくないのではないでしょうか?今年はフロイトが生まれて150年を迎える年なのだとか。フロイトは“夢判断”や“精神分析入門”などの著書が有名ですが、セックスを重視する精神分析療法を開拓したことで有名です。現代ではフロイトの精神分析療法は精神医学の臨床には役立たなかったという意見が大半を占めているそうですが、文学や芸術には多大な影響を与えたといえるでしょう。

そんなフロイトですが、晩年は癌に苦しんだとのこと。その癌とは上顎癌。フロイトが65歳の時、右上奥歯の歯茎の違和感に気が付いたそうで、専門医のもとを受診したところ、長年愛好していた葉巻の刺激による白板症であると診断されたのだとか。白板症とは、前癌病変の一種で、粘膜の表層が厚くなることにより表面が白っぽくなることが特徴です。専門医はフロイトに葉巻を吸うことを止めるよう勧めたそうですが、フロイトは葉巻を止めなかったそうです。その結果、白板症は歯肉癌となり、フロイト67歳の時に上顎の一部と右下顎、鼻の一部を摘出する手術を受けたそうです。摘出されたところは当然のことながら大きな欠損が生じたので人工顎や義歯が装着されたとのこと。
癌はその後も再発を繰り返し、その都度手術や放射線療法などを受けたそうで、16年間に36回の手術が行われたそうです。度重なる手術によって上顎はほとんどが無くなり、鼻と口の中には大きな空洞ができたそうです。この空洞にはエピテーゼと呼ばれる補綴物が装着されたようですが、うまく合わず、絶えず顎の骨が痛んでいたようです。
そんな状態でもフロイトは葉巻だけは止めなかったそうです。どうもフロイトは葉巻を止めるくらいなら死んだ方がましだと考えていたようです。
その後、フロイトは亡命先のロンドンでも治療を受けたようですが、主治医から手術が不可能であることを伝えられると、自らの安楽死を依頼したとのこと。主治医はフロイトにモルヒネを注射したそうで、昏睡状態に陥ったフロイトは永遠の眠りについたのだとか。享年83歳。

この話で僕が改めて感じたのは、人の生活習慣を変えることは難しいものだということです。
糖尿病や高血圧症、高脂血症や歯周病は日常生活の生活習慣によって引き起こされる病気だということで生活習慣病であると言われています。生活習慣病は直接の死因にはならないものの、死につながる病の原因となる怖い病です。生活習慣病を予防するためには、患者の生活習慣そのものを見直さないと病気の進行を防ぐことはできないとされています。日常生活における病気のリスクを改善しない限り病気を予防することができないのです。
ところが、実際は多くの生活習慣病が無自覚で静かに進行するため、頭では日常生活の悪しき習慣を直さないといけないとわかっていてもなかなか変えることができないのです。好きでやっていることを止めろと言われてもなかなか実行に移せないものなのです。
フロイトに口腔癌も直接の原因は長年愛好していた葉巻でした。そのことは医者であるフロイトも重々承知していたはずです。それにもかかわらずフロイトは葉巻を止めようとしなかった。むしろ葉巻を止めるなら死んだ方がましだと思っていたのです。

歯医者をはじめとした歯科関係者は生活習慣病の一つである歯周病の予防には患者さんの家での歯磨き習慣が欠かせないことを日々訴えているわけですが、単に歯磨きの方法を改善するだけで歯磨き習慣が変わるものではありません。日々の生活の中に如何にうまく歯磨きを取り入れられるかどうかが歯磨きをうまく続けられるかどうかのポイントとなるのです。そのために日頃の患者さんの生活パターンを探ることが治療にも役立つわけですが、患者さんにとって日頃の生活習慣を変えてしまうことは、歯医者が考える以上に大変なことなのです。
今回のフロイトの話を読んで、自分の生活習慣を改善することの難しさを改めて感じた、歯医者そうさんでした。



