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2021年12月31日(金) |
Garçon d'anniversaire |
ロクちゃんの誕生日、ノエル、と奔走して、やっと一息ついたら今年も終わり。
ロクちゃんの誕生日。ニースはノエルの買い物客で人がうじゃうじゃ。もみくちゃになって、コロナ感染を心配しながら、食料を買い、LACというショコラティエで予約していたケーキをピックアップするのに列に並び、やっとのことで静かな家に到着した時には心底ほっとする。"Garçon d'anniversaire"(Birthday boyという意味だったんだけど、フランスではこんな風には言わないらしい)と書いた黄色い風船をベイビーカートにくくりつけてニースを歩いたけど、人が多すぎて、誰も気づかなかったんだろう。いつもロクちゃんを連れてると沢山の人が"何ヶ月?"などと話しかけてくるんで"おめでとう"と沢山の人から言ってもらうのを期待してたんだけど。
(写真:ニースのメインストリート。東京のように高層ビルがなくて、空がこうやって見えるのが贅沢。ビルの高さも揃っててきれい)
夜、山羊のチーズにろうそくを1本立て、歌をうたう。きらきら星の手付きしかマスターしてないロクちゃんは、手をひらひらさせてた。ケーキ19種類を全部ひととおりためす。やっぱりショコラティエなだけに、ショコラ系のほうが美味しい。年に一度ロクちゃんの誕生日にこういうちょっと普段はやらないクレイジーなことをしようということだったから大満足。ロクちゃんの塩分過剰を心配してたところ、ちょうど塩なしの山羊のチーズを見つけて、これだ!と買ってみたら、これがまろやかで美味しくて、わたしもすっかり気に入った。今年は家族全員にプレゼントを用意した。リュカには今のがよたってたからバスローブ、クロちゃんには海老(魚屋もすごい人だかりで、やっとのことで手に入れた戦利品)。自分にも買ったのだが、配送の途中で紛失したらしい。この夜は久々に食べ過ぎて、翌朝1kg増し。体が重くて、すぐにエクササイズにとりかかり、2日で元に戻った。
今朝、年越しの食料調達にとロクちゃんを背負ってマルシェへ行ったら、昨年の出産時ニースの病院まで運んでくれたポンピエさんに会った。夜中の3時に破水して、5分後にはかけつけてくれた。大変な仕事だ。ずっとあらためてお礼が言いたいなぁ、と気にかけてた。慌ててチョコレートを購入して、彼のところに駆け寄った。
「昨年の出産時はお世話になりました。おかげさまで息子はもう1才になりました」
と背中にいたロクちゃんを見せた。あちらも覚えていて、無事でよかったと喜んでくれた。
午後、夜、グラタンドフィノワを作った。ロクちゃんとリュカはそれはそれは喜んで熱狂的に食べた。こんな手抜きというか、簡単な料理もないもんだけど、じっくり手をかけて作るヘルシーな料理より、家族はこういうのを喜ぶのだからちょっと複雑。まぁ、でも子供の好きそうな味だし、何よりもタイムを摘むという口実で久々にロクちゃんと裏山を歩いて楽しかったな。冬が終わる前にもう一度くらい作ろう。
ロクちゃんは本当に何でも喜んで食べてくれるから、料理するのも楽しい。最近相当気に入ってるのはキチュリとみかん。実験してみようと、山羊のチーズとみかんを同じサイズにしたのを目の前に置いたら、みかんを取った。何度場所を変えてもやっぱりみかんを取る。山羊のチーズより好きなものがあるなんて知らなかったなぁ。キチュリはお腹に軽くてヘルシーなので、夕飯に出すことが多い。これは家族全員大好物。来年は、フランス料理をもっと勉強しようとバイブルのような大きな本を買った。フランス語の学習にもなるだろう。
冬至も過ぎて、ノエルに猛突進。買い物はもうネットに頼りきりなのだが、デリバリーがもう滅茶苦茶。近所の指定した店でデリバリーを受け取れるシステムもあって、小物はそういうのを利用してるのだが、勝手に遠くの店に置いてきたりする。
「このホリデーシーズンでたてこんでるんで、あなたが選んだのと違う店に置いてきました。最善を尽くしましたのでご理解ください!」
なんていうメッセージがきてる。バスで40分もかかるようなところに置いてこられても、どうやって取りにいけばいいんだ。大体赤ちゃんがいて買い物もままならないからネットショッピングに頼ってるのに。そう苦情を送るったらこんな返事。
「心配しないで!グッドニュース!本人じゃなくても知人が受け取れるシステムになってるから」
「知人なんていません」
「あら残念…」
最悪だ。
ピンポン。クロノポストがやってくる。手に抱えてきたダンボールの向きを逆にして床に置く。
