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2023年05月26日(金) |
ぼく、へいっちゃらさっ |
マルシェに行くとイタリアからの新参者がハムやチーズ、オリーブオイルなどを売っていた。通りすがりに"マダム!"と呼び止められ、チーズの試食を差し出される。迷っているうちにチーズに飛びつく小さなムッシューは紛れもなく我が子だった。カフェに納豆に味噌にチーズ、とにかく発酵食品が大好きで、チーズなんて青カビでも白カビでもかかってこいというくらいで、一瞬で試食のチーズを口に入れてしまった。新参者はそうかそうか、おいしいか、と満足げにあれこれ色んなチーズを手渡していて、我が子は次々にばくばくと口に入れてる。こんな庭先で作ったみたいなチーズはお値段もそれなりだが、絶対美味しい。子供もすっかり手懐けられたところで、結局ハチミツと山羊のチーズを買って帰ってきた。リンゴとそば粉のドーナッツを揚げて、ハチミツをかけて渡したら、これまた熱狂的にハチミツを舐めてる。ドーナッツを平らげ、皿に残ったハチミツをいつまでも舐めてた。
近所の他人から学校に入るまでに授乳はやめさせるべきだと言われた。子供が学校でこんな大きいのにまだおっぱい飲んでるなんて話されたら恥ずかしいよ、とかなんとか。母子の問題で他人に口出しされることじゃないんだけどな。フランスじゃぁ、2歳過ぎて授乳とかなかなかいないらしいけど、世界基準ではそうおかしくもない。当人も寝る前のお母さんとのスキンシップが好きなだけで真剣に飲んでるわけでもないが、そういう時間が持てるなら持っててもいいんじゃないかと思う。どうしたって中学生で授乳とかないだろうし、そのうち本人がやめるのだろうから。このアドヴァイスをしてくる人は子供がなく授乳経験もない。だからこういう母子の時間の空気のことは実感としてわからないのかもしれない。適当に"そうね"と返事してその場は受け流したが、その後色んなことを考えた。ロクちゃんは学校へ行けば自然とフランス式をおぼえるのだろう。でもわたしは彼には色んな世界と色んな人と色んな価値観を見て、それをそれと認めて、その中で自分をしっかり形成していってほしいと思ってる。だからおっぱい飲んでて笑われたって、そんなのへいっちゃらみたいに育って欲しい。こんなこと言われたの、とリュカに話すとわたしの100倍は温厚な彼が珍しく怒った。
「他人の家に首つっこみすぎだろ」
隣家の10歳のレアに彼氏ができて毎日その辺を仲良く走り回ってる。彼氏さえいなければロクちゃんを誘いにくるのだが、最近めっきりお呼びがかからない。可哀想なロクちゃん。。。なんて思ったのも束の間、二人の間にスパイダーマンのバイクにまたがり割って入っていくではないか。走るのも早いし、遊びも荒っぽい10歳の二人に追いつこうと必死で着いてく2歳のロクちゃん。危なっかしくて見てられない。しかし、この子は本当に精神的に逞しい子になるんじゃないかと思う。先日も公園でボールで遊んでた大きな子達に紛れてて、べべはダメだとか言われてハジに追いやられても何度も負けずに入っていったりしてて、笑えた。
(写真:ウクライナの障害者の手作りの猫のぬいぐるみはわたしの物だが、ロクちゃんも何故かすごく気に入ってて取られ気味。
彼氏がいたってへいっちゃらさっ。ぼくも仲間に入るぞ!!)
ロクちゃんの学校のオリエンテーションに行ってきた。彼の先生になる人は、ふっくらした若い女性で、物静かで優しそうな人で、好感を持った。しかし、校長先生から受けた説明に胸がざわついた。
「持ち物はリュックサックに着替え数枚のみです。トイレができるという前提なのでおむつは認めません。午後も義務教育です。朝のみにしたいなら書類を作って承諾されなければいけません。といえども、それはそう厳しいものでないので、最初のうちは朝だけでも大丈夫ですよ。ただノエルくらいから徐々に午後も通わせるようにすることを薦めます。やっぱり他の子と同じリズムを掴むということも教育の中で大事なことですから」
おむつもとれてない2歳半の我が子が心配やら、引き離されるのが辛いやら、複雑な気持ちで涙ぐんでいたら、リュカが隣であっさりと言った。
「校長先生も大事だって言ってたから来年からは午後も通わせるようにしようね」
ずっと一緒にいられないなんて生まれた時からわかってたけど、こんなに早く我が子が一日中学校で過ごすなんて想像してなかった。二年半ひたすら手を焼いた我が子がふとどこかへ行って手がかからなくなってしまったら、わたしはどんなに混乱することだろう。すぐに自分の生活を立て直すことができるのだろうか。
母の日は、妹とお金を出し合ってフラワーリースを贈った。色のことで二人であれこれ議論した挙げ句、結局真っ白な花のリースにした。母は喜んで玄関に飾ってた。自分が母になり、感謝の気持ちは何倍にもなった。何気ないおしゃべりの中でいつも母の無償の愛を感じる。わたしの中では母の甘い記憶でも当人は何も覚えてない。
「ほら、一緒に買い物に行って圧力鍋買ってくれたじゃん」
「そうだっけ?覚えてない」
「あの時、唐揚げと卵焼き入ったお弁当持って迎えにきてくれたよね」
「そうだっけ?覚えてない」
「ねぇ、お母さんって本当にあれこれ記憶ないよね」