2006年11月13日(月) 病気腎臓移植について

既に皆さんご存知のことと思いますが、愛媛県の宇和島徳州会病院の医師が本来なら摘出、廃棄処分すべき腎臓を他の腎疾患の患者へ移植していたことが問題となっています。腎臓疾患で腎移植しか助からない患者が多数いる中、少しでも多くの患者を助けたい。そのためには病気の腎臓であったとしても使える腎臓であるならば移植できるのではないか?そのような動機でこれまで何人もの患者の腎移植を行ってきたようですが、これが表沙汰となり、日本移植学会や愛媛県、厚生労働省などが実態調査に乗り出しています。この移植ですが、移植をうける該当患者には口頭だけの説明でしか行わず、文書の形で移植に関する説明、了承を得ていなかったとのこと。先日、このことに関し愛媛社会保険事務局が保険適用施設の要件を満たしていないと判断し、保険請求分の返還を検討しているニュースが流れました。

病気腎臓移植に関しては賛否両論あるようですが、移植に関して僕は必ず考えなければならないことがあると思うのです。それは移植が臓器提供者(ドナー)と患者(レシピエント)があって初めて成り立つという事実です。
移植は、他に治療法が見当たらない時、臓器を提供してくれるドナーがいて初めて成立することです。現在、日本では生体移植と脳死移植が行われていますが、脳死移植に関しては脳死移植法が定められてまだ時間が経過していないことから現在、50例程度しか行われていません。そのため、移植は圧倒的に生体移植が多いのが現状です。中でも腎臓移植に関しては腎臓が左右二つあることから、古くから生体移植が行われています。僕の大学時代の友人の一人も腎臓の病気で長く苦しんでいたのですが、自分の母親の腎臓を一つ提供してもらい、腎移植をしてもらうことにより腎臓の病気から解放されました。うちの歯科医院のスタッフや患者さんの中にも腎臓透析を行っている人がいます。腎臓が機能せず、止むをえず腎臓透析を行っているのですが、腎臓の病気で苦しんでいる人が身の回りに多いと感じるくらい腎臓疾患で苦しんでいる人は多いと思います。

大学時代の友人のように身近な人から腎臓を提供してもらえるようなケースであればいいかもしれませんが、そのようなケースは多くはありません。腎臓移植を行うにもドナーがいないために移植を行えないケースが多いのが事実です。今回の問題で担当の医師はそんな患者を一人でも助けたいために、移植すべき腎臓を確保するには病気の腎臓であっても使えるものであれば移植に使えるのではないかという思いがあったと伝え聞いています。僕はその言葉に二言はないと信じたいです。一見すると一人でも多くの腎臓で苦しんでいる患者を移植で救いたいという気持ちが現れていると思えるのですが、僕はその発想は根本的に誤っているのではないかと思わざるをえないのです。

意外に思われる方も多いかもしれませんが、歯科においても移植が行われています。実際に歯科で行われる移植は自分の歯を歯の無い部位へ移植するもので、自家移植と呼ばれています。一番多く移植に用いられている歯は親知らずです。親知らずが骨の中に埋まっている場合、その親知らずを注意深く抜歯します。抜歯した親知らずを歯の無いところへ移植するのです。全ての親知らずが移植に適しているわけではありませんが、入れ歯やブリッジ、インプラントを行わなければいけないような歯の抜けている場所に歯を増やすという意味においては有効な治療手段の一つと言えるのです。
また、歯科では意図的再植という治療法があります。これは問題のある歯を一度抜歯し、口の外で治療を施したものをもう一度元にあった位置に戻す治療法で、これも移植のひとつといえるでしょう。口の中で治療を行っても効果が得られない場合、意図的に歯を抜歯し、根っこの治療や破折部位の接着処理などを行ったあと元の位置に戻す方法ですが、適応例を間違わなければ、時には有効な治療法となりえます。
これら歯科の移植において共通していることは、自家移植であるということです。すなわち、移植すべき歯は決して他人に使用せず、あくまでも移植に用いた歯を患者さんに戻すということです。これは実に当たり前のことです。いくら移植に使用できる歯でも使用できる限り他人に移植せず、本人に使用する。歯も体の臓器の一つです。使用できる臓器であれば他人に移植するのではなく、まずはドナーの益するところで使用する。使用できる臓器であれば患者本人に戻すということが大前提ではなのです。