「もう一箱ありますよね?」
「あぁ、それがもう一箱は箱がぐちゃぐちゃでミルクみたいのが中から漏れてて、運べる状態じゃなかったわ」
普通箱の向き変えて運ばないでしょ?天地無用って言わなくても常識でわからない?っていうのは日本人だけか。こちらはもう投げるわ、転がすわ、酷いもんだ。
今日はロクちゃんのゼロ才最後の日。最高にめまぐるしくて最高に幸せな一年だった、としみじみ。最近は手をひらひらさせてきらきら星を歌い、パパとママの真似をして首を"Oui Oui"と縦に"Non Non"と横に振ったりしてる。 よく食べて、よく笑う、本当に愛らしい子。"Madame Bonheur"のジンジャービスケットを焼いて、おやつにしよう!と呼んだら眠ってた。起きてる時はわたしのやること全部邪魔してなんにも出来やしないけど、彼が不在のこの椅子はなんだか寂しげなんだよ。
ロクちゃんの朝食風景を眺めながらしみじみ感じる。あぁ、ここはフランス、彼はニース産まれのフランス人なのね。彼が右手にぎゅっと握りしめてくちゃくちゃと噛んでいるのは胡桃入りのバゲット。たまにわたしが口に運んであげるのは、日曜のマルシェで買うフレッシュチーズ。近所のマダムが搾りたての牛乳で手作りしてくる。これを食べたら、パックに詰められてスーパーに並んでるリコッタチーズには戻れない。そしてアジャンのプルーン。日本にいる時から大好物で、少々お高いのを奮発して買ってたけど、こちらに来たらなぜかもっと高かった。でもやっぱり大好き。ロクちゃんも喜んで食べる。こんな朝食を摂ってる日本の赤ちゃんはなかなかいないだろう。リュカは朝食は甘いものを好む。甘くなくてもいいが、少なくとも塩っぽいものはだめ(だから朝から塩鮭とか日本の朝食はキツいらしい)という欧米の典型。よく食べてるのはBIOで売ってる彼曰く"新聞の味"のシリアルに古代小麦のミルクをかけたやつ。ロクちゃんは納豆ご飯でも焼きおにぎりでもクロワッサンでもパンケーキでも何でも喜んで食べる簡単な子だ。
夕飯。ポルトガルのグラタンがオーブンから湯気を立てて出てくる頃、白い息を吐きながらリュカが早足で帰ってくる。こんな夜はこの熱々のオーブン料理は確かに美味い。ロクちゃんも喜んでがつがつ食べてる。
「こんな美味しいもの沢山食べてるべべちゃんは、フランスにはそういないと思う」
などと褒めてくれる。確かに料理の腕云々ではなく、こんな全て自家製の食事を摂れる家族がどれだけいるだろうか。最近思うのだ。"労働すること"のポイントは、自立しているという自信を持っていられることであって、金銭的なことは大して得がない。共働きの家庭がより良い暮らしぶりをしているかといったら、全くそうではない。二人分の給料で毎食家族でレストランでフルコースのバランスがとれた食事を出来るという人はまずいない。共働き家庭の典型は、仕事に行くためにまずは車が2台必要になる。そして子供を預けてるヌヌーへの支払い。朝は昨日の残りのバゲットにコンフィチュールを塗ったもの、ランチはブーランジェリーでサンドイッチを買う。アペロにワインを一杯と瓶詰めのオリーブや袋詰めのグリッシーニを開け、夜は洗われてから袋に詰められたグリーンサラダと冷凍ピッツァをオーブンに突っ込むか、またはピッツェリアで買ってくるか。スーパーで小さな子どもの手をひいて、ハムとチーズと冷凍ピッツァとコークとビアと・・・というのを見ては、溜息が出てしまう。よく働いたら働いただけ美味しいものにありつくわけではないというのは皮肉なことだ。
夕食後に観てる"American Crime Story"。3rdシーズンはモニカ・ルインスキのスキャンダル。同年代で、彼女が渦中の人だった時など、わたしだって自分の人生の渦中で、こんな遠くの国のスキャンダルより自分の身の回りのことのほうがよっぽど興味深かったのだから、殆ど記憶にない出来事。よく知らないから"モニカ・ルインスキ?あぁ、なんか大統領をハメた人?"という悪女なイメージくらいしかなかった。一度TED.talkで彼女のスピーチを聞いたが、一目で頭がキレるとわかるようなとても明瞭な良いスピーチだった。で、ドラマを観たら彼女は悪女なんかじゃなくて真逆だった。全く計算とかできないただの感情に任せた若い女の子だったんだ。ビル・クリントンはアホなのかずる賢いのかわからないが、リュカと話し合ったところ結局"下半身が脳からの司令を守らず暴れてしまう人"というところに落ち着く。しかし、ドラマを見る限りアメリカという国は狡猾に生きないと踏み潰されてしまいそうでなんだか恐い。実際に住んでみれば、外からは見ることができないもっと良い面が沢山見つけられるのかもしれないが。