「うん。だって子育てが大変過ぎて、ひたすら目の前のことやってたから覚えてないの」
そうだね、二人の子育てだもの。一人を育てるのに悪戦苦闘してる今ならよくわかる。
胃癌で胃を切除した父は、それでもあっけらかんと酒を飲み続けて、もうなんともないらしい(病気に怖気づかない太い神経を持つということがいかに治癒に貢献するかということを父から学んだ)なんともないどころかパートで働きはじめたら楽しくて、フルタイムにしてもらったとか。妹も結婚が決まり、晴れて姪っ子ちゃんと実父がちゃんと家族になる。
日本の家族からは良い報告ばかり。わたしもめそめそ泣いてはいられないな。
夜、隣人を招いて食事会をした。マイホーム、マイルールで、我が家ではアペロ(空腹で長くて2時間くらいスナックを食べ続けるわたしがやったらデブ一直線な習慣)は省いて、もういきなり席についてもらって前菜を出す。この隣人は元夫のアル中が原因で離婚してて、そういうトラウマか、
「わたしはアルコールは一切飲まない。水をちょうだい」
と断言してるので、今日の食卓は水のみ。我が家も水しか飲まない族だから簡単でいい。水飲みながらの食事はさっさと進んでいく。前回は好き嫌いが多くて、殆ど何も食べなかった10歳のレアも今日は良く食べてくれた。そしてロクちゃんと向こうで遊んでてくれたから、大人だけの時間ができた。後から仕事を終えて参加した元隣人のドミニクに子育ての悩みを話したところ、彼がくれたアドヴァイスにハッとさせられた。
「自分の思い通りにならなくて癇癪起こしたりするエネルギーは他のところで発散させないとダメだよ。母と子だけの時間が長くなると難しくて、そこに必ず誰かが介入しないとダメなんだよ」
「誰かって例えば誰?父親は介入してるけど、助けになってないわ」
「それは他の子供だよ。他の子供と遊ばせたほうがいいってことだよ」
どうして、そんな単純なことに気付かなかったんだろう。わたしは自分のことに忙しくてロクちゃんとあまり遊んであげられない。遊んでもらえないストレスや余ったエネルギーが癇癪の源になってるのではないか。それを無理やりやめさせようとしたって言うことを聞くどころか余計拗ねてしまうのかもしれない。近所の子は彼より大きくて学校に行ってるからいつでも他の子と遊ばせるというのは実質難しい。でもわたしがもっと彼がよく遊んだ!楽しかった!と思えるような工夫をしていかなければいけないのかもしれない。その上でダメなことはダメだと少しずつ教えていこう。
ロクちゃんがひとりで全部ヘタをとって下処理してくれた苺をマリネにして、たっぷりホワイトチョコレートクリームをかけたものをデザートに出して、子供も大人も心ゆくまで堪能。春になって、旬の野菜料理を並べて開いた食事会はお腹も心も満たしてくれた。やっぱりひとりで息詰まった時には人と意見を交換するだけでも少なからず何か収穫があるものだ。
エジプトの料理コシャリを作ってみた。色んな形のパスタに米にレンズ豆とひよこ豆、スパイスをきかせた2種類のトマトソースに酸っぱいソースにフライドオニオンに‥って普段からこれを作ってない人には材料揃えるのもちょっと一手間、作るのにも夫婦で2時間ちょっとかかるという料理。だけど、ひとくち食べて夫婦で叫ぶ。
「美味い!!!!」
昔、沢山のアフリカ人と暮らしていた時、彼らがよくこんな炭水化物全部混ぜてトマトソース乗せたみたいな料理を作ってて、ひとくち味見させてもらったら、全く美味しくなかった。あれは単に悪いやつ食べただけだったに違いない。これ新鮮な野菜はひとつも使われてなくて、玉ねぎ(乾かしてある)、乾燥豆、缶から出すトマトピューレ‥痩せた土地の食べ物という感じだな。次回ヴィーガンの友達を家に招いた時にはこれを作って出そうと決めた。
朝一でロクちゃんの通学申請書を提出してきた。9月から通学するらしい。2019年に3歳からの通学が義務付けられて、選択の余地はなし。12月生まれのロクちゃんは実質2歳で通学ということになる。最近は隣の子が迎えにくると二人で裏庭に遊びに行ってママのことなんか忘れたんじゃないかってくらい夢中になってたり、隣人の犬の散歩に勝手に着いていって、そのままずっと犬と過ごしたがったりするくらいで、心配なのは彼ではなくて自分。2歳でもう引き離されるということにショックを受けてたら、追い打ちをかけるように知らされる。一年目は朝だけ、二年目からは午後も学校なんだそうだ。
毎日毎日思う。いつまでわたしの手を握っててくれるの?小さくて柔らかくてぺっとりと湿った手。あと何回寝顔にキスさせてくれるの?そしてあと何回ママ大好きのキスしてくれるの?クロちゃんだってあっというまに老猫になって、最近はもう歯がよくないのか、子猫の時は大好きだった葉野菜はもう食べない。幸せな時間は瞬く間に過ぎていってしまう。
ロクちゃんの部屋も片付いてきたし、彼もそろそろベイビーベッドに寝かすには大きくなった。眠る前に聞いた。
「ママとパパがロクちゃんに大きなベッド買ってあげるからさぁ、そうしたら向こうの部屋でひとりで寝られる?」
しばらくきょとんと固まってたが、しばらくして
「No!!!!!!!!!」
強く拒否された。
「そうだよね。ママもずっとロクちゃんと寝たいな!」
と仲良くそれぞれのベッドに入って手を繋いで眠るダメ親子であった。