今回の病気腎臓移植騒動で僕が一番気になるのがこの点です。担当医は病気の腎臓で廃棄処分にすべき腎臓であっても使用できる腎臓があると主張します。確かにそのような腎臓があるのかもしれません。もし、そうであれば、最初に行うべきことは、病気のある腎臓を持っている患者さんに腎臓治療を施すことが筋ではないでしょうか。治療の甲斐なく腎臓を摘出せざるをえない腎臓であれば、摘出した腎臓は廃棄処分しか選択肢はないはず。それを同じ腎臓の病気で苦しむ患者さんに移植をするというのはどう考えてもおかしいと思います。
僕の専門の歯科であるならば、むし歯や歯周病に侵された歯で保存不可能な歯は抜歯の対象となりますが、抜歯した歯を他人に移植することはしません。なぜなら、保存可能な歯であるなら抜歯をしないからです。保存できないと判断した歯の中に他人に使用できる歯があるかもしれないと考えるということはありえません。同じことが病気の腎臓移植にでも言えるのではないかと思うのです。

腎臓に関して専門外の僕がこのようなことを書くと腎臓の専門家からお怒りの意見を言われるかもしれません。けれども、移植がドナーがあってこその治療法であることを考えると、ドナーが生存している場合、臓器が機能している、機能する可能性のあるものであるならば移植は回避すべきではないでしょうか。廃棄する臓器の中に移植に使える臓器があるという発想。これはどう考えても移植目当ての詭弁と見られても仕方がないように思えてなりません。



2006年11月10日(金) 親指命

親指命

インターネットが普及した今日、様々な文書のやり取りがメールを通じて行えるようになりました。以前であれば、手書きの文書を手紙で郵送したり、直接相手方へ持って行ったものです。今では、ワープロソフトやデジカメ写真を添付ファイルとしてメールで送ることができるのです。いやいや便利な世の中になったもので、僕にとってパソコンは必要不可欠な道具の一つで、毎日様々な用途に使用しております。

ところが、同じように必要不可欠な機器となった携帯電話に関して、僕は携帯電話でのメールのやりとりは苦手なままです。特に親指で入力していくスタイルにはどうもついていけないのです。単に携帯電話のキー配列と親指入力に慣れていないだけの問題かもしれませんが、パソコンであれば10本の指を全て使ってキーボード操作ができるのに、携帯電話では画面も狭いですし、キーそのものが小さく、入力がパソコンよりもままならない状態はストレスが溜まる一方です。電車やバスの中で若い人が携帯メールをしていますが、携帯メールを打つスピードにはいつも驚かされます。どうしたらそんなに早く携帯メールを打てるのだろう?いつも不思議に感じてなりません。

先日のことでした。ある先輩の歯医者のY先生から僕が書いた文書を送るよう依頼がありました。僕はメールを用いて添付ファイルで送ろうとしたのですが、Y先生は添付ファイルで送らないように指示してきました。どうしてなのだろう?不思議に思った僕はY先生に尋ねてみました。Y先生の返事は、

「俺は携帯メールの方が慣れているから。」

僕はY先生の申し出のとおり文書をメールに写し、メール文書としてその先輩に送ったのです。

「そうさんはパソコンの方が使いやすいかもしれないけど、俺はね、携帯メールの方が使いやすいのよ。何せ、原稿の修正などは親指で行う方がいいのではないかと思うんだけど。」

最近の携帯メールは一回に送信できる文字数が拡大したため、少々の長い文書でも分割せずに送ることができるようにはなりました。が、文書の整理を親指で器用に行うことが出来るとは不思議でなりません。それにしても、送ったメールの文字数は相当数だったはず。そんな多くの文字数でも編集が平気だとは驚きです。

元来、Y先生はパソコンを使うことが苦手だったのですが、持ち運びができ、いつでもどこでもメールを送信することができる携帯メールが肌に合っていたようなのです。頻繁に携帯メールを使用しているようで、僕も度々やり取りをしています。中には明らかに診療中と思われる時間帯にメールを送信しているものさえあります。そのことをY先生に突っ込んでみると、

「いやあ、うちの診療所は暇だからな、ハッハッハ・・・。」

笑えそうで笑えない話です。



2006年11月09日(木) 思い出せそうで思い出せない

昨日、所用で外出してから家に帰ってきたのですが、その際、テレビでアメリカの中間選挙のことがニュースで流れていました。選挙のニュースの中で元アメリカ大統領ビル・クリントン夫人、ヒラリー・クリントンが早々とニューヨーク州の上院議員選挙で当選し、勝利宣言をしているシーンが映し出されていました。
元アメリカ大統領夫人という知名度だけではなく、自らの美貌と自信に満ち溢れた姿に我が家の家人は魅せられていました。民主党の次期アメリカ大統領の有力候補じゃないかという僕の説明に、嫁さんやお袋も何度も頷いていました。

「ヒラリー・クリントンが民主党の大統領候補になったら、共和党は相当インパクトの強い候補を立てないと大統領選挙に勝てないだろうね。」
「それじゃ誰が共和党の候補になるだろう?」
「元ニューヨーク州市長のジュリアーニあたりが有力かもしれないけど、今のヒラリー・クリントンでは厳しいだろうね。もっと他の候補でないとね。」
「民主党が女性候補なら、共和党も女性候補でないと。」

そこで、我が家が一様に思ったのが○○○だったのですが、その○○○という名前、家族の誰もが思い出せないのです。

「ほら、この前日本に来て安倍総理と会談をした女性だよ。」
「そうなんだよね、黒人の女性できつい目はしているんだけど、いかにも頭が切れそうなあの人だよ。」
「たしか、今国務長官をしているけど、その前までは大統領主席補佐官だったよね。」
「ピアノも上手で、チェリストのヨーヨーマとブラームスのチェロソナタを弾いていたよ。」
「顔は思い浮かぶんだけどね・・・・、ラムズフェルトだったっけ?」
「ラムズフェルトは国防長官だよ。」
「カンターじゃなかった?」
「カンターって古いなあ。カンターってたしか橋本龍太郎が通産大臣だったころのアメリカの通商代表だろ。」
「キッシンジャーじゃないよね。」
「一体いつの話をしているんだ?名前が変わっているんだよ。イタリア語っぽい感じだったような・・・。」

○○○の写真があれば、家族の誰もが“この人だ!”と言えるくらい想像している姿は皆同じ姿であることは間違いなかったのですが、肝心の名前が思い出せません。そこまで名前が出掛かっているのですが、後一歩がうまくいかない。そんなもどかしい感じがしてならなかったのです。近くに新聞があったので調べようとしたのですが、○○○の記事は載っていませんでした。
このままにしておくのもどことなく気持ちが悪い。困った時のインターネットということで調べてみると、わかりました。
この方だったわけです。
お米さんだったわけですね・・・。

のどにひっかかって取れそうで取れないとげがやっと取れたような感じになったそうさん一家でした。



2006年11月08日(水) いい歯の日 検診と健診の違い

今日は11月8日です。全国各地の歯科医師会、歯科医院では“いい歯の日”と称して様々な催し物、イベントが行われるはずです。当地では、先日の日曜日に地元歯科医師会の会館で無料歯科検診を行ったのですが、今日は各歯科医院で無料歯科検診が行われます。うちの歯科医院でも無料歯科検診を行う予定です。日頃、歯医者に縁遠い方も今日のような日を利用してご自身の口の中をチェックしてみては如何でしょう。

さて、日頃何気なく使っている言葉の中に本来は意味が違うのに意味の違いを理解せず使っている言葉がいくつもあると思います。今日取り上げる“検診”と“健診”もそんな例の一つでしょう。両方とも体の健康に対して調べる検査であることは間違いのないことなのですが、はっきりとした違いがあるのです。

まず、“検診”ですが、これは病気や疾患を発見する意味で用いられる健康診査です。結核検診、乳癌検診といったように、検査などにより自覚症状が現れてからでは効果に限界がある疾患を早期に発見し、もし病気が見つかれば早期に治療を行うことが目的で用いられます。
一方、“健診”ですが、健康状態や生活状況から病気になるリスク、危険性を発見し、生活習慣の見直し、改善、保健指導により病気の発生を予防するために行われる健康診査なのです。最近、生活習慣病やメタボリックシンドロームなる言葉を一度は耳にされた方も多いとは思いますが、生命の危険に間接的な影響を与えるリスク、危険性を見つけることが“健診”の目的です。

歯科の健康診査の場合、むし歯や歯周病といった病気を見つけることを目的とするならば、“検診”であるのですが、生活習慣病の予防や歯の喪失に伴う食生活習慣機能低下を防止する意味において、“健診”を用いる場合もあります。これまでは、“歯科検診“が用いられることが圧倒的に多かったように思いますが、歯周病が生活習慣病であると厚生労働省が認めてからは”歯科健診“が用いられることも多くなってきているようです。

今日は“検診”と“健診”の違いについて取り上げてみました。ちょっとしたトリビアの泉みたいな感じになったでしょうか?もしよければ、何へぇぐらいもらえるものか、知りたいですね。



2006年11月07日(火) 更なるいじめ問題考

僕の10月23日の日記でも学校におけるいじめ問題のことを書いたばかりなのですが、更に書き足りないことがありました。今日はそのことを書いていこうと思います。最初に断っておきますが、今回は思いつくまま書いたためまとまりを欠く文章になりますが、何卒ご容赦して欲しいと思います。

今回の一連のいじめ問題ですが、いじめから生徒を守らなければならない教師の何気ない言葉がいじめのきっかけとなり、生徒が自殺したことが発端だったように思います。そのことからいじめに対する教師や学校、教育委員会、文部科学省の取り組みに対する批判が集中しています。また、いじめられた生徒が自らの命を絶ったことも相まって、いじめられた生徒やその家族が如何に悲惨な状況であったか、追い詰められているかということにも報道の主眼が置かれているように思えます。
これら報道の姿勢ですが、何か根本的な視点が欠けているように思えてならないのです。その一つが教師の本音に迫ったものが少ないことは10月23日の日記に書きましたが、さらに足りないものがあると思います。

その一つはいじめを起す張本人たちのことです。今回の一連の報道を見る限り、いじめられた生徒を自殺に追い込んだ生徒たちのことはほとんど報じられておりません。
世の中で起こる事件や犯罪の場合、犯人に関心がいくものですが、今回のいじめ報道を見ていて、極端に直接の加害者であるいじめた生徒のことを報道しないことに僕は非常に疑問に感じていました。このような疑問を感じている人は僕だけではなかったようで、こちらの日記の11月2日11月3日にそのことを指摘されていました。この日記に書かれていることは全くの正論であり、僕自身全く同感するものでした。

僕の個人的な意見ではありますが、いじめ問題は基本的にいじめた側が悪いと思います。
異論反論はあるかとは思います。“いじめられるにはいじめられるだけの理由がある”と反論される方もあるでしょう。確かにそのようなことはあるでしょう。周囲よりも何か特殊な雰囲気がある人、目立つ人、特異な人を仲間はずれにし、阻害してしまいたくなる気持ちは誰もが一度はもった感情ではないかとは思います。けれども、この感情をそのまま行動に移していいかどうかは全く別問題です。自分たちとは異質なものに対し、違和感をむき出しにし、いじめに走ることは決して許されることではありません。
いじめた側は“いじめる側にも問題がある”と主張するかもしれません。もっともな意見のように思えますが、いじめる側に何か個人的な事情や問題があったとしても、その不満やストレスのはけ口に他人をいじめるということは言語道断ではないでしょうか。自分に問題があれば他人に迷惑をかけず自分で解決するのが筋です。それをできずして他人に当たるというのは単に自分の悩みから逃げているとしかいいようがありません。


いじめは自分で解決するしかないという意見があります。僕はそのことについて否定はしませんが、その一方で、このようなことを言う人には、“実際にいじめを受けた人の気持ちを理解しているか?”と問いたくなります。僕自身、これまで何度もいじめを受けてきたことがあるのですが、その経験からいいますと、いじめは執拗に受ければ受けるほどいじめを自分で解決しようとする気力を失っていくものです。これは幼児虐待、DV問題でも指摘されていることですが、周囲から暴力を受け続けると、最初は抵抗をしていても徐々にそれに反抗することさえ体力、気力を失い、次第に何もできなくなってしまうのです。そして、心の傷が深くなっていくものなのです。こうなると自分では解決できなくなるのです。世の中にあるいじめのうち、自分自身で解決できないケースが多いのは、こういったケースが多いからではないでしょうか。
いじめられた側が自分自身で解決できないような場合、やはり周囲が助け、サポートする必要があります。いじめを解決するために学校や家庭のサポートが期待できないなら、ある程度公権力も行使する必要があるのではないかと思います。いじめを一種の犯罪だと解釈してもいいのではないか?それくらいいじめ問題は深刻なのです。

このことで思い出すのが、僕の中学生時代の時のことです。僕が中学生時代、いじめを繰り返している輩がいました。そいつがいつも口にしていたことに

「いじめられている奴は自分が強くなればいいんだ。そうすればいじめられない!」

というのがありました。
それに対し、僕の恩師である担任の教師は真っ向からそれを否定しました。

「もし、お前が言うようにいじめられている奴が強くなればお前はどうするんだ?いじめられている奴よりも次に弱い奴をいじめるんだろう?そいつが強くなったらどうするんだ?その次に弱い奴をいじめるんだろう?お前の理屈は単にいじめを正当化しているだけの屁理屈だ!いじめないということをしないお前が一番悪い!」

こいつは何も言い返せず黙り込んでしまいました。
僕は恩師の先生の言葉を未だに忘れることができません。
僕が中学生時代ということは、今から20数年前のことです。今のいじめ問題を考えると、当時と全く何も進展がないのは悲しむべきことです。


僕の恩師はこんなことも言っていました。

「子供の世界にいじめがなくならないのはどうしてだと思う?それは大人の世界にいじめがあるからだよ。大人の世界にいじめがなくならない限り、子供の世界でもいじめはあり続ける。」

今のマスコミ報道で最も欠けているのはこの点だと僕は思います。いじめ問題を単なる学校の問題とばかり報道していますが、大人の社会でも様々な差別、いじめがはびこっています。いじめ問題で子供の自殺が取り上げられていますが、日本では年間3万人の自殺者がいます。その多くは大人なのです。自殺をするには自殺に追い込まれてしまう事情があるのです。特に、最近の格差社会ではさらにこの傾向が助長されているように思えます。いじめ問題は学校だけの問題のように見えるのですが、大人社会の縮図が子供社会なのです。大人の世界で解決されていないことが子供社会で解決できるわけがないのです。もし、学校のいじめ問題を真剣に解決しようとするなら、何よりも大人が見本を示せばいいのです。いじめをしないという見本をです。大人は自ら襟を正して子供にいじめをしないことを示さない限り、学校のいじめ問題の解決はできない。このことを大人は肝に銘じるべきではないでしょうか。



2006年11月06日(月) 早生まれと歯の生え変わり

先週、僕は下のチビが通っている幼稚園のバザーがあったのですが、僕も保護者の一人として、そして、PTA会長としてバザーのお手伝いに参加してきました。バザーは幼稚園のPTAが主催していたのですが、PTAに参加している保護者のほとんどはお母さん方。バザーの主役はお母さん方といった感じで、バザーの出店から進行までを切り盛りされておられました。その一方、数は限られていましたが、お父さん方も参加されていたのですが、お父さんの役割としてはテントの設営や幼稚園の備品の移動といった力仕事と幼稚園外部の警備の仕事が主なものでした。
僕はというと、PTAの会長をしている関係で、当初は受付で来賓の人を中心に挨拶をする役目だったのですが、それ以外は仕切っている副会長から

”会長、その警備のヘルプをお願いします!”

ということで、もっぱら警備の仕事を手伝っておりました。そのため、秋の季節にも関わらず、バザー終了後は妙に日焼けしてしまいました。

そんな警備の仕事をしている、ある親子に出会いました。

「そうさん、お久しぶりです。」

その親子とは、上のチビが幼稚園時代同級生だったMちゃんとそのお母さんでした。僕自身、上のチビが幼稚園時代に何度か顔を合わせていたMちゃん。2年ぶりにあったMちゃんは以前に比べ背が大きくなり、以前よりも活発になっていました。

「○○クン、今日はバザーに来ているかな?」
と上のチビのことが気になっている様子。

そんなMちゃんの口元を見て僕は気になることがありました。Mちゃんは上のチビと同級生で小学校2年生になのですが、前歯が乳歯のままだったのです。小学校2年生というと8歳になるのですが、8歳だと通常は上下の前歯が永久歯に生え変わっている頃。もちろん、個人差というものはあるにはあるのですが、上のチビと同級であるMちゃんのことを考えると、永久歯の生え変わりが遅めだなあと感じたのです。

その疑問は家に戻ってから解けました。
バザーが終わり、嫁さんにMちゃんのことを話すと

「Mちゃんは早生まれなのよ。確か3月後半が誕生日だったと思うよ。うちの○○(上のチビのこと)は4月生まれでしょ。Mちゃんと○○とは実質一年違うから歯の生え変わりが遅いのは仕方のないことではないかしら。」

まさしく嫁さんの指摘の通りです。Mちゃんと上のチビが同級生であったということから、僕はMちゃんの歯の生え変わりの遅さが気になっていたのですが、同じ同級生といっても4月生まれの上のチビと早生まれで3月後半生まれのMちゃんとは1学年違うといってもおかしくないのです。振り返れば、上のチビの前歯が永久歯と生え変わり始めたのは7歳後半からでした。この傾向は一般的な永久歯との生え変わりからすればやや遅めかもしれませんが、個人差の範囲内ということで特段治療の対象にはなりません。今の時点でMちゃんも7歳後半です。これから永久歯と生え変わり始めても特段問題ではなく個人差の範囲内ということが言えるのです。

ところで、歯科医院には乳歯と永久歯がなかなか生え変わらないので心配だという親御さんから相談を受けることがあります。そういった場合、レントゲン写真を取り、永久歯の状態を調べることで現状を調べます。多くの場合、永久歯が既に乳歯の近くにまで生えてきている場合、このまま経過を見ていくことにしています。自然に生え変わればそれでよし。もし、乳歯が抜けないまま永久歯が生えてくるような場合には抜けていない乳歯を抜いてやる必要があります。乳歯がそのままで永久歯が生えてくると歯並びやかみ合わせの乱れの元になりますから。
また、後続の永久歯がないような場合もあります。そのような場合には、他の乳歯が永久歯とどのように生え変わるか確認しながら経過を見ていくのが普通です。焦って後続永久歯がないのに乳歯を抜歯するようなことになると、これまた歯並びやかみ合わせの乱れにつながっていきます。

子供の歯が順調に生え代わるかどうかということは、多くの親御さんが心配するところではありますが、もしそのような疑いがあるようであれば、その場合にはお近くの歯医者を受診するようお勧めします。レントゲン写真を撮ることで直接見えない永久歯の状態が一目瞭然になりますからね。



2006年11月02日(木) 我が愛機 ついに引退

とうとうその時がやってきました。20年以上にわたり活躍していた診療台がうちの歯科医院を去る日がやってきたのです。
以前からこの日記でも書いていましたが、僕が使用していた診療台はいくつもトラブルが出ては修理をしていました。もうぼちぼち寿命に近づいているかなあとは思っていたのですが、この夏、患者さんに迷惑をかけるようなトラブルがあったため、思い切って新しい診療台を購入することを決意したのです。

自分が必要とする機能を有している診療台を選択し、業者と相談。実物を某社のショールームへ出かけ実物を確認してから診療台を購入しました。

もちろん、うちの歯科医院は弱小歯科医院ですので即金で買うことができず、銀行から融資を受けることにしました。銀行との話を何度か行い、融資のめどをつけてから、診療台セット日を設定したのです。それが昨日だったというわけなのです。

これが僕が愛用していた診療台です。




これが分解され、そして、トラックに載せられました。




これまで延べ数千人の患者さんが寝たと思われる我が診療台が上のように分解され、運び出されるのを見ると、一抹の、いや、二抹も三抹も寂しいものを感じます。
君のおかげで患者さんの治療ができ、生活をすることができた!
感謝の気持ちで一杯になりました。

代わりに2トントラックに載せらやってきたのが、これら。










下の写真のように組み立てられ




完成したのがこれです。







さあ、今日からこの診療台で治療です。患者さんに気に入ってもらえるかどうか不安と期待で一杯です。また、僕自身がこの診療台に慣れるかどうかも心配なところがあるのですが、そんなことを言っていられないので少しでも早く自分のものにしたいと考える今日この頃。



2006年11月01日(水) 歯科衛生士は見ている!

意外に思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、歯医者はお互いがどんな診療をしているか知らない場合が多いのです。歯医者は全国29校ある大学歯学部、歯科大学の専門カリキュラムを消化し、国家試験に合格した者が歯科医師免許を取得します。大学時代は決まったカリキュラムに基づいて歯科医師になるための教育を受けているわけですから基本は同じはずなのですが、実際に歯科治療を行う臨床現場では微妙に異なることが多いのです。その理由は、大学を卒業してからの研鑽の仕方が影響するからです。
大学を卒業し、歯科医師免許を取った歯医者は免許を取っただけで実際には何もできません。特に、最近卒業した歯医者は大学時代に患者さんを相手にした臨床実習を行っていないのが現状ですから、なおさらです。実際の臨床技術の取得は大学卒業後になっているのが現状なのです。そのため、大学を卒業した歯医者が学ぶ師のやり方によってその歯医者の一生が決まると言っても過言ではありません。
その師ですが、これがまた様々で、それぞれの流儀、流派に属しており、それなりの知識、技術体系を持ちながら、患者さんの治療に対し実績をあげています。僕自身少なからずこれら流儀、流派の情報を知っているつもりですが、全てを完全に知っているわけではありません。それ故、全ての歯医者がどのような知識、技術を持っているか把握していない、把握できないのです。
しかも、歯医者は歯医者同士が同じ職場で仕事をしているケースが限られています。ほとんどが個人で開業しているのです。そのため、自分の診療で手一杯で他の歯医者の診療を見ることができません。

こういった理由から歯医者はお互いがどんな診療をしているのかわからないものなのです。


さて、僕は地元歯科医師会で仕事をしていますが、常に一緒に仕事をしている地元歯科医師会の先生の治療は誰一人としてどんな治療をしているかどうか詳しい情報を持っていません。その訳は先に書いたとおりですが、その一方で地元歯科医師会の歯科医の治療を把握している人たちがいるのです。それは、歯科衛生士です。

地元歯科医師会では、休日、祝日に応急歯科診療所を開設し、診療を行っています。この診療所は地元歯科医師会の先生が輪番で当たっているのですが、アシストに当たっているのは地元歯科衛生士会の歯科衛生士の有志です。これら歯科衛生士もお互いが輪番で診療補助に当たっているのですが、地元歯科医師会の先生よりも人数が少ないため、地元歯科衛生士会の歯科衛生士は誰よりも地元歯科医師会の先生の治療を見る機会に恵まれていると言えます。当然のことながら誰がどんな治療をしているか逐一把握し、情報交換しているのです。地元歯科医師会の先生の技術レベルを誰よりも知っているのが歯科衛生士と言えるでしょう。

歯科衛生士は見ているのです、歯医者のことを。

当然のことながら、地元歯科衛生士会の歯科衛生士は僕の治療も見て把握しているはずです。できることなら彼女たちの評価を訊いてみたいものですが、小心者の僕は怖くて聞けません!


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